レミリアの好意で僕とスターに与えられた、2週間ものお休み期間。そのお陰で、普段のお休みではできなかったことが沢山できたし、サニーたちやチルノ一行にも幸せを贈れただけでなく、僕自身にも神様の友達と人間さんの友達が合わせて4人も増えた。
ピースが愛する家族のへカーティアさんに、幻想郷の秋の神様である穣子さまや静葉さま、鈴奈庵の小鈴。誰も彼も、一緒にお話をして遊んでいると居心地が良くて楽しい友達である。
ただし、4人とはまだまだ付き合いが浅く、性格とかは大まかに理解できても、趣味嗜好とか普段は何をしてるのかとかを、僕は全然知らないって言っても過言じゃない。無論、逆も然り。
上手に時間を作って、何度も会ったりしながら関係をより一層深めていかなきゃね。
「早いというか慣れてますね。流石は、レミリアさんや咲夜さんが戦力として頼りにしているお二人です」
「ありがと。でも、妖夢だって凄いと思う。すいすいーって流れるようにやっててさ」
「ふふ。普段もそうだけど、博麗神社の宴会を上手く捌けるくらいだもの。平常時なら当然よー、メノ」
そして、途中で心に特大の衝撃を与える出来事がありつつも、今までで1番充実して楽しいこのお休みを与えてくれたレミリアには、もう感謝しかない。
だから、メイド妖精としての仕事に対するやる気は最高、今日は妖夢と一緒に仕事ができるのも相まって、テンションもかなり高くなっている。
じゃあ、妖夢が居なければやる気やテンションが高くならないのかというと、決してそうではない。やる気は常時最高かそれに比肩するくらいで、テンションの方もレミリアとかに褒められたり、スターと一緒に仕事するみたいな時と同じくらいになるから。
なお、その際は多少の身体的疲労なら無視でき、かつ身体が羽のように軽くなる。ただし、実際に休憩せずに疲労が回復したりはしないので、そこは気をつけなきゃいけないけど。
「あーっ! 久しぶりのしろちゃんとスターちゃんだ! お休み、楽しかった?」
「わははっ、あそぼあそぼ! 廊下を凍らせてつるつるーって滑って、ジャンプして、くるくるーってやるやつ考えたの! 楽しいよ!」
「妖夢! おやつあるけど食べる? その、わたしが作ったクッキー」
「じゃあ、うちはメノちゃんにアップルパイうわぁっ!? どっか落としてきちゃった! 勿体ない……」
「スターちゃん。私の着てるこのお洋服……可愛い? 自分で作ってみたの」
そんなこんなで、僕がほうきとモップとたまに能力で廊下の床のお掃除を、スターが壁や天井や窓を雑巾や新聞紙で拭いて、妖夢が天井や壁掛けの魔法燭台の交換をしながらぐんぐんと進んでいたその最中、前方からモリオンと仲良し一行のメイド妖精さんが、ニッコニコでドタドタと走ってくる。
で、主に僕やスターに対して皆が、各々思い思いにグイグイ話しかけてくるものだから、誰にどう返事を返すかとか反応してあげるかに迷っちゃって、混乱状態へと陥った。当然、仕事どころじゃなくなった僕たち3人の手は止まってしまう。
本来ならば、仕事中だからごめんねとかって感じで、声をかけるべきところではあるんだろう。もしくは、皆のお仕事は大丈夫なのかって感じで。
結果、何やかんやで押し切られて一緒に遊んだりすることになる可能性は、相応に高いとは思うけどね。
(……)
しかし、スターや妖夢はともかくとして、今の僕にはとてもじゃないけどそう声がけをするという選択肢はなかった。正確に言えば、
体調が凄く悪かったとかみたいな理由ではなく、レミリアに2週間という時間をもらってお休みしただけなのに、何かこう居なくて寂しかったってオーラを出して、寄ってきてくれたから。
「へぇ……レミリアとフランに褒められたんだ。よかったね」
「うん! それまでにいっぱい焦がしたり、お砂糖と塩を間違えたり、まずい料理をたっぷり作っちゃったけどね!」
「偶然でもできたなら、練習を沢山すればモリオンももっと上手になるわー。頑張って!」
