「氷精さん、沢山増えてるね。チルノちゃん」
「確かに増えたよな! 賑やかになって嬉しいぜ!」
霧の湖の畔、あたいは唯一無二の親友大ちゃんと住むかまくらの近くに生えてた木の切り株に座りながら、湖の上空を飛び回る氷の妖精を一緒に何となく見ていた。
いくらあたいや大ちゃんといえど、年がら年中はしゃいで遊んでいる訳じゃない。無限の体力と気力があるなら話は別だったかもしれないけど、実際にはそうじゃないし。
だから、たまには息抜きとしてこんな感じに、ゆっくりのんびり座って過ごすなんて時もある。
でも、やっぱりどちらかといえば、妖精軍団の誰かしらと楽しく元気にはしゃいで遊ぶ時が多い。
明後日に控えるメノのお誕生日会のために、クッキー作りとか縫い物の練習をしていた時間が多かったのも相まって、一気に増えたあの氷精たちの輪に混ざろうかって考えが浮かぶくらいには。
(もう明後日かぁ。メノが生まれて早1年、色々あったけど……楽しかった!)
ちなみにだけど、そのためにアリスの家や紅魔館などに行くのは、昨日でおしまいとなっている。自主練習は止めないけど、後の2日は休息してエネルギーを蓄えた方がいいってアリスとかレミリアに言われたから。
確かにそうだと、言われた瞬間にあたいは思った。前の日の夜まで頑張ろうとも考えたけど、そのために体力はともかく気力や集中力をギリギリまで使って、肝心の当日に使える分がなくなってヘロヘロになったら、メノが悲しむもんな。
お祝いされる側から、する側のあたいや大ちゃんが体調を気遣われるなんて、これこそけーね先生の言ってたえーっと……あれだ。本末転倒ってやつ。
「わはははは!! やっほー! やっほー!」
「ん? あの氷精、あたいに手を振ってる? いや、あたいにと言うよりは、大ちゃんにも?」
「振ってるね。振り返してあげよっか」
「おう! やっほー、どうしたー!」
「わはっ、何でもない! 呼んでみただけ!」
「だってよチルノちゃん。元気だね、あの子」
「あはは、あたいたちみたいだな!」
「サニーちゃんとか、最近だとメノちゃんもだよね。ふふっ」
それにしても、ここ半年で幻想郷にも妖精が目に見えて増えたよなぁ。霧の湖だけを見てみても、掌に乗る程度の大きさからあたいたちくらいの大きさの氷精まで、数十人単位で飛んだり跳ねたりしてるし。
しかも、大半があたいと同じこの湖のどこかで生まれているらしく、力の強さはともかく容姿とかがそっくりな氷精が多い。今しがた、あたいと大ちゃんに手を振ってきたあいつもそうだ。
後はそう、大ちゃんとそっくりな容姿と、強さはともかく力の種類が同じ風の妖精も数は少ないながら、ちらほら見るようにはなってる。とびきり力の強い大ちゃんが、あたいと一緒に住んでるからかな。
霧の湖生まれだからか、寒さに対して普通の妖精よりもある程度耐性が強く、服装も暖かそうだから。
あたいと似たような能力を氷精たちが持ってて、一緒に仲良く住めるように使ってあげてるからって理由も、きっとある。
「大ちゃん。あたいの能力での守りなしで平気? 厳しくない?」
「えへ。大丈夫だよ、チルノちゃん。強化形態になれるようになってから、一層強くなった感覚があるもの。ただ、夏だからってのもあると思うよ」
「あは、そりゃそうか! あたいが元気になって仕方なくなるくらいだもんな!」
でもまあ、1番は今が夏だからだな。年中冷える霧の湖とはいえど、あたいが強固な意思を以て冷気を操らない限りは、夏場は避暑地にも使われることがたまにあるくらいだし。
ただ、その理由が1番強いとなると、真冬になった時に新しく生まれた風の妖精たちが、果たしてどうなるかが少し不安。
せっかく大ちゃんと仲良くしてくれる友達が、あまりにも寒過ぎるせいで消えて居なくなれば、実質あたいが友達を奪ってしまうことになるからだ。
(……へへっ)
遥か昔、飛び抜けて力
