「わぷっ……サニー、メノみたいに甘えてきてどうしたの?」
「そんな気分なだけよ、ルナ!」
「よっぽど楽しかったんだな! あたいも気持ちは同じだから分かるぜ!」
わざわざ宣言することではないかもしれないけど、私は妖精大樹で一緒に暮らしている妖精のスターサファイア、ルナチャイルドのことがとっても大好きだ。
そしてありがたいことに、2人も私のことを凄く好いてくれているようで、何かと気にかけてもらってる。朝起きてから夜寝るまで、本当に毎日が楽しくて幸せで仕方がない。
出会うことがなかったもしもの未来、これが全く想像すらできないくらいには、私の心の中での比重を大きく占めている存在と言える。端的に言えば、心の相性がこの上なく抜群だったかな。
そりゃあ、初めて会った時から仲良くなるまでに全然時間がかからなかった訳ね。
(今でも思い出せるあの時のメノ。まるで、昨日の出来事かのようだわ……)
そして、去年の夏頃に古代遺跡と呼んでいた頃の理想郷にて出会い、一緒に暮らすことになったテルースメノウって妖精のことも、同じくらい大好きだ。心の相性が同じくよかったお陰で、もう昔からの長い付き合いだったと言える程には仲良しになれてる。
元々、人間の男の子だったって聞いた時にびっくりはしたけど、私からしてみれば何だそんなことかと、軽く受け流せる程度の要素。今後も、それが変わることはないだろう。
スターやルナに対して抱く感情と同じで、私が一生一緒に暮らしたいって思える家族に、人間の男の子だったって秘密を知らされる前にメノがなったんだから。
酷い奴らのせいで傷つき、枯れかけてた心に私たちが上手に水をあげて、癒してあげようかって考える方がより一層忙しかったしね。
「ピース。私ね、メノに水着を着てもらえるかは賭けかなって思ってたわ」
「へぇ、そうなのか?」
「ええ。あれ、模様とか色合い以外は私とお揃いなの。腕とか肩、脚の辺はともかく、お腹周りも出てたでしょ?」
「あー、言われてみれば確かに! メノの普段の服の好みってルナ寄りだから、そう思うのも無理ないな!」
「勿論、私がお揃いのを着て欲しいって思ったからなのも半分はあるわ。だけど、メノに似合う可愛い水着をプレゼントして、夏を皆と楽しく幸せに過ごして欲しいって思いも同じくらいあるわよ!」
「うんうん。結果、別の妖精かってくらいには幸せそうだった訳だもんね。サプライズ、大成功でよかった」
そして、チルノやピースを含む妖精軍団や親しい人妖たちの助けも借りつつ、私たち3人はメノの心に水をあげ続けていった訳なんだけど、結果はまさしく皆が望むものとなる。
特に、今日の昼間なんか私が渡した水着を喜んで着て、春真っ盛りのリリーみたいな感じで一緒に泳いだりとかして、はしゃいで遊んでくれるまでになったのだ。気遣いからそうなった訳じゃなくて、自分の意思でね。
後半なんかは、むしろ若干こっちがその滾るばかりの元気パワーに振り回されてすらいたけれど、楽しく幸せになって欲しい私やスター、ルナからしてみれば喜ばしい出来事として数えられる。
(本当、楽しかったなぁ。メノ、あなたのお陰よ)
勿論、今日この時を以て傷ついた精神が完全に回復したと、はっきり言い切りたいところではある。しかし、見えないところで精神を焼く過去の火が燻っていない確たる証拠は、私たちには出すことができない。
故に、1人お出かけやお留守番を行わせたり、あらゆる人妖を対象とした三妖精のイタズラ幻想郷巡りなどに、メノを同行させてもいいと判断するのは時期尚早ね。
積み木遊びのように、万が一失敗した時に大変でもやり直しができることではなく、くしゃくしゃにしたちり紙のしわを完璧に元通りにしろと言うように、失敗を取り返すチャンスは1度たりともないんだから。
「ちなみに、水着を着てはしゃぐメノは可愛かったと思う人!」
「「はーい!」」
「あら、全員の意見が一致したわね!」
「それは愚問だよ、サニー。帰ってきたら、更に存分に褒め倒してあげるべきレベル」
