「メノ、喜んでくれるといいよねー!」
「喜んではくれるでしょ。まず間違いないって」
妖精たちの理想郷内部、春告精の私にとって歓喜にうち震える大風の大森林にラルバを連れて遊びにきていた最中、ふとあの時のことを頭の中に思い浮かべる。
サニーとスター、ルナの3人がいつにも増してニッコニコの状態で、メノへのお祝いメッセージや似顔絵を描いて欲しいと、わざわざここに来てまでお願いしてきた時のことだ。
春好きの同士であり、大切な友達でもあるメノを喜ばせるためとあっては、断る理由は見当たらない。ラルバもその点は私と完全に一致していたので、守護妖精のアドバイスをもらいながら頑張って描いたっけ。
メノの体調不良とかみたいに、続行不能な万が一があれば延びるかもしれないにしたって、このまま全てが順調ならメノのお誕生日会まで確かもう今日を入れて2日もないんだっけ。早いなぁ。
今更ながら、あの時変なことを書いてしまったかもと頭をよぎったけど、渡してしまった後なんだから後の祭りだってことで、気にするのはここまでにしておかなきゃ。
「ええ、ラルバ様の言う通りでしょう。強化形態と呼ばれる幻想郷の妖精独自の、推定完全な状態が続いているにも等しい状況が作られる程には」
「守護妖精さん、分かるんですか?」
「無論です。相当前ですが、この理想郷はメノウ様の
「そういえば、そんなこと言ってたなぁ。リリーは覚えてる?」
「うん! あ、道理でここの春のお花たちが前より元気だった訳だ。ふふっ、メノのお陰!」
けれど、三妖精や妖精軍団の間では当然として、魔理沙やレミリアなどの親交の深い面々の間でも周知の事実ではあるんだけど、メノは私たちが何をしても何をあげようとも喜ぶ妖精。
一緒に遊ぶ、他愛もないお話をする、美味しいものを食べたり飲んだりする、甘えさせてあげる、ぎゅーっとしてあげるみたいに沢山経験できる特別なこととかじゃなくても、特別なことをされたと言わんばかりに。
勿論、実際には特別なことをしたりプレゼントを贈ったりすれば、普通のことよりも喜びはするけれど、全体的に平均が高過ぎてほぼ誤差みたいなものだしね。
(可愛らしいところは、きっと変わらないね)
しかし、メノの強化形態の完全版かぁ。不完全版なら知ってるけれど、果たしてどうなるんだろう。今までの流れを見るに、サニーとか高ぶる私のような、お騒がせ妖精みたいな振る舞いでもしそうだよね。
力がどうなるかについては、考えるまでもない。真冬のチルノ並みに強く、妖怪相手でも対抗できる存在になるのは間違いないんだから。
「リリー。メノってさ、本質的に実は大人しくないのかもしれない」
「え? あー、うん」
そういう想像をしながら、飛んでたカラフルな色合いの蝶々を観察していた時、ラルバがこんなことを言ってきた。さっきまでの話とは内容が違うけど、メノについての話ではあったからふと疑問に思ったのかもしれない。
(思わず同意しちゃったけど……)
確かに、最初の頃は私もメノをルナと同等以上に大人しい妖精だと思っていた。はしゃぐ時ははしゃぐけど、前世の記憶とかも相まって、基本は控えめな感じだったから。
しかし、段々と付き合いを深めていく内にサニーのようになる頻度が増え、理想郷ではイタズラをスターや魔理沙相手に嬉々として仕掛けるなど、他の妖精みたいにはっちゃけてる。
果てに、レミリアが前世のしがらみをこの上なく完全に断ち切ってからは、トラウマこそ残れどその傾向が顕著に出始めた。魔理沙でさえ、「メノの奴、前世の頃も本質的に妖精に近かったのかもな」って思うくらいには凄い。
そうでなければ、人間の男の子だった前世の記憶が完璧な状態で残っている以上、いくら今世の種族である妖精の女の子の影響があったって、ここまでの短時間で立ち振る舞いが変わる訳がないもの。
でも、裏を返せば妖精のように元気で陽気な本質を完全に封じられてしまう程に、前世の生活が過酷だったということに他ならない。心がぎゅっと締め付けられる程に辛くなるから、考えたくないかな。
「まあ、メノが大人しかろうと実はそうでなかろうと、私は別にいいけどね。一緒に遊んでて楽しいしさ」
