幸せ四妖精   作:松雨

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強固な絆

「はぁ……辛そうな友達のために何もできないって、凄く辛いよね」

 

 大好きな家族や友達が傷ついているというのに、力不足で大したことができないか、やったって無意味も同然な時ほど、僕は強い無力感に苛まれる。

 

 勿論、傷ついた原因となった『何者か』には強烈な不快感と怒りを覚え、相応の仕返しをしてやりたいとは思っているけど、実行はできない。

 こういうのは僕自身の感情よりも、傷ついた本人が強く望んでるか否かが大切なのだ。

 

「メノウちゃん。貴女の優しさや思いやりは、心配せずとも咲夜さんに伝わってますよ」

「うん。ありがと、美鈴」

「とは言え、私もあんな咲夜さんは見た覚えがほぼありませんので……正直、心配ではあります」

「そっか……」

 

 いつも通り、門番の仕事をこなしている美鈴に招かれ、こう優しく励まされていても、ここ数日間見せている咲夜の俯いた様子とか、会話した時の元気のない声を思い出せば、その度にこういった思考の海に浸からざるを得ないのである。

 

 それに、ノーゼやスフェを筆頭とした周りのメイド妖精さんからも、咲夜を心配して励まそうとする声が聞こえてくる。

 自分たちを導く立場てあり、慕っている大好きな()()()()()のような存在だからこそ、余計に不安なのだろう。

 

 でも、レミリア含む主要な住人たちが色々と動いてくれてはいるし、僕も僕でできる気遣いはしているから、例え時間はかかってもいずれ必ず癒えてはくれるはず。そうしたら、また一緒に楽しく遊びたいな。

 

「メノウちゃん。ここ最近、貴女の(妖力)の流れが大分澄んできてますね。心なしか、力を開放した時の神々しさも増したように思います」

「あっ……うん、そうかな……? 実感、あんまりないなぁ」

「ふふ。きっと、能力を扱う練習を適度に頑張っているお陰です……よっと」

「わぁっ! えへへ……何度も言ってるけど、大好きな皆が居るから、沢山褒めてくれる皆が居るから頑張れてるんだよ、美鈴。皆が居なきゃ、僕は何もできないただの一妖精だから」

 

 すると、こんな話をしてばかりなのは美鈴にとって嫌だったのか、手を叩いて話の流れを変えてくる。どういう訳か、僕の能力に関する話だった。

 

 魔理沙が怪我をした時をきっかけに発現した、大自然の力を借りる程度の能力。最初は傷の治癒しかできなかったのに、今では攻撃とか身を守るためとか、他にも沢山のことができるようになってきている。

 

 最初の頃と比べれば天と地の差……ただし、サニーたちは勿論、魔理沙とかに比べたら能力そのものの()()はともかく、上手く扱えているか否かを問われれば、どう見繕っても否。

 数年~数十年後とかならまだしも、練習を始めて1年すら経っていないのに追い付ける訳などないのだ。

 

 個人的には、別にサニーたちだったり、妖精軍団の皆だったり、凄く上手な友達に追い付いたり追い越したりすることを目的としていないから、別にそれでも構わない。

 いざという場面で大好きな家族や友達を守れたり、役に立って喜んでもらえたりするくらいに、上手になれさえすれば。

 

「ねえ、美鈴」

「何ですか? メノウちゃん」

「いつもありがとね」

「……どういたしまして」

 

 どうしてもやりたいこととか、やらなきゃいけないことだってあるはずなのに、僕のために時間を作ってまで付き合ってくれる大好きな家族に友達、この存在なくして能力をここまで急速に高めることはできなかっただろう。

 

 妖精の女の子として暮らし始めてから、まだ1年すら経っていない。

 この間の咲夜の件のように、嫌なことをしてくる人だって全く居ない訳じゃない。

 そうでなくても、まだ見えていないだけで何か怖いところだって、いくつかあるかもしれない。いや、きっとあるはず。

 

 だけど僕は、それを加味したって幻想郷が好きだと言おう。ささやかながら、幾千もの宝石にだって勝る幸せの数々を、僕に与えてくれたのだから。

 

「相変わらず仲良しね、2人とも。私としては、願ったり叶ったりだけど」

「確かにそうね。お姉さま」

 

