目の前の店看板にはある傭兵団のマークがついている、やはりここら辺にはアジトがあると再確認する。傭兵団と繋がっている店はカズデルには何処にでもある、ある店は傭兵が戦場から拾った物を仕入れたりしているらしい、他にも店自体が傭兵団のアジトの処もある。
…しかしそれよりも重要な事がある……
「それで聞きたいことがあるんだけど良いか」
「良いけど…何の事?」
「結局お前は何でこんなとこに居たんだ、必要な物なんて検討がつかないが……」
「…ああ…実は…あ、あんたの為の銃を見つけてあげてたのよ……」
「!?…本当か」
「嘘をつく意味がないじゃない」
この女は本当に俺への贈り物を考えていたそうだ。
らしくない……と言えば先ほどの俺もそうなるか。俺も彼女も今日は何だか調子がおかしい様だ。
まあそれでも、こいつからの物を断る義理もないし有り難く受け取ろうか。丁度、咄嗟に敵に銃を向けようとする癖を直そうとするかどうかを迷っていた頃だったからな。
「…Scar、ありがとうな」
「私もあんたが喚くのが煩かったから渡しただけで…別に、感謝される筋合いは無いわよ」
「……ふーん…」
「なによ!?」
「そんなに怒るなよ」
「…それでどうするんだ、俺は立ち去った方が良いのか」
「無理に戻らなくとも…いっその事一緒に選んだら良いじゃない」
「それでいいのか」
「まあ………大丈夫よ、それにあんたも要らない鉄屑を渡されても嫌でしょ」
珍しく彼女から正論を言われたが…人に物を渡す時はこんな風に適当で良いのか、どこかの国ではもっと畏まった場所然るべき瞬間に念入りに計画を立てて渡す物だと聞いていたが。
無愛想でいい加減なのはこいつらしいか。それに俺を意見もそれ程聞かずに今も勝手に俺の為の銃を探している。
最初にプレゼントだと言われた時はらしくない事をするなと思っていたが、結局ScarはScarだった様だ。
彼女らしい伝え方で日頃の感謝でもしようとでも思ったのか、それとも他意があるのか。何があってもそれは俺の預かり知らない事、がしかし彼女が俺に銃をあげた事には変わりない。
俺もアイツの為に何かを買ってもいいかもしれない、いつかの記念日に計画しておこう。
…まあとにかく俺達がバレる事はないだろう、変装もやっている。…それに店の中での荒事は御法度だろう俺も敵も互いに殺し難い。
そろそろアイツが俺の隣に立って一年が経つ。今一緒に渡し合うのも一つの案だろう、その日までに俺がこの事を憶えているかどうかは分からないからな。
「ちょっとあんた!こっち来なさい、これはどう?」
「どうし——」
その声をきっかけに。突如として俺の手は握られ、力を抜いていた体は引力に引かれる様に彼女の元へと向かった。
返事をする前に彼女により俺の体は委ねられた。人の手を返事を聞く前に引っ張るのはどうかと思う。
とてもウキウキした様子で俺に声をかけた彼女はそれ相応の物を見つけたらしい。
彼女が指差した銃の見た目は元の俺の銃の様だった。俺がこいつと出会った時の戦いで使い物にならなくなり失ってしまった銃。
それは俺自身も名前も知らない傭兵から奪った物、その為俺はもう出会う事のないと思っていた。
「おお、よく見つけたな」
「ねえこれで合ってるわよね、あんたがぶっ壊した銃って」
「言い方……これはヘドリー達から聞いた特徴だけで見つけたのか」
「そうそう、本っ当に苦労したのよ」
そう言った彼女の顔は冷めていたが、その裏にはここまでしてあげた私を褒めなさいという意地を張った少女の様な顔が感じ取れた。
何だか最近は調子が狂う、いつも見ている悪魔みたいな顔なのに見慣れないものばかり。
ああ、あの戦闘中の顔を思い出すと褒める気が失せるな。
先刻、感謝はしたしな。二度は要らないだろう。感謝と褒め言葉は心の中に閉じておこう。
そうして目的の物を買った俺達は扉を開けて、店から出た。
入店した時と同じ様に誰一人居なかった、この感覚は人が滅多に出入りしないあの店を出た時と同じ様な感覚だ。
店長の居ない店にも行ってみるのも良いかもしれない。
「…その自分で買ったもう片方の銃は予備?」
「Scarが贈り物をくれたんだ、俺もお前に渡そうかと思って」
「それに大切な相棒が見つけてくれた記念の銃だからな、発見した本人が持たなくてどうするんだ。ほら、これがお前のだ」
「そ、そう………」
そう一言だけ口に出すと下を向いてしまった。
俺が手を取り銃を渡すと、彼女はその銃を眺めようとも試し撃ちもしようとせずに直ぐにホルスターへと収めた。
それから俺達はいつもみたく雑談もせず一言も発さずに家へと戻った。
ずっと彼女の事を考えていたからだろうか。焦りに焦っていた行きとは違って帰りの体感時間は長かった。
扉の向こうからパチパチと何かが聞こえる、これは……燃焼の音か?
