幻想郷生まれてきたことに対して、皆が集まって心からお祝いしてくれるお誕生日会まで、今日で残り1日となった。
まだ当日じゃないし、紅魔館のメイドとしての仕事がある日でもあるんだけど、僕の頭の中はもう9割近くが当日のことでいっぱいである。
なお、昨日の夜はサニーの添い寝のお陰で何とかぐっすり眠れはしたものの、朝の6時に目覚めて意識したその瞬間に幸せが満ち、強化形態へと変化。
僕との添い寝による幸福と、瞬間的に眩くなった元気になる黄白色のオーラを浴びた相乗効果によって、強化形態への変化を誘発させる事態を引き起こしたんだったっけ。
お陰で朝からサニーが、お祝い本のお返しの件で家に来たリリーや付き添いのラルバを巻き込んでわいわい騒いじゃって、何やかんやで紅魔館に着いたのが仕事始まる3分前で、本当に焦った。
ギリギリでしたねって、美鈴に微笑まれながら言われたくらいで済んでよかったけども、結果論ってやつかな。
「まるで、本当に春みたい! 幻想郷の季節は夏だけど!」
「ふふっ。これじゃあ、春告精というより夏告精だね。リリー」
「メノに自分の服着てもらえて、嬉しくなっちゃったんだね。気持ちは分かるわ」
「うん! しかも、今日以降もたまに春告精になってくれるって! えへへ、はーるでーすよー!」
「夏でも春みたいに元気はつらつね、リリー。ラルバはアゲハ蝶の妖精だし、元気なのは当然だわ」
「ようやく、私の季節がやってきたもんね! 存分に楽しまなきゃ!」
ちなみに、お祝い本のお返しとしてリリーがしてきた要求は3つある。そのどれも、僕なら簡単に叶えられるお願いだったので、全て即座に受け入れている。
1つ目は、仕事が終わるまで僕が春告精としてリリーの格好をすること。一緒の格好になれば春告精みたいだし、合間合間にそれっぽいことをして、春真っ盛りの時みたいな楽しい気分になりたかったらしい。
ちなみに、この服は万が一の予備として用意されてたやつみたいだけど、話の流れで今日以降もたまに春告精になろうかって言ったら、一瞬固まった後に「本当!? じゃああげる!」って感じで、結果僕の服になった。
その時のリリーが見せた、満開桜の森を体現したかのような笑顔といったらもう、見ているこっちも幸せ過ぎて涙ぐむレベルである。
「それにしても、精が出るわねぇ。重たそうだけど、本当に手伝わなくて大丈夫?」
「今はまだ、僕たちだけの力で大丈夫だから見守ってて、フラン! それに、頼みたいお仕事が何か今日これだけみたいだから!」
「日曜大工が趣味だし、重たい荷物には私慣れてるよ! とはいえ、妖精だからそこまで力強いって訳じゃないけども」
「そう? なら分かったけど、無理は禁物だからね」
「はーい! えへへっ」
「元気いっぱい、まだまだ行けますよー! メノのお陰で!」
2つ目は、リリーやラルバを僕のメイドの仕事に同行させること。レミリアにお願いしてみたところ、ピースの時と同じく二つ返事で許可をもらえたので、フランに見守られながら今こうして一緒に荷物運びや整理をしている。
ピース本人から、僕やスターとメイドの仕事をしたってお話を聞いて、私もやりたいって思ったらしい。
一応、メイド妖精として本格的に雇われているって訳じゃないけれど、どのような形であれ仕事をしてもらっていることには変わりないと、リリーとラルバも僕より1割少なくはなるが報酬はもらえるってレミリアは言ってた。
何をもらえるのかは分からないけど、僕の予想ではお金と2人が喜ぶ何か一品って感じかな。
「えっと、この箱はあっちに運んで……うわっ、重たい! でも、強化形態になってる今なら! あ、1人じゃ駄目かも」
「メノ。私の方は終わったし、手伝うよ」
ちなみになんだけど、スターは事前に連絡用の蝙蝠さんを使ってレミリアに連絡を取り、今日は仕事を休んでいる。体調が悪いとかそういうのではなく、明日のお誕生日会に向けた準備をサニーやルナ、魔理沙と行うために。
そして、その関係で僕は今日は家に帰らず、紅魔館でお泊まりするって流れが決定していた。サニーたちが居ない中で他所にお泊まりするのは初めてなものの、場所が場所だから全く不安などはなく、むしろ楽しみですらある。
というか、サニーたちの方が何かちょっぴり不安そうだったなぁ。そんなに心配しなくたって大丈夫だと思うと同時、僕が大切な存在だって思われてると強く実感できて、とても幸せな気分になれた。
「うちに泊まるの? 3人とも、部屋とかはもう用意されてる?」
「妖精さんとの約束事があって、用意にかなり時間がかかるって言われてるの。でも、何だかんだでレミリアのことだから、普通に早く完璧に用意してそうな気がする」
「よいしょっと……確かに分かる。でも、私的には部屋なんて他のメイド妖精たちと一緒でもいいけどなぁ。考え方とかの違いとか付き合いの長短はあっても、仲悪い子とかは居ないしさ」
「何だったら、誰の部屋でも嬉しいですよー! その誰かが気分じゃないって断ったりしなきゃだけど!」
「うん。僕としても、館の皆は例外なく大好きな友達だし……」
3つ目は、その紅魔館へのお泊まりにまでリリーとラルバを同行させること。メノの仕事が終わったら即帰るだなんて、そんな実につまらない流れにはしたくなかったからとは、リリーの言葉である。
