荒野に抗う   作:ひトリび

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冷燃-Blood and tear shed due to her

 

いつかの時も言ったが、この荒野では狂った人間の方が生きやすい環境にある。

だからこそ俺は狂ったフリをし始めた、そしてそれは隣にいる悪魔も同じ様にそうだった。

隣にいる悪魔は当たり前に躊躇なく狙いの首を落とす、それが日常かの様に人の集まりに向かって爆弾を投げつける。

 

「お前センスあるな」

「そう?それなら良かったわ、でも出来れば喋る前に全員を殺してくれる?」

「うるせえな、分かってるよ」

 

刻一刻と時間は過ぎ、溢れ出す悲鳴も次第に少なくなっていく。

足を踏み出し刀を一閃すれば誰かの息が止まる。

俺が面倒だと攻めあぐねている時には必ず後方から手榴弾が投げ込まれる、バディを組んで初めての依頼なのに歴戦の相棒かの様に息が揃う。アイツが意図的に合わせてくれるのか、偶々そうなったのかは知らないがどちらにせよ上手く事が運んだのに変わりはない。

敵が色々と俺に罵声を浴びせているみたいだが何も聞こえない、虫に喋りかけられている人の気分はこんな感じだろうか。

銃を失った右手は手持ち無沙汰なのに先程は敵のいる方向に向けてしまった、咄嗟の判断だと癖でこうなってしまう。慣れってもんは怖いな。

早い所銃を見つけたい所だがそれを持っている奴は何処にも居ないな。数個の死体を見てそう思う。この癖を直した方が早いかも知れない。

 

よそ見をしていると右方向に敵がやってきた、すかさず迎撃しようとしたがその必要は無かった。走ってやってきた俺のバディが引き受けてくれるらしい、俺は離れて見ておこう。さあどんな感じに倒してくれるのだろうか楽しみだ。

 

アイツは自分の身を顧みず爆弾を撒き散らす、しかしそれは最大限自爆にならない様に正確無比の投擲で行う。

相手も馬鹿じゃない為手の中にある武器で自らを襲う物は全て弾く。この手が通じないのが分かったのか銀髪の悪魔も距離を縮めようとする、そしてその速度を保ったままダガーを振る敵もそれに対応して鍔迫り合いの様な状況になり互いに五分。

一見そう思えるがScarには片腕が残っている、そのまま流れる様にもう一本の刃物をホルスターから抜き取り寸分狂わず狙いの首に命中させ振り抜く。そうすれば勝敗は決まった、俺達を狙っていた者は膝を着き首に真紅の液体を流した。この場の気配は二つだけになったこれが最後の敵、俺達の任務はこれで終了した。

 

「ナイスだ。初任務にしては上出来だな」

「バカ言ってんじゃないわよ、“あんたとの”初任務でしょイネス達とは前にやってたのよ」

「それでも最後の敵を殺った時の手つきは良かったぞ、本当に誰かと組むのは初めてか?」

「言ったでしょ、今までずっと一人で生きてきたって」

「…それが信じられなくてな」

「あんたが何言ってんの。あんたもそうだったんでしょ、周りから聞いたわ」

「まあ…それもそうか」

 

任務を終わらせた俺達は拠点に帰りながら適当に喋っていた、大して意味を持たない言葉の交わし合いも合ったが俺とこいつは薄々気付いていたが性格や生き方が似たり寄ったりで話は弾む事は多かった。まあ料理の事については対立したけどな、まあそれはご愛嬌という事で見逃してくれ。

 

今回俺達が引き受けていた任務はいつもの誰かから依頼されたものではなくヘドリーからの任務だった。内容は俺達を狙っている団体の殲滅、と言っても俺達が担当しているのは現状三つ団体で残っているのはあと一つだけ。

いつもなら団を一つ壊滅させるだけでも大仕事だが今回は感覚が鈍っていて少ないと感じる。ヘドリーの隊全体で推定20相当の団に狙われている、そうなれば俺達の3という数が少なく見えるのも仕方ない。

そんな大仕事を俺とScarだけで対応している。まあ幸か不幸か、ヘドリーが狙ってそうやったのか、団としての規模は小さい物が俺達に宛てがわれている。

最後の団は今までの二つよりも大きな団だがそれは大した事柄ではない。

 

大切なのはこれからも俺達を特にヘドリー達を狙うものが増えていくだろうというものだ。当たり前だが日夜、傭兵同士の戦いを行なって一切の被害無しというのはあり得ない事。戦えば此方の人手と物資は減り、より狙われる、そして追手との戦いをする、そしてまた此方には甚大な被害が出る。つまり俺達は戦いの袋小路に陥っている。

