幸せ四妖精   作:松雨

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滾る幸せ(後編)

 レミリアの登場によって、強化形態に興味津々で集まってきてたメイド妖精さんたちも殆んど解散、手早く着替えて仕事を始めることができた僕とスター。

 

 てっきり、今日も一緒にやってくれるのかなと思ってたけれど、スターはスターで事前に料理を担当して欲しいって咲夜にお願いされてたらしく、ちょっぴり残念ながらも途中で別れ、僕は地下の大図書館へと歩みを進めていた。

 

 おとといの廊下の掃除中、パチュリーとこあの2人から明後日の担当のメイド妖精さんの休みが多いって理由で、本の整理や図書館内の掃除をお願いされていたからである。

 

 とっても広い地下の大図書館、普段なら僕1人ができることなんてたかが知れているけども、今日の僕は一味違う。体力も気力も()力も強化され、勝手に回復して溢れる程の休憩という概念がどこかに消え去ったかと、頭が錯覚するレベル。

 

 実際には物理的に無理でも、例え1人で全部こなせと指示されてもできる気がして堪らない。

 

「へぇ。メノウって、完全な強化形態だと羽が1対増えるのね。というか、髪色が変わるだけで随分印象が変わったわ」

「しろちゃんって愛称がつくくらいに、普段は真っ白ですものね。パチュリー様」

「えへへ……こあ。やっぱり、こあにとっても僕のイメージは白髪の時の?」

「そうだよ~。昔はともかく、今は雪のように純粋な白髪と聞いて真っ先に思い付くのはメノウちゃん。私やパチュリー様だけじゃなくて、他の皆も同じかな」

「あんまり居ないからねぇ。妖精に限れば今のところメノウだけ、唯一無二の特徴って奴よ」

 

 ただし、パチュリーやこあがそんな指示を僕に出す訳がないし、もっと言えばレミリアがそれを許すはずがない。現に今、本棚や床のほこり取りとかを声の届く範囲で、着いてきてたレミリアも含めて手伝ってくれてるんだもの。

 

 それに、図書館のメイド妖精さんだってお休みで少ないとはいえ、全く居なくなってはいない。はたきや雑巾、モップやほうきに果ては魔法まで使い、静かながら楽しそうに掃除をしてる。

 

 普段と比べた場合は確かに忙しくはあるものの、想像よりは忙しいって感じじゃなさそうだ。

 

「しかしまあ、最初からフルスロットルでよく疲れないわねぇ」

「えへっ、勝手に力が湧き出てくるからだよ。疲れる早さよりも、回復する早さの方が上回ってるの」

「ええ。だけど、集中力とかは別枠みたいね。だから、休憩時間自体は少し長めに設けるわよ」

「うん。ありがと、レミリア」

 

 一方で、強化形態は記憶力とか知能をあげてはくれないし、レミリアが指摘するように集中力に関しても、例外を除けばほぼ同じ。

 

 だから、時折話しかけてくるレミリアたちに、ふわふわ寄ってきてちょっかい出してくるメイド妖精さんがいい息抜き……いや、今の僕には食事や睡眠にも匹敵するって言った方が正しいかな。

 

 本当、僕のためにこうやって時間を使ってくれる皆には感謝でしかない。ありがとう。

 

(ふんふふ~ん……あっ)

 

 なんて思ってたら、早速集中力が途切れちゃったのかな。大きな円形の本棚の上に腰かけて、仲良く何かの本を読み想いを馳せながら歌う、スフェやノーゼくらい僕に特段良くしてくれてる、2人の仲良し妖精さんの後ろ姿が見えた。

 

 耳を澄ませば、僕に馴染みのある日本語じゃないのは分かるとして、前世の学校である程度勉強した英語でもない。僕が知らない、どこか別の国の言葉なんだろう。

 

 にしても、2人の声が優しくて穏やかなのもあるにせよ、聞いているとこう暖かい何かに包まれながら、サニーたちが居なくなってしまうかのような焦燥感を覚えるのは何でかな。

 

「ねえ、何歌ってるの――」

「うひゃあっ、あばばばば……ぐえ、いたっ!」

「みーちゃん!? だいじょぶ、しろちゃん……? だよ!」

 

 で、そのまま後ろから声をかけたのが悪かった。びっくりして慌てた深緑髪の妖精さんが足を滑らせ転げ落ち、目の前の本棚にまあまあな勢いで激突、衝撃で落ちてきた辞書みたいな厚さの本に頭をぶつけてしまう。

 

 背丈や瞳の色こそ変化せずとも、髪色や髪型に羽の枚数が変わっていたのも相まって、余計に衝撃的だっただろう。比較的冷静な紫髪の妖精さんが、目の前の僕を僕だという事実を一瞬疑う程に変わっていたんだもの。

 

 図らずも、こっそり近づいて大きな声とかを出して驚かす、定番のイタズラみたいになっちゃったなぁ。思いきり当たってて更に痛そうだったし、謝らなきゃ。

 

「あっ、ごめん。びっくりさせちゃった……」

「いーのいーの! こんなのようせいならだれでもやるんだから、きにしないきにしない! ねっ、みーちゃん!」

「うん! そんなことより、わたしとむーちゃんのお歌が気になったんだよね? 大切なあなたになら教えてあげる!」

 

 けれど、2人は僕が思う程気にしていなかったようだ。謝罪を聞くや否や僕の服の裾を引っ張り間に座らせると、さっきまで歌っていた『妖精想魂歌』という歌について、辞書みたいな分厚い本の中身を見せながらニコニコで解説を始めてくれるらしいし。

 

 しかし、あの歌はレミリアとフランの出身地であり、2人の生まれ故郷でもあるルーマニアの言語で歌われたものだったとは、予想だにしなかった。道理で聞き馴染みがなかった訳であり、殊更興味が湧いてくる。

