いつも通り紅魔館での仕事をこなして、スターも一緒に早めに帰って良いと言われたから、ルンルン気分で家に帰って玄関扉を開けたら、見たことも会ったこともない人が居てびっくりした。
とはいえ、良く見たら知らない人ではなかった。サニーたちや、僕の友達とのお話にも時々登場していた、白玉楼ってところに住む幽々子さんと妖夢さんだったから。
そうと分かれば、初対面ではあるからお話をするにも緊張はしてしまうけど、そこまで警戒する必要がなくなってひと安心。案内してきたのか魔理沙も居るし、むしろ嬉しいまである。
「えっと……僕の作る料理を、そんなに……?」
「そうなのよ。基本何でも食べるから、作ってくれるのならメニューはお任せするわ~」
「よろしければ、私の分もお願いします。メノウちゃん」
サニーたちの友達だから遊びに来たのかなって最初は思ってたけど、実際はそうではなかった。
ご馳走した皆が美味しいと言って、嬉しそうに食べてくれる僕の料理の話を風の噂で聞いたら、本当に食べたくなって来たみたいだ。
幽々子さんから聞いたけど、僕の料理についての話をしていた知り合いの人妖さん……霊夢や魔理沙はもとより、2人経由で更にお裾分けでもらって食べた人たちも、口々に褒めてくれていたらしい。
僕が居ないところ、気を遣う必要が全くないタイミングでも、そんな好意的な話が出てくる。しかも、悪口とかは一切耳に入らなかったという。
「恥ずかしいから、できれば本人の前で言わないで欲しかったぜ」
「あら~、ごめんなさいね。でも、喜んでくれてるみたいだから良いじゃないの」
「そうだけどさ……でも、本当に嬉しそうだな。メノ」
「羽の色が、メノウちゃんの感情を表しているんでしたっけ? 桜色ってことは……」
「ええ! まあ、それを見なくても一目瞭然だけどね! 照れちゃってもう、可愛いんだから」
僕の交遊関係のお陰で、そういうネガティブな話が抑えられてるっていうのもあるだろう。博麗神社や紅魔館の皆、妖怪の山の文さん、誰も彼も幻想郷では強い『力』を持っている人妖たちなのだし。
だけど、それを加味したって評判が良いという幽々子さんのお話は、きっと事実。確信するや否や、恥ずかしさと嬉しさと幸せのあまり、皆の目を見ることができなくなった。
とはいえ、その人たち全員のために沢山の料理を作り、幻想郷をあちこち1人で飛び回っていくつもりはない。そもそも、サニーかスターかルナが、それを断固として許さないだろう。
作る量そのものは、仮に相当多くても紅魔館での仕事で慣れてる以上、休憩を挟んだりすれば大丈夫。ちゃんと信頼は得ている。
一方、料理の受け渡しをする過程で、知らない人妖さんと取らなければならないやり取りに関する耐性は全然ない。
例え
「えへへっ……じゃあ、今から作るから待っててね」
「あら、本当に? ふふっ、ありがとう。楽しみに待ってるわ~」
「メノウちゃん。期待はしていますけど、あまり気負い過ぎないでくださいね」
ちなみに、僕の料理をとても食べたそうにしている、幽々子さんと妖夢さんのお願いに対する返答は、言わずもがな『はい』だ。
サニーとルナが事前に、料理を食べられるか否かは僕の返答に任せると言っていたこと。
人づてでお話を聞いただけでも、僕の料理に凄く期待をしてくれてて、万が一うっかり失敗してしまったとしても、絶対に怒らないでくれると言外に伝えてくれたこと。
何より、頑張って成功させて2人に褒められれば、サニーたちが自分のことのように喜んで幸せそうにしているという、究極の至宝が報酬としてもらえるのだ。
メイドとしての仕事終わり故の疲労感が少しだけあるものの、僕の気分も体調も好調。断るに値する理由など、微塵たりともなかったのだから。
(ふんふふ~ん)
メニューは何でもいいと言ってくれたけど、リビングの方から聞こえてくる声から、幽々子さんと妖夢さんはいつも家で和食を食べているらしい。ということで、作るのは和食に決定した。
にとり印の冷蔵庫や食材棚の食材残量や種類を見る限り、各種天ぷらと豆腐のお味噌汁と玄米ご飯、コロッケやうどんが行けそうだ。
とはいえ流石に全部作るとなると、それ自体は体力的に不可能ではないものの、時間はかかるし仕事終わりでもあるため、取り敢えず天ぷらにしておこう。
明日もメイドの仕事だし、早めに帰してくれたレミリアやフランにも申し訳ないのだから。
それに、お腹のなる音も耳に入ってきてる上に、幽々子さんはとても大食いな亡霊さんみたいだから、取り敢えず量は多めかな。ただし、食材量的に2人分くらいが限度である。
というか、半分人間の妖夢さんならまだしも、純粋な亡霊さんたる幽々子さんが食事を『必要』とする……妖精の僕たちみたく、娯楽としてということだろうか。
まあ、それは今はどうでもいいこと。人里で買ったのか家で作ったのか、懐から出したたい焼きをそれはもう幸せそうな表情で頬張るのを見れば。
「実際に見てみると、これは確かに凄いわね~」
「身体が完璧に覚えていると良く分かる一幕です。雇われのメイド妖精として、レミリアさんが声をかけたのも納得でしかありません」
