「にひひ……スターもメノも、びっくりするだろうなぁ」
「まさか、私とサニーがメイドになってるとは思うまい……だね」
理想郷大探検明けの今日、快晴の午後2時過ぎ。私とルナは紅魔館の中に私服ではなく、メイド服を着てうろちょろしていた。家でお留守番をしていた時に、「そうだ! 2人を驚かしに行こう!」と、急に私が思いついたからだ。
勿論、本当に私とルナがメイド妖精になった訳じゃないから、メイド服は持っていない。当然、誰かから借りなきゃ駄目なんだけど、話を聞いてたロゼネルとスフェから服を貸してもらうことで解決している。
そして、メイド妖精じゃないのにメイド妖精の格好をして出歩くことに関しては、特に問題はない。
いわゆる事後報告ってやつだけど、ばったり出くわした咲夜に説明したら「へぇ、面白そうじゃないの」って言われて、1日メイド体験をしに来たってことに表向きはしてもらったから。
さて、ここまでお膳立てされたんだもの。計画通りにスターとメノをびっくりさせなきゃ、悪戯好きの日の光として面目が立たないわ。
「サニーちゃんもルナちゃんも、妖精のメイド姿が様になってる! このままお仕事してても違和感ないね!」
「確かに! あたしの格好、サニーの方がぴったり合ってそう!」
「そう? じゃあ、実際に掃除でもしてみる? モップとはたきを持ってることだし」
「といっても、さっきやったばっからしくて普通に綺麗ふぎゃっ! いたたたた……」
「あははっ! もう、ドジなんだから。ルナ、大丈夫?」
「まあ……うん。いつものことだし、私は大丈夫」
ただし、あくまでも表向きそういうことになっているというだけであり、せっかくだし気分を出そうよっていう、同行してくれてるスフェの提案で一応掃除道具とかは持ってるけど、実際は別にやったってやらなくたっていい。
それよりも、スターやメノが今どこで何をしているのかを把握して、どのタイミングで私とルナが姿を見せるかを考える方が重要なことだ。ここをおろそかにすれば、何のためにこんなことをしたのかが分からなくなるしね。
「スターとて、24時間365日常に周りの気配を意識し、記憶して過ごしてる訳じゃない。メノだって、それは同じなはずよ!」
「うん、それはそう。でなきゃ、2人に私やサニーのイタズラが成功するはずがないわ」
「2人にイタズラ?」
「そう。物陰からいきなり飛び出すとか、後ろから脇の下とか羽の根元とかをくすぐったりとかね」
「確かにベタなやつ! でも、そういうイタズラって意外と効くものだってあたしは思うなぁ」
しかし、正直これは難易度がとてつもなく高いイタズラだ。動くものの気配を探る能力を持っているスター、単純に目と耳が私たちよりも遥かにいいメノを相手取る訳だし。
特に、スターは私やルナの能力で姿をくらませ音を消したとしても、こっちが動いている限りはその能力を完全に封殺することは不可能。これでも、能力でかくれんぼが太刀打ちできなかった昔より、マシにはなってきてるんだけど。
一応、その辺も想定しつつ紅魔館に来る前に魔理沙や香霖に相談を持ちかけ、発する気配の大部分を抑えられる魔法をかけ、道具を使わせてもらったけど、過信は良くない。時間制限を含めた制約や弱点がいくつかあるって、2人は言ってたんだから。
(単純な視力と聴力の高さ、対策はしやすいけど……)
で、メノに関しては私とルナの能力さえちゃんと使えていれば、スターよりも警戒する必要はない。逆に言えば、能力を使わないか使えない時だとスター並みかそれ以上に厄介な相手となるのだけども。
「はっ、はっ、はぁっ……あ、スフェさま~!」
「あわわっ!? ふ、むぎゅう……」
ずっと能力を使い続けるのは疲れるし、何よりメノに無理は絶対にするなと口を酸っぱくして言ってる手前、一旦休憩をかねて解除しなきゃと思ってしたその刹那のタイミング。魔法のバスケットを持って走っていた絵描き帽のメイド妖精が、スフェに気づいたと思った瞬間に飛びついていた。
まるで、メノが全力で急加速と急減速をしたかのような素早さで、スフェが対応できずに彼女と床とのサンドイッチ状態になっちゃってる。