 

 仕事中ではあるものの、教えて欲しくて話しかけた身としてはまた後にしてとは凄く言いづらいから、このまま聞く態勢に入ろう。

 

 止まっている間に溜まった仕事は、解説が終わった後に全力全開で片付ければいい。本の整理とかはともかく、汚れ相手なら力を使うだけで綺麗になるんだしね。

 

(あぁ、道理で……)

 

 で、深緑髪の妖精さん曰く簡単な(難しい)ルーマニア語の単語解説も交えながら話を聞いていくんだけども、その過程で軽く話される2人の過去話に僕は情緒を乱された。

 強化形態のお陰で泣くまでは行かずとも、気分高揚効果を余裕で貫通してくる程の過酷なお話を。

 

 簡潔に言うなれば、2人は過去に2度も大切な存在を外的要因で失っている。1度目は西洋妖怪同士の戦争に巻き込まれたことで、2度目は家族同士のトラブルがエスカレートしたことによって。

 

 さっきまで歌っていた歌はその大切な存在……1人目の実質家族だった70歳のおじいちゃんと、2人目の傷心していた頃に寄り添ってくれたという、9歳の人間の女の子への手向けのために捧げた、ルーマニアの一部地域の妖精さんの間に広く伝わってたという、好いた人間さんなどに対して贈る鎮魂歌らしい。

 

「はわわっ、しろちゃん……?」

「その、えっと……何かこう、ぎゅーっとしたくなって。迷惑だった?」

「えへへ、ありがとうね! めいわくだなんてとんでもないよ!」

「あの子を思い出すなぁ……ぐすっ」

 

 なるほど。そりゃあ、僕と同じく不幸な過去持ちのスフェやノーゼが、150年程前のお話とはいえ今の僕と同等程度に気を遣い、レミリアも2人によく寄り添ってあげてる訳である。

 

 そして、紅魔館のメイド妖精さんの中でも相当僕に良くしてくれてる理由にも、合点がいった。2人目の女の子が置かれていた状況と僕の前世の状況が、この上なくそっくりだった訳だから。

 

 そう考えると、何やかんやで耐え難い物理的な痛みを与えられる前に、妖精の女の子として2度目の人生を穏やかに始められた僕は、凄い幸運の持ち主だったんだなぁ。

 

 願わくは、今のお話に挙がったおじいちゃんと女の子にも、どこかで平穏で幸せな2度目の人生が贈られますように。

 

「誰かに寄り添われる側だったメノウが、今度は寄り添う側になったのね。ふふ、いい光景を見れたわ」

「あっ、レミリア。えへへ……」

「うびゃっ! バレちゃったバレちゃった!」

「そりゃ、こんな目立つ場所に居ればねぇ。隠れる気、あったのかしら?」

「うーん……わたしには分かんないや!」

 

 ちなみに、結果として2人と一緒に早々とリタイアした(サボった)みたいになっちゃいはしたものの、レミリアやパチュリーは僕には何も言わず声かけしてくれたから、まあ許されたってことでよさそう。

 

 何だったら、もう少し歌についてのお話をしながら寄り添っててもいいかも。きっと許してもらえるし。

 

 とまあ、そんな考えが頭の中で浮かんではいても、実際にそうするつもりはない。パチュリーだって困るだろうし、お昼の休憩やおやつタイムがあるんだから、メイド妖精さんとお話とか遊びたければそこでやればいいんだもの。

 

「それはそうと2人とも、メノウを含めた他の子たちが大変になっちゃうから、お仕事はちゃんとやってね」

「「えっと……はーい!」」

「あらあら。この様子なら、お昼の休憩まではやる気が持ちそうだわ」

「やる気があり過ぎて、別の遊びに変化したりとかしなければいいですね~。パチュリー様」

「まあ、あの2人なら多分大丈夫でしょ。とはいえ……メノウ。一応、たまにでいいから見てあげて」

「うん、分かった! 僕に任せて!」

 

 いや、お昼休憩に関してはピースやサニー、ルナや美鈴とのきゃっきゃわいわい水遊びに全部の時間を使いたい。余程のことがない限り、あの輪に混ざらない選択肢を選ぶなんてあり得ないよね。

 

 というか、誘いたいけど後にするって言葉を僕とスターはかけられてる。そして、その言葉に断りの返事などを返してはいない。

 

 つまり、遊ぶからって約束を交わしたも同然であり、あまりにも疲れ過ぎたとか体調が悪くなったみたいな理由でもない限り、遊ばないって選択肢は選ぶべきじゃない。絶対に。

 

(あー……2人が向こうに行く前に思いついてればなぁ)

 

 そうだ。わざわざ変に分けようって考えなくたって、お昼の休憩時間になったらあの2人も水遊びに誘えばいい。そうすれば、妖精想魂歌についてのお話だって、ルーマニアの妖精さんについてのお話だって、いくらでもとまではいかなくても沢山聞いたりできるんだもの。

 

 ただし、それは2人が僕のお誘いに乗ってくれて、なおかつピースやサニーたちが僕とスター以外の妖精さんの参加を認めてくれることを前提条件としている。どちらが欠けても駄目なのだ。

 

 でもまあ、何だかんだピースとサニーとルナは歓迎してくれそうだし、美鈴は家族なんだから言わずもがなだよね。

 

「さて、休憩時間までフルスロットルだよっ!」

「大丈夫だとは思うけど、程々にね。メノウ」

「レミィ。今のメノウに程々と言っても、通用しにくいとは思うのだけど」

 

 なお、ずっしり重たい妖精さん2人の過去のお話で沈んだ気分は、仕事を再開する頃にはそのお話を聞く前よりも僅かに高揚し、集中力も完全に復活するのであった。




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