「うげ、砂糖入れ過ぎた。スター、どうすればいい?」
「ぺろっ……甘いわね。でも、これくらいなら勿体ないし甘党妖精用にするわ。ピース、そのまま他の材料入れてかき混ぜちゃってー」
「おう!」
紅魔館の巨大キッチン。それだけで、私たち四妖精の家である妖精大樹よりも広いこの場所で、3時のおやつタイムに向けた仕込みをいつもの面々とピースで私は行っていた。
作っているのは家でもサニーたちによく作っていて、特にメノにとってはただのおやつ以上のものになっている、通称星妖精のクッキー。今日の紅魔館のおやつタイムメニュー考案は私の役割で、かつレミリアから良ければ入れて欲しいわとリクエストされたのだ。
後、いつものキッチン担当のメイド妖精に混じって、ピースが一緒にクッキー作りをしているのかというと、当の本人が私とも一緒に仕事をしてみたいってリクエストしたからである。
お祝い本の恩返しとして、メノがピースに何かして欲しいことを尋ねた結果、言われた事の内容の2つ目らしい。
(もしかしたら、ピースもメイド妖精になるかもしれないわ……いや、流石にないかしら?)
ピースは妖精であるため、紅魔館への出入りはレミリアの名の下に比較的自由だし、おやつや紅茶なども多少なら作ってもらって食べることも可能。
何なら、お泊まりとかもメイド妖精経由でお願いすれば、結構許可してもらえたりもする。つまるところ、これだけできれば余程深い意図でもない限りは、大抵満足するのだ。
私やメノが紅魔館で働き始めて興味を持ち始めたか、もしくは恩返しされてるって体でメノにもっと喜んで欲しいがために、考えついたかのどちらかかしら。
「おーい、スター! 砂糖かバターとか全部入れて混ぜ終えたけど、次は何するんだ?」
「わたしの方も終わったよー! バニラオイル入れてみたの!」
「いわれてないものいれてだいじょぶ? あ、でもあまくておいしそう!」
「わわっ、うちのやつ卵の殻が入ってた! 危ない危ない!」
「本当ねー。ちなみに、多少アレンジするくらいならいいわよ。むしろ、色々な味が楽しめていいかも」
できた生地を使い捨て袋で包み、寝かせるために冷蔵庫へ入れながら、ピースがメイドの仕事をやると決めたきっかけについて考えていた時、ほぼ同じタイミングで皆の生地が出来上がった。
バニラオイル、熱湯の熱で溶かしたチョコレート、すりつぶしたりんごなど、私と1回別でやり直したピース以外は各々が思い思いにアレンジを加えてたりしてるけど、それはそれでいいと思う。核となるやり方が私のクッキーで、カバーができる程度のアレンジ具合だから。
とはいえ、違う材料を入れれば焼き上がった際、確実に私やピースの作るクッキーとは食感も味も少なからず違いが出てくるだろう。しかし、調理場担当のメイド妖精なだけあって、クッキーの食感と味自体は食べた人妖に喜んでもらえるものには、間違いなくなるわ。
「さて、生地ができたらそこの袋で包んで冷蔵庫で寝かせて。少し時間がかかるから、別のことをしていましょー」
「はーい! じゃあ、わたしはこの子と紅茶の用意する!」
「なら、うちはおしぼりとティーカップの準備しとくね~」
「うーん……あたいは、スターと洗い物でもしとくか!」
「ちょうどよかったわー。お願いね、ピース」
で、私と同じように袋で包んだ生地を冷蔵庫に入れてからは、寝かせる時間として待つおおよそ30分の間、皆で協力して次の工程へスムーズに入れるように道具の準備をしつつ、並行して紅茶などの飲み物の用意も行っていく。
中や外側の汚れた魔法のバスケットを綺麗に掃除、もう使わなくなったボウルなどの道具を洗うみたいなこともやっておけば、後々楽になるからやらなきゃね。
レミリアだけじゃなくて、おやつタイムを一緒に楽しむ誰かを想定して沢山作る都合上、結構洗い物とかも多いもの。
(まあ、わざわざその為だけに呼ぶのも駄目よね。そうし続けてれば、いつの間にか頼りきりになっちゃうわ)
こういう時、メノが一緒なら洗い物や掃除がたった数秒で全部済むんだけど、強化形態でもない限りはそうほいほいお願いできることでもないわね。
「今まであまりやってこなかったけどさ、お菓子作りって案外楽しいんだな!」
「あら、それはよかったわ。それにしても、意外とピースの手際が良くてびっくりよ」