でもまあ、どっしり準備をして構えてたならまだしも、完全な不意打ちで対処なんかレミリアとかでもなければできる訳がないから仕方ない。
というか、魔法のバスケットの中身は大丈夫なのだろうか。まあ、ちゃんと蓋を閉められてれば、余程大量によそられてる汁物とかじゃない限りは心配ないけどね。
「わあっ、サニーとルナチャ! メイドになったの? わーい!」
「わっと……急に飛びついてきたら危ないわ! レミリアとかじゃあるまいし!」
「ひと昔前の、凄かった頃のモリオンを彷彿とさせる立ち振る舞いだね。あの子の場合は、頻度も質も内容も全部桁違いだったけど」
なんて思っていると、今度はメイド姿の私とルナに気づいたこのメイド妖精が、ほぼ同じテンションで飛びついてきた。備えていたから何とか床とのサンドイッチにならずに済んだけど、相変わらず勢いが凄いなぁ。
けれど、このメイド妖精の気持ちは分かる。痛い程よく分かるって、今この場で断言できる。
私だって、大好きで仲良し家族なスターとかルナ、メノにこう無性にぎゅーってしたくなる時があるもの。魔理沙やチルノ一行とかの、仲良しな友達にもね。
「後ね、期待してるところ悪いけど、私もルナもメイドになった訳じゃないわ!」
「そうそう。スターとメノをびっくりさせるための、イタズラの一環。今、どこに居るのかなって探してる」
「なーんだ。あっ、ちなみにその2人なら妖夢と一緒に、レミリアさまのお部屋でおやつタイム中なんだって。今日はわたしがおやつ担当で、今から運びにいくの! 一緒に行く?」
そうしたら、絵描き帽の妖精が目的の情報を持っていたらしく、2人がどこに居るのか探さなきゃいけない問題が速攻で解決した。
しかも、自然な形でレミリアの部屋の中に入れるおまけ付きみたいだし、とてもラッキーだと私は心の中で小さくガッツポーズを取る。
「勿論行くわ! ルナ、スフェ、ロゼ! いざ、レミリアの部屋にレッツゴーよ!」
「「「おー!」」」
仕事をして疲れている最中、おやつタイム中にメイド妖精の内の誰かか咲夜がおやつを持ってきてくれるのかなって期待していたら、そのメイド妖精は私とルナでしたなんてことになれば、多分望み通りの反応を返してくれるはず。
ただし、何も考えず普通にコンコンと扉をノックして入るだけでは、スターはともかくメノの方は驚きよりも嬉しさの方が上回り、びっくりしてくれない可能性がそれなりにある。
「楽しそうだね、サニー」
「ええ! スターとメノの驚く姿が、目に浮かぶようだわ!」
しかし、そこは私とて想定済み。ある程度は運頼みになっちゃうけれど、部屋の中での会話を盗み聞きしてここぞというタイミングを見計らい、豪快に突入することでその可能性を消し去る。
扉が閉まっていようが閉まっていまいが、こっちには音のスペシャリストが居る。何年か前までと違って音を消す力もより洗練かつ強力なものに、それ以外の音の増幅や拾った音の録音と再生などもできるようになっているのだ。
ちなみに、ルナがその力を使ってる時と使ってない時を見分けるのは、とても簡単。口数が少ない時に片手、ないし両手をその方向にかざしているか否かを見ればいい。
ただし、力を使ってるか使ってないかは簡単に見分けられても、その中で何の力を使ってるかに関しては、見分けるのは結構難しい。ルナのことをよく知らないような人妖であれば、心でも読まない限りは困難を極めるはず。
逆に言えば、私たち家族や魔理沙、霊夢にチルノ一行のようなルナと親しい面々ならば、その時の細やかな仕草とかからすぐにバレちゃうってことなんだけどね。
『サニー、スター、ルナのこと? 世界で1番大好きだよ! え、具体的にその辺を説明してって? うん、分かった!』
「「「!?」」」
『あっ、でもスター? そんなにじろじろ見られながらだと、ちょっと照れくさいよぉ……』
『だって、私のことでもあるんだもの。気になるでしょー? ほらほら!』
『むぅ。まあ、そうだけどさ……もうっ』
で、そろりそろりとレミリアの部屋の前に辿り着いて、ルナが早速扉に手をかざしたんだけど、まさかまさかの話題で盛り上がってたお陰でびっくりしちゃった。レミリアが、フランの自慢でもしたのがきっかけなんだろうか。
