タウイタウイの美少女? 提督とアレな仲間達 作:ゆっくりいんⅡ
「ちょ、鈴谷さん!? どこ触ってるんですか!!」
「いやー、三日月ちゃんの女としてのクオリティをチェ」
バキッ ゴキン
セクハラしている艦娘を出会い頭に折檻する俺――提督は悪くないと思う。訂正、悪いわけがない(確信)
「三日月、お疲れさん」
「……」
状況に追いつけないのか、三日月はその場でフリーズしている。
「三日月?」
「……あ、お疲れ様です司令官。あの……鈴谷さんは大丈夫でしょうか?」
セクハラしてきた相手を心配する心優しい少女、三日月。白目剥いて倒れている鈴谷を本気で案じているようだ。
「これくらいで死ぬなら、死んだ回数は3桁に達してる」
「まあ、それはそうですが……」
そこで倒れてる航巡やビッグ7(笑)が倒れている姿は、この鎮守府では日常の光景である。三日月も赴任してからそこそこ長いのでその辺りは慣れている筈なのだが、心配するのは
生来の真面目さ故か。
「とりあえず、医務室に連れていきます」
「どうせすぐに復活するから薬が勿体ない。ああ羽黒、このバカ部屋に捨てといてくれないか?」
ちょうど通りかかった羽黒に声を掛けると、足を止めて不思議そうな顔で振り返り、
「どうしました司令官さ――わ!? 鈴谷さんが死んでます!?」
「死んでない。殺してもどうせ死なん」
「それは流石に言い過ぎじゃ……」
少し困り顔で控え目に発言する三日月。否定できないのは『そうかもしれない』と心の中で思っているからかもしれない。
「えっと、じゃあお部屋に連れていきます」
「すまんな、頼む」
軽く頷くと羽黒もそれに応じて頷き、
鈴谷の襟首を掴み、引きずり出す。
当然そんなことをすれば首が絞まるので、「ぐえ!?」と女が上げるべきではない声が鈴谷の口から出てくる。
「ちょ、はぐろん!? 絞まってる、首絞まってるからぁ!?」
「え、でもこれが運ぶの楽なんですが……」
「鈴谷が別の意味で楽になっちゃうから!! というか離して、自分で歩くから~!?」
ギャーギャー騒ぎながら引きずられる形で鈴谷がフェードアウトしていく。俺と三日月は無言で見送り、姿が見えなくなってから三日月が口を開く。
「……いいんですかね、あれ?」
「死なないからいいだろ」
「いいのかなぁ……」
そわそわしている三日月。今からでも助けに行くべきか迷っているようだ。セクハラしてきた相手に真面目というか優しすぎだと思う。
三日月から遠征に関する報告があるらしいので、場所を替えて提督執務室。俺は報告書を見ながら三日月の話に耳を通していく。
「以上です。何か不備はありませんか?」
「……遠征の終了時刻が抜けてるな」
「え? ……あ! すいません司令官……」
直立不動の状態を解き、慌てて書類に時刻を記入していく。
「私ったら……以後気を付けます」
「気にするな、間違いは誰にでもある」
「いえ、些細なミスがとんでもない事態を引き起こすこともありますから」
「……」
確かにそうだが、書類上のミス一つでそれは大袈裟だろう。これは挽回できる失敗である。
「ところで司令官、お昼食べましたか?」
「いや、まだだが」
昼前に急遽上層部の人間が訪問に来てその後すぐ仕事に移ったので、食べ損ねていた。「急にすまないね」などと訪問者は言っていたが、そう言うくらいなら急に来ないで欲しい。
「良かった、じゃあ無駄にならなかったですね」
安堵した表情で三日月が取り出したのは、水色のシンプルな布に包まれた弁当箱。どこにしまっていたのだろうか。
「お口に合うといいんですが……」
包みを解いて弁当箱が開かれると、中に入っていたのはサンドイッチ。卵、ツナ、ジャムとオーソドックスだが、それ故に食欲を誘われる。
