メノの誕生日プレゼントに贈る縫い物の練習のために、誰とも遊ばずにアリスの家に居たあたいと大ちゃん。今のところ、紅魔館でのクッキー作りと同じくらいに順調に進められている状態だ。
1週間も経てばお誕生日会が始まるけれど、それまでにはちゃんと普段使いできるものを完成させて、喜んでもらえることができる程度に。勿論、アリスを筆頭とした縫い物が得意な面々には劣るけどな。
しかし、何日も外とかで遊ばずにそれらばかりをやる日々は、あたいたちにとっては色んな意味で大変だし、何より疲れて集中力が途切れる時間が増えてしまう原因にもなり得る。というか、実際なってたのを大ちゃんに看過されて、無理はしない方がいいんじゃないかって言われたっけか。
あの時は張り切ってたから、しばらく皆で遊ばないって宣言したけども、今考えれば遊ぶ時間を減らすって答えればよかったなぁ。でも、そのお陰でかなり早いペースで進められてるから、悪いことばかりじゃない。
「あー……疲れた! やっぱり、たまには息抜きもしないと駄目だな! 大ちゃん」
「ふふっ。私もそう思うよ、チルノちゃん」
とまあ、そんなこともあってかあたいと大ちゃんは今、サニーたち四妖精を遊びに誘うために妖精大樹へと向かっていた。
本当は妖精軍団全員で集まろうと思ってたけど、リリーとラルバはどれだけ探しても見当たらなかったし、クラピは紅魔館の門前でへカーティアと遊んでたから、まあそこは仕方ないよな。
さて、サニーたちを誘ったらどこで遊ぼうか。ただ、理想郷はよく遊んでるし、紅魔館は夕方とか夜にお菓子作りのためにも行ってるから、今日は別のところにしよう。
あたいの家がある霧の湖、まだまだ楽しめる場所がいっぱいな人里、ラルバの秘密基地に香霖堂、候補は数え切れない程ある。
何だったら、妖精大樹や魔法の森そのものの冒険でもいい。まあ、サニーたちを誘う以上はあたいと大ちゃんだけで決めるのではなく、相談して決めるべきか。
いや、そもそも家に居なかったりクラピのように断られる場合だってある。必ず頷いてもらうつもりで後の予定を考えるのは、良くないことだぜ。
(ん? あれはメノ……)
と、相変わらず鬱蒼とした魔法の森を大ちゃんと話しながら歩いて、妖精大樹の庭部分に足を踏み入れると、吊るされたハンモックでぐっすり昼寝をしてるメノの姿が目に入った。側の切り株型の机には、紅茶のカップとクッキーの袋が置いてある。
外には他に誰も居ないので、のんびり1人の時間を過ごしている途中だったのかな。風も心地よくて、あたい基準でちょっと暑いくらいの気温だから、メノにとっては昼寝にちょうどよかったのかな。
「つんつん……呼び掛けても、頬っぺたつついても全然起きないぞ。夜更かしでもしたのかな?」
「どうなんだろうね。夜更かししてなくても眠くなる時はあるし、単純に朝起きてから遊び続けて疲れたのかも。寝言でサニーちゃんたちのこと連呼してるし」
「あはは、確かにな! じゃあ、サニーたちも疲れて寝てるかもしれないし、誘うのは止め――」
さてと、メノが昼寝中ならサニーたちも似たような感じだろうと思い、今日は止めておこうと思って戻ろうとしたその瞬間、上の方から窓の開く音が聞こえた。
少し前から、あたいと大ちゃんが来たことに気がついてたんだろう。その方向に視線を向けると、サニーが部屋から身を乗り出してこっちの方を向いている。
かと思えば、そのまま窓から飛んで目の前に降りてきた。ご丁寧に出かける準備万端の状態だったし、よっぽどあたいと大ちゃんと遊びたかったみたい。嬉しいことである。
「寝てないわよ! チルノ、大ちゃん!」
「おう、見れば分かる! それはそうと、スターとルナも起きてるの?」
「ええ! 多分、もうすぐ玄関から出て来る……ほら来た!」
で、サニーが出てきてから恐らく1分もかからない内に、今度は玄関からスターとルナも同じように、出かける準備が万端の状態で中から出てきた。
ルナに至っては、メノの靴や夏用の麦わら帽子、肩かけかばんやお財布とかを一緒に持ってきてるから、ここですやすや昼寝中のメノも起こして連れていくつもりらしい。