「きゃは! スターたちが色々教えてくれてるからだぜ! でなきゃ、あたいこんなに上手くできないぞ」
ちなみに、料理やお菓子作りをほぼやった経験のないピースの手際は、私の想定よりも結構良かった。
無論、そこまで難しいことはやらせていない、そもそもの難易度が割と低め、私やキッチン担当のメイド妖精がサポートに回っているといった理由は大きい。
しかし、普段やらない分当人も気づいていなかっただけで、料理はともかくお菓子作りの才能がある程度はあった訳だ。練習すれば、1人でも妖精友達皆にご馳走できる美味しさのクッキーとかアップルパイが作れるようになるだろう。
「って考えると、スターとかメノって凄いよな。今のあたいたちがやってること、端から見たら簡単そうに全部1人でやっちゃうんだし」
「そもそもが好きなことで、かつ長い間息をするかのようにやってきたことだからねー。あっ、でもメノの場合は……」
「ちゃんと作れなきゃ、家の中で自分の身が危なかったんだもんな。もう居ない、あいつらのせいで」
「そう。でも、今じゃ私と同じかそれ以上に料理やお菓子作りを楽しんでる。料理してる時のメノのニコニコ顔見てると、時々うるってきちゃうわ」
ただ、ピース自身そこまでお菓子作りに傾倒している訳ではない。今この時を楽しんではいるけど、それはあくまでも紅魔館のメイド妖精としての仕事を、私と一緒にこなしているからなんだもの。
お昼休憩まで美鈴やメノたちとやってたらしい庭仕事でも、「ピース、すっごく楽しそうだったよ。えへへ」と、お昼休憩の時にメノがニッコニコで語ってたけど、本質はお菓子作りとほぼ同じかな。
(ふふっ……でも、楽しんでくれてるならいいわー)
主人たるヘカーティアは別枠なんだけど、私を含む沢山の妖精友達と楽しく何かをできさえすれば、その何かの内容自体はピースにとって基本何だっていい。
勿論、ピースにだってその時々での気分の浮き沈みはある。如何に大切な友達、例えば私たち四妖精との遊びの意見が合わない時は、もっと他のにして欲しいとお願いしてくることはあるのだ。
逆も然り、私たちがピースへ他のにして欲しいとお願いすることだってあるけど、どちらか一方の意見だけを聞き入れるのは、お互いの関係性を保つことを妨害する楔になりかねない。故に時々、これまたお互い交代で妥協し合っている。
「あら、もう33分経ったの? ピースたちと一緒にお菓子作りしてれば当然ね……そうしたら、皆生地を薄く伸ばして好きな形に切り抜いて!」
「「「はーい!!」」」
そんなこんなであっという間に時間が過ぎ、タイマーベルの音がキッチンに響くと、すぐに冷蔵庫で寝かせていた生地を取り出して、用意してた人数分の丸い棒で薄く伸ばす。焼き具合を統一させたいので、生地の厚さは私と同じくらいにしてもらっている。
「よし、上手く行った! ちなみに、メノとのお菓子作りしてる時もこんな感じで楽しんでる? スター」
「愚問よ、ピース。お互い話に夢中になり過ぎて、焦がしたりこぼしたりすることもあるわ!」
「超仲良し家族だもんねー、スターちゃんとしろちゃん」
「ええ! サニーやルナも加えた4人で、いつまでも一緒に楽しく幸せに過ごしていたいわね!」
「きゃはは! メノが聞いたら、即スターに抱きついてきそうな言葉だぜ!」
で、私の家にあるやつよりもお高い薄力粉を適当にまぶしたら、各々好きな形に切り抜いてもらい、お菓子用のシートを敷いたトレイの上に慎重に乗せてもらった。
くっついたり崩れたりしたら、せっかく可愛く形作ったクッキーの味はともかくとして、かけた手間が台無しになっちゃうものね。
(よし、こんなものね。それにしても、何だかいつもより上手くできた気がするわ)
ちなみに、他のメイド妖精たちは無難に犬や猫といった形にする中、ピースは自分の被っているピエロ帽の形に切り抜いてる。
会話しながらなのに加えて慣れていない分、少し形は不揃いだったりするけれど、チョコで名前が書かれているのも相まって、誰が作ったか一目瞭然でいい。
なお、私のクッキーはメノに初めて作った時と全く同じで、1番慣れている形でもある安定と信頼の星形だ。
「うんうん、いい感じね。さてと、最後の焼く工程に入るわよー」
「ここで油断して焦がしたりすれば、またやり直しだもんな!」
「ピースちゃん、クッキーの材料もうないよっ!」