「いただきます」
遠慮がちに出された弁当箱から遠慮せず卵のをもらい、口に放り込む。卵と程よく交ざったマヨネーズ、パンの柔らかさが見事にマッチングしていた。
「美味い」
一言それだけだが、三日月は花が咲くほど嬉しそうに相好を崩す。分かりやすい、そして愛らしい表情である。
「文月姉さんもどうぞ」
「わ~、ありがとぉ三日月ちゃ~ん。お腹空いてたんだ~」
嬉しそうに笑い、ジャムのサンドイッチを抜き取る秘書官文月。三日月は苦笑しながら「先に卵かツナにしましょうよ」と言い、文月は「え~」と不満そうに頬を膨らませる。和む光
景だが、これではどちらが姉か分からない。
「美味しいよ三日月ちゃ~ん」
「すまんな、遠征帰りで大変だろうに」
「いえ、大したことではないので。司令官と姉さんにそう言ってもらえるだけで、元気になっちゃいます」
そう言って笑う三日月。本心からの言葉からだろうが、目元に浮かぶ僅かな違和感は見逃せなかった。
「……」
「あの、司令官? 私の顔に何か付いてますか?」
「まあ、付いてるといえば付いてる」
「え? やだ、私ったら」
こちらの指摘に顔を赤くし、三日月は自分の顔を触りだす。どうやら調理時に何か飛んだと思っているようだ。
(目元の隈がな)
後半の言葉は飲み込む。就寝時間まで休もうとはしないし、休むのを勧めても固辞するのは既に経験済みだからだ。
休むことの重要さを説いても良いが、それはまた今度にして横を一瞥する。それだけで察しのいい文月は、
「うん~? なんでふかふれ~ふぁん」
……ジャムパンに夢中で全然察していなかった。子供か。
あと、それは俺の分です。
「姉さん、顔にジャム付いてますよ」
顔に付いたものを探すのに夢中だった三日月は、姉が提督の分を食べているとは思わず甲斐甲斐しく顔を拭いてやっている。もう三日月が姉でいい気がする。
姉妹の和む光景を尻目に、俺は執務机の引き出しから『あるモノ』を取り出して二人に見せる。
「? 司令官、これは?」
「間宮券だが」
言ったとおり俺が出したのは、艦娘垂涎の甘味が食べられる間宮券である。普段は功績のある艦娘に対し渡しているそれを二枚、三日月に握らせる。
「誰かに渡せばいいんですか?」
頭に疑問符を浮かべながらも受け取る彼女は、『自分に提督がくれた』という発想は微塵もないようだ。
心中溜息を吐きもう一度文月の方を見ると、今度は気付いたようで三日月にニッコリ微笑む。
「三日月ちゃん、これは頑張ってる三日月ちゃんにってしれーかんがくれたんだよー」
「私に、ですか……? そんな、ありえないですよ姉さん。これは戦功のある人にお渡しするものですし」
「んーでもぉ、三日月ちゃん頑張ってるから、しれーかんが特別にくれたんじゃないかなぁ?」
「いやいやそんな」
苦笑しながらこちらを見る三日月に、頷いてやる。
「もう一枚は文月の分だ」
「わーい、やったぁ」
無邪気に喜ぶ姉の横で、妹は驚いた顔をした後顎に手を当てて難しい表情になり、
「司令官、お気持ちはありがたいのですが」
ガシッ
「さぁー三日月ちゃん、しれーかんのご好意に甘えて間宮さんにれっつごぉ~」
「え、ちょ、姉さん!? 私まだ仕事が」
「すぐ片付けなきゃいけないのは終わってるよ~。だから大丈夫、問題なぁ~い」
「いやそれ問題ある返事ですよね!? それにしたってまだ業務時間内ですよ!」
「じゃあ今から休憩だよぉ~。しれーかん、いいですかぁ?」
「いいぞ、まだ休めてなかったからな」
再度頷くと「これでおっけぇ~」と微笑み、まだ何か言おうとする妹の口を人差し指で封じる文月。それで諦めたのか、三日月は苦笑するだけで抵抗することはなくなった。
