幸せ四妖精   作:松雨

115 / 119
今話はルナチャイルド視点です。


どんより日精

「ルナぁ……」

「えっ。どうしたの、サニー?」

 

 もくもくと湯気を出す熱いコーヒーとスターのクッキーを片手に、読書の息抜きとして自分の部屋でのんびりティータイムに興じていた頃、少し様子が変なサニーが中に入ってきた。

 

 その足取りは重くて遅く、顔も妙に青ざめて、声色も悲しげというか不安を感じるようなもの。端から見れば、体調が悪くて辛そうな妖精として認知されるだろう。

 

 現に今、私自身がそう認知しているのだから。どこの調子がよくないかは分からないけど、ひとまず自分の部屋で寝かせてあげるか、とにかく今すぐお薬をもらいにサニーを連れて紅魔館に行くか、

 

「やっちゃったわ……メノ、悲しむわよね。きっと」

「あー……うん。まあ、しょんぼりはされちゃうかも」

 

 しかし、続くサニーの言葉と共に差し出された、メノが愛用するもんねと公言した湯呑みの大小様々な破片を見て察した。サニーが原因で割れちゃったのだと。

 

 破片が水で濡れているところから推測するに、キッチンシンクに置かれていた湯呑みを綺麗に洗って、メノの部屋のキャビネットに入れといてあげようとしたのかな。

 

 これがもし、人里とか香霖堂で私たちが適当に買ってきた湯呑みとかならば、サニーもここまで青ざめたりはしなかっただろう。

 勿論、やっちゃったとは思うだろうし、割ったことを謝って同じものを自分のお金で買いに行けば、基本それで済む話だから。

 

(サニー……)

 

 ただ、この湯呑みは違う。水遊びをした日の夜、魔理沙の家にお泊まりしてたらしい霊夢がふらっと家に訪ねて来て、「お下がりだけど要る?」と言って何故かメノに贈られた湯呑みなのである。まるで、使い古した帽子をあげた魔理沙みたいなパターンだ。

 

 その後すぐに、洗い済みとはいえお下がりはあれかと思い直し、新しい方を持ってこようとした霊夢に「これでいい! にへへぇ……」と、これまた似たようなパターンで喜びを爆発させてたっけ。

 

 うん、そりゃそうだ。霊夢本人は湯呑みに関して、お下がりであること以外何も言ってなかったけれど、メノは魔理沙の時と同じように思い出の詰まった大切なものだと判断しているんだもの。

 

「でも、メノならちゃんと謝れば絶対に大丈夫。悪い意図で割った訳じゃないって、わざとじゃないって、すぐに分かってもらえるよ」

「ええ。それでも、やっぱりドキドキするわ」

「博麗神社の全部の障子に穴を開けたイタズラがバレて、霊夢にお仕置きされる寸前くらい?」

「ドキドキの種類が違うわよ、ルナ。まあ、ある意味ではそのくらいかもだけど……」

 

 しかし、やったこと自体は小さくないにせよ、メノ相手ならそこまで悲観する必要はないだろう。どういう経緯で割れたのかを説明して、ごめんなさいと謝りさえすれば許してくれる心の広い妖精なんだもの。

 

 で、謝った後にサニーが霊夢のところに行って、訳を説明しつつ代わりの湯呑みを可能であれば今日中に、それが無理でも明日か明後日までにもらえれば万々歳。

 

 もらえなかったらもらえなかったで、霊夢がメノにあげた湯呑みに相当する物を別に用意するか、何かしてあげればいい。

 

 言わずもがな、1番やってはいけないことはこのまま証拠を隠滅し、何食わぬ顔でメノやスターが帰ってくるのを待つことである。当然、それをやったらどうなるかは推して知るべし。

 

 後はそう、サニーがもし望むのであれば、私も一緒に湯呑みの件が解決するまで付き合うつもりだ。

 

