「ラルバ、こっちの木の板塗り終わったよ! こんな感じでいい?」
「ありがとうねー! うんうん、流石はメノ。上出来だわ!」
「えへへ、やったぁ!」
魔法の森、サニーたちの妖精大樹に程近い場所の洞窟奥深くにある天然広場に佇む、私の
そのすぐ隣、秘密基地で使う物を作る時とか直す時などに使う小屋の中で、私はメノにとある作業をやってもらっていた。
近々というか、明後日ここに引っ越しをしてくることになったリリーのための部屋、それを用意するのに必要な材料の下準備である。
とはいっても、難しいことは手伝わせていない。手伝ってもらっているのは、やる必要はあるけどひたすらに時間がかかる切った木材の色塗りややすりがけ、後は物運びや小屋の掃除みたいな雑用とか。
そりゃあ、難易度は低くとも少々面倒な作業をほぼ丸投げするのはどうかとも考えたけど、日曜大工を1度もやった経験も興味も全然ないメノに、説明しながらでも技術の要る作業をいきなりさせる方が、常識的に考えればとんでもない。
例えるなら、私がメノ並みの味と見た目の豪華な和食定食、もしくはスター並みの味と見た目の洋菓子を、簡単な説明だけで練習せずにぶっつけ本番で作らされるようなもの。
序盤も序盤か、そうでなくともどこかで確実に失敗して大惨事、誰も幸せにならない結末となるだろうしね。
(いや、本当に助かるわ。リリーもニッコニコだったし)
経緯としては、今日のお昼頃にリリーと大風の大森林に居た時、ルナに加えてチルノや大ちゃんを連れていた完全な強化形態となったメノに、お祝い本のお返しと称して本人へ頼み事をする権利をもらう。
勿論、ないならないで別に無理しなくていいとは言っていた。あくまでもお返しであり、少しでも無理に頼み事をさせたらお返しの定義から外れ、ただの自己満足になってしまうからって理由で。
しかしながら、明後日ここに引っ越してくるリリーのために、できるだけ早くちゃんとした部屋を完成させてあげることを考えたら、メノの申し出はとても都合が良かった。
単純に人手が増える以上に、ペンキや木くずなどで服が汚れるとかを気にしなくて済み、汗ばんで気持ち悪いのもその場で解決できるようになったのが大きいしね。
なお、これは私とリリーの2人からの頼み事の1つとして、メノには処理してもらっている。
「へぇ。リリー、明後日からラルバの秘密基地にお引っ越しかぁ。となると、僕たちのお家とかなり近くなるね」
「うんうん。メノたちとも遊びやすくなるし、私も秘密基地に居て外に出ない時の話し相手ができるしで、妖精軍団の全方位に万々歳な申し出だったわ」
「確かに! ところでさ、新しく家具を作るともなると、結構長い時間が必要にならないの?」
「まあね。ただ、同じログハウスを建てたり部屋を一から作る訳じゃないし、何なら皆が手伝ってくれてるから、大して時間はかからないはず」
「そっか。ラルバちゃんって、こういうことするの上手だよね。妖精の大工さんみたい」
「えっへん! 私の自慢の特技だよ! でも、あくまでも趣味ではありたいわ」
ちなみに、メノと一緒に居たチルノや大ちゃんには、メノと同じく部屋作りの下準備を手伝ってもらっている。じっとしてるのもあれだし、何より人数多い方が早く終わるでしょってチルノの一声で、そう決まった。
お陰で、私1人でこつこつやるよりは圧倒的に早く、下準備が終わっていってる。もしかしたら、明後日の引っ越しの日までには内装と家具の変更・配置まで終わるかもしれない程の早さで。
「うふふ。ルナとリリーの作ったおやつ、楽しみだなぁ。そういえば、チルノと大ちゃんの手作りクッキーもお誕生日会で食べれる……!」
「わわ、眩しい……おっ? 疲れが吹き飛んで元気が出てきたぞ!」
「ふふ。幸せが溢れちゃったんだね、メノちゃん」