自分のペースに巻き込むのを得意とする文月に券を渡して三日月を強引にでも休ませようと考えたのだが、上手くいった――
ガシッ
「しれーかんも一緒に行こ~? 休憩まだだったよねぇ?」
腕を掴まれる感覚で思考から現実に戻ると、眼前にニコニコ顔の文月、そして後ろに申し訳なさそうな三日月。
「……」
断れる気がしなかったので、俺(提督)は仕事を中断した。
「ごちそうさまでした」
「でした~」
「でした」
所変わって場所は甘味処『間宮』。三人揃って季節限定艦橋パフェ(特盛)を綺麗に平らげる。本来は重巡以上向けのサイズらしいが、デザートが別腹というのは艦娘でも同じのよう
だ。
「美味しかったね~、特に一番上のケーキ~♪」
「クッキーも捨てがたいですね。ふぁ……あ、すいません」
食後で気が緩んだのか、三日月から小さく欠伸が漏れる。本人はバツの悪そうな顔をしているが、別に気にしないと手を振って答える。
「さて、じゃあ後半もお仕事頑張りましょう!」
そう言って立ち上がるが、休憩を始めてからまだ三十分も経っていない。
「まだ時間あるぞ」
「いえ、もう十分休みましたから。司令官、ご馳走様です」
ぺこりと頭を下げる彼女は何も言わなければ本当に行ってしまいそうなので、どうするかと文月に視線を送ると、
「むにゃ……しれ~かぁ~ん……」
舟を漕いでいた。子供か、と突っ込みたい衝動をかろうじて抑える。
「……姉さん、眠そうですね」
「寧ろ今すぐ寝そうだな。……三日月、悪いが文月を部屋まで運んでくれないか?」
「え、私は構いませんが、内務班は大丈夫なんですか?」
「たまにはいい、扶桑には俺が話をつけておく。『アタシ一人抜けてダメになるほど腑抜けさせてないよ~』って言ってたし、多分問題ないだろう」
「姉さん、普段内務班で何してるんですか……?」
ちなみに睦月型のほとんどは実務班の遠征担当のため業務中は顔を合わせることが少なく、文月の『裏の顔』を知っているのは同型ではほとんどいない。
「分かりました。ほら姉さん、お部屋行きますよ」
「ふみぃ~……みーちゃん、おぶって~……」
「無茶言わないでください。あとみーちゃんって呼ぶのは部屋いる時だけに」
は、とまばらながら周囲に人がいることに気付き、三日月は慌てて周囲を見渡した後、こちらに視線を寄越す。
「司令官、あの、これは」
「どうした?」
弄っていた髪から視線を三日月に向ける。聞いていない振りをするのが大人のマナーだろう。
「あ、えっと、なんでもないです、それでは」
僅かに赤い顔は安堵に変わり、姉に肩を貸して二人は去っていった。
そして十分後。
『ん~、み~ちゃぁ~ん~……』
『ちょ、姉さん離してください!? どこ触ってるんですか!?』
『み~ちゃんも一緒に寝よ~よ~』
『いや、私は仕事が』
『ね~ぇ~、お願い~……』
『……はあ、仕方ないですね。ちょっとだけですよ?』
『やったぁ~、じゃあお休み~……ふみゅう』
『はい、お休みなさい姉さん……んぅ、私も眠いかも』
更に五分後
「ふみぃ……ふみぃ……」
「くぅ……すぅ……」
「……第二段階完了」
持っている気配遮断能力を最大限に発揮し、抱き合ったまま眠っている姉妹を見て静かに呟く。しかし姉の寝息は何だろう、可愛いけど違和感を感じる。
一人では寝れない文月に三日月を同行させ、無理矢理でもいいから一緒に寝させる。食べた後というのもあり、咄嗟の思い付きではあるがうまく言ったようだ。
「まあ、たまにはゆっくり休むといい」
布団を掛けて、それぞれの頭をそっと撫でる。文月が三日月の腹辺りに抱きついているため一苦労したが、まあ別にいいだろう。妹だけでなく姉も人一倍働いてオーバーワーク気味な
のだ、多少休んでも罰は当たらないだろう。
