幸せ四妖精   作:松雨

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今話はルナチャイルド視点です。


ドキドキ月妖精

「疲れたぁ……ちょっと寝かせて」

「駄目よ、ルナ! 今日だけは、全力で我慢して!」

「私たちも我慢してるんだからねー。とはいえ、もう少しお手伝いを増やしてあげればよかったかしら」

 

 大半の人間や妖精が寝ているであろう真夜中、三日月がはっきりと見える快晴。本来であれば月見日和な中、私は少しでも気を抜いたらすぐに夢の世界に旅立てちゃうくらい疲れてて眠たいのに、サニーとスターが眠ることを許さない。

 

 でも、2人が私にこうするだけの理由はちゃんとある。魔理沙に連れられて帰ってくるメノに、こうなるまでに必死に頑張って用意したお祝いメッセージや似顔絵などを纏めた1冊の本を、私たち3人で手渡しする約束を守るためっていうね。

 

「ううん、大丈夫。スターもサニーも、十分手伝ってくれたと思ってる」

「ならよかったわー。ね、サニー」

「ええ! ルナ1人に押し付けるなんて、とんでもないことだわ!」

 

 アリスの家で、縫い物の練習を頑張ってるチルノと大ちゃんのところに行った後へ、紅魔館で美鈴と花の水やりをしていたリリー、ヘカーティアと手を繋いで人里散歩をしていたピース、秘密基地でぐうたらしていたラルバの順で巡った。

 

(メノ、喜んでくれるかな。思い出になってくれたら嬉しいな)

 

 勿論、皆がどこで何をしているかを常に把握している訳がないから、あちこち歩いたり飛び回ったりして探すという手間が合間合間に挟まれてる。

 

 お祝いメッセージや似顔絵を()くのに使う時間は、当たり前だけど人というか妖精それぞれだし、描いてもらって受け取る度に汚れなどからの保護処理もしてれば、そりゃ時間もかかるし疲れる訳だ。

 

 でも、皆の想いが込められた1冊の本を開き見て喜ぶメノの顔を見ることができるならば、一生忘れられない思い出の1つになってくれるならば、この程度は安いもの。

 

 たった1年という、私たちの生きた年数からしてみれば短い付き合いながら、テルースメノウって僕っ娘妖精から私がもらったものは、とても多かったから。

 

 とはいえ、眠いものは眠い。普段は少しずつ口にして風味と雰囲気を楽しむんだけど、コーヒーでもがぶ飲みして眠気をごまかそうかな。

 

「よっ、お前ら。めちゃくちゃ眠そうだな」

「2人とも、お帰りなさい……あ、髪の毛がルナになってるわ!」

「ふふっ、イメチェンかしらー?」

 

 一旦私の部屋に行って、沢山のコーヒーを抱えてリビングに戻ってきたと同時、メノと魔理沙が家に帰って来た。2人とも、髪型を私と同じくるくるヘアーにして。

 

 完全なる予想外、サニーやスターがびっくりして頭の方に視線が集中しているけど、そりゃそうだ。理由も気になる。

 

「えへへ、ルナとお揃い。どう? 似合ってる? 可愛いかな……?」

 

 いや、理由なんかやっぱりどうでもいいや。真っ先に私のところにやってきては、嬉しそうにくるくるヘアーの自分を見せつけてくるメノが、とても可愛いから。

 それに、いつかお揃いの髪型にしたいっていう私のささやかな夢が今、成就したんだもの。

 

 しかしまあ、一体誰がメノと魔理沙をくるくるヘアーにしたのだろうか。私に勝るとも劣らない上手さだ。

 

「うん、とっても可愛い。似合ってる。気の利いたことを言ってあげたいけど、お揃いになってくれたことが嬉しくて」

「にへへぇ。今日は遅いから無理だけど、明日でも明後日でもこの髪型と格好でお出かけ行こうね」

「え? その日って、メイドの仕事の日じゃ……?」

「仕事終わりにね。何なら、ルナが望むなら今すぐにでもお休み取ってくるよ。レミリアに聞いたんだけど、僕とスターにもそういう権利が何日間かあるんだって。しかも、休んだのにお給料を出してくれるなんて優しいよね」

「へぇ……いや、使うならお誕生日会の前か次の日にしよう、メノ。そっちの方がいいわ」

「あっ、確かに! 分かった!」

 

