紅魔館のメイドの仕事がお休みの日の内、およそ4割はサニーかスター、ルナと楽しくきゃっきゃして遊ぶことが多い。僕の方から誘うこともあるけど、殆んどは3人……大体はサニーに「一緒に遊びましょ!」と言われ、僕が喜んで頷くのである。
もしくは、妖精軍団の誰かか魔理沙が家にやって来て、僕たちを遊びに誘うパターンもあるけれど、最初に誘ってくる相手が変わるだけで、僕が喜んで頷くっていう最終的な結果は一緒だ。サニーやスター、ルナだって殆んどの場合は行きたがるもの。
勿論、いくら元気いっぱいなサニーたちや妖精軍団の皆、魔理沙とはいえ必ず毎日外できゃっきゃ遊ぶ訳じゃない。ご飯やおやつ、お風呂の時以外、家で趣味を堪能しながらゆっくり過ごしたい時だってあるんだしね。
「わぁっ、このお饅頭とようかん美味しいわね! お兄さんの手作り?」
「俺じゃなくてばあちゃんのな。お前んとこのスターやメノみたいに上手いって有名な妖精ちゃんと違って、菓子作りは上手くねえんだ。正確には料理もだが……下手って分かってて言ってんだろ?」
「てへっ、バレた?」
「バレたも何も、隠す気なかったでしょ。サニー」
「この人と仲良しだもんね、サニーちゃん」
「ははっ! 定番のやり取りってやつだな!」
「サニーに限らず、大抵の妖精とは仲良しだけどねー。ここのお兄さんって」
ちなみに、今日は後者のパターンでチルノと大ちゃんが誘ってきたため、人里へ遊びに来ていた。最初の場所としては、サニーたちが行きつけだというあの駄菓子屋さんを選んでいる。
(えへへ……大好きな皆と一緒! 夢の続き!)
しばらく遊びに来ないし遊べないって言ってて、僕もそのつもりでいたから、ハンモックでのんびりお昼寝してて起こされた時は本当にびっくりしたなぁ。ルナが、僕がもう行くって返事を出す体で自分の分だけじゃなく、僕のお出かけセットまで準備してたしね。
でも、妖精軍団の皆と遊んでいた夢を見ていたのもあって、寝ぼけていた頭が一瞬で覚めるくらいには嬉しかったなぁ。言わずもがな、即行くと答えて速攻で準備を済ませたっけ。
ここにラルバやリリー、ピースが居ればなお完璧だったんだけど、そもそも会えなかったり予定が埋まってたりしたらしいし、そこはまあしょうがない。また今度、時間ができた時に来ればいいんだもの。
「もぐもぐ……美味しい! お店の和菓子みたい! 駄菓子ももっと買いたいけど、他の人たちの分もあるから抑えなきゃ」
「メノも、美味そうに食うよなぁ。なあ、料理とか菓子作り得意なお前から……おっと、愛称呼びはちと早かったか」
「ううん、全然。だって、お兄さんサニーたちと仲良しな人間さんなんだもん。それに、凄くいい人そうな感じするし……」
「あら、メノからこう言われるなんて、あなたにはやっぱり妖精を寄せ付ける何かがあるんだわ! 能力持ちかも!」
「お、おう。まあ、何にせよ本人の許可は得れたからよかった」
しかしまあ、サニーたちが行きつけというだけあってここの駄菓子屋さんは、人里の中でも随一とも呼べるくらいには居心地がいい。出されたお饅頭やようかん、売っている駄菓子やお茶も美味しいし、店主のおばあちゃんや孫のお兄さんも凄く優しそうな人だからかな。
純粋に生まれた時から妖精で、かつ女の子だった妖精さんたちとは違い、元人間かつ男の子だった僕が相手でもサニーたちやチルノ、大ちゃんへの対応と殆んど変わらないところを見れば分かる。
あっても精々、接し方の迷いがあったりする程度だしね。僕だって、駄菓子屋のおばあちゃんたちのことはちょっとしか知らなくて、どんなお話をすればいいのか迷ってるもの。
