幸せ四妖精   作:松雨

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髪結いあうん

 刻一刻と近づいてくる、僕のお誕生日会の日。僕のために皆が同じ場所に集まって、お祝いの言葉をかけてくれる至高の1日になることが、もう既に確定している。

 

 まだ本番じゃないどころか、そもそも義務化なんて微塵もしていないのに、色々と贈り物をしてもらったりもしてるせいか、ここ最近はもう毎日がとっても幸せで仕方がない。

 

 無論、それらの贈り物は大切に自室に飾るか、普段使いできるものとかは順番に使ったりしている。

 正直、うっかりで失くしたり壊したりするのが怖いけども、だからと言って使わないのは逆に失礼極まりないもんね。わざとじゃない限りは。

 

 これも全て、これをやろうと思いついてくれた魔理沙のお陰である。言わずもがな、お祝いしてくれる他の皆に対しても底無しの感謝と恩返しをしてはいるけど、そういう意味では魔理沙が最も僕が感謝し恩を返すべき相手だ。

 

「よう! 霊夢、あうん。相変わらずのんびりしてんなぁ、お前ら」

「えへへ、僕も居るよ。その、お邪魔だったかな?」

 

 だけど、そう思ってても魔理沙は僕に優しく、ぽかぽか幸せな気分で居させてくれるお陰で、恩を返せたと思ったらいつの間にか返すべき恩が増えてる。

 

 今日だって、自分の家に居た魔理沙に声をかけて、サニーたちが3人で外出するから僕が真夜中まで1人きりになるのって話をしたら、快く「なら、今日は私がメノの面倒を見てやるぜ!」と、一緒に博麗神社へ遊びに連れてってくれたんだもの。

 

 自分だって1人でのんびりしたかったかもしれないし、もしくは魔法の研究とか他の友達と遊んだりしたかったかもしれないのに、僕の方を優先してくれた。

 

 だから、僕が今日の魔理沙みたいな立場になったら、どんな頼み事でもどんと来いって受けなきゃいけない。絶対に。

 

「メノが邪魔? そんな訳ないじゃない。ほら、おいで」

「わーい、霊夢ー! ぎゅーっ!」

「おっと……相変わらず、勢いが強いわね。ところで、いつもの3人は居ないの?」

「私も気になります、メノウちゃん!」

「サニーたち? えっとね、今日は3人で僕のためのお出かけしてくれてるの。魔理沙はね、その間の面倒を見てくれてるんだよ」

「メノの誕生日プレゼントのためだってさ。本人を駆り出すってのも変な感じだし、当然の流れだぜ」

 

 それで、こういう時は大体サニーかスター、ルナと一緒な僕がその内の誰とも一緒じゃなければ、霊夢もあうんも不思議そうに聞いてくるから、その辺の事情も含めて魔理沙と一緒に説明する。

 

(えへへぇ……あぁ、駄目だ。顔がどうしてもにやけちゃう……)

 

 単純に3人で仲良く遊びに行っているのではなく、僕のために大切な時間を使って妖精軍団の皆のところへ行き、プレゼントの用意をしてくれてる。

 サニー曰く、僕がこの間紅魔館のメイド妖精さん171人からもらった、あの1冊の本と大まかな内容としては殆んど同じものになるってことだったかな。

 

 しかし、明確に違うのはその中のお祝いメッセージや似顔絵が、サニーたちや妖精軍団の皆が描いたものになるということ。僕の生きる意味となった皆からの、純度の高い想いが込められるであろうそれらに。

 

 皆なら絶対に喜んで描いてくれるだろうし、場合によっては今日の夜まで魔理沙と遊んで帰った後に渡せるかもって言われてるお陰で、もうずっとドキドキしっぱなし。今なら正直、1人でお留守番程度ならできちゃいそうだし、人里にお使い錯覚するくらいだ。

 

「そう。愛されててよかったわね、メノ」

「えへへ、うん! 本当にもう、皆には感謝しても永遠にしきれない!」

「もらう前からこんなになるんだから、実際にもらって中身を見たら気絶しちゃいそうですよね! メノウちゃん」

「ふふっ、あうんの言う通りかもね。もしかしたら、明日のお仕事をお休みする流れになりそう! ただ、レミリアに呆れられちゃうかも?」

「メノに限ってそれはないだろ。心の問題もあるしな」

 