 美鈴に肩車してもらいつつ、仕事中の小休憩と称してのんびり過ごしていた時、後ろからレミリアとフランの声が聞こえてきた。2人で1つの日傘を差しながらの、仲良し姉妹で庭のお散歩中だったらしい。

 

 言葉数もテンションの高さもレミリアの方が上だし、端から見たらフランの方はそんなに気乗りしていないような感じがする。

 しかし、ある程度親しい誰かがフランの目をよく見れば、実際は楽しくて幸せそうにしていると理解できるだろう。

 

 微笑ましい。今はもう死んじゃって居ないお父さんとお母さんも、不器用ながらかなり優しかったみたいだし、家族に恵まれて本当に良かったねと、そう言ってあげたくなる。

 

「はい。メノウちゃんはとても穏やかで、会話していて楽しい妖精ですから」

「僕も同じ。だって、いつもこうやって優しく接してくれるもの」

「分かるわ、メノウ。お姉さまが館に迎え入れた当初から、美鈴は分け隔てなく温厚だったし。そう言えば、その頃ってお姉さまが色々とこき使ってたんだっけ?」

「懐かしいですね。今思えば、良く倒れずに耐えられたものだなぁ」

「こき使うって……まあ、事実ではあるし、張本人たる私が言うのもあれだけど、一二を争う程にバタバタしていたのよね、あの頃は。何だかんだ、思うところはあったのよ」

「分かっていましたよ、レミリアお嬢様。だから私は、ずっと貴女に忠誠を誓っていたんです」

 

 ちなみに、咲夜どころかパチュリーやこあなど、今居る住人が殆んど居なかった初期の頃の紅魔館では、美鈴がメイド長も含めて色々と仕事を請け負っていたらしい。

 

 今より館も狭く、妖精さんでなくてもメイドの人たちも居るには居たみたいだけど、その人数はスカーレット家当主引き継ぎのゴタゴタなども相まって広さの割に極めて少なく、それどころか食糧不足などから徐々に減っていく始末だったようだ。

 

 しかし、そんな地獄のような環境下でも美鈴は出ていこうとは思わず、むしろレミリアを支えてあげたいと強く思うようになっていたという。

 

 必死に紅魔館を守ろうと、美鈴を含む残った数少ない住人たちを守り幸せにしようと、遮二無二に動いていたところに心動かされたから。

 

 自分よりも遥かにハードワークで、何だったら傷つき過ぎて倒れそうな時だって、歯を食い縛ってでも頑張ろうとする。

 妹のフランとの関係も今と比べればかなり複雑で、もう言葉には表せない程だったみたい。

 

 そう語り、レミリアに視線を送っている美鈴の表情はとても穏やかで、何より心から幸せそうと思えるものだった。本当に、レミリアのことが大好きなのが良く分かる。

 

「お嬢様……あら、申し訳ありません。お邪魔でしたでしょうか?」

「大丈夫よ。ねえ、フラン?」

「うん。咲夜が邪魔だなんて、とんでもないわ」

 

 こんな感じで、幸せそうな美鈴を見ながらこっちまで幸せな気持ちになっていた刹那、いつもの特注メイド服を着た咲夜が現れた。

 表情や声、その他の仕草も殆んど普段通り。見た感じ、自分の中で折り合いがつけられたのだろう。

 

(ほっ……)

 

 心の傷は外から見て小さくとも、決して馬鹿にできない。外から見て大きかった時は、僕のように魂そのものへ影響が及ぶかもしれない程、深い可能性がある。

 

 そんな風に考えて心配していただけに、元気を取り戻した咲夜を見て確信した。僕の心配は完全に杞憂で終わっていると。

 

 一応、念には念を入れて霊体状態のウルに呼びかけて見てもらったけれど、「咲夜さんの魂とっても綺麗! 全く問題ないよっ!」とのお墨付きをもらったので、もう大丈夫だ。

 

「メノウ、心配かけてごめんなさい。貴女の気遣い、とても暖かかったわ」

「えへへ。咲夜、もう大丈夫? いつもみたいに、元気なの?」

「勿論よ。さて、メノウ含めた皆に楽させてもらった分……今日から、より一層頑張らないとね」

 

 やっぱり、咲夜は僕が思う以上に、心がとっても強い人間さんなんだなと、今日改めて実感したのである。

 

 勿論、レミリア含む館の住人たちと咲夜の、何があろうとも決して壊れないであろう、強固な絆による繋がりも。




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