幸せ四妖精   作:松雨

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今話はレミリア視点になります。


レミリアの苛立ち

 親交の深い友人や仲良い身内が、見るも堪えない罵詈雑言を向けられる対象となっていた。

 こんな事実を何かしらの経緯で知ってしまえば、誰だって少なくとも不愉快極まりなく思うはず。

 

 現に私も、それのお陰で実に苛立ち……いや、想定よりも遥かに事情が斜め上を行き過ぎていた確信を持てたお陰で、腸が煮えくり返っている。

 

 取り敢えず、咲夜と一緒に遊びに行った人里では、こちらから厄介事は起こさず立ち去ることはできたけど、後もう少しで一線を越えてしまっていたに違いない。

 

 一緒に遊びに付き合ってくれていた咲夜だって、もう苦虫を噛み潰したような凄い顔をしていたし、こうして帰って来た後でも表情は戻らなかった。

 

(はぁぁ……嘘でしょ? まさかそんなことが……やっぱり、1発殴って殺しておけば良かったかしら?)

 

 誰が、罵詈雑言を向けられる対象がメノウで、その罵詈雑言をメノウに向けていた対象が前世で両親だった奴ら2人で、ついさっき幻想入りしていたと予想できるだろうか。現に、私はできなかった。

 

 加えて奴らが、『文々。新聞』に載っていたメノウの特集を偶然見て発狂し、罵詈雑言をぶつけていたのも、容姿を含めた様々な要素が種族と性別的な要素を抜きにした場合、前世と殆んど変わっていなかったが故と判明している。

 

 というか、万が一を考えてメノウの前世云々は親しい面々のみで共有する秘密にしていたと言うのに、うるさく騒いでくれたお陰で台無しだ。

 

 何とか全部喋る前に介入できたのは僥倖だけど、私の動揺のせいで遅れてしまったのは事実なので、この点は反省と後悔でしかない。

 メノウがしてくれた過去話で、奴らの正体は目撃してすぐに分かったというのに。

 

 恐らくは今、人里内ではこの話題で持ちきりだろうし、早急に何とかしなければならない。それに、まかり間違ってもこの事件が文の新聞に載るなんてことは、現時点では絶対に避けなければ。

 

「咲夜。悪いけど大至急、霊夢に事の次第を話した上で文を探して接触しなさい。念のため、はたてにもね」

「承知しました。早急に対処します」

「ありがとう。よろしく頼むわ」

 

 取り敢えず、咲夜にお願いして即座に対処してもらうけど……本当に面倒な人間だ。ひっそりと、誰にも存在を悟られることすらなく、その辺で野垂れ死んでくれてれば最高だったのに。

 

(ああもう! これも運命だったのかしら……?)

 

 なお、人里の人間でないのなら危害を加えること自体は特に問題はなく、幻想郷の管理者たる『八雲紫』の介入を想定する必要はない。

 

 ただ、それでも騒ぎを起こす場所を人里にするのは、霊夢との対立を招くリスクが極めて高いし、場合によっては紫が出張ってくるリスクすらも生んでしまう。

 

 だからなのか、そいつを処すタイミングとして今は最悪であると、今更ながら使った能力がそう教えてくれた。非常にもどかしい限りではあるものの、致し方ない。

 

 何にせよ、この事実はメノウ本人に対して絶対に隠し通さなければならない。場所が場所故に厳しい面があるのは十分理解しているが、それでもだ。

 

 百歩譲って耳に入ってしまったとしても、それは奴らを処して完全に幻想郷(世界)から消してからでないと、胸を張って安心をアピールすることはできないのだから。

 

「レミィ。人里で何かあったの? 差し支えなければ、教えて欲しいのだけど」

 

 それでもって、苛立ったまま大図書館に立ち寄ったのは大失敗だったなと、こちらも今更ながら後悔する。パチェやこあのみならず、魔理沙や当のメノウにまで要らぬ心配をかけてしまったからだ。

 

 ただまあ、この件は協力者が多ければ多い程やりやすくなる。どのみち、光の三妖精や妖精軍団など、メノウと親しくて人里に高頻度で立ち寄る面々には、話しておかなければならないのだし。