 なお、魔理沙と遊んだのが相当楽しかったのか、私に髪型を喜んでもらえたのがこの上なく嬉しかったのか、はたまた両方か。

 まるで言葉の弾幕かって言わんばかりに喋り続け、サニーやスターの入る隙を与えないというか、私がこの本を渡すための話を切り出す隙すらない。

 

 メインイベントの前にこれ程までニコニコならば、私の懐にあるこの1冊の本をあげた時のメノは、果たしてどうなるのだろう。何となく想像はつくけれど、その規模が私の想像を遥かに超えるものになりそうだ。

 

 いや、厳密にはこれもメインイベントではない。真のメインイベントは、皆がここに集まってわいわい楽しむメノのお誕生日会なんだもの。

 

 確か、残り2週間。まだまだ先の話と言うべきか、もうそれだけしか本番までないと言うべきか……いや、2週間はたったそれだけの部類に入るかな。

 

(メノ、ごめんね)

 

 さてと、いい加減に話を切り出さなきゃ。びっくりさせちゃうことにはなるけれど、いつかやらなきゃいけないことだから。

 

「メノ!」

「うひゃあ!? る、ルナ……?」

「できたよ、お誕生日プレゼント」

「あっ……」

 

 という訳で、今までの流れをぶったぎる形で声をあげ、懐にしまってた合計60ページの『お祝い本』を少し強引な感じでメノに渡すと、目をかっ開いて固まった。

 

 しかし、本の表紙には下手っぴながら私が描いた、私たち3人や妖精軍団の皆のデフォルメされた絵と共に、お誕生日おめでとうって文言を入れていたのもあるだろう。数秒もしない内に、本を見つめる目が心底愛おしいものを見る目になった。

 

(メノったら、本当にもう……)

 

 開いてみてと促せば、そこからメノが見せる反応はまさしく私やサニー、スターの想像通り。瞳のうるうるをあっという間に通り越して、幸福感由来での涙を流し始めた。

 

 勿論、読んでる本のページにも垂れちゃってるんだけど、こんなこともあろうかと保護処理をしていたお陰で、垂れた涙は染みることなく完全に弾かれている。だから、心配しないで見てていいよ。

 

「チルノ、大ちゃん、リリー、ピース、ラルバ……ひぐっ……びぇぇぇぇ……!!!」

「感極まったどころじゃないみたいよ! あの5人も、ここまで喜ばれたって知れば嬉しい気持ちになりそう!」

「まあ、あんなこと書かれれば当然よー。それにしても、私たちのところだけ見事にスルーされてるわね」

「好きな食べ物は最後に取っておく的な感じじゃないの? メノ、私たちのこと愛する家族だって毎日言ってるしさ」

「だろうな。私としても、その節を強く推すぜ」

「ふふっ。本当、メノったら……私もよ! 一生家族で居ましょうね!」

 

 1ページずつゆっくりとめくり、最後の私とサニーとスターのページの前まで目を通して、また再び最初から泣きながら目を通していくって行動を繰り返す。

 

 その度に、幸せ溢れるメノの泣き声は大きくなっていき、最終的にはサニーやチルノ、リリーといった賑やか筆頭格な妖精たちが叫びはしゃいでる時に匹敵する大きさにまでなっていく。

 

 ただし、音に関してはいくら大きかろうが問題にはならない。自分で言うのもなんだけど、能力で音をうるさくない程度に小さくすることなんて、私にとってはお茶の子さいさいなんだから。

 

(ふふっ、遂に私たちのページ……ん?)

 

 で、5回そんな流れを繰り返してから、さあ行くぞと言わんばかりにメノは私たちのページに目を通し始めたんだけど、その瞬間に涙が止まった。さっきまでの喧騒も、まるで幻聴だったかの如くピタリと止む。

 

 ほんの一瞬、何か無意識にまずいことでも書いてしまった結果かと思ったものの、羽の桜色の輝きの急速な増大って現象を見れば、それは違うってことが分かるだろう。

 

 というか、髪の毛によりはっきりとした黄土色が混じり始め、暖かな黄白色の妖気がキラキラを伴って、全身からゆらゆらと炎のように立ち昇り始めている。

 

