幸せ四妖精   作:松雨

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今話は八雲紫視点です。


賢者の憂鬱

 幻想郷は文字通り、全てを受け入れる。外の世界出身か異なる世界出身か、その種族や異なる価値観、経歴を持つ何者の来訪であっても。

 

 無論、全力で抗うなどそれ相応の対応を取りはするものの、侵略的な存在や災害的事象であろうと、全く例外ではない。これに関しては、いわゆる吸血鬼異変時の紅魔館の面々が、その最たる例である。

 

 ただし、明確に幻想郷のルールを逸脱したり、根幹を揺るがすような存在、または事象に関してはその限りではない。

 

 全てを受け入れているのは、変化する幻想郷を期待しているからであって、そこに在るだけで幻想郷を崩壊や滅亡を招くような存在ないし事象は、要らないのだ。

 

「紫様。妖精たちの理想郷(フェアリーズユートピア)の件、如何致しましょう?」

「取り敢えず、今まで通り静観で問題ないわ。この間、ルナチャイルドに理想郷の主……テルースメノウへ話を通してもらうようにお願いしておいたし、近い内に話はできるでしょう」

「……遂に、噂の彼女とのご対面ですか」

「ええ、頷いてもらえればね。ただ、頷いてもらえなくても、いずれ必ず話はするつもりよ」

 

 なお、ある時突然魔法の森の奥地に現れた妖精たちの理想郷、今現在幻想郷を良くも悪くも賑わしている、理想郷の主でもあるテルースメノウ(大自然の妖精)は、勿論受け入れる側の存在である。

 

 出現当初は寂れていて、外観と異空間とも呼ぶべき内部と共に、朽ち果てた古代遺跡とも呼べる状態だったのに、彼女が表舞台に現れ始めてから極短期間で様変わり、今では完全に寂れる前の全盛期とほぼ同等であろう状態になっている。

 

 それと並行して、凄まじい勢いで妖精の数が増加し、理想郷の外……幻想郷にも、そこで生まれた妖精がちょくちょく現れるようにもなった。

 

 しかも、その大半が平均的な妖精よりも強く、一部はチルノやクラウンピースなどの妖精最強格に迫っている。

 かと言って、元々幻想郷に居た妖精たちが駆逐されるなどと言ったことはなく、共存共栄が成されていた。主が温厚だから、その下の妖精も温厚なのだろう。

 

 その上、守護者を名乗った()()()()()に至っては、種族を逸脱している強さと言えた。

 

(対処できない災厄級ではないけれど、可能ならば敵には回したくないわね。あの守護者)

 

 1度だけ、幾重もの複雑かつ強固な結界に覆われた領域を覗こうとした時、現れた彼女とやり取りを交わしただけであれど、私も藍もそれは良く理解できた。

 

 まあ、あれだけの広大な領域を守る者が弱者ではやっていけないだろうし、そもそも異なる世界からの来訪者に、幻想郷の常識が全て当てはまる訳がないのだから、何らおかしな話ではない。

 

「了承してくれるでしょうか、理想郷の主は」

「文の新聞にも載っていた注意事項さえ守れば、大丈夫じゃないかしら。確かに、守護者とはひと悶着あったし、彼女から行ったであろう報告を聞いたテルースメノウがどう判断するかは、懸念要素ではあるけども」

「加えて、周りには霊夢や魔理沙を含めた幻想郷の有力者が居ますしね。何かあれば、我々よりも間違いなく彼女たちの言うことを信じるでしょうから」

「ええ、(らん)の言う通りね」

 

 そして、その守護者が絶対的な忠誠を誓っている、理想郷の主たるテルースメノウ。種族と性別まで変化する転生経験と前世の記憶持ちという、非常に珍しい妖精でもある。

 

 彼女は妖精にしては強い方であり、飛行能力に至っては妖精らしからぬレベル。加えて、能力も汎用性に優れた強力なものではあるものの、例の守護者と比べれば雲泥の差。

 現時点ではという注釈はつくが、あくまでも私の常識の範囲内にはギリギリ収まっている。

 

 しかし、彼女の真価はそこではない。挙げれば色々とあるけれど、1番は短期間で幻想郷の有力者とすら良好な関係を築く、その人当たりの良さとコミュニケーション能力だろう。

 抱えているトラウマ故に、家族である三妖精、ないし友人となった人妖の補助がほぼ必須という点を考慮に入れても、かなり優れている。

 

 白玉楼の面々に鴉天狗の文、魔法の森の面々、博麗神社に紅魔館の住人たち。これが、私が知る現時点で彼女と良好な関係を築いている有力者ないし勢力。一部に至っては、もはや家族も同然の関係まで進展しているのだ。