 家族だからっていうのもあるけど、親切に綺麗に洗ってあげようとしただけなのに裏目に出て、泣きそうになってるサニーが可哀想で見ていられないって理由の方が大きいかな。

 

「サニーにルナ、たっだいまー! 今日の私は絶好調よー!」

「ふんふふ~ん。スターとピースの美味しい手作りクッキー……えっ、サニーが元気ないよ……? 調子、悪いのかな」

「あら、本当ね。いつもならニコニコでお出迎えしてくれるのに」

 

 すると、リビングの鳩時計の針が5時を指すと同時、まるで図ったかのようなタイミングでメノとスターがルンルンで帰ってきた。が、それもすぐにサニーの様子を見て一瞬で消えてしまう。

 

(メノ。あなたなら、きっと……)

 

 加えて、あれだけ堂々と私の机に置いてある湯呑みの破片に気づかない訳もなく、2人の視線は次いでここへと向く。

 

 まさかこうなってるとは夢にも思っていない故に、短く「あっ、割れてる……」と言葉を溢すメノを見てから、明らかに一層元気のなくなったサニーに平然としている私も相まって、スターもメノも割ったのが誰かを察したに違いない。

 

 そして、サニーはこれから強く怒られるとか、悪口を言われるとまではいかずとも、悪い意味で何かしらグッと来る言葉がかけられるとでも考えたのかな。瞳が少しずつ、涙でうるうるし始めてきちゃった。

 

 まあ、今のメノの表情は悲哀を感じるし、羽の光の色も本当に僅かながら青い。前者はともかくとして、後者は嘘をつくことができない性質な以上は無理もないか。

 

「ひゅっ、メノ……?」

 

 しかし、相手はあのメノ。一単語たりともサニーに対して責めるような言葉を向けることもなければ、態度で示すこともなかった。

 

 無言で近づくや否やサニーの手を取り、まじまじと手のひらを見つめる。表情にも仕草にも普段のほんわかした感じは一切なく、真剣そのもの。

 

 それが終われば、サニーを椅子に座らせて足の裏をじーっと見つめて、念入りに調べる。さっきまでと変わらず、真剣そのものな表情に仕草を見せながら。

 

 更に、それも済ませたら今度は私の部屋の床やカーペットの上を弱めの風魔法などで念入りに調べ、念のためと言って私の足の裏まで、サニーと時と同じように見つめながら調べていった。

 

「ほっ。サニー、怪我してなかった。ルナも大丈夫そうってことは、スターも大丈夫かな」

「メノ、私たちは妖精。確かに痛いのは痛いけど、多少の怪我ならすぐに治るわ。心配しないで」

「人間の男の子だった頃の方がまだ長いもんね。そこに、家族や友達に優しくて思いやりのある穏やかな性格がどんと加わったら、咄嗟にこういう振る舞いをするのは当たり前だわー」

 

 で、そこから数秒間の沈黙の後、メノの口から出てきた言葉はこれ。湯呑みが割れてしまった事実よりも、その破片で私たちの中の誰かが怪我をしているか否かの方が、よっぽど重要だったみたいである。

 

 けど、仮に足で踏んで怪我をしていたとしても、サニーが割った湯呑みの破片くらいでできる傷なんて、痛いのは当然だとしてもすぐに治る。弾幕ごっことかで負う傷の方が、まだ酷くて痛くなりやすい。

 

 強く踏んだりとかで、身体の中に入っちゃうみたいなパターンでも、余計なことをせずに待ってれば顔をしかめる痛さだけどちゃんと抜けるし、傷だってあっという間に綺麗に治ってくれる。

 

 私たちは妖精だからね。個人差だってあるし、状況によって変わりはするけれど、余程の大怪我でなければ基本治るのも痛みが消えるのもあっという間なんだから。

 