だから、今日はおばあちゃんとお兄さんの表情や仕草、声のトーンとかはより一層注意して見聞きしておかないと。サニーたちが仲良しな人間さんなら、僕も仲良しになっておきたいから。
最悪それができなかったとしても、最低限2人にとって『嫌な妖精』にはならないようにしなきゃ。僕だけじゃなくて、サニーたちにも影響しかねないともなれば至極当然の気遣いである。
(ひっ……! あっ)
仮に、2人にとって僕が嫌な妖精になったと、頭の中で考えてみようと思ったはいいものの、脳裏に一瞬浮かんだ言葉と光景が怖くて断念した。少なくとも、楽しい今の時間に考えることじゃない。
ほら、サニーたちに一拍遅れる程度の早さで
無論、正直に言ったら雰囲気ぶち壊しだから言える訳ないし、かといって何でもないよも通じなさそうだから、何かこう上手く言葉を紡がないと。
「あの。えっと……おばあちゃんのお饅頭とようかん、もう1つあるかなって……」
そこそこな感じで焦った果てに僕の口から出たのは、出してもらった和菓子のおかわりを要求する言葉だった。
恐怖でしかない、悪しき想像世界について話して雰囲気をぶち壊すよりはマシだけど、これはこれで常識的にどうなのだろう。サニーたちくらいに仲良しになったならまだしも、本来なら初対面で求めることじゃないかな。
ご馳走してくれたおばあちゃんの方から、例えばおかわりは居るかい的な感じで聞かれたというなら話は別なんだけど、現実はそうじゃないし。
それに、お饅頭もようかんも
しかし、再三言うけどもう1つ欲しいって僕の気持ち自体は、紛れもなく本物。決して嘘八百を並べ立ててる訳じゃない。
「ごめんねぇ。気に入ってもらったところ悪いけど、今配ったやつで最後なのよ」
「そうなんだ……僕が作るようかんとかよりも、凄く美味しくて」
「なーんだ! また何かトラウマがフラッシュバックしたのかと思ったわ! 確かに、美味しいものね!」
「それには同意するわー。おばあちゃんの和菓子、私も好きだし」
「うんうん。博麗神社で霊夢たちとティータイムをするなら、クッキーとコーヒーよりもこっちがいいかな」
「ははは、流石はばあちゃん! にしても、メノのようかんか……そっちも、いつか食ってみたいもんだ!」
だからこそ、説明のために紡いだ僕の言葉に、今この場に居る皆を納得させるだけの説得力が生まれたんだろう。
そうでなきゃ、サニーが抱いた疑念はみるみる膨れ上がり、一瞬浮かんだ悪しき想像世界の全容を話す羽目になり、結果として雰囲気ぶち壊しで遊ぶどころじゃなくなってたはずだもの。
(ほっ……余計な心配させずに済んでよかったぁ)
優しいサニーたちだから、チルノと大ちゃんだから、仮に雰囲気が台無しになってしまったとしても、そこに悪意さえなければ気遣ってくれる。間違いはない。
ただ、僕の心が生まれてくる底なしの申し訳なさに耐えられるか否かは、話は別となる。厳密に言えば、ウルにどれだけ負担をかける羽目になるかだけど。
それにしても、僕の和菓子を食べてみたい……か。見た目とか味で言えば、背伸びしても敵わないここのおばあちゃんの和菓子に慣れてるお兄さんが、期待してくれてる。
であれば、お近づきの印兼今日のお饅頭とようかんとお茶のお礼も込めて、近い内に用意しなきゃね。勿論、早く用意しなきゃと焦るあまり、雑になったり心を込める量が足りなかったなんて展開にならないよう、しっかり気をつけることを忘れずに。
(2人が期待してくれてるんだ。絶対、頑張って作らなきゃ!)