「おぉ、それは誕生日プレゼントの一環としても名案! スターが先に向こうでやってそうだけどな!」
「「確かに言えてるわ、それ」」
しかしまあ、改めて言うけどメノが水着を着てはしゃぎ遊ぶ姿は、スターやルナにも負けず劣らず可愛らしかった。当然、私やピースにだって劣らない。
ただし、本人は照れながらも過去の経験由来の低い自己肯定感を発揮、「ありがと。でも、やっぱりサニーたちの水着姿の方が可愛いよ」とか、「本当は、比べるまでもないけどね」とか言ってきたっけ。
どうしても、誰々の何々に比べて自分の何々は劣っているとか負けているからって言葉が、勝負している訳でもないのに入ってきちゃう。
気にはなるけど、直接強く指摘してどうこうできる類いの事柄じゃないし、全ての元凶はメノをいじめてた前世の家族とも呼べない、凄く怒っていたレミリアに消された人間たち。
一応これでも前よりは減ってきてくれてるから、やるべきなのは私やスターやルナが長い目で見て支えることだけである。
これがなくなってくれれば、きっと精神的にも完全回復したって言えるのかもね。
「ただいまー! サニー、ルナ……ありゃ。お楽しみだったかしら?」
ルナに髪の毛を梳かしてもらいながら、ピースとおやつのクッキーの最後の1個を取り合うジャンケンをしていたその時、家の玄関の扉が開く。スターとメノが、メイドの仕事から帰ってきたのだ。
(時間がいつもより早い……そういうこと?)
ただし、メノはあれから全力で仕事に打ち込んだのか、はたまたああ見えて疲れが溜まっていたからなのか、強化形態が解除されている上にスターの背中でぐっすりすやすや、とても気持ち良さそう。
「お帰り、スター! 全体的に仕事が忙しかったの?」
「私の方はそこそこよー。メノの方が忙しかったというか、おやつタイムまで休憩しないであのテンションで全力全開してたっぽくて、ウルに止められたらしいわ」
「「「あー……うん、だろうね」」」
で、帰ってきたスターに話を聞いてみたところ、前者の私の予想がドンピシャで当たっていたらしい。まあ、あれだけのテンションのままぶっ通しで仕事をしていたならば、さしものウルもメノを気遣って止めるわね。
しかも、詳しく話を聞いていく内にびっくりしたのが、ウルがメノの強化形態を止めるのに相当苦労したというところだ。メノの魂に誰よりも精通していて、かつ純粋な力も霊夢やレミリアに一目置かれる程の、あのウルが。
確かに、条件が合致すれば妖精らしからぬ力が漲ってくる強化形態は、あの『幻想郷縁起』にも危険な現象扱いされる程のものだ。実際問題、これになった妖精は全員下級妖怪くらいなら圧倒できる訳だし。
ただし、ウルは下級妖怪どころか上級妖怪が比較対象となり、幻想郷の重鎮たる大妖怪にも一目置かれる存在。ただ止めるってだけなら、もっと楽だったはず。
メノを傷つけずに抑制して止めなければいけないって絶対条件を達成するのに、私たちの想像を超える繊細な作業を要求されてたってことなのかな。
まあ、私たちを逆に振り回しかけるくらいだった訳だし、魂の中で流れる力の奔流も相当なものだった。であれば、自然に発散させるのでもなければ大変なのも当たり前かしら。
「相変わらず、気持ち良さそうに寝てるわね! どんな夢を見てるのかな?」
「スターにおんぶされてるから、見てるとしたらスターに甘やかしてもらってる夢とかじゃない? ところで、メノを下ろさないの?」
「えっと……あら、寝てる割に力が強くて駄目ねー。サニーとルナ、ちょっと協力して」
「分かったわ! じゃあ、ちょっと失礼して……えっ、本当に力強くない? 尚更、夢の内容が気になるじゃないの」
「単純に落ちないための、身体の無意識下の反応とかって可能性……あ、起きちゃった」
そんなことを考えつつ、スターの背中から下ろせないメノをソファーに下ろしてあげようと、ルナと一緒に四苦八苦しながら腕を掴んで引っ張っていたその刹那、メノがその琥珀色の瞳を開けた。変に強く引っ張り過ぎたか、そもそもの会話する際の声がうるさかったかな。