 

(あの性格にあの見た目……普通なら、少なくとも悪印象は持たれないわ。普通なら、だけど)

 

 相手からの善意に対して、同等かそれ以上のお礼をもって必ず返す。友人以上の関係になれば、この傾向がより一層顕著になる。

 

 逆に、自分から相手へ善意を向けた際には、殆んどと言って良い程対価を求めたりはしない。精々あっても、甘えさせて欲しいとお願いする程度らしい。

 

 そして、本人から他人に対して悪意を向けたりすることは、現状一切ない。家族や友達に害が及ばない限り、怒ることすらしないのではと推測している。

 

 ただし、つい最近幻想入りしてきた外の世界出身で、人里に滞在中の人間からは恨まれているらしいけど、その理由はまさに自業自得かつ滅茶苦茶なもの。

 

 妖精に肩入れしている上に、能力も相まってかなり聡いレミリアが情報操作に全力を注ぐのも、至極当然と言えよう。

 

(今のところ、差し迫った厄介事はないけれど……)

 

 彼女の精神が、万が一修復不可能なレベルで傷つこうものならば、激昂した守護霊のウルと理想郷の守護者が手を組み、確実に原因となった外の人間たちを皆殺しにする。その過程で、更なる争いの火種があちこちに拡散するかもしれない。

 

 取り敢えず、人里の彼らの動向にはもう少し、気を配るようにしておこうかしら。あの様子だと、そう遠くない内に何か仕出かす可能性が高そうだし。

 

「ところで、紫様。幽々子様と妖夢からのお裾分けのうどん、食べませんか?」

「確かに、ちょうどお昼の時間帯ね。(ちぇん)はどこにいるのかしら?」

「友人と遊びに行かせていますので、今は呼べません。勿論、あの子の分は取っといてあります」

「そう。なら、先に2人で食べちゃいましょう」

 

 で、理想郷やテルースメノウに関する話し合いをしている最中、藍がそろそろ息抜きをしたくなってきたようなので、ちゃぶ台の上に置いてあったケースからきつねうどんを出して、一緒に食べることにした。私も、そろそろ息抜きしようと思っていたからちょうど良い。

 

 ちなみに、そのきつねうどんを作ったのはお裾分けをしてくれた幽々子でも、ましてや妖夢ではなく、件の妖精(テルースメノウ)である。

 

 何度か幽々子や霊夢のお裾分け経由で、彼女の作る料理を食べたことはあるけど、贔屓なしに言えば藍が作るものよりも美味しい。無論、味だけでなく見た目や香りも一級品で、1度食べれば有料でも食べたくなる程。

 

 食事処を開けば、余程の僻地でもない限り繁盛する味と見た目よとは、幽々子の言葉だ。

 

「うーむ、相変わらずの美味ですね。悔しいですが、料理の腕に関してはやはり、メノウ(彼女)の方が一枚上手でしょう」

「経緯が経緯みたいだから、ある程度は仕方ないわ。最近は楽しんでいるようだけども」

「あぁ……例の醜悪な輩が、いつぞや叫んでいましたっけ。お陰であの日以降、人里と懇意にしていた妖精たちや紅魔館の面々も殆んど寄り付かなくなりましたし、他にも色々と……彼らの存在は、現状多方面に不和しかもたらしていません」

「本当に、関わざるを得ない人々が不憫でしかないわ。彼女に至っては、何の因果か種族と性別以外前世と酷似しているんですもの。それだけの罪を重ねたようには見えないけど」

 

 もちもちの手打ち麺に出汁の効いた汁、新鮮な食材に食欲をそそる匂い、言わずもがなこのきつねうどんは相も変わらず非常に美味。そもそも、あの幽々子が太鼓判を押す程なのだから、口に合わないということはあるかもしれないが、不味い訳がない。

 

 ただ、食べる前までテルースメノウに関わる話をしていたせいか、どうしても脳裏に人里の輩がちらついて、いまいち気分が乗ってこない。

 

 人里の雰囲気も前より明らかに悪くなり、私や藍が懇意にしていた店も含め、輩の存在による実害が既に出始めている。どうにかしたいところではあるものの、現状取れる手立てが見つからないのである。

 

 かなり大きな波風が立つことになる(レミリアでさえ選ばなかった)ものの、それを許容するのであれば今すぐにでも()()することは、容易に可能ではある。でも、やはりその選択肢は選べなかった。

 

(あんなのと繋がりがあるだなんて……まあ、同情するわ。テルースメノウ)

 

 しかし、人里が関わっている以上、何にせよ放置はしない。可能な限り早く、この事態をできるだけ波風立てずに解決する手段を用意する、そんなつもりで私はいるのだから。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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