「メノ、お待たせ! 結構待った?」
「ううん、大丈夫。寝たかっただろうに、来てくれてありがとね」
紅魔館や理想郷での水遊び、妖精大樹でのティータイムやボードゲーム勝負、ふらっと訪ねてきた霊夢とのプチ談笑会など、今日は色々なことをして楽しく遊んで疲れたあたい。
流れのままにお泊まりさせてもらうことになって、お風呂も入ってさあ寝る準備をしようとした刹那、あたいはメノに屋上のテラスに呼ばれて来ていた。
何をしたいのかとは聞いていないけど、妙に真剣な面持ちで「ピース、後で屋上のテラスに来て欲しいの」ってお願いされれば、行かない訳にはいかないだろう。
(どんな話をされるんだ……?)
サニーやスター、ルナが寝静まったのを見計らったタイミングであたいを屋上へ誘う。こっちから見たら、これから何かしらの秘密を共有される寸前としか思えない。
もしくは、三妖精の内の誰かに恩返しとして何かを贈ろうとふと思いつき、チャンスを見計らってあたいに相談したくて誘ったかとかかな。
何にせよ、重要な話をされるのは間違いない。あたいにできるのは、大切な友達の希望通り真剣に話を聞いてあげることだけだ。
「えっとね、その……ただ、どうしても改めてお礼が言いたくなって」
「そっか。別に、わざわざ2人きりになってまでお礼を伝えなくたっていいのに。でもありがとな! こんなに喜んでもらえて、あたいも嬉しいぜ!」
「うふふ。どんな宝石や食べ物にも勝る、最高の贈り物だもの」
すると、あたいの隣に寄ってきたメノは、その言葉と共に懐から1冊の本……お祝い本を取り出し、パラパラとめくってとあるページを見せてくる。メノに向けてあたいが描いた、お祝いの気持ちを込めて書いた言葉や絵のページだ。
急速に、嬉しさや幸せが込み上げてきたのだろう。ほんの一瞬かつ一部分だけながら、髪の毛の色が強化形態特有の大地を連想させる黄土色へと変わる。霊夢があげた湯呑みの件も相まって、ウルが何とか止めなきゃ多分またなってたよね。
(これもまあ、全部あたいのためを思ってやってることなんだろうな。きっと)
にしても、それに対するお礼を伝えたいってだけなら、サニーたちが寝静まったのを見計らう必要性は薄いのに。というか、お礼ならもう既に水遊びしてる最中に言われてる。
それなのに、何故わざわざこんな特別な状況を作ってまで、またお礼を伝えようとしているのだろうか。
ただまあ、大切な友達にこんなにも喜んでもらえたのなら、あたいも幸せでいっぱいだ。
「それでね。ピース、僕は考えたの。サニーたちには言わずもがな、『お祝い』をくれたピースや他の妖精友達にも、しっかり相応の恩を返さなきゃって」
「相応の恩? うーん……あたい、同等の恩ならもうもらってる。他の皆も、あたいと同じ考えだと思うぞ!」
「そう? やっぱり優しいなぁ、ピースは。僕、友達になれて幸せだよ。えへへ」
そして、メノは受けた恩を必ず同等かそれ以上の恩として、何かしらの形で返そうとする真面目な性格の持ち主。こういう発言をしてくるのも、簡単に予想ができる。
あたいとしては、今までメノと楽しく遊んだり話をしたり、ちょっとしたお願い事を聞いてもらったりとかで、十分過ぎるくらいに恩をもらっている。わざわざ、お祝いをしたあたいへ恩を返すために行動を起こす必要はない。
でも、仮にそう伝えたとてメノの気持ちは晴れない。本人にとっては、受けた恩と比べて今までに返せた恩はあまりにも少なく、あたいがそんなことはないと本心から言っても、気遣ってくれているんだと解釈してしまう。
こればかりは過去の経験のせいであり、すぐにどうこうできる類いの話じゃない。本当にもう、あいつらは余計な置き土産まで残してくれたものだと、滾る怒りを禁じ得ない。
「ただ、どうしてもメノが恩返ししたいって言うなら……今日はメノの部屋で寝かせて!」
「僕の部屋で……?」
「そう、一緒のベッドでだぞ! こんな感じでびたっとくっつきながら、眠くなるまで話をしたい!」
「にゃっ……うん、わかった。じゃあ、もう僕の部屋に行こっか!」
「おう! 本当はもう1つだけやって欲しいことがあるんだけど、続きは明日な!」
「うん! どんなお願いでもどんと来い、だよ!」
ならば、あたいの方からやって欲しいことを提示してあげればいい。勿論、適当に思いついたことではなく、いつかはやりたいって思っていたことをだ。
(……)
思い返せば、大切な友達の中で唯一メノとは一緒のベッドとか布団で寝たことがない。サニーやスター、ルナとは数え切れないくらい一緒に寝たことがあるにも関わらず。
状況的にそれどころじゃなかったのもあるけど、それにしたって2~3回くらいは妖精大樹のお泊まりで、一緒に寝たっておかしくはなかったはずなのに。
