紅魔館の雇われメイド妖精としてのお仕事は、とても大変だ。
やること自体はほぼ変わらなくても、単純な仕事量は僕の家とはまるで比較にならない程の多さ。
大分はしゃぎ倒してるメイド妖精さんが居るお陰で、掃除したばかりの場所が気づけば散らかっていたりもした。
というか、スター共々イタズラやお遊びに巻き込まれたり、ノーゼやスフェに手伝いを頼まれたりで、遅々として自分の仕事が進まない時も結構ある。
料理やお菓子作りにしたって、数百人単位で居るメイド妖精さんの好みを把握するのはともかく、その日その時に食べたいものをピタリと当てて出すのは、正直厳しいなんてものじゃなかった。
あの咲夜が初日に「相当キツいわよ」といった意味を今、この身で僕は働く日に味わっている。
「んにゃぁ……えへへ、幸せぇ……」
「あらあら、余程疲れてたのね。この調子だと、スターも結構疲れてそうだわ」
「えっと、ちゃんと休みながらやったよ……?」
「ええ、分かってるわ。だから、お昼休憩とおやつ休憩を増やせばマシになるかしら」
「増やすの? レミリア、お仕事大丈夫かな?」
「ふふっ、大丈夫よ。そこまで柔じゃないからね」
しかし、妖精メイドとしての仕事で溜まった疲労は、次の日に持ち越されることはない。
今みたいに、レミリアが休憩時間に自室へ招いてくるか、逆に僕が休憩中の時に声をかけてきて、頭を撫でたり抱きしめてくれるからだ。
咲夜や美鈴やスフェを中心に、暇な時に他の皆がしてくれることもあって、その度に幸せすぎて溶けそうになってしまう。
(……にゃぁぁ)
それだけでも十分なのに、家に帰ればサニーとルナが疲れた僕とスターを、満面の笑みで迎えてくれる。
で、お疲れ様と労いの言葉をかけてきて、ハグや頭撫でを当然のこととしてやってくれるのみならず、たまにお菓子を2人で作ってくれたりもするのだ。
「不恰好でごめんなさい!」とか、「味とか、メノやスターに比べたら全然……」と2人は言うけれど、これ程美味しいと思ったお菓子は、スターのクッキー以外にはない。
言わずもがな、食べた瞬間に胸が暖かくなり、冗談抜きに幸せすぎて心が溶けると同時、疲れも一緒に溶けてなくなるのだ。
この時点で完全回復し、もう1度同じくらいの時間働ける気すらしてくるけれど、それをやろうとしたらどうなるかが分かりきっているので、やるつもりは全くないけど。
「咲夜に呼ばれて来たけど……ふふっ、メノ。幸せそうな顔というか、羽の色してるねー」
「あっ! えへへ、スターもこっち来て!」
「言われなくても、今行くよー」
幸せという名の大海に浮かびながら、ただひたすらにレミリアと一緒に居ると、同じく妖精メイドの姿をしたスターがトコトコと駆け寄ってきて、隣に座った。
今日は、スターとは一緒に仕事をしたのではない。僕が食堂で色々と料理やお菓子を作ったりしていたのに対し、スターは一定数の部屋や一定領域の廊下の掃除を任されているのだ。
とはいうものの、やることがなくなるなどで暇になったり、誰かから手伝いをお願いされたりとかで、他の仕事をすることもあるにはある。
ただ、
勿論、規定の休憩は取った上で体力や気力に余裕があるなら、自分から何か仕事をもらって働いてもいい。
まあ、実際はノーゼやスフェ、咲夜が大変な思いをしながら働くレベルなので、大体はお手伝いをすることになり、終わる時間まで小休憩を挟みつつ働く日が殆どだけども。
「やっぱり、スターも疲れてる?」
「まあね。今日は、やってもやっても終わらなかったから特に」
「そっか。メイド妖精さんたち、はっちゃけたのかな?」
「そうそう。特に、モリオンとシャーネットのコンビは凄かったわー……ごめん、ちょっと横になるわー」
「あの2人ねぇ。相性が良かったのか、今じゃ紅魔館随一の問題児2人組よ。本来の妖精らしさが強く出てるのは良いけどこう、もう少しだけ抑えてくれれば嬉しいのよね」
「凄い時限定で、僕の能力を上手く使えば……落ち着かせられるかも……?」
「「あっ、それだわ!」」
なお、今日は僕の方もノーゼや数人のメイド妖精さんと一緒にやってさえ大変だったけど、スターの方が遥かに何かと大変だったようで、会話の途中から僕の膝を枕にして横になった。
