幸せ四妖精   作:松雨

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翡翠の守護者

 僕を、とっても優しくて大好きな家族や友達と巡り合わせてくれた、大好きな幻想郷。

 知らないこともまだまだあるし、常識が違ったりで戸惑うところもあるけれど、ずっと暮らしていたいと心から思える、まさに僕にとっての理想郷だ。

 

 ただ、ある時……初めて寝坊して、凄く慌てちゃった5日前のメイドの仕事をいつも以上に頑張ってこなし、家に帰って来た時だったかな。

 

 ルナから、幻想郷を創り上げた賢者の1人だという『八雲紫(やくもゆかり)』という名前の妖怪さんが、妖精たちの理想郷関連で僕とお話がしたがっていると知らされた時は、本当にびっくりした覚えがある。

 

 曰く、僕も含めたルナ以外の皆が寝静まっている時間帯に突然やって来て、話を通して欲しいとお願いされたとのこと。

 その返事に関しては急ぎではないみたいなので、取り敢えず保留にしてもらっている。

 

 僕の心内では、現状話をしてみようという思いもあるけど、やっぱり断るべきなのかなとも思っていて、要は迷っているのだ。

 

 何故なら、単純に紫って妖怪さんのことを聞いて回った時、僕の家族も友達も複雑そうな感じだったから。心や身体を酷く傷つけられたとかじゃないけど、普段の発言とか態度が信用しにくい妖怪とは、霊夢の言葉だったっけ。

 

「おぉ! メノウおねえちゃんとまりさだ、やっほー!」

「わっ! 相変わらず元気だね、妖精さん」

「本当、どこの世界でも妖精って変わらないんだな……ん? これが欲しいのか? ほら、全部やるから仲良く分けて食べろよ」

「ほんとに!? わーい!」

「おかしだおかしだー! まりさ、なんていうの?」

「金平糖って言うんだぜ。そんなに気に入ったなら、また今度用意して持ってくるからな」

「こんぺいとう……!」

 

 理想郷に今、僕と一緒に遊びに来てくれてる魔理沙も、「うーむ。大丈夫だとは思うんだが……何かな」と、紫さんと僕が話をすることに難色を示している。

 

 ただ、僕が想像するような……それこそ、紫さんが嫌な『人』だからって訳ではなくて、トラウマを抱えている上に単純にそういう類いの経験が皆無で、精神に不調をきたさないか心配だからみたいだ。

 

 確かに、魔理沙の言う通りだと思う。400年以上も昔に紅魔館をお父さんから受け継いで、今に至るまで数々の壁を乗り越えてきたレミリアのような、百戦錬磨の経験や技術と同等のものなんて、僕は持っていないのだし。

 

 せめて、大好きな皆が凄く気遣ってくれているにも関わらず、未だ心の中に蔓延るレベルの強いトラウマさえなければ、ここまで悩むことはなかった。

 

 だって、魔理沙もそうだけど、紫さんとのお話の件を話した皆……特にレミリアと霊夢が、真剣な表情でその時は呼んでくれれば行くと、そう言ってくれたから。

 

「ふふ。メノウ様、お帰りなさいませ。今日は三妖精の方々と一緒ではないのですね」

「ただいま、翡翠の妖精さん。サニーとスターは霖さんのところに、ルナは家でゆっくり読書してるから、ちょっぴり誘いづらくて」

「あのお三方、とても優しいですものね。ですが、負けず劣らず魔理沙様も優しいと私は思いますよ」

「うん、それはそう。サニーとスター、ルナも魔理沙が一緒だと、とっても楽しそうだもの」

「守護者公認とはな。何というか、光栄だぜ」

 

 ちなみに、この間翡翠の妖精さんが教えてくれた、厳重に隔離されてる最深部の妖精大庭園(ここ)へ入ろうとした侵入者も、何を隠そう紫さん。

 

 でも、蓋を開けてみればちょっと覗いただけだったり、急激に甦った理想郷が幻想郷に対して脅威か否かを調べるため、少々前のめりになってしまったせいだった。

 

 幻想郷は全てを受け入れる楽園ではあるけれど、()()()()()()()人やものまで一緒くたに受け入れていては、せっかくの楽園が壊れてしまう。

 

 僕だって、僕自身やサニーたちと仲良くしてくれる人妖さんは大歓迎だけど、だからと言って無条件に全て受け入れるつもりはない。

 

 妖精たちの理想郷に入れても良いと僕が思っているのは、そこが故郷な妖精さん以外だと、基本的に僕の大好きな家族や友達だけなのだ。

 