 当たり前のことだけど、僕へのお祝いメッセージやプレゼントを贈ることや、お誕生日会への参加は絶対ではない。

 その日に他にやりたいことがあるから、当日に外を出歩く気分じゃなくなったから、物を用意するのが面倒だから、そういう感じでいて何の問題もないのだ。

 

(幸せな妖精だよ、僕は)

 

 確かに、お誕生日会の方に関しては仲良くしている大好きな友達が、やっぱり参加しないとかできなくなったなんてことになったら、一瞬しょんぼりする自信がある。一緒にわいわい楽しみたかったなと、心の中で思いながら。

 

 だが、改めて言うまでもないけれど、どのような理由であれ断ったことによって僕()その友達への態度を変えることはないし、ましてや嫌いになるなど断じてあり得ない。

 

 何故なら、1番重要なのはその友達の意思であって、僕の意思じゃないと思っているから。サニーたちも含めた皆へ、お誕生日会の話題が出る度に耳にタコができるレベルで言ってること。

 

 そもそも、代わり映えのあんまりない、されど温かくて幸せで平穏な毎日という幾千もの財宝にも勝る贈り物を、僕は既にもらっている立場。等価交換で恩を返さなきゃとは常々思えど、これ以上欲しいなんて思ったことは1度もないもの。

 

 あっ、でも時間のある時に頭をよしよししてとか、ぎゅーってして欲しいくらいは思っちゃうかな。無論、無理強いするつもりはないけどね。

 

「メノウちゃん、前より結構髪の毛伸びましたよね。びっくりする程の癖っ毛だから、お手入れ大変そう」

 

 霊夢にぎゅーっとしてから、自分の膝を叩いて「メノウちゃん、こっちにもおいで!」と言ってくれたあうんにぎゅーっとして、なでなでしてもらいながら幸せを噛み締めていた最中、ふとこんなことを言われた。

 

 妖精として幻想郷に生まれて、もうすぐ1年は経つ。普通に髪の毛が伸びるには十分な時間な上に僕は女の子の中でも早い方らしくて、サニーには「メノって、髪の毛伸びるの早いわね! もうショートボブじゃないわ!」って、お手入れを手伝ってもらってる時に言われている。

 

「うん、とっても。でもね、この癖っ毛は僕も好きだし、今のところ切るつもりもないんだ。えへへ」

「……もしかして、好きになったきっかけはサニーちゃんたち?」

「そうだよ! サニーもスターも、そしてルナも、メノらしい可愛い髪で好きって言ってくれたの」

「なるほど! そんな風に言われたら、確かに好きにもなりますね!」

 

 実際のところ、あうんの予想通り僕の髪の毛のお手入れは、愛すべき大切な家族や友達の中でも随一の癖っ毛なせいで、比較的慣れた今でも1人でやるなら十分に大変。

 手伝ってもらう頻度も増えてるから、最近は生まれた時みたいな短さまでバッサリ切ろうかなって考えが、時折浮かんだりもした。

 

 でも、おととい辺りにその考えを試しにサニーたちに話してみたら、ルナが「メノと私でお揃いの髪型になりたいの」って、明確に切らないで欲しいという意思表示をしてきたので、それはやめた。

 

 スターだって「あと2年……いや、1年半で私くらいかしらー」とウキウキに、サニーもそんな2人の流れに乗って楽しそうにお話をしている中で、果たして髪の毛を切るなんて意思を維持できるだろうか。いや、できる訳がない。

 

 それに、寝癖を直すのも含めた髪の毛のお手入れのお手伝いは、好きでやってることだから気にしないでと、3人からはっきり言われている。

 

 だからこそ、この髪の毛はもっと大切にしなきゃって思いが、切るにしても日常生活に支障をきたす領域に入ってからにしなきゃって思いが、一気に強くなったのだ。

 

「はい、メノウちゃん。勝手にやっちゃった上に、ちょっと雑かもしれないですけど……」

 