そこそこ眠たさも感じているようで、話す傍ら小さくあくびをしているのが目に入る。
お昼休憩の時間以外、食堂から出ていない僕にはスターの仕事してる場所がどんな状況が分からず、お手伝いに行くことができなかったのは、少し申し訳なさを覚えた。
咲夜のお陰でその場は乗り切れたらしいので、後でお礼しに行ってこよう。
「ふぁぁ……メノ、ちょっと限界かも。このまま、寝かせて」
「うん、いいよ。ゆっくりお休み、スター」
「ありがと……すぅ、すぅ……」
「気持ちよさそうに寝たわね。今日もお疲れ様、スター」
「ねえ、レミリア。僕はともかく、スターは多分夕方5時まで仕事無理そうだけどさ。お昼寝の分、帰る時間を伸ばしたりする?」
「まさか。むしろ、スターはもう終わりで大丈夫よ。メノウもね」
「えっ、僕も? いいの?」
「いいわよ。咲夜たちには私から言っておくし、スターが起きるまでここでゆっくり休んでいきなさい。お願いした以上の働きをしてくれたのだから、当然よ!」
そして、僕の膝枕とレミリアのベッドが相当心地よかったのか、部屋に来てから20分足らずでスターは、可愛らしい寝顔を見せてすやすやと寝始めた。
で、その様子を見たレミリアが今日の仕事は終わりと言ったことにより、スターがお昼寝から起きた瞬間に帰れることが決まる。
(……ふふっ)
一応、最初の約束では朝の8時から夕方の5時まで、基本的に働くことにはなっている。
しかし、レミリアは僕やスターの様子を逐一チェックして、休憩時間を増やしたり、今日のように早く切り上げることを提案してくれる。
滅多にないものの、夕方5時を過ぎても帰れる可能性がなくなると、僕やスターを「暇ねぇ……だから、私の話し相手になりなさい!」という体で呼んで、実質的な25分程度の休憩時間を設けたりもしてくれるのだ。
報酬も、伸びた時間と仕事内容に応じて結構増えるし、何よりレミリアたちが嬉しそうにする様子を見れるから、僕のモチベーションは常に高水準だと言えよう。
「モリオンとシャーネット、仕事はできるし妖精たちのムードメーカーでもあるんだけど、少し度が過ぎたみたいね。やはり、今日は私からも抑えるよう、改めて注意しておくわ」
「うん。でも、こんなこと初めてだよね。何か嬉しいことでもあったのかな?」
「うーん……あっ。もしかして、あれが原因かしら」
「あれ?」
「ええ。今日の夜、メノウとスターが帰った後に私が付きっきりで遊んであげるって言ったのよ。そうしたら、もう飛び上がっちゃってね」
「あー……そりゃ、あの2人ならそうなるよね。僕でいうところの、サニーたちが付きっきりで甘やかしてくれるみたいなものだし」
「あくまでも予想だけど、これが本当だとしたら、半分くらいは私のせいだわ」
ちなみに、レミリアにはモリオンとシャーネットが特別にはっちゃけた訳に、思い当たる節が1つだけあるらしい。
ただ、それは客観的に見れば凄く納得のいくものであり、むしろ2人の気持ちがとても鮮明に理解ができる。
自分たちが強く慕う大好きな主が、自分たちに付きっきりで遊んでくれる。
それを僕へと置き換えて、サニーやスター、ルナが付きっきりで色んなことをしてくれる光景を想像したら、何だか心が暖かくなってテンションが上がってきたのだから。
「凄いね、レミリア。それってさ、あの2人の気持ちをぐっと掴んで、幸せにできてるってことだもん」
「まあ、そこに関しては自信を持って言えるわね。私の館で暮らす妖精たち全員を、楽しく幸せな気分にさせることができるって」
「現に、皆幸せそうだもんね」
「ええ。私があの子たちから元気な心をもらっているんだもの、お返しできる自信くらいないと、話にならないわ!」
まあ、それはそうと働く日が毎回これだと流石に疲れはするので、レミリアには是非ともその辺の調整はお願いしたいところではある。
ただ、モリオンやシャーネットとは僕も友達関係を結んでいる以上、主とはいえレミリアばかりに任せるのもあれだろう。
(……よし、そうしよっと)
なので、スターが起きてからにはなるけど、僕からも2人に少しはっちゃけるのを抑えて欲しいと、そうお願いしよう。