お財布を持ってきてるってことは、あたいと大ちゃんが人里に行きたいと言うと想定してるのか、もしくは自分たちが行きたいって思ってるかのどちらかか。
「2人とも。慣れない縫い物の練習は、やっぱり大変だった?」
「うん、とっても。アリスさんの教え方は分かりやすいけど、それでもね」
「おう! 正直、誕生日会までに上手くできないとは思ってる!」
「そりゃ、今まで全然やらなかったものねー。当然よ」
後はそう、メノが行きたくないって言ったらどうするのとか、そもそも起こしても起きなかったらどうするのかとかも考えたけど、まあそうはならないかという確信があたいに生まれる。
遊びに誘った時、既に予定が埋まっていたりあまりにも疲れているって理由以外で、断られたことがただの1度もないから。
後は、体調が悪くなった時も断ってはくるだろう。ありがたいことに実際に悪くなったことはなく、昼寝の様子を見る限りでは今日も体調に問題はなさそうだ。
というか、体調が悪いならこんなところで優雅にティータイムの後、のんびり昼寝タイムを楽しむはずがない。サニーたちが許すとも思えないし。
「メ~ノ~、一緒に遊びに行きましょー! チルノと大ちゃん来てくれたのよ!」
「幸せな夢を見てるのかな? 起きないね。うん、しょうがない……チルノ。私が許可するから、メノを起こしちゃって」
「りょーかい! メノ、あたいたちが来たぞー!」
「ん……うひゃあ、ひっ、冷たっ!? あっ……」
こんな風に思考しながら、ルナに促されてメノの足の裏や羽の根元を冷たくした手でつんつんしたり、時折くすぐったりしていると、想像以上に早くメノは起きた。氷みたいに、あたいの手を冷たくしたから早かったんだろう。
(あはは! メノは、やっぱりメノだな!)
そうして、のんびり昼寝をしていて起こされた立場ながら、メノはびっくりはしても不機嫌になることはなかった。むしろ、あたいたちに囲まれて「夢の続きみたい! えへへ」と、嬉しそうに羽を桜色に光らせる。
寝ても覚めても、あたいを含む友達や家族であるサニーたちと遊びたがるなんて、本当にそれがメノにとって唯一無二の『幸せ』なんだなぁ。
「えへっ。メノちゃん、私たちと一緒に遊ぼう?」
「うん! それで、どこに行くの? 僕のお出かけセットが用意され……お財布があるってことは、行き先は人里?」
「特に決めてなかったけど、メノちゃんは最初の行き先そこがいい?」
「うーん……僕は、大ちゃんたちが決めたところに合わせるよ」
「そっか。なら、せっかくだし最初は人里にしよう。チルノちゃんたちは賛成? それとも反対?」
「「「賛成!」」」
ちなみに、予想通りメノが一緒に遊ぶことが決まった後、さっきまで全然決めていなかった最初の行き先も光の速さで人里と決まった。
そこから別の場所に遊びに行くか、人里で1日中ずっと遊ぶかは、その場の流れで決めればいい。あたいたち妖精軍団が、遊びの計画を事前の予定通りに進められた試しなんて、殆んどないんだしな。
(いつか、あうん辺りにでも聞いてみるか。何でか知らないけど、髪の毛結うのマイブームらしいし)
にしても、生まれた時より髪の毛が伸びたせいかな。メノの寝癖が、昼寝程度の時間でも少し目立ちやすくなっちゃってる。妖精軍団の中でもスターに次いで伸びるのが早いっぽいし、これからどんどん直すのが面倒になってくるだろうなぁ。
でも、本人はもとよりサニーたちが承知の上だから、あたいがどうこう言うつもりはない。仮に言ったところで喜ばないのは明白、無駄なやり取りと時間が過ぎるだけになる。
そんなことより、超がつく程の癖毛の妖精でも楽に髪を梳かせる方法とか、寝癖がつきにくくなる方法を考えるなり調べるなりして伝えた方が、何倍も喜んでもらえるに違いない。
「手間かけちゃってごめんね、スター。ありがと」
「どういたしまして。さて、メノの身だしなみも整えたことだし、皆で出発進行よー!」
「「「よし、レッツゴー!!」」」
と、スターがメノの髪の毛を梳かし終え、ルナの持ってきたお出かけセットを受け取って靴を履き、メノののんびりタイムの片付けを代わりにやり終えたのを見計らい、いつもみたいに掛け声を出してからあたいたち6人は人里へ向けて出発した。
(うーむ……全部は流石に無茶か?)