絵描き帽のメイド妖精とスフェ、ロゼネルもこの手の話題には興味があるようで、聞こえるはずがないのにメノに向かって早く早くとリクエストする始末である。そもそも、聞こえちゃったらイタズラが台無しなんだけど。
「もうっ……メノったら! 照れ過ぎて私、湯立っちゃうわ!」
「えへっ。嬉しそうだね、サニー。私もだよ」
「メノウちゃんにとっては、三妖精たちはまさに
「分かる、分かるよしろちゃん……! 家族が大好きで大好きで仕方ないっていう、命を投げ出せるくらいに愛おしいってその気持ち……!」
しかしまあ、部屋の前で当の本人たちを含めた誰かに聞き耳を立てられているだなんて、夢にも思っていないからだろう。
レミリアに尋ねられ、スターにぐいぐい促されたメノは主に私やルナを自身がどれだけ好いているか、どの点を好いているかについて、これでもかと駆け抜けるかの如く語り始めた。
なお、最初はレミリアに言われた通り、ちゃんと細かく具体的に語ろうと頑張っていたメノ。ただ、嬉しいことに私たち家族の全部を好いてというか、愛してくれているからなのか、途中から大幅に語彙力が下がってた。
終いには、話を始めたレミリアや妖夢を置いてきぼりにして、スターに全力で甘え始めたのである。
(不完全だけど、強化形態になってそうだなぁ、メノ。いや、絶対になってるわ!)
果たして、メノの話の中で何回『大好き』『愛してる』『家族になれて幸せ』という、純粋過ぎる好意を表す言葉が登場したのだろうか。この調子ならきっと、聞いてる私たちどころか言ってる本人ですら、覚えていないレベルだってことは確かだろうなぁ。
「サニー、ルナチャ! びっくりさせるなら今じゃない? ほら、わたしが持ってきたやつを持ってって!」
とまあ、メノたちの話を盗み聞きして嬉しがってる場合じゃない。絵描き帽の妖精も言うように、私とルナの目的はスターやメノを驚かせることなんだもの。
ただし、あくまでも1日体験メイド妖精として、偶々レミリアの部屋におやつを届けにきたって体で居なければならない。ああでも、今までの会話を全部聞かれてたって言えば、それはそれでびっくりさせることもできるかしら。
「じゃじゃーん! おやつを持ってきたわよー!」
「作ったのは別の妖精で、私とサニーは持ってきただけだけど……はい。もし良ければ、私特製のコーヒーも淹れてあげる」
なんて考えてはいたんだけど、次から次へと矢継ぎ早に出てくるメノの褒め言葉にある意味耐えきれなくなった私は、いつもの家でのテンションのままに部屋に突撃する。
結果、咲夜経由で色々と知ってたであろうレミリアや、妖夢は流石と言うべきか比較的落ち着きを保って、私とルナが持ってきたおやつを受け取ってた。まあ、この2人に関しては対象じゃないからいいわ。
(ふふっ……)
で、対象のスターとメノに関してなんだけど、こっちは私の想定通りの面白い反応を見せてくれた。
こっちを見るなり「えっ、何でメイド!? いつから!?」と、目を見開いて驚くスター。
1番熱が入ってたタイミングで入ったからか、私を見て数秒フリーズしてからわたわたし始め、果てに掠れた甲高い声で「ひゃあぁぁぁ」って叫び出すメノ。
普段から人前でもここまで恥ずかしがることなんてなく、私とかルナとかスターのことを大好き、ないし愛してると公言してるくらいなのにこうなるとは、心構えができているか否かの違いってことかしら。
「ドッキリ大成功! ちなみに、メノのお話は最初から全部聞いたの! えへへ、嬉しかったわ! ぎゅーっ!」
「ついでに、私もぎゅーってするね。メノ」
「びゃっ!? あわわわわ……」
なお、私もルナも今回のドッキリ作戦には大満足だ。機会があったら、またやろう。
最後の私とルナからのおまけで、もはや顔が湯だってるくらいに真っ赤になったメノを見ながら、私は次なる機会に向けて計画を練り始めるのであった。
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