「すぅ……せーの、しろちゃん! おたんじょうびおめでとー!!」
「「「おめでとー!!」」」
レミリアにお願いされた荷物運びと整理の仕事を、フランに見守られながらリリーやラルバと一緒にそつなくこなしていた僕。
そのはずだったんだけど、突然倉庫にやって来たメイド妖精さんたちに成す術もなく捕まって、抱えられながらあれよあれよと連れてこられた先は、いつもの食堂だった。
ただし、食堂の中の雰囲気はいつもの感じじゃない。盛り上がり具合が、もはや大規模パーティーにも匹敵するレベルになっている。
(ひゃう……!)
まずは1つ。パーティーハットやピースの帽子みたいな帽子を、各々好きなように被っているメイド妖精さんたちが大勢待ち構え、床に下ろされるや否や手に持ってたクラッカーを鳴らして迎えてくれた。
不意打ち気味に鳴った大きな音に一瞬ビクッてしたけれど、それ以上に胸の高鳴りと湧き出る暖かさが収まってくれない。収まる訳がない。
うん。そりゃあ、心のこもったお誕生日おめでとうって言葉を送られれば、至極当然である。
(わぁぁ……ぐすっ……)
後はそう。普段の食事やおやつ時はもとより、普段開かれるプチパーティーすらも超える程のとっても豪華な料理やおやつの数々に、中身の分からない大小様々なプレゼントボックス、パーティー用の数々の手作り装飾品などの存在が、この場の雰囲気を盛り上げる大きな要素の1つになっている。
(あぁ、もう駄目だ。涙が出てくるのを止められない……!)
これの準備に、一体どれだけの手間をかけたのかな。妖精さんたちが、どんな思いでこんなに凄い会場を用意してくれたのかなって考えるだけでももう、勝手に涙が溢れてきて止まらない。
しかも、先手を打ってレミリアや咲夜にはその辺の許可もお願いして取ったというのだから、尚更嬉しくて幸せで堪らなかった。流石は僕とも仲良くしてくれてる妖精さんたち、気遣いのレベルは桁違いだと言うべきだよね。
「わははは、かたまってる! ないてる! あまりのうれしさになんとやらってやつっぽい!」
「お誕生日前夜会のためにあたしたち、頑張って用意したもんね……あーーっ! ちょっと、フライングでもぐもぐタイムは駄目っ! しろちゃんが先って言ったのに!」
「ご、ごめんなさいぃ! とってもおいしそうなにおいがして、がまんできなくて……」
「みーちゃん、くいしんぼうだもんね! まあ、しろちゃんならおこらないからだいじょぶだいじょぶってことで、わたしもどーん!」
「うひゃあ!?」
そして何より、一緒に仕事をする仲間であり、大切な友達でもある妖精さんたちが僕の目の前で、こんなにも幸せそうに、楽しそうにきゃっきゃしているんだもの。
しかも、明日のお誕生日会に参加しない妖精さんたちが、全員何かしらの形で関わってくれてるというのだから、正直これだけで前述の2つを上回る幸福感を得られている。
だからこそ、フライングでお菓子をつまみ食いされてようが、不意打ちで飛びついてこられようが、あると思わなかったあの虹色キノコを半分口の中に突っ込まれるイタズラをされようが、僕は全然気にしない。
「ふぐ……!? おぇっ、うぇぇ……」
「えっ、しろちゃんのキラキラがなくなってる……そんなにすごいあじなの……もごっ、まずびゃあぁぁぁーー!!」
「いーちゃん、なんでじぶんもたべたの……? スターちゃんにげきマズどころじゃないっていわれてたのに」
「あーあ、すっごいグダグダだよ……もうっ。メノウちゃん、大丈夫……?」
いや、虹色キノコに関しては凄い気にするって訂正しよう。反射的にもぐもぐした瞬間の絶望的なぐちゃぐちゃまず味、鼻を抜ける形容しがたい壊滅的な異臭、飲み込んだ後のお腹を這いずり回る不快感が、今まで感じたこともない程に気持ち悪くてキツいから。