そんなこんなで考え事をしつつも、ボウルに入れた霊夢や咲夜も愛用している『秋姉妹の小麦粉』に、適量の水とアリスからもらった卵を別の容器でかき混ぜてから投入。
泡立て器で更に良くかき混ぜ、いい感じになったと思ったら手を止め、スターが奇跡級の偶然により編み出した調味料を、ほんの少しだけ入れてから更に少しだけかき混ぜる。
並行して、大きめの鍋に天ぷら用の油を多めに入れてから、火をつけた。しばらく使ってなかったのもあって、一応鍋を軽く洗い、水滴をしっかり拭き取ってからの、天ぷら揚げだ。
「それにしても……メノウちゃん。この手際の良さ、本当に凄いですね」
「……ありがと。料理というか他の家事もそうだけど、僕の十八番だから、このくらいはね」
「十八番……料理を作るのは、楽しいですか?」
「うん。昔は全然だったけど、今は皆が……とっても、喜んでくれるから」
「……」
で、さつまいもやれんこん、ちくわにじゃがいも、山菜類をちょうどいいサイズに切っていると、こっちに近づいてきた妖夢さんが、料理作りの手際を何気ない感じで褒めてくる。
何でか、その際の表情がとても穏やかで優しげなものだったけど、良く考えたら文さんの新聞に僕の過去が載っている。
前世云々はそもそも言っておらず、その他の中々に辛い出来事に関しては、一部のエグい箇所は表現がマイルドなものに置き換えられているとはいえ、それでも見る人が見ればキツい。
きっと、妖夢さんはそれをじっくりと記憶に保存してしまったからこそ、共感し同情してくれたのだろう。優しい人だ。
「おっ? 良い音してきたぞ」
「天ぷらなのね。この音聞いてたら、お腹が空いてきて仕方ないわ」
「それは分かる。メノ、ちなみに何の天ぷらなの?」
「さつまいもにれんこん、ちくわにじゃがいも、他は適当にあった山菜類だよ。ルナ」
切った具材に小麦粉を均等に上手いことまぶし、それからさっき作った天ぷら衣につけて、適温になった油に随時投入していくと、リビングで談笑していた皆の視線がこっちの方へと向けられた。
油で食材を揚げる時の音は、確かに食欲をそそる。普段、スターが家で揚げ物を作っている時だって、僕はもとよりサニーやルナも羽をパタパタ動かしたり、ニコニコしながら楽しみにしているのを考えれば、幽々子さんの反応は至極当然である。
ちなみにだけど、魔理沙やサニーたちにも何か食べたければ作るよと伝えているものの、特に希望はなかったので天ぷらが終われば、料理作りは終わりだ。
「ふふっ、2人ともお待たせ。熱いから、食べる時は気を付けてね」
「待ってたわ~。さてと、早速頂きましょうか」
「幽々子様、ずっとお腹鳴ってましたもんね。かくいう私も待ち遠しいですけど、少し冷ましてからにしましょう。メノウちゃん、心配してますし……あっ」
時折楽しそうにする皆の方を見ながら待ちつつ、天ぷらがいい感じに揚がったと判断次第、揚げ物用のお箸で順次シートを敷いたお皿の上に乗せ、おまけの玄米茶やお箸と一緒に2人が待つテーブルへと運んでいくと、2人の瞳が明らかにその輝きを増す。
特に、幽々子さんは妖夢さんが止めるのも構わず、揚げたての熱々天ぷらを常軌を逸した早さで口に入れ、熱そうにしながらも美味しそうに食べ、玄米茶を全部飲んで完食したのだ。
(えぇ……)
確かに、がっつり作った夕食の量ほどではなく、完食自体は容易だろう。お腹も空いていそうだったし、予想よりも早く食べ終わるのもあり得る。
しかし、それにしたって1分程度で食べ終わるなんて、僕の想像の範疇を超えてしまった。揚げたてほやほや、凄く熱いにも関わらずである。
ただ、この光景に驚いているのは僕1人だった。妖夢さんは言わずもがな、サニーたちや魔理沙も以前から交流があったのだから、まあ当然の反応と言えよう。
「ご馳走さま! 衣サクサクな天ぷら、毎日でも山のように味わいたいくらい、美味しかったわ!」
「わぁ……えへへ、お粗末さま。そう言ってくれて、僕はとっても嬉しいよ」
「ふふ……妖夢、食べてみなさい。ゆっくりでも良いから」
「……じゃあ、私も少しずつ頂きますね」
でも、それによる驚きよりも遥かに占める割合が高いのは、熱かろうとも構わず美味しいと食べてくれたことへの、嬉しさと幸せだ。これのために、サニーたちを含めた皆へ料理を振る舞っているのだ。
もしも、幽々子さんと妖夢さんがここに遊びに来る機会が再びあって、僕の料理を食べたいと希望をしていたならば、出す量を増やしてあげようかな。
きっと、今日よりも満足してもらえるはずだから。
「これは……とても美味しいです。色々と、細かな感想を述べる必要なんてないくらいに」
「そっか。えへへ……妖夢さんの口にも合ったみたいで、本当に良かった」
ちなみにだけど、幽々子さんに積極的に促され、息を吹きかけるなどして少し冷ましてから食べてくれた妖夢さんも、屈託のない笑顔を見せながら美味しいと言ってくれた。
心に幸せを与えてくれるその一言を聞いてから、メイド妖精として紅魔館で働いた疲れが、まるで氷が溶けるかの如く消滅していくのを、僕は感じたのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。