強そうな妖怪に襲われてるのを偶然見かけて、何故かは分からないけど見逃せなくて、迷いに迷った挙げ句に刀みたいに鋭い爪から庇って1回休みになった時が、今現在唯一無二の大親友である大ちゃんとの初対面。
それ以降、自分が寒さで調子悪くなろうがあたいが強く突き放したりわざと冷たい態度を取ろうが、会う度に構わずあたいに話しかけ続けて友達で居ようとしてくれた。
力の制御がダメダメなら頑張って練習すればいいでしょと言い、別にいいのにわざわざあたいのかまくらに引っ越してきて、毎日のように喧嘩しながらも一緒に付き合ってくれた。
お陰で今、技術でも胸を張ってさいきょーの氷精だと言えるようになったんだよな。
今の妖精軍団の皆との間に立って、仲良しの友達になったり戻れるように取り成してくれたのも、本当に感謝してる。
特に、サニーとスター、ルナに関しては小さな喧嘩中に制御を外れた能力による氷や冷気で、故意ではないにしろ酷く傷つけちゃったせいで大喧嘩に発展して以降、目を合わす度にギスギスしてたのが気になってたから、仲直りできた時は泣いて喜んだっけ。
ああそう、寒さに特別弱いクラピとも一緒の布団で寝れるようになったのも、真冬の霧の湖でも楽しく遊べるようになったのも、大ちゃんが力の制御を無理やり練習させてくれたお陰だ。
他にも色々、大ちゃんが居てくれたお陰で助かったことは沢山ある。あり過ぎて、全部言えと言われたら凄く長い話になるのが確実なくらい。
これ程親しげにする妖精を唯一無二の大親友と言わずして、一体誰を大親友と言えるのだろうか。
「大ちゃん。昔のこと、覚えてる? あたいと初めて会った頃の」
「ふふっ、急にどうしたの? 勿論覚えてるよ。身を盾にしてまで、私を襲ってきた怖い妖怪さんから助けてくれたチルノちゃん、かっこ良かったなぁ。どうして助けてくれたのかって、不思議でもあったけどね」
「へへっ。本当、あの時のあたいは何で大ちゃんのこと助けようだなんて思ったんだろ? 他人同士だったのにさ」
「チルノちゃんが、心優しい妖精さんだったからだよ。今と同じで」
「うーん……そう? 今だから言えるけど、正直逃げようかって迷ってた」
「えっとね、それが普通なの。チルノちゃんに限ったことじゃないと思う」
心の中で、あたいでも決して忘れられない過去の思い出を思い出していたからだろう。気づいたら、あたいの口は大ちゃんにそう語りだしてた。
こうやって上を見たりしながら、のんびり話をしたりして楽しむ今には相応しくない内容なのは、ちゃんと分かってる。だけど、喉の奥から出てくる言葉は頭の中とは裏腹に、全然止められない。
嫌だったり辛い部分もあるけれど、同時に満ち足りた幸せを感じられる、あたいにとってなくてはならない過去でもあるため。
(……あはは! 本当、大ちゃんに出会えたのは運命的だぜ!)
改めてそう考えてみると、メノがサニーやスター、ルナを自分の命以上に大切な家族呼ばわりして慕う気持ちが、猛烈に痛い程理解できる。
多分というか絶対に、今のあたいなら大ちゃんに危機が迫ったとしたならば、相手が逆立ちしても勝てないような、例えば太陽の神みたいな存在でも臆せず立ち向かうつもりだから。
「ん? チルノちゃん、花冠かな。頭に乗せられてるよ……?」
すると、大ちゃんがあたいの頭を指差しながら、こう不思議そうな顔をして尋ねてくる。手をやって取ってみたそれはひんやりとしていて、淡く青く光る花の冠だった。
そういえば、理想郷巡りをした時に行った蒼氷の渓谷の、クレバスの奥底に生えてたような覚えがある。少なくとも、幻想郷では見たこともない。
「えっ。うわっ、いつの間というか、大ちゃんの頭にもあるぞ。あたいのとは違うけど」
「わっ、本当だ! 綺麗だね……あれ?」
そうしたら、あたいが少し目を離した隙に大ちゃんの頭にも、ぴったりはまる花冠がつけられていた。こっちの方は、理想郷の大風の大森林で生えてた植物で、幻想郷では似たようなやつは見たことあっても、同じやつは見た覚えがない。
(いつの間に……?)
