「んぅぅ……わっ、メノ……?」
そんな記憶はないのに、気づいたら寝室の布団でぐっすり寝ていて、メノが同じく私の隣ですやすやと気持ちよさそうに寝ていた。
見ている夢の中でも私やサニー、スターと遊んでいるのかいつもよりも羽の動きが大きく、寝言の数も少し多い。
予想外でちょっとびっくりはしたものの、幸せな思いをしてくれてるなら凄く嬉しいし、一緒に寝ると私も幸せな気分になれるから、知らぬ間に布団に潜られていても大歓迎である。
(もう夜中かぁ……変な時間に目覚めちゃった)
メノを起こさないようにゆっくりと身を起こして周りを見渡してみると、サニーやスターはもとより、一緒に遊んでいたチルノたちやあうん、霊夢もぐっすり寝ていた。何だかんだ、お泊まりすることになったらしい。
寝室の障子を開けて上を見てみると、綺麗な満月が輝きを放っていて、私が月の光の妖精だからか、妙に力が滾るような感覚を覚える。
お陰様で眠気も疲れも綺麗さっぱり、もう1度寝ようとしても多分寝れないだろうから、縁側でのんびり月光浴と読書とお月見でもしようかな。持ってきた特注のコーヒーセットでコーヒーを淹れて、香りを楽しみつつ飲みながら。
お湯は魔法のケトルに水を入れて、それから妖力を込めて加熱台に置いて少し待てば簡単に用意できるし、そのための水も究極に綺麗な井戸水を、台所の水道の蛇口をひねれば出すことができる。
メノが起きてたら、能力で綺麗な水を出してとお願いしてたかもしれないけど。
コーヒーに関しては、香霖堂や紅魔館経由で最近沢山仕入れることができたので、それなりに持ってきている。ドリップコーヒー用からインスタントコーヒー用、果ては味わい深い香りのするコーヒー豆も含めた全て。
(本当、にとりの技術は便利だよね。魔法とどっちが便利かは……まあ、その時々かな)
そうと決まれば、早速寝室を出て台所へ向かい、水道の蛇口をひねってケトルに満タンまで水を入れた。
で、すぐに縁側まで戻って座ったら隣に加熱台を置いて、その上に水を入れたケトルを置き、月光を読書灯代わりに本を読みながらのんびり待つ。
(ありゃ、しおりなくしちゃってた……まあ良いや。最初から読もっと)
私が眠る前のように、皆でワイワイ騒ぐのも楽しいは楽しい。でなければ、こうしていつの間にか眠ってしまう程に、はしゃいだりはしないだろう。
ただ、それとは別に静かな環境下で1人、もしくは私以上に大人しめな性格のメノと、お茶なりコーヒーを飲みながら読書をしたり談笑に浸るのも、同じくらい好きだ。
1人が何で好きなのと、読書がどうしてそこまで好きなのかと聞かれることはたまにあるけど、周りの環境と運と個体差のせいじゃないのと答えている。
実際問題、サニーやスターと出会う前まではこうやって他の妖精たちのように、皆とはしゃいで遊ぼうという気すら全くとは言わずとも、殆んどなかったのだから。
「あっ、お湯沸いた。えっと……コーヒーは、今日はこれにしよっと」
そんな時、辺りにピーっという音が間隔を置いて数回響く。加熱台に置いたケトルに入れた水が沸いた時に知らせるための音だ。
なお、今はあくまでもコーヒーはおまけであるため、お手軽に飲めるインスタントコーヒーの瓶を開け、中の粉をカップに入れて沸かしたお湯を注いで完成させた。
手間暇がかかるドリップコーヒーなどには風味も香りも劣るけど、それでも美味しいし、香りも十分に楽しめるものは選んでいる。
(うんうん、良い香り。味も、流石は香霖の一押しだね。さて……)
それにしても、大して大きくはない音のはずだったのだけど、周りがとてつもなく静かだったからか、私の耳にはお知らせ音が結構大きく聞こえた。能力を使って音を消して、沸くまで見てれば良かったかも。
疲れきったはずの皆がこの程度で起きるとは思わないものの、絶対に起きないという保証もない。
特にメノは、前世のあいつらのせいで凄い早い時間帯に睡眠が浅くなって、目が覚めやすい体質なのだ。まあ、これには元々耳が良いのも作用はしているかもだけど。
そして、1度目を覚ませば自分が疲れてようがいまいが関係なく、さも当たり前のように私たちの分の家事を完璧にこなす。対価として何かを要求しても良いくらいなのに、決して何も求めない。
でも、ここ最近は日が昇る前に起きる頻度も少なくなって、私が起きた時でも家の中が散らかったままってことも、そこそこ増えてきた。
いつぞや、起きた私を見るなり「えへっ。僕ね、最近ぐっすり寝れるようになってきたの」と言ってきた時は、ちょっとうるってきたっけ。
せっかく良い傾向が見えてきたのに、こういうしょうもないことで起こしちゃったら、意味がないのだし。
(……)
ちなみに、今まで通りとても早い時間帯に起きて家事を完璧にこなしてくれた時も、朝いつもの時間に起きてきた私たちに対価として、時々自身を甘やかして褒めることを要求するようにもなってきている。
普通ならこれを面倒に思ってしまうかもだけど、これがメノの話となるとまるで別。私は当然として、サニーやスターも微塵もそうは思っていない。
対価としてこっちが釣り合っていないのは勿論、何よりメノが
「こんばんは。コーヒーを飲みながらでも大丈夫だから、少し良いかしら?