しかし、まだ寝ぼけているのか私やルナが頬っぺたをつんつんしても、ピースが羽の根元をくすぐってさえ反応が鈍い。力は弱くなったので、さっきまでのあれはなんだったのかってくらい簡単にソファーに下ろすことはできたけど、これだったらベッドで寝かしてあげた方がいいかも。
「んぅ……あひゃっ!? ぴ、ピースやめて……ぶふっ、あはははは!」
「おっ、メノ起きた? なら、あたいの目覚めのくすぐり攻撃くらえー!」
「起きてる起きてる! だから、止めてピース……ひにゃっ、スターまで!?」
ただし、最大の弱点である羽の根元を執拗にくすぐられ、更に便乗したスターに脇の下やお腹までくすぐられてしまえば、さしものメノも完全に目を覚まさざるを得ないらしい。
手足をバタバタさせ、身をよじって逃げようとしたところをスターが止め、更に追撃を食らわせる。起きたばかりなのも相まって、一方的にメノがくすぐられるばかりである。
(加わりたいけど……スペース足りないし、何より……)
でも、羽の光も透明から桜色になってるし、メノの表情からも本当に幸せだって意思が伝わってくるようだ。ピースやスターが、メノとのじゃれ合いを楽しんでくれてるからね。
とはいえ、これ以上長引くと明日以降の体調に響きかねない。もっとはしゃぎたいのはやまやまだろうけど、ここで止めさせてもらうわ。
「スター、ピース! ここまでにしときましょ!」
「うん、今日は止めておこう。メノもスターも、ゆっくり休む必要があるわ」
「まあ、十分はしゃいだものねー。ティータイムでもする?」
「おうよ! これ以上やってると、楽しくて止められなくなりそうだぜ!」
「もっとやってていいのに……でも、サニーとルナの言う通りだよね。分かった」
くすぐられていた当の本人がもっとはしゃぎたがってそうにしながらも、長引きそうだったくすぐりバトルを止めることに成功した後は、メノやスターの休憩も兼ねてゆっくりティータイムするってことになった。
だけど、クッキーは全部食べちゃったし、他のおやつにしても運悪く買ったりしていなくて、そんなにない。疲れてるメノかスターに作ってもらう訳にもいかないし、私やルナがおやつを作ってもいいけど2人と違い、失敗して悲惨なことになる可能性が高いから、止めた方がいいかな。
飲み物なら水道かメノの魔法で出した水、紅魔印の紅茶やメノが好きな各種お茶、りんごやぶどうなどの果実ジュース、ルナが集めた凄い種類のコーヒーとか沢山あるから、こっちをメインに据えようって言ってみよう。
「じゃあ、あたいはりんごジュースがいい!」
「私はまあ、自分でコーヒー淹れるかな……え? メノも飲みたいの? ブラックコーヒーでいい?」
「うん! えへへ、ありがとね。ルナ!」
「なら、私はぶどうジュースにするわ。疲れた身体には甘い飲み物が1番よー」
「ピース、飲み過ぎないでね! 私の飲む分がなくなっちゃうわ!」
「おう! ていうか、サニーはりんごジュースでいいの?」
「ええ! あ、取ってくれるの? ありがとうね、ピース!」
おやつが全くではないにせよ少ない以上、この提案でティータイムの楽しさが半減しちゃうかもって考えていたけれど、最初に提案したスター含む皆の反応を見れば、全くそんなことはなさそうだ。
むしろ、何やかんやでティータイムがかなり長引くのみならず、抑制しなければ昼間の水遊びレベルとまではいかずとも、比肩するレベルではしゃぎ倒すことになるかもしれない。
「ストーップ! メノちゃんたち、今日は抑えて! 本当にお願い!」
まあ、ぬるっとメノの身体から出てきては、疲労困憊ながらも私たち全員に懇願するウルが居る限り、その辺は大丈夫だろうと私はそう思った。
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