荒野に抗う   作:ひトリび

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『私にはあなたの計画が理解出来ません、何故このような事をしたのでしょうか』
『この計画は私の為ではなく、この地域の安寧の為に必要な事だ。その為のスケープゴートだ』
『傭兵には依頼が必須だ、しかし高額な依頼の所為でこの場の戦が終わらない事。それこそが私たち、ないしお前達が避けなければならない事態だ』
『……策略の全貌は会ってから話す、誰に情報が抜き取られてるか分からないからな。……自らの持てる才を選択できるのなら戦闘の鬼才にはならなかっただろう。…何より私は戦いが嫌いだからな』

『……いや、それらは今言うべき事では無いな…結局、私が欲しているのは結果だ任せたぞ。………それでは検討を祈る』
『はい。必ずあなたの御恩に報います……………シュラウドさん』






強襲-An eye for an eye, One by one

 

結局、特筆すべき情報は得られなかった。情報を得るのは俺の本業ではない、それに情報を抜き取る時間もなかった。

戦いの火は日に日に燃え盛っている。ほんの少し前までは俺の任務は完遂したと思っていたが少しすれば、すぐに俺達の首を狙う者達が虫みたく湧いて出てくる。

戦いは終わりそうにない、しかしそれも隊同士の統合が行われれば変わるだろうか。…統合などしなくとも他の隊からの援護が出来るのならして欲しいが…ポリシーなのか、そう言う掟なのか、それはしてくれない様だ。同じ団に所属している者達は仲間でも敵でもない単なる同盟だと言う考えで作られている……そんな事が今の状況から分かる。

…今の今まで知ろうとして居なかったが、今入隊した時に戻れるのならば情報屋からシュラウドについての情報を得ておけばと思っていただろう。こればっかりは仕方がない。

 

…Scarに俺の考えを言ったが、杞憂だと言われた。…しかしその言葉と共にこう言っていた。この計画に裏があるのは絶対だと、その策略が誰に対しての攻撃か何の目的なのかそれを知る事が出来ないのなら私達は守りに徹して迎え討つしかない…と。その日その日だけを重要視しているアイツにしては悪くは無い意見を得られた。

 

ヘドリーは何故この事を承認したのか、俺には分からない。確かにあの状況では自らの隊を大きく主張し敵を威嚇し、この止まない襲撃を落ち着かせる。意図は分かる、けれどもそれ以上のリスクが有るのでは無いかと。……俺はヘドリーを信じている、だから俺もそれ以外もこの隊の手綱を握ってもらう事を許容している。

俺達の隊長には隠し事が多いがそれらは全て、この隊の為。ヘドリーにはリスクを帳消しに出来る切り札を持っている。

……イネスも信じている筈だ、彼女も分かっている筈だ。これからの彼女の眼に落胆と失望が浮き出ない事をヘドリーも願っている。

イネスが無理にヘドリーの隠し事を看破しないのは、彼女なりの優しさかヘドリーからのお願いか。

 

 

話は粗方纏まった、俺からは手出しはしない。俺はヘドリーのやり方に従う。俺はWとScarにだけ集中しておけば良い。

 

…はあ、あの店長は何処に行ったんだ。今こそお前の活躍時だろ。

 

 

 

 

「…………お前だけは俺が面倒を見るから任せろ」

 

日はとっくに沈んで、鼈甲色の目を持つ彼女も当たり前に寝ている。それなのに語りかける。

今しか言えない言葉、今だから言える言葉。普段ならこんな言葉は一蹴されてしまうだろうか、それともそれ以外の反応を示すだろうか………答えのない問いに解答を待つつもりは毛頭無い。……筈なのに

 

その後俺の瞼も力無く閉じた事に気付いたのは、灰色しかない空に日が上ってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事態は傾き始めているにも関わらず、眼前のそれは生意気にも寝息を立てスヤスヤとしている。

 

遂に今日がやってきた、この日に何が起こるのか俺には分かりようが無い。自らの無力さを感じるが…そんな穴は俺達の誇るべき隊長が埋めてくれているだろう。そうでなくては困る。

 

少しすれば相手の隊がやって来るのだろうか、それとも此方から出張るのだろうか。

それはまだ聞かされていないが、しかし全員が準備を完了したなら。その懸念点は解消される。

 