「ふふ。私も、協力できる時はしてあげますよ。モリオンちゃん」
モリオンに至っては、僕とスターの側まで寄ってくるなりぎゅーっとしたかと思ったら、苦手だった料理で上手くできたことも含め、休んでいた2週間分を取り返すかの如く、何をしたか何が起きたかと興奮気味に語り始める。
付き合いが長いスターや妖夢への態度と、付き合いが短い僕への態度は、端から見ても見なくてもまるっきり同じ。性格のことを加味したとしても、モリオンにとって僕はそこまで大きな存在だって言われてるみたいで、何だかとっても嬉しくなった。
(凄いなぁ、モリオン。僕ならきっと……)
というか、そこまで僕やスターが居なくて寂しいって思ってたのに、それとこれと話は別だと割り切って、仕事はちゃんとやっていたのは褒められるべきだ。
同じ理由にしろそうでないにしろ、僕がチルノ一行の全員と2週間も会わなかったらきっと仕事に集中しきれないし、精神的にも厳しいものになる。
霊夢を筆頭とした妖精じゃない大好きな友達でも、それは決して変わらないだろう。
で、サニーやスターやルナと2週間会えないなんてことになったものなら、もはや大異変。仕事どころじゃなくなるのは当然として、精神的にどうかしちゃうかもしれないから。
いや、かもしれないじゃなくて絶対どうかしちゃう。不眠不休で探し続けるか、ショックのあまり何もする気が起きなくなるか、何にせよあの人たちに直接会うのと最低でも同等か、それ以上の事態になりそうだ。
「あ、あのっ……しろちゃん!」
とまあ、モリオンのいい意味での割り切りの良さに感心していると、何かいきなり僕の後ろの方から大声が聞こえてきて、自分自身も含めたこの場の全員がびっくりした。
(本? 結構ページ数あるけど……何だろう? 魔法の本じゃないよなぁ)
声のした方へと振り向いたら、そこに居たのは丸眼鏡をかけた茶髪妖精さん。
表情とか仕草はそうだけど、何よりやたら声量が大きい上にうわずるという、美鈴ですら会話があまり成り立たない程の、凄い人見知りだった頃によく見られたという大きな名残が出ている。
今現在、1番仲良しな美鈴が隣に居てさえこれなので、この『本』に大きな秘密があるのは確実にしたって、こうまでなるものかと実に不思議である。
普段、僕にお願い事をする程度なら普通に話しかけてくるし、何だったら一緒に読書をしたり紅茶を淹れ合ったりもすれば、ちょっとした物々交換くらいなら普通にやるのになぁ。
「メノウちゃん。この子からの贈り物、受け取ってくれませんか。正確には、171人のメイド妖精たちからですけど」
それで、言葉が出なくなって黙った丸眼鏡の妖精さんの代わりに、美鈴がこの本に関して僕や他の皆に分かるように説明を始めてくれたんだけど、まあ色々と凄かった。凄過ぎて、この本の中身を見る前から泣きそうになるくらい。
何せ、これは僕のお誕生日祝い。諸事情でお誕生日会に参加ができない、またはできるけどしない選択をした171人のメイド妖精さんたちが、その代わりとして頑張って用意したものだというのだから。
(……ぐすっ)
ああ、これは駄目だ。勿論、この贈り物に対する悪感情などではなく、涙を堪えるのが到底不可能な程に嬉しいし幸せだって意味で。
ページをめくる度に出てくる、三者三様の僕へのお祝いメッセージや似顔絵。基本的に1人1ページというスペースを使ってるけど、中には枠が足りなかったのか、2ページ以上使っている妖精さんも居る。
名前がない妖精さんばかりなので、誰が書いたかを分かりやすくするためだろう。誰のスペースにも必ず、カメラかそれに相当する魔法とかで撮影したと思われる、思い思いの自分撮り写真が貼られていた。
「ふふ。よかったわね、メノ! それはそうと、本にするってやり方はちょっと参考にしたいかも」
「1ヵ所にまとめれば、保管しやすくなりますからね。誰々からもらったカードを失くした、うっかり曲げちゃったといったミスからも守りやすくなりそうです」