 だから、紫さんの気持ちは理解できる。理解できるけど、妖精大庭園か大切なお家の中でお話するとなると、やっぱり二の足を踏んでしまう。

 

 サニーたちも、チルノ一行も、アリスに霖さんも、レミリアたちや霊夢とあうんも、悪い人ではないし嫌な人ではないけれど、信用しづらい妖怪さんだと口を揃えているから。

 

「まりさ、まりさ! つぎはわたしにかたぐるまして!」

「私にもやって! あっ、手を繋いでくれるだけでもいいよっ!」

「あーっ! あなたはさっき、沢山相手してもらった子でしょ? 魔理沙、この子よりも私を優先して!」

「分かったわかった。押さなくても順番にやってやるから落ち着け……うぉい!? 私の髪の毛トリモチまみれにしたの誰だよ!?」

「「「はーい!」」」

「全員が返事するんかい! 相変わらずだな……取るの大変そうだぜ、こいつは」

「「「きゃはははは!!」」」

 

 後、今更改めて言う話でもないけれど、魔理沙は妖精からの人気が凄まじい人間だ。僕も当事者だったから分かるけど、妖精を強く惹き付ける何かがあるに違いない。

 

 実際、魔理沙の周りには四方八方から、かなりの人数の妖精さんたちが集まってきているのだ。僕の周りに来ている妖精さんのほぼ倍、推定で30人前後は居ると思う。

 

 ともなると、何やかんやでもみくちゃにされるのも、その過程で僕が魔理沙から流れで離れることになってしまうのも無理はないし、気にもならない。魔理沙が、楽しんでくれているのであれば。

 

(えへへ、よかった……)

 

 それにしても、妖精さんたちが持っているトリモチ、一体いつどこで用意したのかが不思議である。いつの間にか人里に行っててお米でも買ってるのか、妖精大庭園でお米と類似した穀物を栽培してて、それを使っているのだろうか。

 

 だとしたら、皆に喜んでもらえる美味しい料理に使えるかもしれない。後で忘れなければ、翡翠の妖精さんや他の妖精さんに聞いてみよう。

 

「魔理沙、妖精さんたちに大人気だね」

「ええ、とっても人気ですね。元々、魔理沙様が妖精に好かれやすい性質というのも勿論でしょうが、1番はメノウ様自身が懐いているという要素が大きいかと」

「そっかぁ。翡翠の妖精さんは、魔理沙のことどう思ってる?」

「そうですね。不思議と一緒に居たくなる魅力のある、とても素晴らしい人間……でしょうか」

「ふふっ。僕もだよ」

 

 なお、寄ってくる妖精さんたちの相手を僕と一緒にしつつ、そんな魔理沙を横目で見ている翡翠の妖精さんの表情は、とっても柔らかいものであった。

 

 妖精たちの理想郷を僕以上に愛していて、僕が生まれる前まではとても静かだったこの場所をたった1人で、壊れないように維持していた翡翠の妖精さん。

 

 よっぽど寂しがり屋だったのか、ここが妖精さんで賑わえば賑わう程嬉しそうにするし、僕が友達を連れて来ようものなら何をしていようと、すぐに寄ってきてニコニコしてくれる。

 

 1歩引いてるからなのか、たまにかつ抑え気味だけれども、サニーたちみたいにワイワイ遊んでくれるから、翡翠の妖精さんのことも僕は大好きだ。

 

(翡翠の妖精さん……幸せそう。えへへ)

 

 確かに、僕はここの主ってことにはなってる。紅魔館で例えれば、レミリアの立場にいる訳だ。レミリアみたいに強くはないけど。

 それで、翡翠の妖精さんは同じく紅魔館で例えれば、咲夜の立場にいる。見た目もそっくりだし、名実共に強い。

 

 だからなのか、一緒にはしゃいで遊ぶことに遠慮がちなのだけど、僕としては気にしないで欲しいと思っている。友達が自分の意思ではしゃいで遊ぶことに、反対する意味も意思も僕にはないから。

 サニーたちだって、何ならチルノ一行や魔理沙もそんなこと気にしたりはしないだろうし。

 

「ねえ、翡翠の妖精さん。妖精さんもいつか、こうしてはしゃいで遊んでくれたら嬉しいな」

「はい。できる限りではありますが、努力はします」

「えへへ。こうは言ったけど、無理はしないでね。嫌なら嫌で大丈夫だから」

 

 まあ、当の本人が気になって仕方がないと言うのなら、無理強いはできないし、するつもりもない。いつか、少しでも良いから一緒にはしゃいで遊んでくれる日が来ることを願いつつ、のんびり待つだけであるのだから。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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