と、そこまで考えたところであたいも大ちゃんも、自分たちがメノにお願いした花冠であることに気づいた。挟まってた白い紙に書かれてた文の内容が、お返し花冠できたからあげるってメノからのメッセージだったから。
姿が見えないのはサプライズでもしたかったのかと思いつつ、もう1枚の方の色々書いてあった方の紙の全文を見たら、気遣ってくれたからだと分かった。正確には、しようと思ってはいたらしいけど。
ありがたいし、友達思いの妖精らしいなって思ったけど、あたいとしてはメノたちなら別にいいのにとも思ってたのにな。本当に2人だけで居たいなら、ここで座ってたりしないしさ。
というか、この場の喧騒やあたいと大ちゃんが気を張ってないって理由こそあれ、頭に被せられるまで何も感じなかったから、最初はサニーたちと一緒なのかと思ってた。
でも、実際はルナだけしか居らず、サニーやスターの代わりにパチュリーや美鈴だけでなく、レミリアも一緒とは予想外過ぎてびっくりである。
一緒に挟まれてた紙に書かれた全文を見なければ、多分ほぼ確実に気づかなかっただろう。
音だけは良い具合にルナが消して、残りの気配とか姿はパチュリーたち3人の内の誰かが代わりに消したって感じかな。
「私とチルノちゃん、花冠をお願いしてから4日くらいしか経ってないのに……頑張ったんだなぁ、メノちゃん」
「うん。もしかしたら、サニーたちに止められても「チルノと大ちゃんのためなら、僕の時間なんて要らないっ!」とか何とか言って、強い意思を示したのかもな!」
「うふふ、あり得そう。だから、妥協案としてルナちゃんが一緒についてったってところかもね」
掌にある手作り花冠を、じっと見る。パチュリーたちの手助けがあったって、初めての花冠にしては随分と上手くできてた。料理に掃除に整理整頓に加え、縫い物も上手なメノならばあり得ない話ではないにせよ、凄いことには変わりない。
青く光る薄い花びらを、所々にある葉っぱなどを、壊さないようにそっと触る。長持ち丈夫をモットーに作ったと書いてあったとはいえ、それが少し扱いが雑でも大丈夫な理由にはならない。
あたいの大切な友達の手作り、あたいに喜んで欲しいって思いがひしひしと伝わってくるこれは、丁寧に扱って然るべき贈り物だもん。
ただし、丁寧にし過ぎるがあまり飾り物にするのも駄目。毎日は無理だから時々普通に花冠として、長く大切に身につけてあげるべき物だから。
同じ壊れるにしたって、大切に使い続けて自然に劣化した果てのそれならば、メノもきっと嬉しいよね。
「えへへ……ありがとう。大事にするからね、メノちゃん」
「今も聞いてるか分かんないけど、ありがとなー! メノ――」
そう思いながら頭につけ、大ちゃんに続けて感謝の思いを声に出して紡いだ刹那、後ろからガバッと抱き着かれた時のあの感触がしてびっくり。同時に、とても温かく心に幸せが満ちる感覚も覚える。
(強化形態……だよな?)
余程嬉しかったのだろう。後ろを向いてみれば、そこには姿を隠すのを止めたルナの髪型をしたメノが、涙を流しながら強化形態になっていた。
ただし、髪色が殆んど黄土色になっていて、ゆらめく
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