幸せ四妖精   作:松雨

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今話はスターサファイア視点です。


怒れるウルと三妖精

 人里に今日、メノの仇となる存在が現れた。前世で男の子だった頃の家族、いわゆる『あの人たち』だ。

 

 メイドの仕事の休憩中に声をかけてきた、いつになく深刻そうなレミリアからそう聞かされた時、一瞬理解ができずに聞き返してしまった程に、衝撃的な話だった。

 可能性を考えなかった訳じゃないけど、本当に幻想入りしてくるなんて、あまりにも酷い運命ではなかろうか。

 

 一応、メノ本人にはカバーストーリーとして、咲夜が人里で見知らぬ人間からかけられた悪口のせいで深く傷ついたと、そう伝えてあるらしい。ファインプレーである。

 

(はぁぁ……大事過ぎるでしょ、これ)

 

 更に、同様の話を即座に紅魔館中に広め、それを理由に人里へ行かせないことでメイド妖精を経由した嘘バレを防ぎ、特定の住人には真実を伝えてカバーストーリーの信憑性維持に協力させる。

 文やメノとの親交がある面々にも、同様の理由で咲夜を介して真実を伝え、メノの心を守っていく体制を整えたという。

 

 ただし、理想郷の面々に関してはメノを介さないとどうしようもなく、真実をサニーやルナに伝えて欲しいとの言葉と共に、レミリアは私に「上手いことやって欲しいのよ。お願い、スター」とも言ってきたけど、言われずともどうにかするつもりでいる。

 

「「えっ……は?」」

「あはは。まあ、そういう反応になるよね。私もそうだったし」

「スター、冗談きつい……うん、分かってる。レミリアがそういう程なのだから、冗談とかじゃなくて本当だってことくらい」

「じゃあ、しばらく人里のお出かけは控え……でも、そいつらの傾向観察のために、ちょくちょく行く必要はあるんじゃない?」

「確かに。紅魔館に任せてても良さそうだけど、やっぱりメノの家族は私たちだもんねー。サニー、ルナ」

「「それはそう」」

 

 そして夜中、メノが完全に寝静まった後に2人をリビングに呼び、念のためにお願いしてルナの能力と私の能力で警戒する態勢を整え、レミリアから伝え聞いた真実を話したら、冗談であって欲しかったと言いたげな顔をしていた。

 

 2人のその反応は、メノと近しい家族ならばやっていてもおかしくない至極当然のもので、私も聞いた時はそう思ったから良く分かる。

 

 今のところ、メノは人里に遊びに行きたそうな素振りは見せていないし、私としても今のところ、メノを人里に連れていくつもりがない点は変わらない。

 

 せっかく治りつつある心の傷を、惨く抉って広げかねない……いや、そもそもこうなった元凶となった存在が居る場所に連れていくなど、正気の沙汰ではないのだし。

 恨み辛みがあるのなら別だけど、こんなにも優しく、一緒に居て楽しい家族相手であれば尚更だ。

 

(……本当、レミリアが居なきゃどうなっていたことか)

 

 もし、仮にこの事実を知らずにいた場合、何の心構えもせずに人里へと遊びに行き、レミリアと咲夜が目撃したという不愉快極まりない光景を私たちは目撃、相当な心理的ダメージを受ける。

 

 そうしたら、家で友達の誰かと留守番していたメノに、間違いなく心配をかけてしまう。もしかしたら、レミリアのように即効で説得力のあるカバーストーリーを作れないかもしれない。

 

 結果、メノはあの人たちが幻想入りしていたことを知り、恐怖や不安で再び心を崩壊寸前か、最悪崩壊まで追い込んでしまうのだ。絶対に回避すべき、最恐のストーリーへと。

 

「やあっ! 呼ばれてないけど、勝手にわたしが参上! ところで、メノちゃんに何かあったの? サニーちゃんたち」

「「「ひゃっ!?」」」

 

 すると、全く予想していないこのタイミングでいきなり、ウルが実体化した状態で机の上に立って現れた。あまりにも想定外の現れ方をするものだから、思わず椅子ごとひっくり返ってしまう。

 

 私の能力では、実体化しているウルならその動きや居場所が分かっても、霊体状態のウルの動きは完全に分からなくなる。もっと鍛えたりすれば分かるようになるのかもしれないけど、現状の私の実力では難しそうだ。

 

 メノが寝ているのに、どうして実体化しようと思ったのかは全くの謎だけど、まあそこまで深い理由はないだろう。別に知ったとて、何か得があるって訳でもないのだし。

 

「あっ、ごめん! わたし、ちょっと驚かしてみたくなって……」

「もう、本当にびっくりしたわ! まさか、ウルがこのタイミングでくるなんて!」

「霊体状態のウル、私の能力だと動いてても感知できないからねー。まあ、結構抜け道あるんだけどさ」

「そもそも、予想ですら普通に無理。未来を視れるレミリアとか霊夢辺りが、最初から警戒してればチャンスあるとは思うけど」

 