今すぐ聞きたいがそこまで焦る様な時間では無い。

隣にいる間抜けな相棒を起こしてから、適当に今回の任務を確認してから時を待とう。

 

そう言えば前に面白い起こし方を見つけたんだったな、忘れていた。

俺は油断をし過ぎているこの顔の頬をつねってみた。そうすればうるさい蛇みたく、顔を真っ赤にし罵詈雑言を吐き散らかす。

 

「〜〜〜!」

「起こすなら一回声を掛けなさいよ!何で最初に頬をつねるのよ!」

「悪い、これ以外の起こし方が見つからなかった」

「ッチ……」

「…あんたが私をこき下ろすのなら、私はあんたが抱きしめながら泣いた事。ヘドリーとイネスに教えてあげ——」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺はScarの腕を掴み背後に引き腹部に腕を回した。

これでコイツはヘドリー達の元へ向かう事も不要なことを言う事も無くなった。…性悪の悪魔という称号はコイツに一番当てはまるだろう。

 

…危ない。あの事をアイツら聞かれるのは本当に洒落にならない。

ここで妨害出来て良かった。

 

俺がそう安心していると。コイツは背後で接触している俺の方へ頭を倒して俺の耳元で、降参、降参、もう言わないわよ、という声が聞こえた。

……本当に言わないのだろうか、俺は信用できない。…まあ、俺もこのままは困るから解放しても良さそうか。どうせ俺の考えはコイツには筒抜けになっている事が多い。

俺は拘束していた腕と身体を固定していた腕の力を抜いた。

 

そんな俺の身が危うくなるちょっとしたやりとりがあったが。

 

それ以外に何も起きる事はなく、ヘドリーから今日の事の内容を少し聞かされた。

言っていた内容には意義を申し立てたくなる物ばかりだったが、Scarの方がイライラしていた為俺はすっかり冷静になった。

何処かで自分より動揺しているやつを見ていると動揺しなくなると聞いた事があるが、それは今回の事にも当てはまるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「ッチ。はあ、今日は最悪な1日よ」

「まあ、面倒くさい事この上ないな」

「本当よ、どうして私達が一々出張らないといけないのよ。あっちが此処に来たら良いじゃない」

「………文句はヘドリーに言え。ヘドリーが了承したんだ」

 

コイツと共に向かうのは骨が折れる。

バディの件について、後悔はしていないが不満がないとは言えないな。

 

「これから何をするか分かってるか?」

「これから仲間になる相手の拠点に向かうのよね」

「ああ……とにかく第一印象くらいは良くしておけ。いつもみたく人の神経を逆撫でするような事はくれぐれもすんなよ」

「はいはい、何でもいいからいい感じにすれば良いんでしょ」

「…けれど、私たちに対して危害を加えるかも知れない者に仲良しごっこする意味なんてないでしょうに。さっさと爆散した方が妥当じゃない」

「妥当性という点では先手を打つのは此方としては悪手だ。これからも俺達が傭兵を止める事がないのなら、立場を守る為にその様な行為は推奨されない」

「仲間の首を平然と落とす奴と隣に居ても構わないと思う者はただの死にたがりか愚者だけだ」

「これで分かっただろう。仕方ないが此方が後手になる可能性は極めて高い」

 

「それは相手も一緒なんじゃないの?」

「その者達にはシュラウドというこの地域を纏めている大物が後ろ盾になっている、依頼人も依頼の状況も知ろうと思えば手に取るように分かる」

「まあ分かったわ……質問はないけど気分は最悪ね」

「これくらいお前ならよく考えれば分かる事だっただろう、知識がないのも要因かも知れないが。お前のその刹那的な生き方は気に入らないな」

「………そういや敵でもない奴の首を落とすのは推奨しない、なんて言っていたけど。あんたヘドリーの依頼主を殺した事があるらしいわね。それはどうなの?」

「…あれは……その依頼主が不義理を働いたからノーカンだ。今はもうしない」

「あら、墓穴を掘るのは今日が初めてかしら。これであんたも立派な愚か者の一員ね、祝ってあげても構わないわよ」

 

よし、今日のディナーの隠し味は閃光弾に決めた。アイツが料理を手に取ったらその瞬間にドカン、だ。

青筋を浮かべたScarの様子が簡単に目に浮かぶ。いつも俺を怖がらせようとしているのか知れないかもだが全然怖くもない。可愛い小動物の癇癪だ。

 