「にひひ。初めてだね、一緒のベッドで寝るの」
「えへへ、うん。何なら、ピースが友達で一番乗りだよ」
「おっ、あたいが一番乗り? やったぜ! ちなみに、サニーたちとはどのくらい寝てる?」
「えっと……えへ、数え切れないなぁ。でも、1番回数が多いのはルナだよ。一緒に部屋で本を読んでて、眠くなって、そのままベッドでぐっすりすやすやってパターンでね」
「なるほど。確かに、あたいも椅子に座って絵本読んでたら眠くなるぞ。ご主人様に読み聞かせしてもらった時なんか、途中で寝てるんだ」
「幸せそうだね、ピース。ヘカーティアさんみたいな神様が家族で、本当によかったんじゃない?」
「へへっ、まあな!」
まあ、今はその事実について考えるのはよそう。余計な思考で頭の中を埋めてしまえば、あたいがメノの部屋で一緒に寝た最初の友達という、嬉しい言葉が入ってきにくくなっちゃうし。
それに、メノにとっては暑くて過ごしにくいとは思うけど、1枚の薄い大きな毛布を2人で被ってぴったりくっついていると、メノの体温のお陰でぽかぽか暖かくて心地いい。で、一気に眠たくなってきた。
うん。あたいが寝るまででいいから、どうかこのままくっつかせて欲しいな。いい夢が見れそうなこの暖かさを、味わっていたいから。
(うーん……)
でも、地獄の妖精らしくカラッとした暑さには勿論、ジメジメした暑さにも耐性があるあたいと違い、やはりメノには暑そう。ダラダラとまでは行かずとも、相応に汗をかかせちゃってるのが気になる。
やっぱり、少しだけでも離れてあげるべきではないだろうか。いくら、この状況をメノが認めてくれてるとはいえ。
「ふぁぁ……メノ。ごめんね、暑いよな。少し離れる?」
「……いい。離れなくて、いいよ。ピース」
「そう? でも、暑いせいで汗かいてるぞ」
「汗? こんなの、明日の朝起きたら僕が力を使えばいいだけ。そうでなくても、朝のシャワーを浴びれば済む話だから僕は大丈夫。喉もまだ渇いてないし、自分のことだけ考えてて」
しかし、メノの意思はまるで鋼のように固くて動かない。あたいが幸せで喜んでくれるなら、この一時がお祝い本の恩返しになるのであれば、多少寝苦しくて暑い程度は安いものだと言っているかのように。
だったら、意味はあまりないかもしれないけど、せめて薄い毛布を被らず、お腹にかけるだけにして少しでも涼しくしてあげよう。
こうしてくっついてるだけでも、あたいはもう十分なくらい心地よく寝れそうだから。
「ねえ、ピース。僕、ちゃんと恩返しできてるかな。少しでも幸せ、味わえてるかな」
で、流石にそろそろ眠気のせいで会話も続けるのが辛くなってきた頃、向かい合わせていたメノが少し不安そうな表情で、優しく語りかけるようにこんな言葉をかけてきたのを聞く。
その問いに対する返答としては、恩返しはできてるし幸せも味わえてるから心配するな、である。ただ、仮にそう言葉に出してもメノが抱く漠然とした不安感は消えてくれないだろう。
仕方ないのだ。えっと、心に残った傷跡というのは、パッと見外側からは治ったように見えても普通は目にできない程の遥か深淵、魂の奥底にはまだ残っていて、立ち振る舞いや性格などに無意識レベルで影響を与えることが多い。
的なことを、いつぞやウルだったかレミリア辺りから聞いたような、そんな覚えがあったなぁ。
「あ……えへへ。おやすみ、ピース」
だから、そこはあたいもメノの大切な友達としてそうだし、他の妖精軍団の皆とも協力して根気強く支えてあげなきゃな。
まぶたが意に反して閉じようとする刹那、さっきの問いへの返答としてメノの手をぎゅっと握りながら、そう決意を固めるのであった。
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お祝い本。サニーたちやピースたち妖精軍団の皆から、お誕生日を迎えた僕への祝福が沢山詰まっている、命にも匹敵するくらいのプレゼント。正確には、お誕生日にはまだ少し早いけれど、別にそのくらいは気にすることでもない。
そして、こんなにも素晴らしいものを贈ってもらったのであれば、至極当然の話として恩返しをする必要がある訳だ。
正直、これに釣り合う恩を返すともなれば、相当な対価を用意しなければならない。ほんの少しだけど、ちゃんと返せるか不安だなぁって。
それに昨日、夜中に訪ねてきて愛用していた湯呑みを僕にプレゼントしてくれた霊夢や、いつぞや自身が使い込んだ愛用の帽子をプレゼントしてくれた魔理沙など、妖精友達以外からも沢山の幸せを贈られている。そんな皆に対しても、恩返しできてるかが常々不安だ。
「ん? あっ……」
ただ、今回のピースに対しては変に間違えたりもせず、ちゃんと返せてはいるから不安は小さい。