 ちなみに、ウルは1日の累計制限時間を超えない限り、何度でも自分の意思で霊体化と実体化を自由に行き来できるし、メノもそれを認めている。

 だからこそ、こうしてちょっとしたイタズラのために実体化したり、霊体化したりできるのだ。

 

 ただし、ウル曰く自分はメノの魂と共存関係にあるため、一定以上の距離を取ることはできない。正確には、メノに何かあった時に即応可能な距離とのことだけど。

 単に離れるだけならかなり遠くまで、例えるなら紅魔館までなら余裕で行けはするものの、怖いからやらないらしい。

 うん、それはそうだろうね。ウルは、メノの魂を守るために全力を注ぐ守護霊だし。

 

「っと、話が逸れちゃったね! それで、もう1度聞くんだけど……メノちゃんに何かあったの? わたしにとっては死活問題。だから教えて」

 

 そんなこんなでわいわいしながら過ごしていると、ハッとしたウルが私の肩に両手を乗せて、目線を合わせてからこう言ってくる。やはりというべきか、私たちの話をある程度聞いてはいたらしい。

 

 私やサニー、ルナよりも遥かに長い時間……それこそ、メノが男の子だった前世の頃から一緒に居るウルの言葉には、有無を言わせない凄みがあった。

 

 勿論、そう言われなくても教えるつもりではあったけど、その輝く群青色の瞳に見つめられたら、何かこう緊張して言いにくくなる。メノが関わる事柄だからか食い気味な上、純粋な力は霊夢が警戒する程あるのだから。

 

「端的に言うわ。幻想郷に、()()()()()が現れたの。特段、何かされたって訳じゃないけど」

「は? えっと、メノちゃんの前世の家族()ってこと、なんだよね?」

「ええ。誠に残念ながら、そいつらで間違いないわ。あのレミリアが言うんだもの。それに……」

「それに?」

「聞いてるだけでムカムカする、そいつらの話も色々あったらしいんだけど、どうする? ウル」

「一応……うん。聞いておこうかな」

「分かった。内容なんだけど……」

 

 数秒の沈黙の後、深呼吸をしてからレミリアにされた話をそのまましてみると、案の定話が進むにつれてウルの表情が一気に曇り、最後の方になると怒気を纏うようになっていった。全てが凍りつくような、そんな感じの怒気を。

 

 ウルからしてみれば、前世の頃から付き合いのある身を削ってまで守りたいと思う対象が、ようやく平穏無事に過ごせる幻想郷に来れたと思ったら、因縁の敵が幻想入りという形でやって来た。

 

 挙げ句の果てに発狂し、聞くに堪えない罵詈雑言を撒き散らす。

 秘密にしておきたかったメノの過去を、不特定多数の人々が居る中でべらべらと喋る、というか叫ぶ。

 結果、直接的ではないものの、メノの平穏無事な生活に水を差す事態となった。

 

 元々、人里には立ち寄らせる予定はないにせよ、メノと親しくて人里に良く遊びに行ったりするチルノや大ちゃんへの影響は、ほぼ確実に出る。私たちや他の皆だって、人里に行けばその影響を受けかねない。

 

(ひゃあ……流石は幽霊、凄い圧力だわ)

 

 ウルは、メノと仲良くしてくれる皆の事も大好きだと、そう公言している。前世では決して見ることができなかった、心の底から幸せそうに笑うメノを見せてくれるから。

 

 ようやく、あの人たちの影に怯えず過ごせる理想郷(場所)に来れたと思ったら、ここにまで敵が来た。存在しているだけで迷惑極まりない、今すぐにでも消え去るべき害悪が。

 

「よし。じゃあ、殺そっか」

「「「……」」」

 

 だからこそ、怒りが限界を突破したウルが無表情で淡々と、底冷えするようなオーラを発しながら、あいつらを殺す宣言をするのも当然のことと言えよう。

 

 しかし、今ウルを人里に向かわせる訳にはいかない。心情的には止めるつもりなんてないけれど、あのレミリアが苦虫を噛み潰したような顔をしながら「運命がまだその時ではないと、強く告げてくるのよ」と、そう伝えてきたから。

 

 レミリアが運命を読み違えることはほぼなく、霊夢や魔理沙も高い信頼を寄せている以上、それを無視して動くようなことはあまりしたくなかった。

 

「レミリアがね、まだ殺さないでって」

運命(未来)が見えたの?」

「そう。レミリアも、凄く辛そうだったから……お願い」

「そっか……うん」

 

 ただ、怒りが限界突破したといっても理性を失いはしなかったらしい。まあ、レミリアがメノの友達だから信頼できるって理由が1番なんだろうけど。

 

 私が真剣に今は何とかこらえて欲しいとお願いしたら、特段渋ったりすることなく頷いてくれた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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