「わっ……あぁ、
しかし、そんな私の思考は予想外の人物……幻想郷の賢者、
博麗の巫女たる霊夢ならいざ知らず、私に何の用事があって話しかけてきたのか。特別な力がある訳でも、友達という訳でも、ましてや何かやらかした訳でもなく、単にお互い存在を知っている程度でしかない関係なのに。
「あなたに用事というより、正確には暖かな
「暖かな大地の光……メノのこと? 急に何で?」
「あらあら。そんなに警戒しなくても、何も排除しようって訳じゃないわ。幻想郷は全てを受け入れる……彼女も、彼女が従える理想郷も、それは例外にはあたらない」
「……そう」
なんて思ってたら、どうやら私ではなくメノに用事があったらしい。暖かな大地の光……知らぬ間についていた、メノの2つ目の二つ名を口に出していたから間違いはない。
性格は前世のせいで臆病ながら極めて温厚、能力も大自然の力を借りる程度の能力とあるけど、他人の傷を治したり元気を与えることもできる。
更に、異世界からやって来た
一介の妖精でありながら、急激に名前と存在感を強めたのもあって、流石に無視できず声をかけようと思うのも、客観的に見れば納得はいく流れだ。
それはそうと、メノのことをどこまで知ってるのかが不明な上に、実際に何を考えているのかも分からないので、紫の一挙手一投足に警戒はせざるを得ないけども。
「端的に言えば、もう単一の勢力規模だけで相当な領域に達していて、私といえど流石に無視できなくなったのよ」
「あー……それは、確かに納得できるかも……?」
「ただ、あの子の性格からして他人の私がいきなり行くのは望ましくなく、そもそも初対面の勢力の主にアポなしでなんて、門前払いがオチでしょう?」
「うん。だから、私に声をかけたんだ」
「ええ。勿論、今すぐにとは言わないわ。八雲紫って妖怪が
そうしたら、紫がメノと話をしたがっているというのを、本人に伝えて欲しいとお願いされた。あくまでも伝えるだけで、返事をもらってこいとは言わなかったけど、そんなので良いのだろうか。
まあ、私としては別にメノをどのような形であれ、傷つけるような真似をしようとしてるのでないのなら、別に関係ない。なので、取り敢えず紫がどんな妖怪かを説明する傍ら、話したがっていると伝えることくらいはしても良いかなと、私はそう思った。
「分かった。それくらいなら、やっても良いよ」
ただし、仮に話すことになったとしても、申し訳ないけどメノと2人きりでは話させない。私たちは当然として、場合によっては霊夢か魔理沙、もしくはレミリアにも一緒に居てもらうつもりでいる。
そうすれば、私たちはもとよりメノにとっても、心強い支えになってくれるのだし。
「ありがとう、感謝するわ。返事については今度、1週間を目処にあの子が居ない時にでも聞きに来るわ」
「うん。でも、期待はしないで待ってて」
なお、紫は私の返答を聞くや否や、すぐにスキマを開いて去っていった。電光石火の早業とは、まさにこのことを言うのだろう。
この後、何か外せない用事でもあったかのような振る舞いだったけど、私には関係のないこと。それよりも、コーヒーを飲みながら本の続きを読んだり、月光浴の続きを楽しもうと考えながら、閉じていた本を開く。
(メノ。今日はとってもぐっすり寝れてるんだね、よかった……)
ちなみに、かれこれ満月がゆっくりと沈み、さんさんと輝く太陽が昇ってくる時間帯まで、時折身体を動かしたりコーヒーを飲みながら、縁側でのんびり読書をしていた私だったけど、メノが起きてくることは一切なかった。
何となく気になり、能力を使ってこっそり寝室と縁側を隔てる襖を開け、この目で見た布団で眠るメノの寝顔は、ここ最近で一二を争う程に幸せそうで、可愛らしい。
だけど、あまりにも熟睡し過ぎている気がする。メイドの仕事もあるし、起こしても起きず遅れる可能性も想定しておかなければならなそうだ。
無理やり叩き起こすこともできなくはないけど、それが良からぬ影響を与えてしまうのは怖い。メノから頼まれていないのなら尚更。
という訳で、今すぐ紅魔館に行ってレミリアや咲夜にこのことを伝え、代わりに頭を下げよう。
ついでに、紫がメノと話したがっている件も伝えられるし、ちょうど良かったと思いながら。
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