心地よさが暑さに負けて目を覚ました時に、僕の右手をぎゅっと握るのではなく、右腕を抱き枕代わりにしながらとっても幸せそうな顔で、すやすや眠っているところを見る限り。
腕を抱く力はそんなに強くなかったので、引き抜こうと思えば簡単に抜くことはできるけど、ピースは目を覚ました時に僕が居た方が嬉しいんだろうなって考えたら、そんな気もなくなった。
仕事に遅れそうだとか、お手洗いに行かないと大変なことになりそうみたいな、大ピンチ状態じゃないもんね。
(幸せそうなピース……えへへ。暑くて汗だくだけど、僕も幸せ)
どんな夢を見てるのかな。夢を見ていたとしたら、誰が登場しているのかな。僕やサニーたちか、チルノ一行か、ヘカーティアさんか、それとも他の誰かかな。
まあ、例えどんな内容の夢を見ていようと、そこに誰が登場していようとも構わない。
今この場において優先されるべきは、ピースの僕と一緒にくっついて寝たいって希望が叶えることと、それによって幸せな思いをしてもらうことなんだから。
「起きてるかしら……なんだ、こんなところに居たのね」
「メノと添い寝してるピース、幸せそうに寝てるわ。うん、私もそうだから気持ちは分かる」
「ええ! それはそうと、メノが凄い暑そうよ! 全力で運動した時みたいに汗だくだわ!」
すると、いきなり扉を開ける音が聞こえてきたと思えば、サニーたちが元気はつらつな状態で部屋の中に入ってくる。ピースの寝顔を見たり、左手でほっぺたをつんつんしてたりしたせいで、全く気づけなかった。
とはいうものの、ここは
なお、いくら極限まで集中力を高めていようと、スターやレミリアみたいな能力や魔法などがなければ、ルナが能力を寸前まで使っていた場合はどうしようもないけどね。
「おはよう、皆……えいっ」
「何度見ても本当に便利よね、メノのその力。ところで、相当暑そうだけど大丈夫? もしあれなら、私が代わりにピースを起こしてあげよっか?」
「ううん。今日は起きるまでこのままにしてあげて、スター。お祝い本の恩返しなの」
「なるほど。そういえば、何だかんだメノと一緒のベッドで寝たことなかったわねー。ピース」
「しかも、よく考えたら妖精友達の中では初めてじゃない? 一番乗りよ、ルナ!」
「確かに。ピース、メノにいいよって言われた時に相当嬉しかったんだろうなぁ」
しかしまあ、朝も早いのにサニーたちは本当に元気だなぁ。僕としてはいつまでも見ていたい何よりも幸せな光景だけど、そんなに大きな声を出してればピースが起きちゃわないかな。
いや、ルナが能力でピースの耳に伝わる音を抑えているか、完全にシャットアウトしているに違いない。そうでなきゃ、今頃目を開けているだろうし。
「んぅぅ……わっ! あたい……」
なんて思ってたら、その考えを読み取ったのかと言わんばかりのタイミング、ピースが目を覚ました。やはり無意識だったらしく、僕の腕を抱き枕にしていたことにかなり驚いている様子である。
加えて、僕だけじゃなくてサニーやスター、ルナが部屋に勢揃いなことについても驚いていたけど、すぐに嬉しそうに笑う。この表情だけで、汗だくになる程の暑さを耐えた甲斐があったものだ。
「おはよう、ピース! ゆっくり眠れたかしら?」
「……寝れた! メノには大分、大変な思いをさせちゃったけどさ」
「ふふっ。でも、僕と一緒に寝れて幸せだったでしょ?」
「おう、いい夢も見れたしな! スッキリした目覚めだぜ!」
「ならいいよ。えへへ……それだけで、十分価値があるもの」
「よかったね、2人とも」
そして、サニーたちもそんな僕やピースの様子を見て嬉しそうに、更なる幸せで楽しい会話の種を蒔いて、場を繋げてくれる。結果として、恩返しの恩返しみたいな感じになったなぁ。
(ピースのもう1つのお願いかぁ……何だろ?)
さて、1つ目の恩返しは無事に終わった訳だけど、昨日寝る前にもう1つ頼みたいことがあるとピースは言っていたっけ。果たして、そのお願い事とはなんなのだろうか。
勿論、どんなお願いでも構わないしいつでも来てくれていいものの、今日は仕事の日。内容によっては、レミリア辺りに相談ないし土下座でもして時間を確保しよう。
こういう時のために、お休みをもらえる権利を行使しなきゃね。
「さてと、時間もあるしひとまず朝ごはん食べましょー。メノとピースの分も、ちゃんと用意してあるわ」
もう1度、自分の身体と汗で汚しちゃったシーツ、ピースの身体をいつもの力を使って完璧に綺麗にした後、用意してもらってるスターの朝ごはんを食べに、僕はリビングにルンルン気分で歩いていく。
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