…俺がScarの元に向かおうとした時、つけていた火はどうなっていた。恐らく消しては居なかっただろう、つまりだ。
「ねえ、何か向こうから——」
「おい急ぐぞScar!」
「〜〜〜〜〜」
Scarはどういう事か理解していない様だったが、俺はとにかく急いだ。
またしても扉を強く動かしてしまった。
それよりもだ、もしかしたら此処が火事の現場になるかも知れない。
そう思い走った俺は火事が起こる前に発火装置のスイッチを押した。すると沸騰に沸騰を重ねていた水と立ち昇る火は落ち着きを取り戻していった。
「あ、危ねえ」
「ちょっとどうしたのよ…ってまさかあんた…」
「そのまさかだ……それでも結果オーライだ」
「はあ、あんたって結構抜けてる時あるよね」
「………そういえばお前何か食べたりしたか?」
「確かに何も食べてないわね。それじゃあ今日も頼めるかしら」
「お安い御用だ、新鮮な野菜があるんだ。今日はいつもよりも良い物が出来るだろうよ」
そう言った俺はパスタをまたしても作る事になった、前作ったのはノーカンだあれは少し異常があった。
二度目はもう何も意識することはない、一回目と同じ事をするだけだ。今回は彼女が何処かに行ったりもしていない、滞りなく料理の工程は進む筈だ。
そうして前と同じ容量でパスタを作った、言った様に何も事件は起こらなかった。
強いていえばどこかの誰かさんがジャガイモで遊んでいた事ぐらいか、食べ物で遊ぶなと誰かに言われなかったのか。後で俺が指導してやろう。遊ぶなら死体か敵にしておけってな。
よし、最後にパセリを上に乗せれば完成だ。
「できたぞ、Scar」
「…良い香りがするわね、何か入れたのかしら」
「よく分かったな、これにはハーブソルトってやつ使ってる。取り敢えず良い香りのする塩という認識で構わない」
「解説どうも。それじゃあ…」
フォークを使って器用にパスタを口に入れる。その瞬間彼女の顔が酷く緩んだ。
いつもこんな顔をしているのだろうか、俺は多数の奴らに料理を作っているからこいつの顔なんていちいち見たことも無いが。…これは何とも、見ていてこっちも嬉しくなりそうだ。
表情だけでこれを気に入っている事が分かる、俺は料理人じゃないが料理を褒められて嬉しくない訳ではない。やっぱり誰かにこんな顔をして貰えるのはう嬉しい事だろう。
少しすると完食してしまった。
するとこいつはこっちを向いて生意気にもおかわりを要求してきた。
「まあ俺のならあるけど、いるか?」
俺がそういうと無言で皿を自分の近くに持って行った。本当に遠慮ってものがないんだな、俺は再度Scarという人間性を改めた。
こいつは直ぐに食べようとしたがこっちを向き直した。
「でも、これ凄く美味しいのに食べないの勿体無いわよ」
「ああ、言ってなかったけ。俺は味覚障害だ。だから食べる事には執着した事ないし心配するな」
「あ…ああ…そう…なのね。……それなら私が全部鮮明に教えてあげるわ」
「本当にお前の語彙で伝えられるのか」
「任せなさい」
自信満々にそう言った彼女は美味しそうに一口食べると俺に精一杯どんな味なのかを伝えようとした。
結局どんな味なのかは分からないが、嬉しそうに食べながら伝えてくる彼女がとても嬉しいことだけは理解できた。
今まで何となく楽しいから料理を続けていたが何故楽しいと感じていたのか。それを今日初めて言語化出来るようになった。
「なあ、俺も食べて良いか」
「ん、当たり前でしょ」
ああ、この味は美味しいかも知れないな。
多分これは実際の味とは違うのだろう、けれども何だか心が満たされていく感覚に堕ちていった。