 

 それと、奴らの存在を幻想郷から消すことが叶うまで、スフェとノーゼにも協力してもらってカバーストーリーを館内へ流布、人里へのメイド妖精たちの流入を阻止するのも忘れない。

 

 どうしてもなくせない必要物資の買い出しなどは、秘密を知る一部の面々で行おう。

 

「ええ。それは構わないけど、ここでの話は決して許可なく口外しない……特に、メノウには絶対って条件を飲んでくれるならね。冗談抜きで」

「おいおい、そいつは穏やかじゃねえな……だが、続けてくれ。絶対に約束は守るさ」

「魔理沙さんと同じです、レミリア様。私からもお願いします」

「ならば良し。実は……」

 

 と、これからの動きについての大まかな流れを決めつつ、この場にメノウや他のメイド妖精が来ないかを見張る蝙蝠を放ってから、私は3人に全てを話す。

 

(幸せ者ね……メノウ。大丈夫、貴女が知らない内に全部終わらせておくから)

 

 メノウと言った時点で既に魔理沙の表情はかなり曇っていたけど、事の次第を話していくにつれて、感じている不快感が強くなってきたからか、頭を抱えて下を向いてしまう。

 

 パチェやこあの表情も魔理沙程ではないものの、驚きと共にかなり険しいものへと変化していき、ため息をついたりなど色々だった。かくいう私も、話していて苛立ちが再燃してきている。

 

「何かあったどころではないわね。付き合いは短くとも、1人の友人として決して看過できない事態よ」

「全くです、パチュリー様」

「はぁ……なんつうふざけた展開だよ。だが、ある意味人里で助かったぜ。今のところだが、メノが立ち入ることのない場所だからな」

「それはそうね。だからこそ、こちらとしてもある程度対処はしやすいし」

 

 そうして全てを話し終え、一呼吸ついてから3人の表情を改めて見回すと、それはもう凄かった。雰囲気だって、周りから見れば今から私を含めた4人で乱闘騒ぎでも起こすつもりなのかってくらい、悪くなっているのが当事者でも分かる。

 

 ただし、実際は奴らに対する怒りがそう錯覚させているだけであり、乱闘騒ぎなんて起こす気は一切ない。

 

「……っと、この話は終わりにしましょ。メノウ、おやつを作り終えてここに来るわ」

「おお、随分と早くないか? 沢山作ってと頼んでなかったっけ?」

「ええ、その通りよ。早かったのは、私の言葉が嬉しくて、テンションが急上昇した影響っぽいわ。後は、監視の蝙蝠を見て私が早く食べたがってるとでも思ったのかも」

「ははっ、メノらしいな……全くよぉ、あいつはいい子なのにさ……これ以上、試練なんて要らないだろ?」

「そうですね、魔理沙さん。私も、メノウちゃんには試練なんて不必要だと思います」

 

 すると、メノウを監視させていた蝙蝠から、メノウがおやつを作り終えたとお知らせが来たため、すぐさま話を中断して雰囲気を元に戻す努力をし始めた。

 

 ただ、家族並みに親しくなっている魔理沙は感情移入の度合いが凄く、その表情は話をする前には完全に戻らない。

 無論、こんな話をされてすぐに気分を変えるなんて無理だってことは、私としても承知している。

 

 私に例えるなら、過去にノーゼとスフェを苦しめた吸血鬼共が再び現れ、愉快犯みたくトラウマを刺激してこようとするようなものなのだ。

 

 とはいえ、このままだと魔理沙が落ち込んでいる理由を説明している時にボロが出て、メノウの抱えるトラウマを再燃させかねない。それだけはごめんだから、今の内にカバーストーリーを考えておこう。まあ、そのための時間は大してないのだが。

 

 最悪、奴らが人里に現れた点を含め、一部をぼかした上で伝えることも考慮に入れなければならない。

 

「えへっ、レミリア! 沢山できたよー……魔理沙? どうかしたの? 大丈夫……?」

 

 5分後、案の定大図書館の中におやつを持って入ってきたメノウは、魔理沙を見るなり心配そうに駆け寄って、元気を出してと言わんばかりに1枚のクッキーを差し出したのだから。

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