「……大事にするよ」
何が嬉しくて幸せかって言ったら、これを全員が当たり前でしょと言わんばかりに、各々がノリノリで用意してくれたところ。強制は当然として、お願いすらしていないというのだから殊更びっくりだ。
丸眼鏡の妖精さんは、自分のも含めたそれらのメッセージや似顔絵などを集め、パチュリー直伝の魔法的加工を施して1冊の本って形にすることを思いつき、実行しただけみたいなことを言うけれど、どう考えても相当に手間がかかっている。
これで、集めただけだなんて誰が言えるのだろう。いや、言えるはずがない。
「あ、これわたしが書いたやつ! うふふ、文字も似顔絵もすっごいへたくそ!」
「あなた、こういうの苦手だもんねー。それでもメノの特徴ばっちり捉えてるし、頑張ったのは伝わってるわ!」
「自分で言っちゃうんですね、それ。私から見れば、そこまで言う程下手とは思いませんが」
「もしかしたら、他のメイド妖精の中に上手な妖精が居るからかも。どうしても比べちゃうって感じね」
「なるほど……こういうのは、描いた時にどれだけの思いを込めたかが重要だと思いますよ」
171人も居れば当然、絵や文字の出来とかにも決して小さくはない差が出てくる。写真や文さんの文字みたいな絵や文字の子も居れば、モリオンの隣の妖精さんが自虐的に言うように、下手って言われちゃうような絵や文字を書く妖精さんも当然居る。
何だったら、後者の妖精さんたちの方が数的には多い。紅魔館のメイドとしての仕事には直接関係ないし、娯楽だってそれしかないならともかく、沢山あるんだから何らおかしな話ではない。
(えへへ。心の中が、ふわふわしてきた)
だけど、僕はそんなものは一切合切気にしない。純粋におめでとうと祝ってくれる温かな思いが伝わってきていれば、それ以外は何も求めるつもりはないもの。
仮にだけど、誕生日プレゼントがなかったとしても全然大丈夫。求めるものではないと考えてるのもあるけれど、何より僕にとっては皆が仲良くしてくれるということ自体が、価値のつけられない最高の贈り物だからね。
それに、妖精さんたちから自分たちの描く絵が上手か下手か、書く字がどれだけ綺麗か汚いかを正直にはっきりと判定して欲しいと、心の底からお願いされたら……うん、キツい。別の意味で、僕の精神的に削られそうだなぁ。
「色々とありがとね、
「得意ではないですね。苦手とも言い切れませんが……」
「メノは結構上手だわ! ほぼ毎日絵日記書いてるからかしら?」
「ぐすっ、えへへ……スターたちが褒めてくれたお陰だよ。やる気も技術もうなぎ登り」
「あっ、それ分かる! わたしもレミリアさまに褒められると、よしやるぞーって気持ちになって、上手になるもん」
しかし、この調子だといつになったらお掃除再開できるんだろう。モリオンたちや丸眼鏡の妖精さん、美鈴以外にも何だ何だとメイド妖精さんたちが集まってきたし。
いやまあ、ごめん今掃除中だからまた後でねって感じで、僕がはっきり言えば済む話でしょってことなのは分かるけど、正直それは
勿論、このやり取りが続けば続く程お掃除を含め、紅魔館のメイドとしての仕事が進まなくなっちゃうけれど、そこは家事が得意な僕たち3人。ある程度は皆に黙認してもらってて、かつ遅れた分を時間内に取り返すだけの力はあるから、まあそこまで問題はないかな。
ただし、じゃあ働く度にこうなって大丈夫だよねって訳ではない。あくまでも、優しいレミリアたちの純粋な好意によるものなのを忘れずに、限度を弁えた上でならって感じ。
(うわっ、もう40分近く経ってた。幸せな時間は、やっぱり経つのは早いなぁ)
あと10分。10分経っても続くようならば、勇気を出して言わなきゃ。生まれてきたことをお祝いされているという幸せを、スルメのように噛みしめながら僕はそう決意を固めた。
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