この状況はカズデルに広がっているだろう、勿論全てのサルカズ傭兵が俺達を狙っているとは限らないこの事に目もくれない様な奴も居るだろう、がしかし俺達を狙っている者は少なくないという事それだけは変えようのない事実だ。

 

その事が分かっているのに俺達からは手出しが出来ない何とも面倒くさい完全に後手に回っている、戦争の手綱を握っているのは俺たちではない。いつ何処から襲撃者が来るのかが分からない。情報を手に入れようとしても殆どが敵に回っている状態、アイツからの情報を待っているが運悪く最近は店を空けている頻度が多くなっている。もしかしたらアイツも……

 

俺達はこの現状を受け止めなくてはならない、結局俺達に出来るのは向かってくる全ての障壁を打ち砕くのみ。それは隣に居る俺のバディも分かっている筈だ。

 

「……あなたが意外にも慎重なタイプなのは分かるけど…」

「この事はどうしようもないわ、どう転ぼうと私達は進むのみよ」

「ああ分かってる…」

 

こいつの言う通りだ、やっぱり俺達は殺して血を流して屍体の山を築いてからやっと俺達の安寧がやってくるんだ。

そんな事は分かりきっていたじゃないか、今も昔もこれからの未来も何ら変わりない筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酷く冷たい霧がかった朝、無作為に俺の体温を奪う朝風。

目覚めるといつもの寝顔が見える、これを可愛いとは思わないが最近この顔を見て安心する様になってしまった。

規則的な寝息、白く輝く髪の毛、握っていると落ち着く白魚のような指。全てがびっしりと俺の日常の当たり前になっていた。

 

「おい起きろ」

「うるさいわねえ…もう少し寝させてよね…」

「おい、俺はお前の母親じゃねえんだぞ」

「知らないわよ…私母親居ないし…それでも良いでしょ」

「どう考えてもダメだろ、ほら起きろ」

 

そう言って俺がこいつの頬を引っ張ると歯を食いしばって声をあげて威嚇してきた。よし、これで起きたな。

純白だった頬は赤く腫れあがり、それ以外の白い肌とのコントラストを生んでいる。今日初めてやってやったがこれからはこうやって起こしてやろう。その方が一日の始まりにも楽しみが出来るだろう。

 

「で何よ、私をこんな早くに起こした理由は?」

「頬に手を当てていると締まらねえな」

「うっさい!」

 

「…はあ…で何すれば良いのよ?」

「買い物に行くぞ」

「は?何で私が出張らないと行けないのよ」

「俺以外にも意見が欲しいから」

「それなら私以外にも居るじゃない」

「俺がまともに喋った事あるのはヘドリーとイネス、そしてお前だけ。最初の二人は要人だから軽く誘えない…つまりそう言う事だ」

「ッチ…悪いけど勝手に選ぶから文句があろうがその言葉は飲み込みなさいよね」

「よし決まりだな、時間は多い方がいい早く行くぞ」

「はいはい、終わったら何か報酬でも考えておきなさいよね」

「それはお前の活躍次第だな」

 

 

ダガーと刀、数個の手榴弾を持ち俺は目的の場所に向かう。

後ろで歩いている自分への報酬しか頭にない女は戦いに行くのかと思うくらいの装備を持ち歩いている。

こいつは何をしに行くのか分かってないのかと思うが、こいつはこう言う奴だったなと自己完結する。

 

恐らくいつもの店はやっぱり閉まっているだろう。

俺達が向かうのはサブサンド通りの近くにあるカズデルの中では田舎の街だ、狙われの身の俺達は縄張りの外に行くのにも危険だ、それでも噂も通さない様な田舎なら大丈夫だろうという考えだ。我ながら良い考えだと思う。

まあ田舎といっても戦いが絶えないのは変わりないが……これがカズデルクオリティだ。

どちらにせよ今回は戦いに行くつもりは毛頭ない、ただのおつかいみたいな物。血を流す事はない………筈だ。

 

 

 

 

「着いたぞ、ここが目的の場所だ」

「やっと着いたのね…ここ何処?」

「さっき地図渡しただろ、それを見てみろここにさっき言ってた名前がある筈だぞ」

「ああここね。…そういえば私達を追っている団の一つがここらに有ったわよね」

「まあそうだな。けど覚えてるか、今回は物を買いに来ただけだからな」

「知ってるわよ、あんただって私が話を聞かない奴だとは思ってないでしょ」

「…正直不安だ」

「あっそ、それなら今回の件で私がどれだけ素晴らしい傭兵なのか知らしめてあげる」

 