しかし、寝ている二人の姿は、そう、天使である。見てて非常に癒される気分だ。
「……これ以上居るのもあれだな」
様子を見ていたのに、気付いたら変態扱いされるのは御免である。ウチの艦娘だけで十分だ。
「……で、お前は何してるんだ?」
扉の前で屈み聞き耳を立てている長門(カメラ持参)にジト目を送る。
中に自分が居るとは思わなかったのか興奮していた様子の長門は緩んでいた顔がすぐさま青くなり、
「ち、違うんだ提督! 偶然通りかかって人の気配がするからつい」
「この時間に偶然通りかかるわけないだろ常考」
反論を許さずジト目が睨みつけるにランクアップすると、長門は開き直ったのかすっくと立ち上がり、
「そうだ! 私は文月と三日月のかわいい姿をカメラに収めようと機会を伺って」
ゴキン バキン
艦娘の貞操を守る義務はないが、この変態(ビッグ7)を彼女達に近付けさせない程度の良心は俺にもまだ残っている。
「……で、なーんで鈴谷がお仕事変わんなきゃいけないんですか~? はぐろんにセク、スキンシップをしようと」
「仕事しないなら長門と同じ末路を辿ってもらうが」
「ワーイスズヤオシゴトダイスキー」
やはり変態はこりないし頑丈である(溜息)。
後書き
重巡クラス以上全員が変態ではない、どのクラスにも変態はいるのだ(真顔)。
どうも、ゆっくりいんⅡです。今回もツイッターのリクエストで三日月メインでお送りしたのですが……もう文月とセットでいいんじゃないかなこれ(オイ
というわけで私はここに『ふみみか』という新ジャンルを提唱します! だれか絵描いてくれないかな~(チラッチラッ
……とまあくれくれ厨発言は置いといて、今回は以上です。感想・ご指摘いただけたら幸いです。
夏イベまでに阿武隈改二間に合うかなあ……(白目
追記
遅筆かつ未熟な作者ですが、書いて欲しい艦娘がいるという方がいましたら、コメントに記入してください。喜び勇んで書かせていただきます(良く知らない艦娘だと今回のものより
ヒドイ出来になるかもしれませんが……すいません)。
ツイッターのアカウントも掲載しますので、良ければそちらからでも大丈夫です。ただ悪戯を防ぐため、フォローしていただいた方限定とさせていただきます。
ID:@dust_it
おまけ キャラ紹介
提督
どんな時でも無表情なタイプ。『無表情以外を見たものは呪われる』という鎮守府伝説がある。
普段は小食だが、食べようと思えば大量に食える。普段食べないのはエコ体質を目指しているため。
変態艦娘をシメル回数は一日平均8回。
三日月
失敗するのが怖いタイプ。生来の生真面目さもあって色々無理してでもこなそうとする頑張り過ぎる子。
内務と遠征双方で活躍する。影に日向に他人を助ける縁の下の力持ち。
頼られると弱い。あと甘味限定で大食らい(周囲には隠している)。
文月
誰か一緒じゃないと寝られないタイプ。いつも睦月型の誰か(稀に他の駆逐艦)と一緒に寝ている。
私生活では姉妹に世話を焼かれること多し。ただし望月は別。
彼女の『お願い』攻撃は絶大。これを断れるものは血も涙もない冷酷非道と言われる。
鈴谷
一話にも登場した変態航巡。男女問わずセクハラをするのが淑女の嗜み(という本人の談)。流石に暁でも信じない。
提督や熊野にしばかれても五分以内に復活する。でも痛いものは痛いらしい。
こう見えて秘書官の一人で優秀な人材。しかしセクハラのせいでそちらは評価されない。
羽黒
実務寄りの秘書官の一人。性格に反して重巡武闘派の筆頭。鈴谷の首根っこ引っ張るのはいつものことである。
長門
前回に続いて登場のロリコンビッグ7。正直登場予定はなかった。大体いつもこんな感じである。