「やっほー! チルノ、大ちゃん、美鈴ー!」
こんなにも嬉しそうにしているなんて、またメノちゃん関連で嬉しいことでもあったのかな。
私とチルノちゃんで美鈴さんにちょっかいを出しに行って、何やかんやで相手してもらって楽しくやっていた時、空から声をかけてきたサニーちゃんを見てそう思った。
メノちゃんはサニーちゃんにとって、仲良しな友達という枠組みを超えて、スターちゃんやルナちゃんと同じように大切な家族と認めている妖精の1人。
そして、ここにいる私を含めた3人は、メノちゃんと深めの交流関係がある。何かあった時にわざわざ伝えに来ようと考えても、おかしくはないわけだ。
「よっ! サニー、そんなにはしゃいでどうしたの?」
「ふふ。きっとまた、メノウちゃん絡みですよ。チルノちゃん」
「うん。まあ、あたいにもそうだと分かるけどさ」
「私も、美鈴さんと同じ考えです。ただ、何があったのかは想像できませんけど」
しかし、今日はいつになく嬉しそう。頭上で輝く太陽と雲1つない空が、まるでサニーちゃんの心の中を表しているようだ。
けど、メノちゃん関連で何かあったにせよ、その喜び様は見慣れている私をもってしても相当なもの。チルノちゃんや美鈴さんだって、頭の片隅で何があったんだろうって考えていそうな雰囲気がある。
まあともかく、私の友達が自然な幸せを感じれているのなら、何だっていい。
「聞いて聞いて! 実は昨日、私お風呂でイタズラされたのよ!」
「……へぇ。誰にされたの? サニー」
「メノよ! 背中に冷たい水をかけられて、奇声をあげてびっくりしちゃったの!」
「ふーん、メノが……えっ、本当に?」
なんて考えていたけれど、その『何か』の内容がメノちゃんにイタズラされたことと分かった瞬間、私の頭の中は疑問で頭がいっぱいになった。
チルノちゃんを含めた他の妖精友達と、一緒に楽しくイタズラに参加してる私が言えたことじゃないけど、イタズラというのは普通喜んで受けるものではない。
外とかならまだしもお風呂で冷水をかけられるなんて、いい感じに暖まった身体には余計に堪えるはずなのに。
例えばこれを霊夢さんとかにやったら、状況や気分次第では長めのお説教をされる。妖精に優しい魔理沙さんやレミリアさんでも、流石に注意したり怒ったりするだろう。
内容次第では下手をすると、今後の関係に少なくない影響を与えてしまうかもしれない。
(あっ……!)
と、そこまで思考を巡らせたところで、私は理解した。サニーちゃんたちや大切な友達に心を許し、少しでも嫌われてしまうのを究極的に恐れていたあのメノちゃんが、イタズラをしたという事実の重大さを。
妖精の女の子になってからも影響が大きかった、人間の男の子だった頃から引きずっていた心の傷が、大きく治る。
その結果、
イタズラそのものはあれでも、私個人的にはメノちゃんがイタズラをしたいと思ってできるくらい、心が治りつつある状況は大歓迎。この調子で、いつかは完全に心の傷が塞がってくれるといいのだけど、ここは長い目で見守っていこう。
「おぉ……まあ良かったな、サニー! イタズラされて嬉しがるってのも変な話だけど」
「相手が、メノちゃんだもんね」
「そうそう! やらされてたなら別だけど、何かやってみたくなってやったのなら、自分の意思を更に表に出せるようになったってことだもの! 毎日やられるのは流石にあれだけど!」
「メノウちゃんなら、その辺の加減は心配いらないと思いますよ。サニーちゃん」
「ええ! こう言っといてなんだけど、その辺はあまり心配していないわ!」
「あたいたちが何も言わなくたって、絶対に嫌なことはしないもんな! それだけ、家族とか友達の皆ををよく見てるってこと!」
ちなみに、一拍置いてこの事実を聞いたチルノちゃんと美鈴さんは、純粋にメノちゃんの話をサニーちゃんから聞いて、かなり嬉しがっている。
あのメノちゃんが、イタズラを自分の意思で仕掛けたという事の重大性を、私と同じく理解したということで良さそうだった。
(良かったね、メノちゃん)
サニーちゃんに仕掛けたのなら、スターちゃんやルナちゃんにもその内何かしら仕掛けると思う。
そうして少しずつ慣れていけば、私を含めた妖精友達は勿論のこと、魔理沙さんや霊夢さんを筆頭とした妖精以外のお友達にも、色々仕掛け始めるだろう。
不意打ちのイタズラで泥団子を投げてきたり、物陰からいきなり出てきて驚かしてきたり、羽とかをくすぐってきたりするメノちゃんと、それに対する仕返しをしようと追いかける私。
何というか、普通に毎日とかじゃなければ楽しそう。そう思っちゃったから、メノちゃんがいずれ私にイタズラを仕掛けてきたとしても、きっと望む反応を返せない。