味覚はいつかの戦いでやられてしまったと考えられる、そしてその時は多分名残惜しそうに思っていただろう残念に思っていただろう。
それでもこの体験が出来たのなら、失ってしまった感覚も安いものだ。
もう味なんてものは俺には一生縁のない存在だろう、けれどもそんなどうだって良い事よりもこの心地の良い時間を俺は大切にしたい。
いつもの拠点に戻ってきた俺たちは余分に買ってきた食糧をヘドリー達に渡そうとしていた、こういう事の管理は全てヘドリーとイネスがやってくれている。あいつらは忙しいからScarにやって貰おうかと考えていたが、今考えるとそうしなくて良かった。こいつが管理したらジャガイモの中に爆弾が仕掛けられていてもおかしくはない、あいつの事だ間違えたなどと適当言って反省もしないだろう。
最近のScarは大人しいが未だ狂っているのは事実だ。
ああ、それで今はイネスに怒られている俺とScarがだ。理由は猿でも分かるだろう。
「はあ……貴方達本当に何をしたか分かってるの?」
「別に良いだろ、使った金は全部俺のだ」
「そうよ、そうよ。文句があるなら、あんたが行けば良かったじゃない」
「本当にそうね、私も貴方達がここまで脳がやられてるとは思ってなかったわ。そのホルスターにある鉛玉を頭に撃ち込めば少しはマシになるかしら」
「あら、そこまでして欲しいならお望み通りしてあげるわよ。けれどもその前にイネス…あんたの首を落としてからよ」
「……はあ、お前らそこまでだ。…W、お前も二人を唆すな」
「悪い、調子に乗りすぎたな」
「ヘドリー、もう忘れたのかしら。私が一番に狙っているのは貴方の首よ」
最初は俺達とイネスの喧嘩だったのに、いつの間にか仲裁しに来たヘドリーがターゲットにされている。
不憫だが仕方ない、戦場は残酷なんだよ。
「なあ……」
「あんたの考えは分かるわ、逃げるなら早い方が良いわ」
そうして俺たちは他の妨害が来る事なく安全に自分たちの定位置に来たのだった。
ああ良かった、これ以上あの場にいたら胃に穴が空きそうだ。ヘドリーは俺が唆したなどと言っていたが、どうせ相棒とイネスは衝突を起こしただろう。だから俺のせいでは無い、そういう事だ。
此処に来たのにまだ何処かから声が聞こえる。
今まではこんな事思わなかったのにいつからだ、耳がここまでうるさいと感じる様になったのは。予想はつく、今日行ったあの家に行ったからだろう。
言った時点では何も思わなかった、でもまあ顧みればあそこは風と多少の声だけだったな。
本当に恋しい、隣で銃を弄っている相棒と共にもう一度行ってみたい。次そこに向かうならばおつかい等の明確な目的がなく、ただ悠々自適に二人で歩き回ったりでもしてみようか。
「なあScar」
「ん?なによ」
「いつかで良いから、何処かに二人で行かねえか」
「目的は何よ」
「そんなものは無い、適当に過ごすだけだ。嫌だったか」
「……良いわよ行ってあげても、でもそんな暇本当にあるかしら」
「だからいつか、って言ったんだ」
「ま、そうね。そう遠く無い内に連れて行きなさい。約束よ」
「ああ、約束だ」
案外早くにも約束を取り付けれてしまった。
正直俺はあいつは断るだろうとダメ元で提案したのだが。…俺は彼女の全てを理解出来ていないらしい、彼女はよく俺の思考は分かり易いと言っているが俺の全ても同じく手に取るように判るのだろうか。
まあそれは目の前のこいつ自身に聞いてみないと知り得ない事か。
何でも無い事を考え過ぎたようだ。
他の傭兵達がヘドリー達の元に向かっている、あいつらの喧嘩はもう終わったのか安心だな。
