5日前、サニーに対して僕がお風呂でやった、冷水を背中にかけるとかいうしょうもないイタズラ。
相当嬉しかったのか、これを魔理沙や妖精軍団の皆には勿論のこと、霊夢やあうん、紅魔館の皆やアリスや霖さんにも言いに行った。
当然、何やかんやで僕が主となった
結果、妖精さん経由で話が広まるや否や、そこからこの話を聞き付けた文さんにより当日中に、あれよあれよと新聞の一面を飾ることが決定、その翌日に簡易版という形で本当に配布されてしまったのだ。
(……もっと有名人になっちゃった。僕、妖精だけど)
たかが1人の妖精が起こした、プライベートな場所での小さなイタズラ。
どでかいイタズラで、幻想郷の人妖たちに大迷惑をかけたというならまだしも、僕をほぼ知らないか興味ない人にとっては、心底どうでもいいだろう。
あっても精々、何故新聞の著者はこの程度の出来事で一面を飾ろうと判断したのかと、疑問に思うくらいに違いない。
まあ、簡易版という名の通常版……妖精たちの理想郷に関する記事だったり、メイド妖精さんが絡んだ紅魔館の珍事件集といった記事もあるので、新聞そのものに不満の声は極めて少なかったらしいけど。
けど、文さんの新聞に僕のことが載るようになってから、正確には紅魔館でスターと一緒に、雇われメイド妖精として働くようになってからだった。
時々チルノと大ちゃんが通ってる人里の寺子屋、そこの子供たちとかから僕に会ってみたいと、そんな声が出始めたという。
しかも、チルノと大ちゃんに僕を連れてきて欲しいだとか、逆に僕の家へ連れていって欲しいとか、まあまあ高頻度でお願いされていると、今日一緒に香霖堂で遊んでいる本人からも改めて聞いたのだ。
その度に穏便に断り続けてくれているようで、今のところ人里に行かざるを得ない事態にはなっていないものの、僕のせいで迷惑をかけているのだから、本当に申し訳ないと思う。
「君もすっかり有名人だね。普段の生活はどんな感じだい?」
「うーん。皆のお陰で、僕の生活はそんなに変わらない……かな。けど、チルノと大ちゃんが人里でそんな――」
「あたいと大ちゃんのことなら全然気にしなくていいし、謝ったら駄目だぞ! 博麗神社とか人里でイタズラした時にされた説教よりはマシだし、そもそも別にメノは悪くないもんな!」
「チルノちゃん……それはまあ、断り続けてればいいだけだから、確かにそうなんだけどね。でも、やっぱり堂々と胸を張って言うことじゃないと思うなぁ。説教云々の方は」
「あー……でもまあ、これがチルノだしね」
「ははっ。2人が平常運転なら、メノも大丈夫そうだ」
しかし、謝罪の言葉は口にはしないし、頭も下げたりはしない。
どうしても謝りたくないから、強情張って僕が拒んでいるからではなく、チルノと大ちゃんが
当の本人が謝らないでと言ってるのにそれを無視するのは、かえって失礼に当たること。無理して謝らせたとの負い目を2人に作ることにもなってしまうし、下手したら喧嘩の元にもなってしまいかねないから、ここはこれが正しい。
霖さんだってさっき、「僕も君が謝る必要は感じないかな」って、穏やかな表情で言ってくれたから尚更だ。
でも、もし僕が文さんの取材を断固として拒否していたら……いや、結局はこうなるのが早いか遅いかの違いかな。
頑なに理想郷に閉じ籠り、誰との交流も絶っていれば別だろうけど、それは現実的ではないのだから。
「ねえ、霖さん。これ……」
「ああ、これかい? ルナがこの間持ってきた、大水晶の余りで作ったブローチさ」
「そうなんだ。何かの魔道具みたいな感じ?」
「いいや。確かに、
「ふーん……でもやっぱり、霖さんは凄いや。あの水晶、凄く固くて丈夫なのに」
そんなことを思いつつ、お菓子が用意されるや否や即頬張りに行った笑顔のチルノを、横目でチラチラ見ながらお店の中を大ちゃんと見て回っていると、とても綺麗で神秘的なブローチが無造作に置かれているのが目に入る。
