「お待たせ。あれやこれやとやってたら、約束の時間をかなり過ぎちゃったわ。ごめんなさいね」
チルノや大ちゃん、人形さんたちと家の中や庭でかくれんぼをしたり、お菓子を食べたりしながら待つこと3時間、僕はアリスからそう声をかけられた。
確かに、2時間を過ぎてもアリスが呼びに来ないなと思いはしたけど、あくまでもその程度。急に来て開口一番服をちょうだいと言ったのは僕だし、予定の時間より待たされることくらい想定内、別に気にしていない。
むしろ、余計に時間を使わせちゃってごめんなさいと、僕の方から言わなければいけないくらいだ。手持ちのお金とかで、果たして対価になるだろうか。
「ううん、大丈夫。急な話だったから後で色々見つかって、時間がかかっちゃったんだよね。こっちこそごめん、アリス」
「あー……実は、目的の調整自体はすぐに終わったんだけど、どうせなら喜んでもらいたくて色々と……ね」
「そうなの? えへへ……」
本当は人形さんに着せる予定の服を、妖精である僕が着やすいように調整する。きっと、背中の羽を出す部分以外にも何か調整が必要になったりしたに違いない。
アリスがそこまでしてくれたのであれば、実際に着るまでもなく着心地は良く、満足のいくものになっているというのが分かる。
まあ、言ってしまえば友達が僕のために、何かしてくれたって事実が存在するだけで嬉しくなるのが僕なのだけど。
「ん? 完成したのか? 良かったな!」
「うん。じゃあ、着替えてくるから少しだけ待っててね。2人とも」
「おう!」
「分かった。のんびり待ってるね、メノちゃん」
ちなみに、着物みたいに着るのが難しい服とかではないということで、アリスに部屋だけを借りて自分で着替えると決めた。流石に、そこまでアリスにやってもらうのは、何だか恥ずかしいような、申し訳ないような感じがするからだ。
風邪を引いたりとか、何かしらの要因で動きづらいないし動けない時とかなら、話は別だけど。
(わぁぁ……なんだろう? こういう服が、初めてだからなのかな……?)
特に苦もなく服を着て、装飾品とかバッグなどの小物を身につけて、部屋の中にある鏡に写る僕の姿を見てみたのだけど、何だか妙に小恥ずかしい。
それに、一瞬これが本当に僕自身なのかなと思ってしまうくらい、雰囲気がガラリと変わっている。
僕が着ているルナと一緒の私服も、アリスに前プレゼントされたワンピースも、どちらも長袖。夏服に関しては、ルナのやつは半袖と膝上丈のスカートだけど、肌の露出は精々そのくらいだから、そう思うのかな。
「あの、えっと……お待たせ」
「「……」」
で、小恥ずかしさを感じつつも扉を開け、待っているチルノや大ちゃんの前に新しい格好で現れてみたら、2人とも無言で僕に視線を向けてくる。
頭のてっぺんから足の先までじっと、凄いものが目の前に現れたと驚いていそうな感じで、更に恥ずかしさがパワーアップしてきたけども、嫌という訳ではない。
髪型とかも変えればもっと凄かったんだろうなぁ。そう思いつつも、髪質はともかく長さが今日の時点だと全然足りないから、それをやるとしたらもっと後の話になりそうだ。
「ふふっ。メノちゃん、そういう系の服も似合ってるね。印象が変わりすぎてたせいで一瞬、他の誰かにすり替わったのかと思っちゃった」
「うんうん。というか、これなら絶対サニーたちも目を見開くよな! あたいと大ちゃんもびっくりしたもん!」
そうして、ひとしきり見終えた2人は僕のこの格好のことを、かなり褒めてくれた。
普段との印象の差からちょっと戸惑ってはいるみたいだけど、僕も僕で鏡で見た時に似たような考えに至ったから、その気持ちは良く分かる。
何にせよ、チルノと大ちゃんにこの格好が好評であったのは、かなり嬉しかった。この服を作ったアリスも間接的に褒められている点も鑑みれば、ちょっぴり恥ずかしい思いをしただけの価値は、十分にあったと言っていい。
