「ふぃぃ……何とか取れたぜ。ありがとな」
「えへへ、どういたしまして。魔理沙」
あれから数十分、理想郷の妖精さんたちにもみくちゃにされていた魔理沙が解放されてからすぐ、同じく土や砂などで汚れた僕は魔理沙と一緒に翡翠の妖精さんの家でお風呂に入り、身綺麗にしてから葉っぱで出来たソファーで、のんびり休憩していた。
なお、彼女の家があるのは大庭園にある巨大な湖の中心にある、不思議な小島から生えている、僕の家の妖精大樹よりも二回り大きな大樹の内部である。
僕の家以上に大自然の恵みを強く感じられるような内装で、異世界の魔法技術由来の道具や異世界魔法などにより、中の快適さは相当高い。
食べ物も、見た目はともかくその他の要素は殆んど幻想郷、ないし外の世界と似たり寄ったり。霊夢や魔理沙、咲夜といった人間さんでも十分に生活できるくらいだ。
ちなみに、
「しかし、本当に良かったのか? ここ、理想郷の中枢なんだろ?」
「はい、勿論です。確かに、この大樹は理想郷の中枢と私の家を兼ねていますが、メノウ様が心を深く許している方であれば妖精でなくとも問題ないと、絶対的確信がありますのでご心配なく」
「なら良いけどよ……ってことは、霊夢やレミリアも来たことあるのか」
「そうですね。妖精大庭園の案内がてら、休息のために立ち寄っています」
そして、この大樹は魔理沙が言うように、翡翠の妖精さんの自宅兼理想郷の中枢を兼ねてもいる。つまり、ここに何かがあれば理想郷全体に甚大なダメージを与える可能性が、極めて高いということ。
勿論、念には念を入れて多重に対策は重ねてあるらしいし、最悪僕が生まれたあのエリアを含むいくつかの同種のエリアさえ健在なら、時間はかかっても再興はできるみたいだけど……そうならないのが1番ではある。
だって、最悪の場合僕自身やウルが消滅してしまうのだ。そうしたら、確実にサニーたちは強い悲しみにくれるだろうし、チルノ一行も似たような感じになる。
霊夢や魔理沙、レミリア他紅魔館の面々、僕と仲良くしてくれている人妖さんたちの心にだって、決して小さくない傷を負わせてしまう。
生まれて数日程度とかだったらまだしも、既に半年以上……推定10ヵ月前後経っているのだ。強い絆が生まれるには、十分過ぎるくらいの時間が。
そんなことになったら、何のために僕が生まれて皆と仲良くなったのかと、生まれてこなかった方が平和で楽しかったのにって話になるのだし。
「ごめんね。家族も同然の魔理沙なら、もっと早く誘って然るべきだったのに」
「急にどうした、メノ? 誘われる順番なんか、別に気にしたことはなかったなぁ。私はな、誘ってくれただけで十分だと思ってる」
「そっか、ありがと。ちょっと気が楽になったよ」
「おう。ちなみに、他の奴らも私と同じだと思ってるだろうな」
「えへへ……そうだよね。皆、とっても優しい友達だもの」
そう考えると、仮に紫さんと理想郷について話すことになった時、やっぱり妖精大庭園に連れてくることはできない。というか、したくない。
理由は単純明快、友達ではない上にそもそも会ったことがないからだ。相手が幻想郷を作った妖怪さんだろうとなかろうと、全く関係はない。
後は、僕の大好きな家族や友達がこぞって、悪くて嫌な妖怪さんではないけれど、信用はしにくいかもと紫さんを評しているからなのもある。いや、こっちの方が理由としては大きいかな。
とすると、話をする場所をどこにするかの問題が立ちはだかるけど、同じ理由で
紅魔館や博麗神社であれば安心できるけど、勝手に決めることなんてとてもできない。自分の家に入れたくない人を代わりに、友達の家に入れるのだから尚更である。
ちゃんと相談し、了承してもらったらそれに相応しいお礼をすることで、ようやく釣り合いが取れるのだし。
勿論、了承してもらえなくても全然構わない。その時は、致し方なくサニーたちに僕の家をお話をする場所に使わせてもらうか、お断りさせてもらうだけなのだから。
