「小鈴ちゃん、何しに来てたの?」
「補修終わりの本を届けに。何日か前に、おばーちゃんにお願いされてね」
お菓子を食べたり、駄菓子屋店主のおばあちゃんやお兄さんとのお話を長時間楽しんでた、僕たち6人。
そろそろ次に行こうと考えていた最中、用事があったらしくて訪れた小鈴に話しかけられ、その流れで僕が遊びに誘い、サニーたちはもとよりチルノや大ちゃんが歓迎してくれたのも相まって、駄菓子屋さんを立ち去った後から一緒に遊ぶことになったのである。
「へぇ。小鈴って、本の補修をやってるの? やったことないから詳しくは分からないけど、大変そうってことくらいは分かるよ」
「そう! だから、鈴奈庵の本と私の友達やお世話になった人の本限定にしてるんだけどね。他の人の分もやってたら、手が回らないというか疲れるし」
「だよね……もし、僕がお願いしたらやってもらえる?」
「メノウちゃんの? 手が空いたらだけど、やるよ!」
「わぁ、ありがと! その時がもし来たらお願い!」
「でも、メノってルナくらい本を大切に扱ってるし、そうそう来なさそうだけどねー」
「そりゃそうでしょ。普通にしてればそんなに来ないって」
ただし、何をして遊ぶかは例の如く全く決まっていないので、取り敢えず人里を散歩しながら考えてるものの、これだって思ういい案が中々出てこない。
僕個人としては、この状況そのものがもう既に幸せであり、楽しい一時である故にずっとでもいいんだけど、他の皆はそうはいかない。
家族や友達とのお散歩が嫌だとか楽しくないって訳じゃないけれど、せっかく遊びに来てるんだから、ただ歩き回る以外のことをして楽しみたいって思ってるんだし。
妖精の中でも元気っ娘筆頭格なチルノやサニーは、特にそう。妖精みたいに好奇心旺盛で、ニコニコしながら僕たちとのお話を楽しんでくれてる小鈴も、多分だけど殆んど同じ感じかな。
(僕自身に力が、完全強化形態の力を素で扱えるくらいあれば……いや、そもそも信用がまだないしなぁ)
ならば、人里の外でもいいんじゃないと一瞬よぎったけども、僕たちはともかく小鈴を連れていくのは危ない。霧の湖は視界不良な上に寒過ぎる、紅魔館はレミリアが人里の人間さんを招き入れるのに消極的、魔法の森は霊夢や魔理沙や咲夜を見てたら感覚が麻痺してくるが、本来は人間にとって有害な場所。
その関係で、魔法の森の内部にあるアリスや魔理沙の家、ラルバの別荘洞窟、僕たちの家である妖精大樹も厳しい。理想郷みたいに直行できる手段があるなら別なんだけど、実際はそうじゃないから。
それに、里の人間さんを勝手に外へ連れ出して何かあれば、僕はきっと怒られるだけじゃ済まない……いや、それだけならまだマシだ。ほぼ確実に、サニーたちやチルノや大ちゃんも巻き添えを食らうことになる。
うん、僕の方から誘うのはやめよう。考えるのは、小鈴が凄く行きたがって頼み込んできた時かな。
仮に行けることになったとしても、少なくとも今日ではない。チルノと大ちゃんが、理想郷や紅魔館みたいによく行くところじゃないところがいいって言ってたしね。
「ん~、美味しいわー! 発売されたら絶対に買う――」
「おーい、小鈴お姉ちゃーん!」
散歩途中、偶々通りすがった和菓子屋さんが妖精と子供相手に配ってた、試作品の金平糖ときな粉飴を皆で味わっていると、寺子屋の方角から小鈴を呼ぶ男の子たちの声が聞こえた。
随分と仲良しなのか、呼ばれたことに気づいた小鈴も嬉しそうに手を振って答えている。
というか、よく見たら性格がルナ似の末弟くんも一緒だ。わたあめを頬張りながら僕の方を見ているけども、少し微笑む程度だった。
沢山の人や紅魔館のメイド妖精たちが行き交う中、大きな声を出したり仕草を見せるのは、やっぱり恥ずかしいってことかな。
「ねーねー、四妖精たちと何してんの? もしよかったらさ、全員おれらとあっちで球遊びしよーぜ!」
「いや、一緒に絵本を読んだりしよっ。ルナちゃんも居るんだし」
「サニーとチルノが一緒なら、やっぱり外で遊ぶ方がいいんじゃ……?」