 なんて思いながら居た時、僕の癖っ毛が気になったのか、ずっとあれこれ弄っていたあうんから手頃なサイズの手鏡を渡された。つまり、そういうことなのかな。

 

「え? うん……わぁ、凄いっ! 可愛くなってる!」

「気に入ってくれてよかった! ちなみに、この髪型って維持管理が結構大変なので……ルナちゃんから聞いてたりしませんか?」

「やっぱりそうなんだ。うん、聞いてるというかほぼ毎日見たりしてるから知ってる」

「まあ、そりゃあそうですよね。当たり前のこと聞いちゃいました!」

 

 で、渡された手鏡で僕の頭の方を見てみたらびっくり、髪型がルナのくるくるヘアーになってた。何でルナの髪型とも考えたけど、今日の僕の格好がルナの格好だからだろう。

 

 勿論、生まれた当初より髪の毛が伸びたとはいえ、それでもルナよりはまだ短く、くるくるの数も1つ少なくて大きさ自体も小さかった。だけど、この髪型がくるくるヘアーであることに間違いはない。

 

(ルナ。ルナのお願い、あうんが先に叶えてくれたよ)

 

 にしても、あうんは誰かの髪の毛を結うのも上手なんだなぁ。謙遜してちょっと雑かもなんて言ってたけど、鏡に映る僕の髪からはそういう雰囲気を感じない。

 

 その道のプロか、それと同等の技術や目の持ち主でもない限りは、雑だなんて思わないだろうけど。魔理沙や霊夢だって、いい腕をしてるって褒めてくれてたしね。

 

「という訳で、霊夢さんの髪型も弄らせてください! 何だか楽しくなってきちゃったので!」

「また? 流石に2度3度も弄られるのはちょっと……」

「じゃあ、魔理沙さんはどうですか?」

「私か? うーん……しょうがないな。ほら」

「わぁっ、ありがとうございます! えへへ」

 

 僕の反応が余程嬉しかったのか、テンションの高くなったあうんは膝に座ってた僕を霊夢に渡すと、今度は魔理沙の髪の毛を弄り始めた。

 

 僕とは違い、スターとほぼ同じくらいの長髪な魔理沙であれば、できる髪型も多種多様。ルナのくるくるヘアーだって、当の本人よりもやりやすいだろうし、三つ編みとかサイドテールとかもそう。

 

 どんな髪型でも似合いそうだし、くるくるヘアー魔理沙とか正直見てみたい気もするけど、まあ今はお願いしてみるのはやめよう。せっかく許可をもらって、やりたいように楽しんでるあうんに水を差す真似になっちゃうから。

 

「メノ。もし良ければなんだけど、時々、あうんに髪結いをさせてやって」

「うん、いいよ。そんなことであうんに喜んでもらえるなら、いくらでも!」

「ありがとう。どこで誰に影響されたのかは知らないけど、最近のあの子のマイブームでね」

「そうなんだ。ふと流れで友達とかにやってみて、喜んでもらえたのが嬉しくて、こう高ぶったとかかな?」

「だとしたら、一体誰かしらね。交遊関係広いから、想定するのも難しいわ」

 

 しかしまあ、あうんは本当に楽しそうにしてるなぁ。ともなれば、恩返しの手段の1つとして髪結いをしてもらうことを加えるのは、考えるまでもない。

 

 勿論、当の本人から何がいいって聞かれない限りは、僕の方からリクエストすることもしない。切ろうとしたり、よっぽど恥ずかしい髪型にしようとしてるのではないなら、途中で口出しもしないつもりだ。

 

 まあ、皆と同じく優しいあうんが了承も得ずに後者に挙げたことをするはずがないので、僕の想定は完全なる妄想の類いであり、杞憂に終わることが既に確定しているんだけど。

 

(ルナ。僕だけじゃなくて、魔理沙ともお揃いになったよ)

 

 僕の心内を読んだのか、はたまた僕に対してやったことでそういう気分になったからなのか、鼻歌を歌いながら魔理沙の髪の毛をくるくる巻き始めたあうんを、霊夢と一緒に温かい目をして見守るのであった。




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