でも、メノちゃんだったらそれはそれで嬉しくなってそう。自分のことよりも、大好きな家族や友達の喜びや幸せが何よりの生き甲斐と、何のためらいもなく言える程だから。
「あの子がイタズラねぇ。にわかには信じがたい話だわ」
そんな感じで、メノちゃんがイタズラを仕掛けた話で盛り上がっていた時、側に霊夢さんが降りてきた。どうやら、今の私たちがしていた話を最低でも一部、聞いていたらしい。
まあ、別に恥ずかしい話をしていたのではないし、何より霊夢さんもメノちゃんの大切な友達の1人。何なら、聞いていて欲しいとすら思えてくる。
「あっ、霊夢! ふふっ……今の私は、とっても最高の気分よ!」
「見れば分かるわよ、サニー。まあ、それだけメノの心の傷が癒えてきたってことでもある訳だし、高ぶるのも当然かしら」
「霊夢さんも、表情が凄い嬉しそうですね! メノちゃんと、お友達だからですか?」
「そりゃあね。見ず知らずの妖精とかだったらともかく、メノは友達なんだから嬉しくもなるわよ。大妖精」
それに、霊夢さんもかなり嬉しそうだ。勿論、だからといってイタズラされたい訳ではないみたいだけど、それは普通なので私も何も言わない。
(優しい性格の賜物だね、メノちゃん。でも、少しは自分の気持ちを優先しても良いんだよ)
優しいという概念が具現化したような、一緒にいて楽しいお友達。前世が外の世界で人間の男の子だった記憶がある、珍しい妖精さん。
初めて聞かされた時はびっくりしたけど、私にとっては前世が男の子だったことなんてどうでもいい。
どうか、この調子でメノちゃんの心の傷が癒えていきますように。そうして、一緒にイタズラを楽しめるようになれればいいな。
「さてと、立ち話はここまでにして……レミリアに用事があるから、私は行くわね。美鈴、一応聞くけど話は通ってる?」
「無論です。どうぞ」
そんなこんなで立ち話を続け、レミリアさんへ会いにきた霊夢さんが館の中に入っていった後も、話題は相変わらずメノちゃん関連だった。
なお、その内容は最近の家での様子だったり、日記に何を書いてるのかだったりと、あの子のありふれた日常の一幕についてである。
私たちが知らない、仲良しなお友達のことを知れるのは確かに嬉しい。サニーちゃんが嬉々として話してくれるそれに、私もチルノちゃんも興味津々だ。
(良いのかな……まあ、良いのかな?)
ただ、それはそれとしてペラペラ話しちゃって大丈夫なのかなと、少しだけ疑問に思う。
まあ、メノちゃん本人から「僕の家での様子を話したいの? うん、別にいいよ」と、一応許可はもらってるらしいから、気にするだけ無駄なことかな。
「ねーねー、しろちゃんのお話? 私も混ぜて!」
「モリオンさま。わたしも興味あるけど、おしごと――」
「後でやる!」
「えぇ……まあ、いっか」
「本当に大丈夫なの? 咲夜さんとかに怒られちゃうかも」
「本人がそう言ってるなら別にいいんじゃない? あたいはそう思うけど」
「うーん……確かにそうかも?」
案の定、長い時間それなりの大きな声で喋っていれば、当たり前だけど庭で働いていたり、遊んでいたりする一部の紅魔館のメイド妖精たちの耳にも話し声が入る。
雇われのメイドさんとして働いているメノちゃんは、館のメイド妖精たちにとってはお友達であり、一緒に働く仲間でもある。興味を引かれ、近寄って話に参加したがるのも当然といえよう。
「しろちゃん、心が治ってきたんだ! イタズラとか、わたしが誘ったら一緒にやってくれるのかな?」
「多分ね。でも、まだ誘ったら駄目よ! モリオン」
「はーい」
「あなたもね! メノのことを思うなら、絶対よ!」
「うん!」
特に、紅魔館の中でもメノちゃんと仲が良い妖精の1人である、モリオンちゃんの食い付きはかなり凄く、逸って自分とのイタズラに誘おうとしてしまうくらい、気持ちが高ぶっている。
過去の酷い経験のせいで心が傷ついたことを気に病み、自分が半分でも肩代わりできてたら良かったのにと、常日頃から口にしているという心優しきモリオンちゃん。
だけども、あの子の夢は「いつかしろちゃんとも一緒に、皆にイタズラしてみたい」だった。一瞬だとしても、仲良しのお友達への気遣いより自分の気持ちが上回るのも、まあ無理はないよね。
「じゃあ、私はこれからピースとかリリーにも伝えてくるから、またね! 美鈴、後でレミリアたちにも言いに来るわ!」
「分かりました。一応、後でレミリアお嬢様方にもサニーちゃんが用事があると、声をかけておきますね」
そうして、高ぶる気持ちのまま私たちに対して、ひとしきりメノちゃんの話をし続けていったサニーちゃんは、満足したらしい。
次のお友達のところへ同じことを伝えるため、来た時と変わらない笑顔のまま、ここから立ち去っていったのだった。