「エネルギー充填! メノの元気のお陰で、作業効率とやる気が最高潮だよ!」
その一方で、ルナにはリリーと一緒に簡単なおやつ作りを、ログハウスのキッチンでやってもらっている。私のお部屋のために頑張ってくれてるメノたちのために、美味しいおやつを作るんだって張り切っていたから、付き添いとしてお願いしたのだ。
確かに、おやつ作りならメノがリリーの付き添いだった方が、1番安心できるのは分かってる。ルナも「付き添うの、私でいいの?」って言ってたし。
でも、そうは言うけどルナの作る洋菓子だって、こうしてメノが凄い楽しみにするくらいには美味しいし、他の料理だってやろうと思えばできる。
そもそも、誰かに売ってお金稼ぎをするために作るのでないのなら、そこまでお菓子や料理作りが上手である必要性は薄い。ある程度美味しく食べれて、かつ作ってる当人も過程を楽しめることが重要なんだから。
(料理できる妖精、私の周りに結構多いなぁ)
ちなみになんだけど、今はここに居ないサニーもスターの影響なのか、カレーや味噌汁、簡単なクッキーくらいなら美味しく作れちゃう。お菓子や料理作りに疎くほぼ何もできない私と比べれば、十分凄い妖精なのだ。
言い方はあれだけど、材料と時間と調理道具さえあれば何でもお店に出せるレベルで作れる上、うっかり失敗することすら殆んどないスターやメノが、いい意味で異常なのである。
そりゃあ、いつぞやその手の会話になった時に、みすちーが「あの2人がお店を本気で出したなら、胡座をかいてるお店なら潰せる」って評価を下す訳だ。
まあ、スターとメノが人里でお店を出すことは、紅魔館のメイド妖精をしている以上絶対にないと思うけどね。
「どーん! おやつ沢山できたよー! 皆、休憩しよっ!」
「ラルバごめん。作り過ぎて、材料もうスカスカになっちゃった」
ペンキで汚れたスカートをメノに綺麗にしてもらって、最初に色を塗って乾いた木の板をいざ運ぼうとした時、小屋の扉が思い切り開いた。ベキッて音がしたんだけど、どこか壊れたりしてないかな。
でもまあ、大分ボロい小屋だったから別にいいや。リリーの部屋が完成したら、どのみち建て替え始める予定だったし。
(うん……うん? 流石に多くない?)
しかしながら、ルナの持ってる普通のバスケットに積み上がる、形はいびつだけど美味しそうな甘い香りのするクッキーの山には、流石にびっくりした。パッと見、ここに居る皆で1人10個くらい食べてもなお余るであろう量がありそう。
言いたいことが全くない訳じゃないけど、沢山作ってとお願いしたのは私だし、材料云々は気にしなくてもいいと事前に伝えているのも、当然この私。故に、決して怒るつもりはないし、微塵も怒りを抱いてたりもしていない。
そんなことを気にするくらいだったら、最初から少なめにして欲しいとか材料は全部使ったりはしないでみたいに、作り始める前にはっきりと伝えておくべきだった私の責任という話になる。
「まあまあ。気にしなくてもいいよ、ルナ。それはそうと、相当テンション上がっちゃった感じ?」
「うん。私もそうだけど、特にリリーがね」
「えへっ! ごめんね、ラルバ! 私のお部屋作りを手伝ってもらったり、明後日のメノのお誕生日会が凄い楽しみだったりでつい……」
「あー。確かに、それは仕方ないわ。リリーの立場に私がもし居ても、似たようなことしてたもん」
むしろ、リリーの説明を聞いて理性による抑えが利かなくなり、うっかり作り過ぎるのも、ルナがそれを止められなかったのも仕方ない。
高ぶり過ぎたが故にどこかしら失敗し、全部焦げ焦げクッキーとかにしちゃったり、クッキーのような何かみたいに食べられない状態にならなかっただけ、十分凄いのではとすら思えている。