「しかし、時が経つのは早いもんだ」
「どうしたの? 魔理沙」
「いやなに、メノと出会ってからもう10ヵ月も経ったんだなって、ふと頭をよぎったんだよ。色々あったが、楽しい日々だったと思ってる」
そんな時、翡翠の妖精さんが出してくれたお水で喉を潤していた魔理沙が、何故か急に過去を振り返り始める。真剣だけどどこか優しげな表情で、僕の目を見ながら。
魔理沙にとって、僕との出会いはとっても充実した一時になってくれたのだろう。色々ともらってばかりの僕だけど、少しは幸せをあげることができていると実感して、少し嬉しくなる。
というか、幸せをあげた側からまたもらった。
「えへへ、本当にあっという間だったね。皆のお陰で、毎日が幸せだったからだよ」
「でさ、これも急な思いつきなんだが……あと2ヵ月くらい経ったら、親しい奴全員集めてメノのお誕生日会開こうと思ってる。勿論、サニーたちもメンバーに加えるつもりだぜ」
「……ふぇ?」
何て思っていたら、言われたことが少しの間理解できなかったくらいに、極大な幸せを何気なくもらってしまう。魔理沙が主となって、僕のお誕生日会を開くというものを。
当然ながら、前世じゃお祝いしてもらった経験なんて1度もない。単語として聞いた記憶があり、意味を知っている程度でしかないのだ。まさか、今世で僕がその祝われる立場になろうとは。
(生まれてきてくれてありがとうって、歳を重ねる度におめでとうって、大好きな皆からお祝いされる……)
問題として、今世の僕が何月何日に生まれたかが分からない点が挙げられるものの、それはさしたる問題ではない。大体この日で良いやと、
自然から生まれ、対応する自然が存在している限り不滅な妖精にとって、誕生日なんて概念はほぼないも同然。前世が人間だった僕はともかく、サニーたちやチルノ一行、紅魔館の大半のメイド妖精さんたちは少なくとも、例外ではない。
あくまでも、大抵の人間さんや一部の妖怪さんにある大切な日という知識が、何となくある程度でしかないのだから。
「ぐすっ……僕のお誕生日、皆でお祝いしてくれるの……?」
「勿論だ。とびきり思い出に残る一時にしてやるから、楽しみにしててくれよな。それと、守護者のお前も参加してくれないか?」
「私ですか? ええ、メノウ様や魔理沙様きってのご要望とあらば、参加致しましょう。どうせなら、他の仲良し妖精たちも連れていきますね」
「おお、そいつは良いじゃないか。なあ、メノ」
「うん……!」
何にせよ、魔理沙からその話を聞いた時からもう、まだ2ヵ月以上も先な上に皆の都合がつくとも限らないにも関わらず、嬉しさと幸せのあまり涙が溢れて止まらない。声も震えて、普通に話せなくなってしまう。
しかも、当たり前だけどお誕生日会ということは、1年に1回魔理沙を含む皆の都合がつく限り、必ず極大な幸せを味わえる一時がやってくるということである。
現状でも、皆からもらった幸せはいくら返せど、既に返すことが非常に難しい領域に達している。なのにそこへ、僕の誕生日を祝われるという究極の幸せを毎年もらってしまえば、不可能な領域に突入したも同然であろう。
「魔理沙。えっと、その……無理はしないでね。僕みたいに」
「心配するなって。ゆったりのんびり行くからさ」
でも、それならそれで僕が幻想郷に存在できている間、一生をかけて返していけばいいだけ。大好きな家族や友達を喜ばせて幸せになってもらうために、より一層気を使う。
ただし、僕自身の気持ちを無理やり完全に抑えこんでまで、体調が良くない時に無理して家族や友達のために動くのは禁忌。サニーやスター、ルナからそうして念を押されているのだから。
(大好きだよ、魔理沙)
まだ暖かい、魔理沙の身体に寄りかかって幸せを噛みしめつつ、しっかり気を付けなければと、改めて僕はそう決意を固めた
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