一応、置かれている場所は古めかしいキャビネットの上であり、埃などの汚れはないので最低限の扱いをしているのは分かるものの、物に見合う扱いではない。
頑丈だから、多少雑でもいいやと判断したのだろうか。それとも、単に面倒がっただけなのか。僕には判断つかないけど、ちょっと整理くらいはしておいてあげようかな。
(アクセサリー……おしゃれアイテム、なんだよね)
しかし、改めて見るとこれはとても綺麗な輝きを放っていて可愛らしさもある上に、神秘的でもあるブローチだ。
1羽の可愛いらしい小さな鳥さんと、その周囲を鳥さんの羽が舞うように見えるこれは、霖さんの本業が魔法のアクセサリー職人さんかと思えるレベルの、超絶技巧が使われている。
自分や他人の役に立てる魔道具を、僕が生まれるかなり前から作り続けてきた経験と、それに基づく優れた技術が霖さんにはあるから、おしゃれなアクセサリー作りも技術を応用すればできそう。
「もしかして、メノもこういうおしゃれに興味が出てきたのかい? 君さえ良ければ、格安で売ることもできる」
「本当に? うーん……確かに、このブローチは可愛いけど、僕がおしゃれに興味が出てきたのかと聞かれたら……どうなんだろう。好みではあるんだけどね」
「全く興味なければ、そもそも目につかないと思うよ。メノちゃん」
「確かに! この際だからあたいたちと、こことアリスの家で色々おしゃれアイテム探してみない? もしかしたら、可愛くなったってサニーたちに喜ばれるかもだし!」
「……えへへ」
ちなみに、純粋におしゃれをするためだけのアクセサリーを作るのなら、友達に限定した場合はアリスに頼んだ方が断トツで早いし、望み通りのものができると、霖さんにそう言われてる。
でも、個人的には霖さんでも良いのではと思う。このブローチは、どう考えても偶然できた代物だとは思えないからだ。
仮に、これが偶然の果ての産物であったとしても、そういうセンス自体はあるという事実を表す証拠にもなるだろう。
というか、普通に僕好みだ。どちらかといえば、
チルノも言ってたけど、僕がおしゃれに全力で取り組んだらサニーたちから可愛いって言ってもらい、喜んでもらえるのだろうか。
(お金はある。サニーたちに見せたら、可愛いって言ってもらえるかも……?)
ただし、霖さんの本業は香霖堂の店主、および魔道具の製作・修理職人。 本人が望んで仕事を増やしたのならともかく、僕のわがままで仕事を増やすなんてことはできないから、アクセサリー製作をわざわざお願いしたりはしない。
「うん、買うよ。
「毎度あり。与えられて喜ぶばかりだった自分自身が、今度は自分の力で喜ばせる側になれる。メノの性格なら、その幸せはひとしおだ」
「そうそう! メノの行動の根底には、サニーたちの幸せがあるからな! 後は、あたいたち友達のためってやつもあるっけ」
「ふふ。だから皆、一緒にメノちゃんと遊びたくなるんだよ」
なお、心引かれたこのブローチの値段は値引きされていなくとも、想像よりも安かったため購入を即決、早速装着した。
曰く、「端材かつ高度な
何も聞いてないのに安さの説明をしてくれたのは、僕が下手に萎縮しないための気遣いなのだろう。本当、霖さんと友達になれて良かったなぁ。
「稼いだお金、おしゃれにもっと使ってみようかな……?」
「メノが心からそう思うなら、全然良いと思うぞ!」
「そうだね。じゃあ、私もチルノちゃんと一緒に、メノちゃんのおしゃれのお手伝いをするよ」
「ありがと。その、よろしくね。2人とも」
この至上の幸せに強く感謝をしつつ、チルノや大ちゃんが僕のおしゃれアクセサリー探しに協力してくれるみたいなので、もうしばらく香霖堂でそれっぽいアイテムを探してみよう。
そうしたら、次はアリスの家にでも行ってお願いしてみようかな。流石の霖さんでも、妖精の女の子用の服なんて作ったことないだろうし。
だけど、仮に僕がお願いしたらしたで、霖さんは普通に可愛い洋服を作れそうだと思うのは、果たして思い込みなのだろうか。