ただ、これだけクッキーが多いと口の中がパサパサになって、水が飲みたくなりそうだ。ジュースとかでもいいかなって考えたけど、飲み物も甘々だとメインのおやつの美味しさが半減するから、止めた方がよさそう。
まあその、今の秘密基地には水以外だとりんごジュースが少々しかないから、皆がジュースを欲しがってもどのみち誰か1人か2人分しか出せなかったんだけどね。
「あ、飲み物用意するの忘れ――」
「水でいいなら、僕が能力と魔法で出せるよ。入れるコップとかは流石に無理」
「その程度なら、あたいが氷で作れるぞ! ちょちょいのちょいで……っと、このままだと冷た過ぎてあれだから、能力でこう上手いこと……ほら、できた! どうよラルバ! 大ちゃんも」
「うわ、もうできてる。形とか拘ってるのにこれとか、流石はチルノ」
「そうだね。やっぱり凄いや、チルノちゃんは」
なんて思ってたら、チルノがあっという間に氷でコップを作り上げ、メノがこれまた一瞬で皆の元に渡ったコップに綺麗な水を注いだ。
紅魔館のメイドの仕事中とかに、能力をちょくちょく使ってたりするからか、会って友達になったばかりの頃と比べれば見違えるくらいになってる。使えば大体、サニーたちや妖精友達にも喜んでもらえてるみたいだし、それが技術上達の原動力になるんだろう。
「へへっ。ありがとな」
「ふふ。チルノ、照れてる?」
「……メノ。取り敢えず、リリーとルナのクッキー食べない? 湿気ちゃうしさ」
「ひゃっ! うん、それもそうだね。ラルバも、早く一緒に食べよう!」
「もう終わるから大丈夫だよ、メノ。少し待ってて」
しかしながら、純粋な能力の扱いの上手さはやはり、チルノにはまだまだ及ばないと私は見ている。
生きてる年月の長さから来る人生経験の量も勿論あるけど、何より本人が真っ黒歴史と称する過去の失敗を戒めとし、能力の練習を欠かさないって意思の強さがあるから。
お互いの誤解が原因での喧嘩中だった上に、能力の制御をうっかりミスして暴走させたという、いわゆる泣きっ面に蜂な事態が重なることで、三妖精との関係を断絶寸前まで追い込むって大失敗をした、重い過去を。
そう考えると、私は改めて思う。今の超仲良し妖精軍団が存在できているのは大ちゃんのお陰であり、そんな大ちゃんが生まれてくれて本当によかったと。
でなきゃ、今のこの皆がニコニコ優しく楽しい妖精軍団は、この世に存在していなかった可能性が極めて高かったって言えるもの。
もしかしたら、メノだって今と比べれば酷い環境に置かれてしまい、第二の人生というか妖精生活も引き続き地獄かそれに近かったかもしれない。
「さてと。リリーとルナの思いがこもったクッキー食べて、元気を養うかな!」
「えへへ。ラルバ、沢山食べてねー! 他の皆もだよー!」
「でも、無理はしないで。食べ切れなくて残っても、お持ち帰りは可だから」
「都合よく、魔法のバスケット持ってきてればよかったのに。僕が」
「でも、これだけ甘くて美味しいなら全部食べ切れそうだね。メノちゃん」
「あはは! 確かに、気づいたらあたいもう3枚目だった!」
「もぐもぐ……うんうん、分かるよ。作り過ぎじゃんって思ったけど、結果的にリリーとルナが沢山作ってくれてよかったわ!」
リリー、ルナ、メノ、大ちゃん、チルノ。今のこの状況を思う存分に楽しみ、幸せそうに笑う私の大切な友達を見て幸せになりながら、バスケットの中にある桜の花びらの形をしたクッキーを手に取り、口に入れ、その香りと美味しさをしっかりと味わう。
(元気いっぱい、休憩終わったら頑張るぞー!)
これのお陰で、今の私の体力と気力は満タンどころか、むしろ強化されている。完全な強化形態のメノから放たれる黄白色の光も相まって、後もう少しで私も強化形態に入りそうなくらいに、元気が漲ってきた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。