 不完全な強化形態の時と似た、それでいて当時よりもかなり強力な生命と大地の力が放たれているところから、これはまさしく完全なる強化形態への移行中。普段でもチルノ並みなメノがこうなれば、下級妖怪程度なら完全に圧倒できるのは間違いない。

 

「うおっ、眩し……ははっ、こいつはすげえや」

「強化形態のチルノ並みね! それはそうと、何だか凄い元気が出てきたわ!」

「今世は理想郷生まれだし、高揚効果でもあるのかも。もしくは、体力とかの回復効果でもあるのかな? 魔理沙はどう?」

「私か? そう言えば、遊び疲れがふっ飛んだような気がするな」

「じゃあ、確定かしらー」

 

 そして、サニーの閃光弾かってくらい眩い光が辺りを一瞬照らし、数秒後にそれが止んで視界がはっきりとしてきた刹那、本を閉じて愛おしそうにそれをぎゅっと抱いていたメノの容姿は、一部要素が明確に変化していた。

 

 普段は雪のように真っ白で綺麗な髪の毛は、その殆んどが大地を連想させる黄土色へ。髪型がくるくるヘアー故に、殊更私にそっくりに見えてきた。

 

 理想郷の水晶のような角ばった羽も、形や大きさこそ変化せずとも数がチルノと同じ3対になってる。

 

 瞳の色や背丈は普段と全く同じで、声は若干いつもより高いような気がするけど、それに関してはまあこれだけ高ぶればこうなるよねって感じで、髪の毛や羽のような明確な変化と言えるかは微妙なところである。

 

「ずーっと、ずぅーっと、僕の宝物だよ! ありがとね!」

「……えへへ。一生の思い出に、なってくれたかな」

「うん! 一生忘れない、忘れることなんてできないよ!」

 

 すると、陽だまりのようなサニーの笑顔にも勝るとも劣らない、まさしく暖かな大地の光という二つ名を体現したかのような笑顔を、メノは私の方を向いて見せた。ウズウズして仕方ないのか、その後すぐにぎゅーっとしてきたけど。

 

(ふぁぁぁ……もう、いいかな?)

 

 それにしても、メノの身体から出てる黄白色の妖気って凄く暖かいし、森とかでよく鼻を伝う自然のいい香りがするなぁ。お日さまの照る下で干したお布団、理想郷や幻想郷の原っぱのそよ風に乗る匂い、こういうのと同類なやつ。

 

 このままメノの暖かさに身を預けて、呼吸をして匂いを嗅ぎ続けていれば、すぐにでも眠りにつくことができるだろう。現に、プレゼントの本を渡すまで我慢できていた眠気が今、この瞬間に抗い難い敵となって再び私に襲いかかってきたんだもの。

 

 もうちょっとだけ、それこそメノと魔理沙のくるくるヘアーを結んだ相手は誰なのかとか、色々と話を聞きたかったんだけど、まあ無理そうだ。

 

「ふふ、そうだよね。僕のために頑張って、こんな時間まで起きててくれたんだもんね。ルナも、サニーとスターも」

「そうね! でも、1番頑張ったのはルナだから、感謝を伝えるなら先にしてあげて!」

「サニーの言う通りよー」

「そっか……えへへ、ルナ。明日でも明後日でも、いつでも言って。お揃いの髪型と格好で、お出かけ行こうって」

 

 で、メノはそんな私の様子に気づいたらしい。よいしょっと私を抱っこをしながらソファーに座って私に膝枕をさせてくれただけでなく、的確に喜べる言葉をかけてくれたのである。

 

(……あぅぅ)

 

 しかも、眠気を更に誘発してくるような、優しくて静かな歌声の子守唄を歌ってくれた。私だけでなく、サニーもスターも好きなメノの考えた子守唄を。

 

 こうなれば、ただでさえ眠気が強くなってきた私にはもう堪らない。まぶたが私の意思に逆らい、強制的に夢の世界へと誘ってくるくるくらいには。

 

「ルナ、お休みなさい。これから何があったって、僕はルナの……皆の元を離れたりなんか、絶対にしないから」

 

 子守唄を本格的に聞き始めてから、1分にも満たないとっても短い時間。頬に温かな掌を乗せたメノの、静かながら確固たる意志が秘められた言葉を耳にしたのを最後に、私の意識は緩やかに沈んでいくのであった。




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