さて、人里に行くと言っても何をやろう。お店で美味しい料理を食べるか、駄菓子屋や和菓子屋で美味しいお菓子を味わうか、玩具屋やお土産屋で何か買って遊ぶか。
里の子供たちと遊ぶのもいいし、寺子屋で授業を試しに受けてみるのも面白そうだ。まあ、後者は何だかんだでけーね先生の許可が下りそうにないけど。
あ、そうだ。三妖精とそっくりな性格の子供の家にでも突撃しに行こう。また一緒に遊ぼうなって約束しといて行ってないし、遅くなりながらも約束を守る意味でも結構良さそうだ。
「あっ、そうだ!」
「わっ! メノちゃん、急にどうしたの……?」
「大ちゃん。僕に何かして欲しいこととかない? この間の、お祝い本のお礼がしたいの! チルノもだよ!」
「あたいも?」
「うん! えへへ……」
すると、香霖堂の前を通りがかった時にメノがいきなり立ち止まり、大ちゃんの手を掴んでこんなことを言い始める。その時のことを思い出しているからか、さっきより声色も高いし羽の光の色も桜色が強くなってきた。
(あの様子だと、毎日読んでそうだな……へへっ)
普段字なんてそんなに書かないし、絵なんかもっと描かなかったから、とっても上手かと聞かれたらきっと違う。
でも、生まれてきてくれたことへの感謝と一生友達で居てくれよなってお願いとか、メノに抱いてる色々な思いを込めたやつだから、こんなに喜んでもらえてあたいは凄く嬉しい。
大ちゃんも大ちゃんで、手を掴んでるメノから如何に贈られたお祝いメッセージや絵が嬉しかったかを熱弁され、何だかとっても幸せそう。
自分の贈ったメッセージとか絵を見て、喜ぶメノとかその仕草を凄い見たがってたから、その度合いもひとしおってやつだ。
「何でもいいし、何個でもいいよ。ちなみにね、ピースは僕との添い寝とメイドの仕事を一緒にやることだったの」
「そうなんだね。クラピちゃん、嬉しそうだった?」
「うん、もうニッコニコだったよ。お祝いに対する恩返しとしては、自信を持って成功したって言えるかな」
「あははっ、そりゃそうだ!」
「確かにねー。あれは、大成功以外の何物でもないわ」
しかしまあ、メノにして欲しいことかぁ。メイドの仕事はともかくとして、大ちゃんも誘って一緒にメノの部屋で添い寝をしてみたい。
昔のように、能力とかの制御があまりできなかった頃ならともかく、より上手になった今ならメノを寒がらせずに添い寝をすることができるし。
ただし、したらしたであたいの方が暑くなりそうだし、暑くなったらと言って冷気を少しでも解放すれば、今度はメノや大ちゃんを寒がらせる羽目になるだろう。
どうしても添い寝をしたいならば、多少の不便は我慢する必要がある。勿論、あたいはその程度でどうこうなる程柔じゃない。
(うーん。あんまり多く頼むのはメノにも負担だよな。そもそも、今日中じゃなければならないとは言ってなかったし……)
それに、メノにして欲しいことは添い寝以外にもあたいには沢山ある。様子を見る限りは、大ちゃんにも沢山ありそうだ。
だけど、沢山あるして欲しいことを全部言ってしまえば、メノなら普通にやろうとしてくれちゃう。自分の時間と体調など二の次だって感じで、やる気まんまんで。
ともなれば、どれか1つか2つ程度に絞るべきなんだろうけど、これがまた難しい。そもそもの話、今日のお誘いに乗ってくれた時点で1つもらったようなものだし。
でも、メノがこれだけあたいと大ちゃんにお返しをしようとしてて、その思いを無下にするのも何だかなぁ。後回しにしようかとも思ったけど、そうしたらしたで忘れちゃいそうだし、できれば今決めた方がいいだろう。
「可愛い花冠、あたいと大ちゃんの分をお願い! 欲張らせてもらえるなら、メノの手作りがいいな!」
「レミリアさんからのプレゼントを着けてたノゼちゃんとスフェちゃん見てたら、私もチルノちゃんとお揃いとまではいかなくても、花冠着けてみたくて。駄目、かな……?」
「花冠……うん、分かった! 2人に似合う、最高の花冠をプレゼントしてあげる!」
という訳で、数あるやって欲しいことの1つ……親友同士のお揃い花冠、売り物とかではない手作りのやつをお願いすることに、あたいと大ちゃんは決めるのであった。
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