あまりにも強烈だったからか、舌がピリピリしてきた上に鼻を通る匂いも薄くなってきた気がする。まあ、一時的に強化形態が解除される程の超不味いキノコならば、そりゃそうなるよねぇ。
しかしまあ、これでいつぞやスターにイタズラでこれを食べさせられた、サニーやルナの悶絶した時の気持ちが痛い程、この身で理解できた。
もしもの未来、僕の手元にこのキノコがあって、何だか凄いイタズラをしたくなってきた際にこれを使うか否かは、とっても良ーく考えなければならない。
「うぇっ……すぅぅ、はぁぁ……うん。何とか大丈夫だよ、ロゼネル。えへへ」
「そう? まあ、キラキラが復活してきてるからそうなんだろうけど……いーちゃんがごめんね。内心、怒ってたりする……?」
「僕が? 大好きな友達の可愛らしいイタズラ程度で怒る? ふふっ、怒ってないよ。微塵もね」
「うそ、あれでおこらないなんて……しょうじき、かくごしてた」
「だからって、毎度毎度虹色キノコは勘弁してね。いーちゃんに会う度に、食べさせられるかもってドキドキしなきゃいけなくなる」
なお、ロゼネルが心配していたように、隙だらけだった僕に虹色キノコを食べさせてきた、イタズラ大好きな
何故ならば、イタズラの内容が内容な上に、それをやってきた相手が大好きな友達の1人だから。
きっと、ロゼネルは凄く気にしているのだろう。お誕生日のお祝いをする側だった自分たちが、される側の僕にイタズラを仕掛けて嫌な思いをさせてしまったと。
よりによって、スターが劇物と称する虹色キノコをどさくさ紛れに、僕の口へ押し込んで食べさせるというイタズラによって。
だけど、実際の僕はそれを込みでいーちゃんを含む、紅魔館のメイド妖精さん全員が大好きなのだ。
確かに、僕が魔法ないし能力で出す水さえあればどうにかなるとはいえ身体的にキツいイタズラではあったし、場の雰囲気にそぐわないイタズラだったのではないかと問われれば、否定はしづらいかもしれないけどね。
「メノー! 私とラルバも参加しますよー! いいよね!」
「ついでに、レミリアとフランも飛び入りしたいって!」
「このお誕生日前夜会開催の経緯が経緯だし、明日の本番に参加する私たちの参加ってありなのかしら? 百歩譲って、リリーとラルバは妖精だからいいとしても」
「メノウは絶対に喜ぶからいいとして、他の子たちは……うん、大丈夫そうね。ニッコニコだし」
すると、閉まっていた食堂の扉が豪快に開かれると殆んど同時、ついさっきまで一緒だったリリーとラルバとフランのみならず、レミリアまでもが中に入ってきた。話を聞く限りではどうやら、この妖精さんたち主催のお誕生日前夜会に混ざりたいらしい。
(お誕生日の前の日なのに、もうこんなにも幸せな気持ちになれるなんて……)
勿論、僕は4人が混ざってくれることに大歓迎。ロゼネル他多数のメイド妖精さんたちが了承しているのなら、殊更反対する理由はないだろう。
それはそうと、ある意味不可抗力とはいえお返し中のリリーやラルバをそこそこ長めの時間、放っておいた形となったにも関わらず、いつものように僕へニコニコしてくれてたのはよかった。
後は、ここに居るロゼネルたちに対しても不満げな表情とか仕草は見せず、同じようにニコニコしてくれてるのを見て、ほっとひと安心である。
何も気にする必要もなく、思うがままこの楽しく幸せな一時を過ごせるのだから。
「という訳で! リリーちゃんたちとレミリアさまたちも一緒に、メノウちゃんのお誕生日前夜会を、今から開催だー!」
「「「おーー!!」」」
「思う存分お祝いして楽しませると同時に、あたしたちも楽しむぞー!」