「いいや、読み聞かせ! そもそも、お外じゃなくたって身体は動かせる!」
「あーあー、もうっ。君たちはいつもすぐ言い争い始めるんだから……」
「あはは! 私たちくらいの子供に大人気だわ、小鈴!」
「よく読み聞かせしてるしねー。実際、小鈴の読み聞かせ技は能力も相まって凄いと思うのよ」
「うんうん。読まれてる本の世界に、聞いてる人を没頭させるだけの力があるもんね」
話を聞く限り、仲良しな小鈴を寺子屋の中に連れてって遊びに誘おうとしてる男の子たちは、当たり前のように僕たちも一緒に誘って遊ぶつもりでいるらしい。
そして、サニーたちとチルノと大ちゃんも、次の場所が決まらない上に選択肢の中に寺子屋が入っていたからか、男の子たちの誘いに結構乗り気だ。であれば、僕の意思も決まったようなものである。
「なあ、メノ。あたいたちは誘いに乗るつもりだけど、どう?」
「チルノたちが乗るのなら、僕も乗るよ。えへへ」
「りょーかい! ということで、あたいたちも小鈴と一緒におまえたちと遊ぶぜ!」
しかしまあ、寺子屋の子供たちも他の皆相手ならともかく、大して付き合いもない僕をというかあの時の末弟くん他4人以外、初対面なのに普通に誘ってくれるだなんて。あの騒動解決から、そんなに時間も経ってないのに。
これも、レミリア他沢山の人妖さんが動いてくれたお陰。僕があの人たちとは違って、ちゃんと話せる元人間の妖精だって分かってもらえたんだし、何度でも言うけど感謝と恩返しは1日たりとも欠かせないね。
「こんなに堂々と入れるなんてなぁ」
「えっ。メノちゃん、こそこそと入ったことあるの?」
「ないよ。あそこの壁の上に、サニーたちと一緒に座ったことがあるくらい……いや、敷地内に入ってればあるって言うのが正しいかな?」
「着物を着た日のことね! 私もよく覚えてるわ!」
「あー……そういえば、そんなお話してたもんね。サニーちゃん」
という訳で、総勢16人の仲良し子供軍団となった僕たちは広い寺子屋の中庭で、球遊びなども含めてわいわい遊ぶことになったんだけど、よくよく考えれば慧音さんに声を掛けてない。
時々通ってるチルノや大ちゃんならまだしも、生徒じゃない僕やサニー、スターやルナや小鈴が勝手に押しかけて、寺子屋の中庭で遊んでたら怒らないかな。
でもまあ、実際には壁の上の腰かけるところまでとはいえ、サニーたちと姿を隠してこっそり侵入した僕が言える立場じゃないし、駄目ならこの男の子たちが堂々と誘うはずがない。
例えば、妖精なら基本自由に出入りを許してるレミリアの紅魔館みたく、特定の条件下で部外者が寺子屋に入ることを慧音さんが許してて、それに僕たちがちゃんと当てはまってるって感じだろう。
「てかさ、メノウってわたしたちと球遊びしたことなくない? つまり、ルールとか知らない訳だ」
「「「あっ」」」
鞠を持ってきてた1番背の高い女の子の指示に従い、ある程度大きな円の形に並んでさあ始めようってなった刹那、僕の方を見たこの子がふとこんなことを口にする。
うん、確かにその通りだ。何の疑問も持たずにサニーたちと陣形を組んだけど、詳しい説明を何も受けてない。
ただし、前世の学校の授業か体験学習的なやつで習った、確か蹴鞠って平安時代に来た球技に結構そっくりだったから、ある程度推測はできる。これが正しい前提だけど、説明なしに始まっても何とかなるとは思う。
とはいえ、一応確認はしておかなきゃ。初心者の僕にばかり意識を割かせて、肝心の遊びが楽しめないってことになったら皆に申し訳ないもの。
「よく分かったね。蹴鞠を知ってるなら、このまま始めてもよさそうだけど……大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。もしオリジナルのルールとかがあったら、その都度君とかサニーたちに教えてもらえれば」
「そう? なら……それっ!」
