おととい、チルノと大ちゃんを合わせた3人でお出かけした日、優しいアリスに無償でもらった可愛らしさ全開の服や小物たちの総称の、『白一式・夏』。
目にした時、何というか運命のようなものを感じ取り、すぐにでも欲しいと思った数少ないものの1つである。
やはりその通りと言うべきか、着心地などがかなり良かったのみならず、この格好を見せたアリスやチルノや大ちゃんはもとより、家に居たサニーたちや遊びに来ていた妖精軍団の皆からの反応が、僕の欲しかった反応そのものだったのだ。
声をあげてびっくりしてくれたり、目を見開いてぽかーんとしてくれたりしていて、本当に嬉しかった覚えがある。
その後、サニーやスター、ルナを中心に僕の格好が可愛いとか似合ってるとか言って、瞳をキラキラさせて褒めてくれたりしたから尚更。
ただこれで、当の本人が全く怒ってなかったとはいえ、ピースに少し痛い思いをさせていなければ完璧だったのだけど、まあ致し方ない。
細かく予告されていたのならまだしも、リアルタイムで家の中の状況を把握するのは、レミリアとて不可能な所業なのだし。
「いやぁ……本当、昨日はマジでビックリしたぜ。パチュリー、お前も見せてもらったんだろ?」
「ええ。正直、目の前の妖精がメノウである事実に、一瞬疑問を持ちかけたくらいには驚いたわ」
「妖精のお嬢様みたいでしたからね、メノウちゃん。普段とは、雰囲気がまるで違いましたし」
「もう……照れくさいよ、こあ。でも、嬉しいからもっと言って」
「はいはい。そんなにがっつかなくても言ってあげるよ~。可愛かったね、メノウちゃん」
「えへへぇ」
そして次の日……実際は昨日だけど、大切な僕の友達のところにチルノや大ちゃんと一緒に、おとといと同じように見せて回った。結果、程度の差こそあれ皆が驚いたり、褒めてくれたりしたのである。
特に、魔理沙や紅魔館の皆にとっては強く印象に残ったのか、こうして今日になっても話題に出てきている。
メイド妖精として、とても広い館内の清掃の仕事をしている途中ではあるけれど、こうしてパチュリーに呼び止められお茶会に参加させられるくらいには。
「あっ。そう言えば、さっきまで僕ホコリだらけのお部屋掃除してて――」
「別に構わないわよ。目に見えて酷い汚れとかではなさそうだし」
「そう? ありがと、パチュリー」
なお、僕が今みたいに館の誰かに呼び止められたりした場合は、場所が館内である限り例え遊びだったとしても、仕事を中断してそっちの方に行ってもいいことになっている。
また、自らどうしても遊びたくなったりした時は、仕事をキリの良いところまで終わらせて、咲夜か二大妖精長に一声かけてくれれば許可される流れが出来上がっているのだ。
こっちの権利はまだ使ったことはないけれど、普通に考えたらあまりにも破格の待遇だろう。
心配になって、本当に大丈夫なのかと聞いたら、「いつも頑張ってくれてるから、ちょっとしたご褒美でもあるわ」と、頭をよしよししながら言ってくれたのを覚えている。
咲夜も「貴女は、それに見合うだけの仕事をこなしてるのだから」と、ノーゼやスフェも「別に、気にしなくてもいいよ」とか「皆分かってくれてるから大丈夫!」と、優しく返してくれたっけ。
こういうのがあるから、急に仕事が増えて帰る時間が遅くなったり、時々お休みを少しずらしてくれないかとお願いされても、微塵も不満とかは抱かないのだ。
疲れが長めに残ったりはするけど、そんなのは余裕で許容範囲である。
ちなみに、同じくらい頑張っているスターの特典に関してはちょっと違い、休憩時間そのものが増やされたり、給料とかとは別にお小遣いとお菓子をもらったりする感じになっていた。後は、僕からの声かけがあったらできる限り応じてあげて欲しいとも。
「あっ、レミリア……」
