サニーやスター、ルナや魔理沙から褒めてもらえたり甘やかしてもらえるのは、言わずもがなこの上なく幸せで嬉しいことだ。
どれだけ嫌なことがあろうとも、これだけで即座に帳消しにして尚余りある、究極の幸福と言えよう。
勿論、チルノたちや紅魔館の皆はもとより、霊夢にあうん、霖さんやアリスから同様に扱ってもらえれば、とてつもない幸福感が僕の心を包み込んでくれるのだ。嫌な出来事があっても、次の瞬間にはなかったことになるだろう。
で、それには一歩か二歩劣るけど、家族や友達ではない人妖さんが僕のことを褒めてくれたりしても、認めてもらえることが嬉しくて、心は暖かくなる。
故に、褒めてくれる時に何度同じような言葉を繰り返されても、内容がどんなに小さなものだって、感じる幸せは不変。だからこそ、これからも沢山褒めてもらえるように、僕は頑張らなければならない。
「今日もメイドのお仕事お疲れ様! 後、メノは帰って来た後すぐ、来客2人に料理を振る舞うお仕事増えちゃったけど……ふふっ。疲れって何だって顔をしてるわね!」
「うん。幽々子さんと妖夢さんが、僕の作った料理で喜んでくれた。サニーとスター、ルナがそれを見て幸せそうだったし、魔理沙だって嬉しそうだったもの」
「ふぃぃ……そりゃ、メノの料理でも満足しないなら多分、誰の料理を食べても満足できないわー。好みの問題とかはあるけどね」
「絶対にないしさせないけど、誰かが悪意を持って妨害したりしなけれ……冷たっ!? ちょっとサニー、いきなり水かけないでよ」
「あははっ! ごめんごめん、ついやりたくなっちゃって」
「ふふ、相変わらず楽しそうだね。サニーもルナも」
そして今日、紅魔館のメイド妖精としての仕事は相変わらずの忙しさだったし、帰った後もついさっきまで家に来ていた幽々子さんと妖夢さんに、全力の料理を振る舞った。
疲労感としては正直結構なものだったけれど、食べ始めてから帰るまでに振る舞った2人にこれでもかと褒められたから、対価としては十分だ。
食べ終えてからすぐ、さて帰ろうと席を立ち上がった幽々子さんな、「貴女の料理の虜になったわ。また来るわね」と、頭を撫でながら言われたその言葉は、僕にとってかなり高い価値を持つ。
サニー曰く、咲夜や霊夢と同等と言われる妖夢さんの料理と同程度の高評価を、幽々子さんはつけてくれたらしいから尚更である。
それに、2人が魔理沙と一緒に立ち去った後は、労いと称してサニーやルナは勿論のこと、メイド妖精の仕事で疲れているはずのスターから褒められ、甘やかしてもらっている。
早めのお風呂にも入って、いつものように賑わうサニーたち3人の様子も見れているから、疲れなんてもうない。何だったらもう8時間、働ける活力すら漲ってきていると言っても良い。
とはいえ、実際に疲れがなくなっているのではなく、気分の高揚で感じなくなっているだけの可能性は否定できないし、そもそも働こうとしたって、十中八九サニーたちに止められるだろうけど。
でも、僕が働くことで大好きな家族や友達が喜び、嬉しがり、幸せに思ってくれるのであれば、僕は大喜びで働ける。それこそ、体力の限界を突破してしまおうとも。
だから、いつでもお願いは受け付けてるよ。サニー、スター、ルナ。
「さてと、メノ! 次は貴女の番よ!」
「うん」
すると、ルナの背中を流し終えたサニーがお風呂用の椅子を手でトントン叩きながら、僕にそこへ座るように促してきた。無論断るはずもなく、促されるままに座る。
さっきみたいに時々冷たい水をかけたり、背中とか羽をくすぐってきたりといった、ちょっとしたイタズラを仕掛けてくることもあるけれど、これも微笑ましい家族同士のやり取りと考えれば、僕的には全くないと逆に心配になる。
(……)
そういえば、僕の方からこういうイタズラを仕掛けたことは、記憶の限りだとなかった。今まではやろうかなと考えたことはあっても、やった時の反応がちょっと怖くて、二の足を踏んでいたからだ。
でも今日は、何故だかやってみた時の反応を想像してみても、全く怖さを感じない。むしろ、時と場合が合致した今なら、何か面白い反応を見せてくれるかもって考えてしまうくらいには、枷が外れている。
ちょっと、考えてはみようかな。
「どう? 私の力加減とか。後、かゆいところとかあったら言ってね!」
「いつも通りの心地よさだよ、サニー。かゆいところは、今はないかな」
「ふふっ。今日もメノに、満足してもらえてよかったわ!」
なお、僕の背中を流してくれてるサニーの手際は、今日も何ら問題はない。弱すぎず強すぎず、ちょうどいい加減で洗ってくれるから、凄く心地よかった。