「勿論! 本性が大人しくなかった程度のことで、私たちとメノの絆は揺らぎすらしませんよー!」
ちなみに、ラルバも言ってるようにメノの本質云々は現状全く気にならない。何時なんどきでも穏やかで、私たちに優しくて、思いやりがある性格は一切合切変わっていないから。
ただし、周りの環境で性格が変わってしまう可能性はなくはない。例えば、レミリアに排除されたあの人間さんたちのように、メノをいじめてくる何者かが出てくる形で。
(……うん、流石にないねー)
とまあ、ここまで考えておいてなんだけど、やっぱりそんな未来は訪れないかな。家族の三妖精に私たち妖精軍団を含むメノと親しい面々が、悪意からの盾になってるんだもの。
というか、レミリアと親しいどころかメイド妖精として働いてるって事実が幻想郷中に広まっている中で、直接的な悪意を向ける人が居るとはとても思えない。
紅魔館のメイドや交遊関係にあるとかでなくても、ただ妖精という種族であるだけで何かがあった時に手厚く保護してくれる、妖精たちの守護者として有名な吸血鬼さんだから。
もし居たとしたならば、その人はただのお馬鹿さんか戦闘狂い。私が言うのもなんだけどね。
「リリー! 後ろに居るのはだーれだ!」
「ひゃうっ!?」
そしたら、いきなり私の視界が誰かの手で塞がれてびっくりした。いや、大人しさの面影がありつつも元気っ娘的な声とか、ぽかぽか暖かい感じとか、リラックスできる自然の匂いからして、正体は確実にメノだ。
「わぷ……えっと、メノ? わぁ……メノだ!」
「にひひ、そうだよ。正真正銘、リリーの永遠のお友達のテルースメノウ!」
ほら。案の定、手がどけられてから後ろを振り向いてみれば、視界を塞いできたのはメノだった。格好はもとより、髪型がルナのくるくるヘアーになってて、羽の数までチルノのように増えてるのはびっくりしたけど、その他の要素は私の知る強化形態のメノである。
あっ。でも、髪型に関しては強化形態関係ないかも。都合良く、ルナと同じような髪型に変化する可能性なんて、それこそ奇跡だし。
(えへへっ、頑張った甲斐があった!)
それはそうとこの姿を見て、永遠のお友達って言葉を聞いて、私はとても嬉しくなった。守護妖精さんが言ってたし、声をかけられる前から強化形態になってたのは知ってたけど、実際に私の描いたお祝いのメッセージや似顔絵とかが、心の奥底にまでしっかり届いてたんだって実感できたから。
しかしまあ、メノって完全なる強化形態になるとこうなるんだなぁ。普段見慣れない姿というか、羽が増えるところなんて初めて見るものだから、可愛らしいとは思うけど妙に落ち着かない。
というか、メノが自分の本名をフルで言うのって、初対面の時の自己紹介以来だった気がする。何というかまあ、凄い新鮮な気分だ。
「メノ~? 私のことは?」
「ふにゃっ……勿論、ラルバだって同じだよ。大好き。愛してる」
「よかった。リリーの名前しか出さないから、てっきり忘れられてるのかって思ったわ」
「あはは! 早とちりですよー、ラルバ!」
それで、ラルバもメノに向けたお祝いメッセージの内容は私と似たような文言だったため、ニッコニコなメノにぎゅーっとされて喜んでもらってた。幸せそうで何よりである。
(あっ。だから、守護妖精さんがいつの間にか居なくなってたんだね)
しかしながら、メノに皆からの『お祝い』を纏めた1冊の本を渡してから結構経ってるはずなのに、それでもなお強化形態になるくらいだとは驚きだ。
私やラルバ、クラピにチルノ、大ちゃんからのお祝いも要因としてはあるけれど、何よりもサニーやスター、ルナからのお祝いがここまでメノを喜ばせる、最も大きな要因になっているんだろう。
そりゃまあ、あの3人はメノにとって自身の枯れた大地の如く荒んだ心を、今の理想郷のように生命溢れる大地へと回帰させ、生きる意味を与えてくれた恩人でもある。なら、当然の話だよね。
後はそう、明後日がお誕生日会の日で頭の中で想像が膨らんで、気分がいつもより高ぶりやすくなってるからなのも、メノならきっとあるよね。