そんな感じで、パチュリーとこあと魔理沙の4人で楽しいお茶会をしていた時、ふと視界にレミリアと咲夜の姿が入るも、声をかけるのに躊躇した。
何故なら、レミリアの機嫌が今までに見たことのないレベルで悪そうに見え、咲夜の方も表情が妙に険しいように見えたからである。
そう言えば、今日は咲夜と一緒に人里へ遊びに行くと聞いてたけど、にしては帰ってくるのが早すぎる。微かに聞こえる2人の会話から、何か不快に思う出来事が起きたせいで遊ぶ気分じゃなくなったのは分かるけど……どうしたのだろうか。
いつもニコニコ、優しく接してくれている友達のあんな、ピリピリしている姿を見たのは初めてでちょっぴり怖いけど、とても心配だ。やっぱり、声をかけるべきなのかな。
「何だ、もう帰って来たのか? 随分と早い……って、何か様子がおかしいぞ、レミリアの奴」
「あー……相当頭に来てるわね、レミィ」
「何があったんでしょうね? 久しぶりですよ、あんなレミリア様を見たのは」
そして、僕を介してレミリアと咲夜の存在に気づいた魔理沙たちも、その異様とも呼べる様子に困惑気味。やはりというべきか、こあの発言からして相当珍しい事態だったようだ。
館の皆から怖がられず、むしろ好かれるくらいに優しくて穏やかな吸血鬼さん。こんな妖怪さんと友達になれた僕の運に、強く感謝の意を表さねば。
「……あぁ。ごめんなさいね、メノウ。少し怖がらせてしまったわ」
「ううん、大丈夫だよ。それよりも、レミリアの方こそ大丈夫? 何か僕にできることがあったら、遠慮しないで言ってね」
「ふふっ、ありがとう」
すると、僕がじっと見ていることに気づいたらしい。少し慌てた風にこっちへ近づいてくると、いつもの穏やかな雰囲気とニコニコ顔をしながら、安心させるためか頭を撫でてくれた。
それから続いて、咲夜もしゃがんで僕の背丈に合わせると、どこからか取り出した飴玉を僕の口の中に入れてくれた。りんご飴らしいけど、とても甘くて美味しい。
なお、そんな僕とレミリアと咲夜のやり取りを見ていた他の3人は、少し安心したのか表情が柔らかくなっている。取り敢えず、皆の雰囲気が元に戻ってくれてひと安心だ。
「じゃあ、何か美味しいおやつをお願いできるかしら?」
「おやつ? 何でもいいの?」
「ええ、和洋問わず何でもお任せ……ああでも、強いて言うなら甘めのやつが欲しいわ。後、量は多めでお願い」
「お嬢様。さっきも食べたばかり――」
「まあまあ、たまには良いじゃないの。毎日沢山食べる訳じゃないし」
なんて思っていると、レミリアからおやつ作りのお願いをされた。人里で何か嫌なことがあって、僕と話をする過程で少し落ち着いてきたこのタイミング、完全に落ち着くために食欲が強くなってきたのかもしれない。
料理でないのは、時間帯的に今はおやつタイムであるのと、既におやつを食べていたからという理由があるのだろう。まあ何にせよ、パチュリーと咲夜さえ良ければお願いされた時点で、僕に断る理由なんてなくなる。
(……えへへ)
お菓子だったら、僕よりスターの方が断然上手に作れる。だけど、レミリアは僕の作るお菓子の方を選んでくれた。咲夜に諌められても、それを蹴ってまで求めてくれた。
頼めば絶対に美味しいお菓子が出来上がると、そう信じてくれているからこその、この振る舞い。僕のやる気は、もう既に最高潮だ。
「分かった。レミリアのために、腕によりをかけて作るけど……パチュリーと咲夜は、それでもいい?」
「私なら、特に構わないわ。そもそも、掃除中に呼び止めたのはこっちだもの」
「……ええ。とびきり美味しいおやつを、お嬢様に作ってあげて」
「うん! 僕のがいいって言ってくれたレミリアのためだもの!」
さてと、全力でおやつ作りに取り組もう。パチュリーと咲夜も太鼓判を押してくれたのを確認した後、心の中で僕はそう強く決意を固めた。