…こいつを連れて来たのは過ちだったかも知れない。

今更後悔しても遅いな、俺は予定通りにするだけだ。

万全を期して使いたくもないアーツも使って変装をしたんだ、事件を起こす事はないだろうと祈りたい。

今起こっている頭痛はアーツの所為なのかそれともこの女の信用の無さなのか、悪いが俺は後者に賭けておこう。

 

 

そうして謎に自信満々なScarを連れて店の中へ向かった。何処かのボロ臭い扉とは違って扉がギシギシと悲鳴を上げるわけでもなくスッと俺達は店の商品を診始めることができた。

田舎と聞いていたがやはり此処は紛いなりにもカズデル、一部に戦いの為の武器や素材などがある。しかし生憎と銃は無いらしい、その事に少し落胆する。まあ最初からそこまで期待してなかったんだ、そこまでの支障はない。

少し移動すると眼前には食料が来る。

…これは悪くなさそうだ、見た感じ粗悪品が混じっている訳でもなく詐欺らしい商品もない。当たり前の事だが当たり前にそれが出来るのは信頼できる店だ。偶にはこの場所に来てやっても良いかも知れない程に素晴らしい店だ…拠点から遠いことが無ければ毎日来ることもあっただろう。

 

「…ねえこれってパスタって奴よね…」

「欲しいのか?」

「……良いでしょ私が出張ってあげたのだから」

「…分かった、これも買っておこうか」

「……」

 

パスタを買う事を決めるとこいつの顔はいつか見た時の死体を弄ぶ悪魔ではなく、少女らしい柔らかい表情になった。優しい微笑を浮かべ口元は白く美しい赫きを見せる。

そんなに嬉しいのか、こんなものはありふれた存在だというのに。それでもこいつからすれば盗人時代には滅多に辿り着くことのできない貴重品だったのかも知れない、それなら此処に来たのなら目新しい物を沢山その鬱金色の眼に映してやろう。それは多分俺にもアイツにも楽しい時間になるだろう。

 

少し脱線してしまったな。

おおこのじゃがいもも良さそうだな。

これも良いな。

これとかどうだ?

あとこれも———

 

 

 

「…あんたどんだけ買ったのよ、そんなに使う事あるかしら?」

「悪い……調子に乗り過ぎた。…てかお前も楽しそうにしてたじゃねえか。絶対怒られるぞ」

「…よね………まあ、その時はその時よ私としては一緒に地獄に堕ちても良いのよ」

 

本当にやってしまった、こんなに買うつもりは無かったのに。クソ…アイツが唆すからこんなに無駄に買ってしまったんだ。

…何が一緒に地獄に堕ちても良いのよ、だ。いつの間にか連帯責任にされてるじゃねえか。

 

「そんなに怒らなくても良いじゃない、その大量の食料は。一先ず此処に置いておきましょ」

 

此処というのは俺達の仮の家、と言っても此処は俺達の団が使っている共有の家だから絶対的な俺達二人の物ではない。けれども最近はこんな所に来る暇なんてないから実質俺達の家だ。

そしてアイツは此処に買った食料を置くらしい。懸命な判断だ。

 

「なあ此処に置くのは分かったけど、これからどうするんだ?観光でもするのか」

「まあそんなとこね、あんたはどうするの」

「結構な時間そとにいるんだろ。なら俺は一応、此処で昼食を作ってお前を待っておく」

「そうかしら、有難いわね。それじゃあ行って来るから」

 

アイツが帰って来るまで、買って来た物でも使って新しい料理でも試してみようか。…俺がScarを持って来たのは目利きと味見係の為だったんだけどなあ。まあ…アイツが楽しそうなら良いか。新入りの機嫌を取るのも偶にはすべきだろう、ヘドリーなら絶対にそう言うしな。イネスは…アイツが人のご機嫌取りをした事なんてあるわけねえな、だからScarと喧嘩をすんだよ。

協調性のない自由人同士だからこそ相性が悪いのだろう。その点俺は幾分かマシだな。

 

それでこれどうやって使うんだ?こうやれば行けたり…あ、出来た。何だ簡単じゃねえか。

よく分からない料理器具を使って火をつけ、料理に手を掛ける。

今日作るのはパスタだ、アイツが一番に欲しそうにしてたからな。それに俺も食べたのは覚えてないくらいには前の出来事だ、その為少し楽しみだ。パスタのあの香りが良いんだよな。どんな食材にもない独自の刺激が嗅覚に作用する瞬間は、単に食べる時よりも格段に食事という物を変哲もない食事の時間から何物にも変え難い楽しい時間にしてくれる。