「「「わぁぁーー!!」」」
そして、ロゼネルの妖精さんらしい元気で快活な掛け声が食堂全体に伝わると同時、既にわいわい盛り上がっていた妖精さんたちのボルテージが最高潮へと達する。
多くの妖精さんたちのお祝いの言葉や掛け声はもはや叫び声に、クラッカーの音も更に多く響くようになり、鬼ごっこの時みたいに走り回り飛び回る。何だったら、弾幕ごっこまで始めてロゼネルやフランに止められる妖精さんが出てくる始末。
横断幕や、所々にぶら下がるミニくす玉に視線を向けずにこの光景だけを見れば、とても僕のお誕生日前夜会の開催途中だとは誰も思わないに違いない。レミリアがたまに開く、いつもの妖精さんたちが集まる紅魔館のパーティーだと考えるだろう。
ただまあ、僕にしてみれば今のパーティーがいつもの紅魔館パーティーだったとしても、十分過ぎるくらいには幸せを味わえる。
「幸せの桜は満開、お誕生日おめでとう! えへへ、心の中は春真っ盛りですよー!」
「本番より1日早いけどね。まあ、メノが幸せで楽しければ何だっていっか……もぐもぐ。それはそうと、このキノコのソテー凄く美味しいわ! 誰が作ったの?」
「えっへん、わたしがつくったんだよっ! ちなみにね、にじいろのきのこ入れようとしたらとめられた!」
「ぶふっげほっ、げほっ……そりゃ、あんなの入れようとすれば止められるって。スターのイタズラ御用達だもん」
「色んな妖精にあげてるのね。いつか私も、食べさせられるのかしら」
「懐かれてるお姉さまなら、明日にでもあり得るわ。ああでも、その前に咲夜に盛られそうだけど」
「……え?」
しかし、現実は僕のお誕生日を妖精さんたちが、1日早めにお祝いしてくれる会の最中。明日のお誕生日会に行かないか行けない分、紅魔館でなら全力全開で祝えて釣り合いが取れるからという理由で、ロゼネルが主となって開いてる会のだ。
僕の水の力で大幅に緩和された、虹色キノコによる地獄のハーモニーが、完全に吹き飛んで消えたからというのもあるけれど、感動のあまり動けないどころか、リリーやラルバたちの会話に混ざることすらできないレベルの幸せを感じるのも、言わずもがな。
(……)
だけど、この妖精さんたちに明日のお誕生日会への不参加を選んだことによる、ある種の罪悪感みたいなものを感じさせたのは、本当に申し訳なく思う。
お誕生日会に参加しなかったからといって、僕がその妖精さんたちとの関係を微塵も変えないと、大好きな友達の1人には変わりないと、そう思ってるんだって安心してもらうための力が、行動が、的外れだったか足りなかったってことだから。
そもそもの話、サニーたちのやつとは別に1人ずつからのメッセージなどをまとめたお祝い本を1冊もらっている。山積みの宝石や金銭にも圧倒的に勝るというか、お誕生日会への参加に決して劣らない、永遠の思い出に残る感動的なプレゼントを。
これでどうして、お誕生日会への不参加程度で妖精さんたちに不満を抱けようか。
「ぐすっ……あぁもう、幸せ満開で涙が滝みたいに溢れてきて止まらないよぉ。クッキーがふにゃふにゃになっちゃう……」
「わはははは! おぉ、ちょっとキラキラつよくなった! なんか、すごいげんきがあふれてくる!」
「春じゃないのに、また言いたくなってきた……すぅぅ、はーるでーすよー!!」
「うわっ、リリー!? 私の耳の側で叫ばないで!?」
さてと、今はこれ以上このことについて考えるのはやめにしよう。僕も皆も凄い幸せで、舞い上がる程に楽しいお誕生日前夜会にそれ以外の感情を持ち込むことは、この上ない程に相応しくないのだから。
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