なお、確認してみた結果は僕の推測通りだったことが判明したため、細かな説明はひとまず置いておいてこのまま始めてもらうことにしたら、鞠が僕のところに飛んできてびっくりした。もう少し間隔を空けてからにして欲しかったなぁ。
ただまあ、そこは弾幕ごっこをサニーたちと練習し、霊夢や魔理沙にも時々先生役をやってもらってる僕。鞠の位置自体はちゃんと把握できてるので、数歩下がって10時の方向に居るルナの方に身体を向け掛け声をかけつつ、右足でぽんと蹴り返す。
鞠の固さは程よく、僕が全力で蹴ってもそんなに痛くなさそうなくらい。まあ、最初に蹴ってきた女の子が平気なんだから、そりゃあ僕でも平気だよね。
「おっ、あたいの方に飛んできた!」
「あれ、私じゃなかった」
「チルノ、ルナ! ごめん!」
しかし、鞠を蹴って狙った相手のところへ飛ばす技術と、弾幕を相手の方に飛ばして当てようとする技術は言わずもがな完全な別物。結果、狙ったルナの方ではなく、その数歩分隣に立ってたチルノの方に飛んでいった。
構えてたルナには肩透かしを、自分じゃないって思ってたチルノはびっくりさせちゃったけど、2人ともそこまで気にしてる様子はない。練習してないし、楽しめれば別にいいって思ってくれてるのかな。
まあ、気にするだけの余裕がないだけかもだけどね。
「大ちゃん、行くよー!」
「わわっ、勢い強過ぎるよチルノちゃん! えっと……やあっ!」
「あら、ど真ん中に来たから蹴り返しやすくていいわね! メノ!」
「今度こそは上手に……っと、えいっ!」
「メノウちゃん、上手にできてるよ! スターちゃん!」
「っとと、なんとか取れたわー! じゃあ、次は君ね!」
それにしても、チルノも含めて鞠を蹴るのが上手だなぁ。大体狙った相手が蹴り返しやすい場所に返せてるし。
たまに逸れることだってあるけれど、皆がとても上手にカバーし合えているから、今のところパスを回せてる。
ちなみに、その中でも狙いを大きく逸らしがちなのは、ボール遊びの経験が前世込みでもあんまりない僕と、運動するのは好きだけどちょっぴり苦手らしいルナ似の末弟くんの、合わせて2人である。
一方で、その対極に位置するのは大ちゃんとスターと小鈴、最初に僕へ鞠を蹴ってきた背の高い女の子他3人。意識せずとも呼吸ができるように、他の皆へ意識を向ける余裕すらあるんだから、本当に凄いや。
しかも、それでいてこの中で1番下手っぴな僕や末弟くんにも優しく、逸らしてばかりで申し訳なくする度にニコニコで気にするなとか、私たちは楽しいよって言ってくれる。
(学校が寺子屋みたいなところだったら、僕も……)
なるほどね。妖精さんみたいにとっても元気で快活な、アウトドア派集団の中に入ってる末弟くんが比較的居心地良さそうにしてるのも、この偽りなき優しさがあってこそだって。勿論、家族で賑やかな雰囲気に慣れてるって要素もあるだろうけど。
そうでなきゃ、今頃彼は外で遊んだりしていない。僕が初めて会ったあの時も、あの場に居た全員……特に、元気っ娘筆頭のチルノとは、目も合わせられなかった可能性すらあっただろうから。
「ふびゃっ!? いてててて……あうっ」
「メノ、大丈夫? ドジ踏んだ、いつもの私みたいな転び方してたわ」
「……えっと、うん。でも、僕のミスで記録途切れちゃった」
「結構長くできてたし、そんなの気にしないでいいぞ! そもそも、この場の誰も気にしてないと思う!」
「そーだぜ! ただの遊びなんだしさ!」
こんな思考を、頭の中で巡らせてしまってたからだろうか。
せっかく、地面に落とさず鞠を長く蹴り続けられていたこの状況も、ルナからのパスを取ろうとして足を滑らせ、派手に尻餅をついた挙げ句に鞠が頭にぶつかり、取り損ねたことで終了となってしまうのである。
ただまあ、僕も含めてこの球遊びに参加した全員が楽しめていたって事実があるだけで、一瞬抱いた申し訳なさが風船から空気が抜けていく時の如く、消えていったから良かったけどね。
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