場所が場所だし、状況が状況だから絶対にあり得ないものの、この場で横になって目を瞑ったとしたら、そのまま寝れてしまうのではないかと思う。
だから、サニーたちに頼らなくたって頑張れば自分1人で洗えるけど、できることなら毎日やって欲しい。
手が届きにくくて面倒な背中を、自分で洗う手間を省けるからというよりは、大好きな家族から全幅の信頼を置かれている事実を認識できて、幸せだからという理由の方が断トツで大きいからだ。
全然信頼していない相手との入浴なんて、僕だったら緊張やら何やらでお喋りすらしようと思わなくなるだろう。逃げるようにして上がるかもしれない。
「えへへ……今日もありがと。サニー、お返しに背中流すよ」
「ええ! じゃあ、せっかくだしお願いするわ!」
手早く前側と髪の毛を自分で洗いつつ、背中を流してもらった後は勿論、お返しにサニーの背中を流してあげることも忘れない。そう言いつつ、サニーから信頼されていると実感できて僕も幸せになるので、『お返し』になっているかどうかは微妙なところではある。
僕の羽の桜色の光が、その気分を高揚させているのも鑑みれば尚更だ。
ただまあ、羽がピョコピョコ動いてたり、鼻歌を歌ってたりと、サニーが嬉しかったり楽しいと思ってる時特有の仕草を見れば、別にそれでも良いかな。
この場で何よりも重要なのは、僕の抱いている感情よりも、サニー本人がどういう感情を抱いているのかなのだから。
(えっ……?)
そうやって考えながら、羽の根元から先っぽを優しく、背中を少し強めに身体洗う用のスポンジでこすってあげている時、何故だかルナに小さめのじょうろを渡された。なお、中身は冷たい水である。
更に、スターは何か企んでいる顔をしていて、じょうろを渡してきたルナは、僕にだけ聞こえる声で「ほら、やっちゃえ」と囁いてきた。
僕の、サニーにイタズラしてみたら云々との考えを正確無比に読み取り、後押ししようとしているのだろうか。それとも、また別の理由があってのことなのだろうか。
ただ、後者の方だったとしても、されたイタズラの仕返しに僕を使うという、そんな理由ではないことだけは確信が持てる。
スターもルナも、僕が心から嫌がるような何かを無理にさせたがるような、前の人たちみたいな性格ではないのだ。
だから、僕はちょっと嘘をついてサニーを無防備にした後、じょうろの水を背中にかけるイタズラを思い切って決行することに決めた。
「サニー。背中、
「はーい……びゃあ冷たいぃ!? えっ……えぇ?」
当然といえば当然だけど、暖かいお湯をかけられると思っていたサニーは、僕が水をかけた瞬間に大きな声をあげて驚く。
羽がピーンとなって、後ろを振り向いた時にじょうろを持っていた僕を視界に入れた時の、戸惑いの表情を見せるサニーはとても微笑ましかった。
ただ、これを見てさえルナの方に視線を向けて、もしかして
実際のところ、ルナは迷いに迷っていた僕の背中を軽く押してくれただけ。イタズラというのは基本、喜ばれるものではないのだから。
「てへっ。サニー、やっちゃった」
「……あはっ。やったわね~、メノ! お返しよ!」
「ひにゃあ!?」
だけど、僕がわざとらしく笑いかけてみたら、そこで全てを察してくれたらしい。どういう訳か、物凄く嬉しくて幸せそうではあったが。
で、そんな高ぶる気分のままに両手で僕の頬を挟んでみたり、じょうろにまだ残っていた水をかけてきたり、羽をくすぐってきたりなど、何というか……とにかく、サニーは大はしゃぎだった。
つまり、場を弁えさえすれば、これから先似たようなイタズラをしても、余程派手にやり過ぎない限りは全く問題ないと太鼓判を押されたも同然であろう。
でも、こうやって求められていることをするのって、果たしてイタズラと呼べるのだろうか。まあ、行為そのものは世間一般的にはイタズラと呼んで然るべし、なのだろうけども。
「もしもーし。2人だけで楽しんでないで、私とルナも混ぜて欲しいわー!」
「そうだよ。せっかくだし……あっ――」
「「ルナ!?」」
なお、そんなサニーや僕の様子を見守ってくれていたスターやルナだったけど、やっぱり我慢できなかったらしく、途中からこの大はしゃぎに加わってくる。
そこそこ長くお風呂に入ってるし、このテンションでずっといるとすぐにのぼせてしまいそうだけど、それでも構わない。
サニーやスター、ルナがそれでも構わなそうにしているのが大前提だけど、こうしていると凄く幸せで楽しいんだもの。
だから、限界が近くなるまで何も言わないでおこうと、僕はそう考えたのだった。
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