なお、当のアリスも2人に続いて、僕の格好を見て「可愛らしくなったわね」と、ニコッとしながら伝えてくれたものだから、もう最高。
「アリス。僕のわがままを聞いてくれて、本当にありがと。でも……」
「でも?」
「良いものもらったお返し、どうしたらいいのかな? 手持ちのお金で足りるかな? 足りなかったら僕、何をすればいいのかな……?」
「お金なら、今のメノの持ってる分だと
「びゃっ……」
「とは言ったけど、実際全く気にしてないわよ。私があげたいと思ったからあげた訳だしね」
「わぁぁ……!」
そこに、僕にくれた服やその仕様調整、各種小物類の対価は必要ないと、頭なでなでをしながら言ってくれたのだ。アリスに対する、返すのが難しくとも返すべき恩がまた1つ増えたけど、果たしてどうやって返そうか。
誰かに喜んでもらえることで僕ができることと言ったら、各種家事しかない。けど、アリスはそれを人形さんに高水準でほぼ全て任せる芸当が可能で、例えそれをしなくたって高水準でできる。
それに加えて、今まで沢山料理を作ってきて喜んでもらっているし、今更料理で恩返しをすると言っても、今日受けた恩に見合うのかと考えたらちょっと疑問だ。
(うん、だよね)
でもまあ、アリスがこの件に対してお金の支払いを求めず、料理とかでの恩返しを期待してるようにも見えなかったのであるならば、僕のやるべきことは今日もらったものたちを、大切にして過ごしていくことのみ。
アリスが、せっかく自分の人形さん用の可愛い服とか小物類をくれたのは、僕に喜んで欲しいと強く思っているから。実際に渡してくれた時、そう言っていた。
遊びに行くにしろ何にしろ、普段から身につけて大切にしていると、もらったことがこの上なく嬉しいことであると示せば、アリスもきっと喜んでくれるだろう。
「随分気に入ってるみたいだな、メノ!」
「うん。こういう服は着たことなかったから、何か新鮮」
「ふふ。これを機に、可愛い服とか小物選びに興味が向くようになると、毎日がもっと楽しくなるね。メノちゃん、何を着ても似合いそうだし」
「現に今のやつとか、紅魔館のメイド服とかも違和感ないもん! あたいとか大ちゃん、他の皆の服とか着せたらどうなるかな?」
「ついでに、髪型とか変えてみる? いや、メノちゃん髪の毛そんなに長くないし、超癖っ毛だから大変かも……」
「大丈夫、
僕が普段と変わった新しい服や小物類を身につけ、それを見せるだけでこうして雰囲気が良くなり、話のネタにも困らなくなる。
流石に、想いを込めて作った料理を振る舞った時の反応よりは下だけど、それでも僕の心は優しく満たされていく。
料理作りや部屋の掃除とか縫い物だけじゃなくて、大ちゃんの言うようにこれからはもう少し、妖精の女の子としてのおしゃれに興味を向けてみよう。
ただし、サニーたちと出会ってから相応に時間が経っているとは言え、それでも1年には満たない。自分で言うのも自惚れみたいだけど、今の僕が可愛い格好の妖精認定されているのは皆のお陰であって、僕の感覚が優れている訳ではないのだ。
そもそも、前世は人間の男の子だった上に家の環境が環境、おしゃれに気を使うどころの話ではなかった。精神的にも崩れかけてたせいで、使おうとも思わなかったっけ。
ともなると、性別とか種族とかが変わったのはともかく、何の苦しみもなく幻想郷へ転生していたこと自体はこの上ない幸運だった。でなければ、ずっとあそこに居なければならなかっただろうから。
「幸せそうね、メノ」
「えへへっ、アリスのお陰だよ。ありがと」
「どういたしまして」
さてと、家に帰って今度はサニーとスターとルナを驚かせよう。まさか、僕が新しい服とかをアリスからもらって雰囲気が変わっているだなんて、想像すらできないに違いない。
愛する家族3人のびっくりする様子を想像しながら、僕は極上の幸せに浸るのであった。