いや。確かにそれも大切なんだけど、それ以上にチルノと大ちゃんからお願いされた、手作り花冠のお返しプレゼントの方が倍くらいは重要だ。お祝い本のお返しなんだから。
花冠なんて殆んど作ったことはないけど、あれだけチルノと大ちゃんの前で大見得を切った以上、下手だろうが何だろうが絶対に完成させる。
制限時間とかはないけれど、今日遊び終わったら早速動き始めよう。サニーたちとの家での時間は当然として、お返しのお話すらできてないリリーとラルバのために使う時間なども減らせないから、減らすことができる僕1人の趣味の時間は、全削りする気概で使わなきゃ。
とはいえ、体調には気を使わないとだから、本当に全削りしてまでは時間を使わない。息抜きができる程度の時間は、ちゃんと残すつもり。
「お兄さん。今度、2人分のようかん作って持ってきてあげる。和菓子職人のおばあちゃんと比べたら期待以下かもしれないけどね」
「メノが作るなら、和菓子よりも洋菓子の方が美味しいけど、ぶっちゃけ誤差みたいなものだから期待していいぞ!」
「でも、メノちゃんって料理の方は和食の方が得意なんだよね。まあ、こっちも洋食とは誤差だけど」
「マジか。だってよ、ばあちゃん」
「あらあら。大地の妖精ちゃんのようかん、楽しみに待ってるわぁ」
とまあ、チルノと大ちゃんへのお返し花冠について考えつつも、何だかんだでお兄さんとおばあちゃんの分の和菓子を、いずれ作って持っていく約束もしてみたんだけど、予想より強い期待の眼差しを向けられてドキッとした。チルノと大ちゃんが、色々言って2人の期待を煽って乗せたから。
この様子だと、何だかんだで和菓子だけじゃなく洋菓子も、もしかしたら和洋の料理もいずれご馳走する流れに傾いていきそう。責任の重さも、さっきよりずっしり重たくなってきた。
(えへへ。サニーたちと仲良しなおばあちゃんとお兄さんが、こんなに期待してくれてるなんて……)
けれど、嫌ではないし辛くもない。むしろ、この期待してくれる感じが適度に心地いいお陰で、やる気も出てきてる。
万が一失敗しても、2人の期待以下のお菓子やお料理しかできなかったとしても、わざとじゃなければ怒られたりしないって確信が持てるからかな。
まあ、1番はサニーたちとも仲良しな
「そんなに期待してくれるの? 僕、絶対に失敗できないね」
「ははっ。まあ、適度にな。いつまでも待ってるから、落ち着いて作ってくれ。いや、こう言ったが何なら作んなくたっていい」
「お兄さんの言う通り! 失敗しない方がいいのはそうだけど、自分を追い詰めないようにしなきゃ駄目だわ!」
「というか、サニー。メノが料理失敗したことってあるの?」
「ないわ! 強いて言うなら、初めて私たちに料理を振る舞ってくれた時に炊いた玄米ご飯を、べちゃべちゃにしたことがある程度だけど……」
「あれは例外。いい意味でも悪い意味でも、精神的にガクガク揺らいだ状態に置かれれば無理でしょ」
そんな時、ふとようかんを2人分作って持ってくるつもりだったけども、果たしてそれだけでいいのだろうかって考えが、僕の頭に浮かんだ。もう1品か2品くらい、加えるべきかな。
いや、できなくはないけど希望にない和菓子は、僕が無理をしているって思われてしまうから、作るのなら予定通りようかん1品だけにしておこう。お返し花冠のこともあるしね。
後はそう、何があっても絶対に作って持っていくってところまでにはならないようにしなきゃ。忙しかったり、万が一体調不良になった時とか。
「おばーちゃん、こんにちはー……あ!」
そんなこんなで、思いの外盛り上がったお陰で駄菓子屋さんに居る時間が1時間半を超え、流石に迷惑だと思ったらしいルナが次に行こうと提案した刹那、お店の中に1冊の古びた本を持った小鈴が入ってきた。
(わぁっ、そんなに……?)
で、サニーたちと一緒に僕が居ることに気づくや否や、ニコニコしながら話しかけてきたのである。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。