「それじゃあ、俺らも向かうか」
「はいはい解ってるわよ。どうせ次の依頼についてでしょ」
「いや…どうやら今日はこの団のこれからの方針を決める」
「方針?それはヘドリーじゃなくて、ヘドリーの上司が決める事じゃ無いの?」
「俺にもよく分からない、しかしそれは話を聞けば分かるようになるだろう」
「まあ、そうね」
…ヘドリー、一体何を考えて居るんだ。
邪推は色々と出来るが、とにかく俺達二人はヘドリーの話を聞く為その方向へ向かった。
集まったのは20人程、これがこの隊の全員だ。
思った以上に少ないと言えばそうなるだろう。確かにここ数日仲間集めに奮励努力していたが全ての穴を埋める事は出来なかった。結局、あの戦いが大きな被害を齎した事ぐらいしか得られなかった。
前世の頃は50を越えていた傭兵も死体になってしまった。
「全員集まった様だな。今からこれからの方針を言い渡す。取り敢えず俺の考えを聞いて欲しい」
「…俺が最近この隊に空いた穴を塞ごうとして居るのは皆も知ってるだろう。しかし失った頭数の全てを補う事は出来ていない」
「その為、この隊は他の隊と共に一つの隊として統合する事が決まった。お前達もこの隊が他の隊と協力体制を構築している事は周知だろう」
「そして統合する相手は同じ傭兵団の仲間だ」
「今回伝えたい事はこれで以上だ、実際に統合するのは今日から1週間後だ」
言いたい事を言い終えたヘドリーは最後に各員これからもよろしく頼む、そう言い俺達は解散した。
…今回の内容は俺達の将来にとって大切な事柄だ。
隊同士が統合、少なくとも俺は今まで一度も聞いたことがない試み。
色々と問題や軋轢は生じてしまうだろう、例えばその統合した隊を率いるのはヘドリーなのかそれとも統合する隊の隊長なのか。ヘドリーはわざと言及はしていなかったがどう対処するんだ。生じてしまう悪影響は承知の上で決めた事なのか。
そもそもこの案がヘドリーから提案したものかすら俺には分かっていない。ヘドリーの案なら問題はどうにかするだろう。しかし、もし提案したのがヘドリー並びにイネスを傭兵団に入れる事を認めた彼らの隊長なら……ヘドリーにも今回の件の全てを知る事は不可能だ。
確かに表上ではヘドリーの隊の人員不足を補う為のもの、だがその裏には何か知らなければならない謀が蠢いていると考えるべきだろう。
…ヘドリーに聞くべきだ、今回の案は誰が提案したのか。それだけでも知ることが出来たのなら……
「ねえあんた、何かあったら私にも言いなさいよね」
「…分かってる、手が欲しくなったら直ぐに言うから」
「それなら良いけど……」
「私は確かに傭兵の体制についてあんたより知ってるとは言えないし積極的に知ろうとも思ってないわ。けれど考える頭は二つあるって事を血に染める腕は四つあるって事を念頭に置きなさいよね」
「…言われなくとも」
…ああ分かってるんだ、何しろ俺もこいつがいる生活にはとっくに慣れているし。相棒に頼る事も必要だとは知っている。
けれども何故こんな焦りが生まれるんだ。
クソ、俺達に余裕がないのは明白だった。
ヘドリーにあんな事を言われてからいつ何時もその事について考えている。
そのおかげか今日の任務で敵の刃が俺の首を貫きそうにもなった、Scarが居たから大丈夫だったが…戦場での余計な思考はタブーだといつかの俺が言っていたのによ。
ああそれでその後ヘドリーに計画した首謀者は誰なのかを聞いた所、俺の予想は合っていた。やはりヘドリーの恩人、ヘドリー隊が所属している傭兵団を創った人物だった。つまりは傭兵シュラウド、その人だ。