 

色々と話してしまった為か、俺達は先頭のヘドリー達と離れてしまった。

俺達はヘドリー達に遅れない様に少し急いで目的地へと向かった。道端に落ちていたオリジムシの死体を見つけたこいつは、イネスに投げつけても良いわよねと言ってきた。

…俺は一瞥もせずに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定、イネスとアイツは道中で刃を向け合う事になった。ヘドリーと俺、その他の者はその事に対しては完全な無視して目的地へと向かっていた。

歩いて10分程度か。そして俺達は目的の場所へと着いた。

 

これと言ってその隊だと感じさせる雰囲気やシンボルマークは無いが、彼らが話している内容からこれから俺達と共に動く存在だと理解できた。

少し聞いてみると若そうな奴が他の奴に辞めさせられたなどという何やら物騒な会話も聞こえて来た。まあ、傭兵に向いていなかったのだろう、そう考えれば辞めさせた事は一種の温情とも取れる。他にも会話は聞こえて来たがたわいも無い話ばかりで得る物は無かった。

 

全体を見回すと一つだけ身に覚えのある顔があった。多分この隊のリーダーだろう、武器らしい武器を身につけていないことから頻繁にアーツを用いる術師だと考えられる……この隊の身辺調査はしていたが武器や戦力については情報がなかった為今回初めて知る事ができた。戦力については情報を得られなかったのにしょうもない話は溢れるほど話に上がった。

情報を誰かが隠しているんだろう、知れた事と知れなかった内容が異様過ぎてバレバレだったな。

 

しかし見れば見るほど俺たちの脅威になりそうな集団には見えない。これなら不意打ちを喰らったとしても万全とは行かなくとも致死にはならないだろう。

 

 

この集まりを率いている男がヘドリーと話している。

……この場所からだと会話の概要が聞こえない、少し場所を変えようか。そう思い俺は少し近づくように移動した、Scarも着いてきたが邪魔をしなければ隣にても良いか。俺は口元に人差し指を当てがい、静かにするようにジェスチャーをした。そうするとコイツが俺に向かって睨んできた。そう言えば俺のバディは俺の思考を読む事が出来るらしい、失念していた。

 

会話を聞いてみて内容を咀嚼するとこうだ。

ヘドリーは最初、自身に合同隊の手綱を握らせろ申した。当たり前だが、ヨーゼフはこの事を断った。彼の弁では部隊の全権限を仲間とは言え、見ず知らずの者に明け渡す気はないらしい。

少しの沈黙と長考が続いたがヘドリーの声によってそれらは消えた、我らがヘドリーは戦術などのことについての最終決定は任せる……しかし代わりに依頼を選ばせて欲しいとのことだ。ヨーゼフは呆気に取られていたがすぐに了承をした。

 

ヘドリーは指揮の代わりに依頼を選ばせて欲しいと言った。

確かに俺達が安全に依頼を完遂させるにはその方が大切なのかも知れない、がしかし俺達が血を流す可能性が存在するのは戦場だ。その戦場の指揮を任せるという事はどういう事か彼も分かっている筈だ。前に俺はヘドリーを信じたいと言っていたが……この瞬間は何故ヘドリーがその決断をしたのか、本当にそれが正解なのか信じる事が出来なくなっていた。

 

隣にいるScarも舌打ちをしながら文句を垂れている。依頼くらい別に何でも良いでしょ、と俺も同意見だ。

考えられる可能性としては、強い相手とぶつかった時に見捨てられる事が無いようにする為に、俺達を狙っている者が来にくい場所で戦う事を望んでいるのか、等だろうか。しかしいずれも戦術指揮よりも大切と言われれば疑問が残る………

 

 

ヘドリーは俺達を、ヨーゼフは自らの隊の者達を。それぞれが統率が取れる様に纏めた。これから移動でもするつもりだろう。

 

…予想通り今から移動を開始するらしい、向かうはスカーモール、傭兵が依頼を受けに集う場所、と思っていたがヘドリー曰く既に依頼を受けていたとの事だ。…この事は奴らには聞こえてないだろう。常に俺達から少し離れた後ろをついてきている。

後ろを取られるのは気分が悪い。今すぐにその席を立ち退いて欲しいが、彼らには戦術指揮を取るという大義名分がある為に後衛に居る事をあまり強くは言えない。それを皆が分かっているのかその事については黙っている、あのScarですらそうしている。