妖精って種族の中に、明確に館を害する悪意持ちな子が居ないって理由もあるとは思うけど、流石は館と無関係な妖精さんの館内侵入にも寛容なレミリア。リリーとラルバが、一緒に僕とお泊まりがしたいというお願いもあっさりと受け入れられ、おやつや食事も2人分増やしてもらえたからほっとした。
勿論、寝泊まりするお部屋も3人一緒なのは確実なんだけど、果たしてどんなお部屋になるのかな。1泊するだけだし、明日の昼間には幸せに満たされることが確定事項となったお誕生日会が始まるのだから、ゆっくり休める場所ならそれでいい。
まあ、僕にとって紅魔館は妖精大樹や理想郷にも匹敵する、底無しの幸せと安らぎを与えてくれる自宅のような場所。リリーやラルバがリラックスできてさえいれば、ああだこうだ言っててもぶっちゃけどこでも大丈夫なんだけどね。
何だったら、中庭のどこか迷惑にならない場所にテントを張り、プチ妖精キャンプみたいな感じになってもいい。そうなったらなったで、好奇心旺盛な紅魔館のメイド妖精さんたちが寄ってこないはずもないから、本格的な中庭キャンプになりそうだなぁ。
「ふーん……なら、私の部屋に来る? もし来るなら、お姉さまには言っておくわ」
すると、僕の意思を汲んで見守りに徹してくれてるフランから、寝泊まりするお部屋に関してこう提案を投げかけられた。
フランの自室といったら、館のエントランスとほぼ同じ広さを誇る、自他共に認める少し殺風景なあの地下室。ベッドなどの備品類はともかく、床も天井も扉もこの上なく頑丈であり、音に対する備えもバッチリされているため、大はしゃぎをするにはうってつけの環境である。
お部屋の主たるフランに合わせて基本的に薄暗く、室温もどちらかといえばひんやりめなので、気分的には大はしゃぎというよりはリラックスして、ぐっすりすやすやと眠りにつくのに向いていそうな感じではある。
僕と同じか似たような体格なら、4人は余裕で寝れるとっても大きなふかふかベッドの上で横になって、フランの子守歌かゆったりとした静かなメロディーの曲をオルゴールで聞きながら目を閉じれば、眠るのに1分もあるだけで十分そうだ。
「えっ、本当に良いの?」
「良くなければ言わないでしょ。他のメイド妖精たちの部屋よりは確実に殺風景だし、嫌だったかしら?」
「ううん、嫌だなんてとんでもない! ねえ、リリーにラルバ」
「勿論だよー! とっても広いお部屋だから、高ぶっても思う存分はしゃげそう!」
「部屋というには、いささか広過ぎる気しかしないけどね。ところで、ある程度は明るくしてもらえれば助かるんだけど、どう?」
「ふふっ、私の方から提案したのだから当然よ。貴女たちがゆったり過ごすのに、不便にならない程度には明るくするわ」
なお、寝泊まりするのがフランのお部屋になることに、僕はもとよりリリーもラルバも会話を聞く限りでは結構乗り気。
紅魔館の他の面々に比べれば表へ出る頻度もかなり少ないが、それを補って余りある程に妖精大好きなレミリアの妹としてはかなり有名で、2人のフランとの付き合いも相応に長い。
既に部屋の準備が済んでいるとか、今日以前に喧嘩しているとかでもなければ、そりゃまあ乗り気にもなるか。
「フランのお部屋に、リリーやラルバと一緒にお泊まり! えへへ、嬉しい! 持ってる荷物が、軽くなったような気すらしてくる!」
「大袈裟ねぇ。何度も仕事で来たことある場所でしょうに……リリーとラルバが居るから?」
「それも勿論! だけど、フランのお部屋だからって理由も同じくらい大きいよ! フランだって、レミリアのお部屋に行った時は嬉しいというか、幸せなんじゃないの?」
「……まあね」
しかし、何よりもフランが僕やリリー、ラルバを1日だけとはいえ自分の部屋に寝泊まりしてもいいよと、微笑みながら言ってくれたことが凄く嬉しかった。
レミリアのように積極的でもなければ、大体の妖精さんたちのように元気にはしゃぐようなタイプでもない。最近はよく見かけたりするけど、長い時には数ヵ月単位で外に出ず、自分の部屋でゆったり過ごすのが好きな吸血鬼さん。
それなのに、完全なプライベートな領域にお泊まりしたらいいと、笑顔で提案してくれたのだ。騒がしくなるのも、イタズラとかされることも全て想定し、受け入れてくれるって。
仮に、何かしらの理由から断るにせよ、これを言われたこと自体嬉しくないなんて思ったりしたならば、果たして友達として相応しいのかって疑問が芽生える。
無論、実際に思っているか否かは別として、現実ではっきりそう言葉に表してしまったならもう最悪。いや、最悪を通り越した地獄って言葉が相応しくなるだろう。
絶対とは言わずとも、かなりの高確率で仲良しの関係にヒビが入り、元に戻らなくなる可能性が出てきてしまうから。
「わはっ! リリーちゃんのかっこうした、キラキラしろちゃんはっけーん! みなのもの、かかれかかれぇーー!」
「にゃっ! え……?」
相も変わらず温かく見守られながら、頼まれていた分の荷物の中で1番重たく大きかった木箱を、無理せず流石にフランにもお手伝いを頼んで何とか倉庫に運び終え、さて一息つこうかと考えたその刹那。
快活なメイド妖精さんらしき声が聞こえたと思ったら、あれよあれよと身体が持ち上げられ、そのまま4人の妖精さんにえっほえっほと抱えられながら、僕は成すがままに部屋を後にすることとなってしまうのだった。
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