「うげっ。てことは、あたいたちの責任重大だ。皆のおやつタイムがなくなっちゃう!」
そうして、用意した生地の分だけ色々な形に切り抜いた後は、遂に肝心なクッキーを焼く工程へと突入だ。最高の食感と味にするには、焼く時の温度を176度前後に調節しつつ焼き加減をギリギリのラインで見極めなきゃいけないから、ある意味で1番大変な工程だと言えるわね。
なので、ここからはメイド妖精の1人が切ってくれた、理想郷の皮付き妖精りんごを皆で頬張りながら、にとり印の魔法のオーブンの中にしっかりと視線を向ける。いい感じの、美味しそうな色になり匂いがしてきたその瞬間、パッと出してサッと魔法のバスケットへ入れるために。
「へぇ……まあ、良質な天然ものが沢山採れるならそっち行くわね。でも、採り過ぎるとよくないから抑えなきゃ」
「確かに、普通はすぐ生えてくるものじゃないしな! それに、メノを含む理想郷の妖精たちのものでもあるし!」
「しろちゃんたちのお家だもんね! 色々な人妖が好きに遊びに来れてるのも、しろちゃんが優しい妖精だからだもん」
「といっても、大体行くのはメノと仲良しな友達ばかりだけどねー。警戒しているのかしら?」
ちなみに、とても大勢のメイド妖精が居る紅魔館だから、置いてある魔法のオーブンも大きいし数も3つある。私1人で見れなくもないけれど、せっかく皆で楽しんでいるところにそれは全く面白くないから、3人ずつで分担しながらって形だ。
というか、皆と一緒にお菓子作りをするのが楽しくて忘れそうに、なるけれど、そもそもこれはメイド妖精としての仕事の一環。そういう意味でも、ある程度は仕方なくても役割が偏り過ぎないように、分担するのも当然の話ね。
(よかったわ、ピース。メイドの仕事、ちゃんと楽しめてて)
焼き上がるまでの15~20分前後の時間をずっと、りんごをかじって話をしながらとはいえ、じっと見ているのも疲れるだろう。
このクッキーよりももっと時間のかかる、お菓子作りなどで慣れている私やキッチン担当のメイド妖精はともかく、ピースなら尚更かと快適に思っていた。
でも、実際はそんなこともない。疲れてウズウズする様子もなく、オーブンの中をじっと見ながらする私たちとの会話を、変わらず楽しそうにしているんだもの。
「わぁ……すっごく甘くて、美味しそうな匂い……!」
「きゃは! スター、これって最高の焼き加減ってやつだよな!」
「うちの方もバッチリだよー。大成功だねっ」
生地から好みの形に切り抜き、それらを全てオーブンに入れてから待つこと16分と25秒。中でじっくり焼かれていたクッキーの色と、そこから漂ってくる匂いが、この上なく最高のタイミングであることを教えてくれた。
言うまでもなく、火傷しないように手袋を着けすぐさまオーブンを開けるけど、うっかり割ったり落としたりしないように、取り出してから魔法のバスケットに入れるのは、丁寧にゆっくりやる。
急いでやらなければならない理由が、今日はどこにもないんだから。
(うひゃあ、相変わらずねー)
しかしまあ、灼熱の地獄出身の妖精とは言ったって、平気な顔してピースが熱々の金属トレイを素手で触ってるところを見てると、凄いって感想しか出てこない。
手袋を渡そうとしたメイド妖精なんかもう、ピースがトレイをテーブルの上に置くや否や手をガッと掴んで、まじまじと手のひらを見つめてたし。
「その、驚かせるつもりはなかったんだけど、ごめんな!」
「よかったぁ~。ピースちゃん何してるのおばかなのって、うち思ったよ」
「きゃはは! そりゃそうだ!」
ただし、この場合は単純に熱や火への耐性が強いと言うよりは、許容範囲が普通よりも尋常ならざる広さだって表した方がいい。
でなきゃ、ピースが幻想郷で
「さて、皆でレミリアのところへレッツゴーよ! 」
「「「おー!!」」」
さてと、話しながらやってたら何だかんだ5分程度でおやつタイム用のお菓子や紅茶の準備が完璧に整ったことだし、まずはレミリアのところにこれを持っていこう。
多分というか、十中八九メノも一緒に居るはずだから、自分とピースの作ったクッキーの反応も直接見れると思うと、キッチンを出る私の足取りはまるで羽のように軽くなっていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。