しかし味よりも香りを優先する事でごく稀に傭兵からは不評なときがある。その事は俺にも非があるけど、文句を言うならお前が作ってみろって話だ。アンタらの思っている以上に料理ってのは手間が掛かるんだ、それも全員に好かれるような物を作るってのは。

クソみたいな文句を吐き捨てながら、着々と完成までの道を辿る。

パスタを熱湯の中に投げ入れ、トマトケチャップも作っておく、他にも必要なものは沢山ある。今回のやつにはナスとベーコンを入れてみよう、贅沢にも食材は余るほどあるんだ。余って腐らせるくらいなら贅沢に使わせて頂こう、あの時の無駄遣いはこの料理には必要なアクシデントだったらしい。ミスをチャンスに変えた俺の技量を褒め称えたい所だ。

 

そろそろ出来たのだろうか、タイマーを見てみるとあと40分程の時間が要すると気づく。

料理し始めて1時間弱は経つがやっぱりこんな物なのかと思う、いつもより手間が掛かっているから仕方がないか。

 

 

 

 

………しかし、アイツあまりにも戻って来るのが遅いな。本当に何しているんだろうか、そんなにこの田舎に面白い物でもあったのか?

…そんな事はないだろう、アイツでもここには見たことあるものが殆どな筈だ。

それなら何故?

 

 

よく考えろアイツの今までの行動を振り返ろ、それが究明の近道だ。

そういやScarは俺たちの拠点を離れる時異様に武器などの装備を固めていた。それもただのおつかいに行くとは思えない程に、今思えばいつもよりも爆弾の数も多くしていた。

そして此処には俺達の狙いの奴らが居る基地がある…クソが。失念していた、地図なんて物見せなければ。

 

…アイツ、もしかして本当にあの基地へと攻めに行ったのか。

 

俺はアイツがそんな事をしないと心の底では知っている。

しかし、もしアイツが一人で攻め込んでいたなら。

もし任務を遂行しようと無茶な行動をしていたら。

アイツの身体は五体満足とは行かないだろう。

そんなもしもが起こってしまっていたら俺はどうすれば良いんだ。

 

ああ分かってる、これじゃあまるで俺がアイツを心配しているみたいじゃないかと。そうだはっきり言って俺はアイツを心配している、アイツは俺のバディだ。

自分のバディを庇わない奴が何処に居る。そして俺は存外アイツを気に入っていたと今初めて気づく。

 

さっさと動け。時間は進み続けるんだ。

1分でも1秒でもアイツの元に向かわないと。

 

俺は急いで目的の場所へと走り出した。

開けた扉は酷い音を立てた、今ので壊れてしまったかも知れない。

けれどそんな事はどうだって良い、それはアイツの身を確認してからでも遅くない。

周りの事など今のアイツの事に比べればゴミ屑同然だ。

風切り音が聞こえているのか、住民の会話も砂嵐の様に聞こえる。

…視線を感じる、恐らく俺が雑に扉を開けて全速力で何処かへと走り出したからだろう。いつもなら視線を感じればそいつらの方へと向き直すが今は例外中の例外だ。

 

走れば走るほど、目的地へと向かうほど。後悔が募っていく、アイツの事で頭が一杯になる。

少し前のあの時間、アイツに戦いに行かないと念を押していれば。

アイツに地図を貸さなければ。

任務を言い渡された時、安易に敵本拠地の場所を伝えなければ。

俺の我儘でアイツをこの場所へと連れて行かなければ。

結果は変わっていたのだろうか。もうアイツの事以外は今の俺の記憶に存在しない、全て忘れてしまいそうだ。

 

最初はただの予測だった物は、今では真実の様になっていった。ただこの現状を否定しても、すればするほどアイツが無茶をしたという事を裏付ける証拠ばかり記憶から再発してしまう。

だからこそ俺は精一杯アイツの元へと向かう。

 

 

向かう

向かう

向かう

向かう

向かう

向かう

向かう

向かう

 

 

この曲がり角を曲がればアイツがいる筈だ、もうどうやって敵を倒そうかなんて考えていない。

俺の頭にあるのはアイツの身体が原型を保っている事を願う言葉だけだ。

俺は急いでこの道を曲がった。

 

 

 

そして俺の目に映ったのは予想とは遥かに違った光景だった。

 