「ぐすっ……メノ。ごめんね」

「大丈夫。むしろ、あんな落ちやすいところに置きっぱなしにした僕の方こそ、ごめんね。サニーを、こんなに傷つけちゃって」

「ううん、あれは落ちやすいって程の場所じゃないわ。私がね、洗ってメノの部屋の置き場所に戻してあげようとして、手を滑らせちゃったの」

 

 ただし、メノは私たち家族に対しては殿堂入りとして、友達に対しても自分の身すら顧みない、困ってたり辛そうにしてれば危険であろうが関係なく、反射的に助けようとしてしまいかねない妖精だ。

 私たちと同じくらい、自分も大切にして欲しいと言い聞かせ続け、ようやくマシにはなってきたけど。

 

 それを考えれば、スターも言っていたようにメノがこう振る舞うのも、当然の話って言えるよね。

 

「そっか。なら、なおのことだよサニー……ぎゅーっ! えへへ、ちょっとは元気出た?」

「……ええ! だから、あなたのことが大好きよ!」

 

 なお、メノの一連の対応を見ていて、サニーもようやく安心できたのだろう。瞳こそうるうるしてはいるものの、その表情や仕草にいつもの空に輝くお日さまみたいな元気さが戻り始めてきている。

 

 よし、これでこの件は終わり……とまでは行かないけど、少なくともサニーの元気が壊滅し、連動してメノやスターの元気まで削がれる未来は回避することができた。うん、ほっとひと安心かな。

 

(ひとまず、コーヒーでも淹れるかな……あっ、豆なかったっけ。はぁ……)

 

 こうなったらなったで家が凄く静かになって、コーヒーブレイクを取りつつのんびり本や新聞を読んだり、お昼寝をするのにとても快適な時間にはなるだろう。それ自体は、私にとって望ましいものだ。

 

 だけど、そんなので時間が増えたって駄目。サニーやスター、メノがいつも通りでなきゃ、真に楽しい一時とは言えないんだもの。

 

「でも、私が触ったから割れたのは紛れもない事実だわ! そうでしょ、メノ!」

「えっ。うん、まあ……サニーのお話を聞く限り、そういうことに――」

「だから、今から霊夢のところに行ってきて、新しい湯呑みを直接メノに手渡ししてくれるように、私が全力全開でお願いしてくるわね!!」

「「「……え?」」」

 

 頭の中でそんなことを考えながら、切れていたコーヒー豆を紅魔館か香霖堂のどっちに調達しに行こうかとも考え始めてきたその時、サニーがメノの抱擁から出るや否や大声で叫ぶ。

 

 それとほぼ同時、突然のことに反応がワンテンポ遅れたメノと私、スターを尻目に靴を履いて玄関から勢い良く出ていったのだ。しかも、よく見たら間違えて私の靴を履いていったみたい。

 

 足のサイズも私やメノやスターと一緒だし、違和感がないのは分かる。履いていったのが大好きな家族のサニーだから、それ自体は全然問題ない。

 

 ただ、毎日履いていく靴を間違えるくらいの状態で出かけて、何かこう私みたいなドジを踏んだりしないかが心配だ。普通にテンションが高いだけなら、履いていく靴を間違えたりすることはないんだから。

 

 後はそう、メノを思うがあまり霊夢にしつこく頼み過ぎて、変に怒らせたりしないかも心配である。この点に限ってはまあ、サニーなら大丈夫とは思うけど。

 

 とはいえ、やはり万が一ということもあるだろう。スターも居ることだし、すぐにでも博麗神社へと向かわなきゃね。

 

「メノ、スター。私もちょっと、サニーの後を追ってくる」

「あっ……うん。その、僕のせいで色々とごめんね。ルナ」

「行ってらっしゃい! じゃあ、メノとゆっくりお留守番してるわねー」

 

 ということで、凄く申し訳なさそうにこっちを見ながら小さく手を振るメノに、いつもと変わらぬ笑顔で手を振るスターに見送られながら、私もサニーの後追いって形で博麗神社に向かい始めるのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。