「楽しそうだねリリー。いや、ラルバの方が楽しんでる?」
「メノちゃんにこう、ぎゅーってしてもらってるからね」
「わっ、大ちゃん? 今のあたいちょっと冷たいけど……」
「今更だよ、チルノちゃん! そのくらいならもう慣れた!」
で、ラルバとメノが両手でほっぺたを挟んだり、引っ張ったりしてじゃれ合い遊んでいるのを微笑ましく見守ってる最中、今度は光るチューリップを持ってたルナが大きな木の幹の向こうからやって来て、普通に話しかけてきた。妙に元気で、楽しそうなチルノや大ちゃんも一緒だ。
それはそうと、3人の内の誰かが一緒についてくれてるとは思ってはいたけれども、今日はルナと一緒に来ていたんだね。でも、チルノや大ちゃんがその輪に加わっているのは、全く想像してなかったなぁ。
「えへ、私も十分楽しんでますよー! ルナは今日、メノに連れられて来たって感じ?」
「連れられてきたというか、サニーとスターが魔理沙と一緒にお出かけ中でね。今まで、チルノと大ちゃんのために花冠を作ってたわ」
「わざわざ貴重な材料を探して、レミリアたちの手助けを借りながら作ってくれたやつらしい! 作るのが早すぎてびっくりしたぜ!」
「私の花冠も、ここで生えてたお花で作ったんだって。思いがこもった贈り物、大切な宝物にするよ」
「あはっ、メノも喜ぶねー! ところで、ルナとお揃いの髪型なのは、ルナの方からお願いしたの?」
「そうそう。いつかお揃いコーデでお出かけしたかったから、私もかなりのルンルン気分だわ」
しかしまあ、あのメノを本気でルナとお揃いにしようと頑張った結果がこれなら、本当に姉妹って感じがしてならない。生まれた場所や元となった自然が違うのに、格好と髪型を変えるだけでここまでそっくりになるなんて、どのくらいの幸せな奇跡なのかな。
だからこそ、ほんのちょっぴり、起きた幸せの分だけ不幸せがメノに来ないかが心配だ。チルノと大ちゃんの花冠の件も含め、完全な強化形態になるくらいの沢山や幸せをもらっているみたいだから、尚更その気持ちは強くなってきてる。
もう十分、前世で不幸せを味わったメノには例え小さくたって、そんなものは来て欲しくない。メノの泣いてるところ、落ち込んでいるところ、虚無感に苛まれているところ、いずれも1秒たりとも目にしたくない光景なんだもの。
「確かに、
「1つ夢が叶ったもんね、ルナ。そりゃ元気にもなるって」
「ふふっ。ルナの夢、叶えられてよかった。チルノと大ちゃんにも花冠気に入ってもらえたし、くすぐりバトルで満足してもらえて、今日はもう最高だよ!」
「ふふ。メノも、春真っ盛りの春告精くらいに元気ですよー!」
「完全強化形態だもんね。明後日にお誕生日会もあるし、尚更……わっ! メノ?」
「にへへ。また、ラルバにぎゅーってしたくなって。駄目?」
「えっ、駄目な訳ないでしょ。友達だもん」
だけど、そんなことは不可能なのは分かってる。いずれはどうしても来てしまうだろうから、万が一の時は私の中にある暖かな春の抱擁で、色々考える前にメノを癒してあげよう。
いや、そういう時って色々言葉をかけてあげるよりも、春の抱擁で暖めてあげるよりも、何も言わずにそっと隣に腰かけて、ただ単に寄り添ってあげる方が正しく癒せるかも。
私の経験則で、深く落ち込んでる時って頑張れとか色々元気に声をかけてもらった時よりも、側にただ寄り添ってもらった時の方が、何となく癒された感が強かったもの。
「あ、そうだ!」
「どうしたのー?」
「リリー、ラルバ。お祝い本のお返しに、僕に何か1つして欲しいことない? 1人1つでも、2人で1つでも、何なら3つ以上に増やしてもいいよ!」
で、完全な強化形態になる程の、いわゆる満開桜の如き沢山の幸せと良質な幸せに満たされて、気分の高ぶりが最高潮に達したんだろう。
頬擦りしながらぎゅーっとしてたラルバから離れ、唐突に私の手を掴んだかと思えば、その黄白色の輝きをより一層強くしながらこう告げてきたのだ。
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