光を跳ね返す銀色の髪、いつまでも見ていたくなる純白の肌、悪魔の様な琥珀色の眼。

全てが血に染まっていると俺は思っていた、サルカズ傭兵に攻撃され続け、自らの血を流し、らしくもない傷口を作る。

そうなると思っていた。

 

しかし現実は一人の少女が店の前にある商品を見ながらどれが良いのかと品定めをしている様子だった。

 

ああ良かった、本当に良かった。

 

俺はアイツの元へとす足を運んだ。

 

 

「あらWじゃな……ど、どうしたのよ。それ…」

 

何の事だ。そう思い試しに自分の目尻を触ると生暖かい水滴が流れていた。

生まれた時以来だろう涙など流すのは、何だか心も弱っていく感覚だ。

 

「そんな事になって…どうしたのよ……」

「本当に、本当に良かった。俺…お前がもしかしたら誰かに殺されてるかも知れないって」

「はあ?そんなわけ無いでしょ、私が何しに来たのか知ってるの?」

「……」

「……はあ…てかまずその涙拭きなさいよ」

 

Scarはそう言って衣服からハンカチを取り出して俺の涙を拭ってくれた。これじゃあまるで俺が慰められているみたいだ。

今一度、俺の状態を見てみるといつの間にか彼女の手を両手で強く握っていた。いつからだこいつの元に辿り着いてからだろうか。気付かなかった、本当の本当に無意識の行動だった。

 

「…それよりも、どうしてもこんな事になったの?」

 

 

そう聞かれた為俺は経緯を全て話した。

料理をして待っていたら異様に帰って来るのが遅いと感じた事。

何故だと思い今まで行動を振り返った事。

そうして状況整理した俺はお前が任務で言っていた奴らの基地へと侵攻しに行ったと思っていた事。

それで俺は大急ぎでお前の元に向かった事。

その全てを話した。

 

「まあ大体分かったわ、それであんたそんなに私の事心配だっ……」

 

俺は彼女を名一杯抱きしめた。

 

「なっ…いきなりどうしたのよ」

「…ごめん、まだ冷静には…」

「はいはい、分かったわ。次から何かするときはちゃんと詳細を伝えるわね」

「…本当だな」

「…本当よ。……そんなに抱きしめたいなら、これからも毎朝するのかしら」

「………バカを言うな……」

「……」

「……」

 

それから俺は何も言う事はなくただ抱きしめた、Scarもその時はただ黙ってくれた。情けない事にその間は拭ってもらった涙も溢れてしまった。

その時間は一瞬だったが。彼女がまだ生きていると言う事を証明するには十分すぎる時間。

今までの人生で一度も味わったことのない様な感覚に陥った。

今までの誰にも見せる事も俺自身にも見せることのなかった表情を初めてこの女の目の前で浮かべてしまった。

今までのどんな時間よりも安心する、心地の良い時間だった。

 

 

 

 

抱き合うのをやめ、涙も枯れていった。

少し落ち着いた後に今までの行動と状況整理をした。

まだ半人前の女性を泣きながら抱く一人の男。

今考えれば、恥ずかしいし情けない。少し前の俺が見れば小馬鹿にして笑うだろう。

この道の周りに人が居ないことそれが今の俺の一番の僥倖だ。

 

「……悪かったな。その、いきなり…」

「人間誰しもそんな時だってあるんじゃないかしら…あんたの行動、私は気にしてないわ」

「それにあんたは私のバディよ」

「確かに私はあんたよりも歴が短いから新入りの面倒をあんたが見るのが道理よ」

「けれど、やっぱり私にはあんたが必要で、あんたには私が必要……それなら助け合って支え合って行くのが普通でしょ」

「………」

 

何も言えない、本当にそうかも知れない。

当たり前の様に俺がこいつの面倒を見ようとしていた、それは事実だし。何しろ此処に来た理由もこいつを心配しての行動だった。

自然とやっていたからこそこいつに言われるまで分からなかった。

少し背伸びをし過ぎたのかもしれない。

…何でもかんでも自分でやろうとするな、いつかの日にヘドリーからそう言われていたのを思い出した。その時は頼るような相手も居たが常に近くに居る訳ではなかった。

けれども今の俺には絶対的な味方がいる。その事を俺は再認識した、その事を忘れないように肝に銘じようと心の底から思った。

 

 

「……分かった。慣れない事だが、これからはお前が俺を助けてくれ」

「当たり前じゃない、私達はもう“相棒”でしょ」

 

 

 

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