 

灰と砂の音が全盛の頃と同じくらいに鳴っている、これ程の人数での移動は久しい。しかしそれだけだ、今と昔では状況も心持ちも全く違う。気分は最悪だ。

 

歩いて行けば行くほど目的の場所が次第に分かってくる。

景色も何処かで見た事あるかの様だった。そう言えばあのジジイを見つけようと歩き回っていた時に見たな。

 

 

 

此処は……前に取り逃した事のある獲物だった。あの時は自ら赴く時間がなかった為断念したが、確かに今なら余裕があるか。

これも俺達が勇猛果敢に敵を返り討ちにしたおかげだろう。蛆虫が最近またしても湧いてきたが大幅に戦力を拡大したし、俺達を狙う者も迂闊には攻め込む事は少なくなっていくはずだ。

 

この場所にいる奴らがどんな者だったかは一々覚えてねえが、どうせそこまでの実力だろう。事実、俺達の前で撤退をした様なものだからな。

 

 

「此処に居るはずの者達は、元は俺達の首を狙っていた傭兵達の一つだ。ヨーゼフの隊からすると関係のない報復の様に感じるだろう。……今日に俺達は統合部隊となった。そうなれば君達は俺達の、俺達は君達の背中を預かる事を強制される。しかし急に他人に背中を預けろと言われて、どれだけのサルカズが正直にその様な愚直な行為を行う?……俺達の間にある警戒しあう緊張をほぐす為には親睦が必要不可欠だ、しかし俺達にはそんな都合の良い物はない。だからこそ、任務を達成する過程で全てを終わらせれば良い。そしてその事において都合の良い相手が俺達には目の前にいる」

 

この荒野で理由もなく暴れる傭兵は忌み嫌われている、求められては居ない。だから報復、という都合の良い理由があるアイツらを利用して信頼関係を作ろうとヘドリーはそう言った。本心だろうがそうでなかろうが筋は通っている。

 

「貴方の考えは理解しました、互いの為にこの事をすべきでしょう」

 

ヨーゼフはヘドリーの案を受け入れた。

しかし彼は断っていたとしても、ヘドリーは元から依頼を選ぶ権利がある為ヨーゼフの是非に意味はない。

 

 

 

 

 

俺達は戦う為の準備をしていた、ある者は刃を研ぎ、ある者は作戦の確認をし、各々のやるべき事をやっていた。

そして俺のバディは爆発物を手元で弄りながら、ベラベラと喋っていた。

…側から見れば間抜けだな。

 

「アンタって相当の死にたがりよね」

「はあ…そう言えば、そんな事できたな」

「少しはその分かりやすい挙動を抑えたら?今日までよく生き残れたわね、他の人達も何で気付かないのよ」

 

コイツはいつもこう言ってくるが俺に問題があるのか。例えば分かりやすい癖があったりするのか…

まあその何かがコイツ以外に気付かれなければ、どうって事ないか。

 

 

隣に居る奴の罵詈雑言を無視して、俺は俺のやるべき事をした。刀を研いだり、銃のメンテナンスをしたり、作戦概要の確認をしたり。バディの耳を引っ張ったり、引っ張られたり……

そうして数十分もする間には全員が臨戦体制に入っていた。

 

 

初めての相手との共闘、もしかすればこれからずっと共にするかも知れない相手との共闘だ。

今から殺しをするって言うのに俺の意識は敵ではなく、共闘相手へと向かっていた。

 

 

 

ヨーゼフの合図により各員が進み始めた、扇状に並んだ傭兵が目標へと向かっていく。

数秒後には鮮血と灰燼で溢れる荒野も空の光を反射し、この瞬間を凝視していた。この戦いの結果が待ち遠しいみたいだ、戦と謀を養分に育ったこの大地は貪欲に人の悪意を求める。

敵愾、怒号、慟哭、悲痛、その全てを用いて放つアーツはこの地を戦場へと変えていった。

 

しかしこの戦場(いくさば)においてはその限りでない。

結果を変えるのは感情でも刃でもアーツでもない、蓄積された弾丸である。

 

 

瞬間、Wの背後からアーツが放たれた。

形だけの信頼関係に、利害一致の仲で共に荒野の上に生きると言う事は愚策だと。

サルカズは理解する事になるだろう。

 

 

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