メノウちゃんのお誕生日会。3日前、魔理沙さんによって紅魔館にもたらされたこの話は、当日から今日に至るまで聞かない日はない。
その理由は至極単純で、メノウちゃんが紅魔館内でかなり慕われている妖精だからだ。
親しい他者の笑顔と幸せを自分の幸せと感じられ、他者からの親切には必ず同等以上のお礼を以て返す、律儀で強い思いやりがある。
纏う雰囲気も常に穏やかで決して怒らず、過去のせいで基本は臆病かつ大人しめな子ではあるものの、妖精らしく元気にはしゃぐ一面も持つ。
加えて、雇われのメイド妖精としてスターちゃんと共に、凄まじい働きを見せる優秀さも併せ持っている。
レミリアお嬢様からも気に入られている上に、館内で相応の立場を確立しているけれど、それを笠に着たりすることは全くない。
まさに、慕われるべくして慕われた子。参加できるかどうかは別として、参加して喜んでもらいたいと思う館の住人やメイド妖精が多いのも、納得の一幕であった。
「美鈴さま。しろちゃんにあげるプレゼント、全然思い付かないよ……」
「うーん……確かに、何をあげても泣いて喜んでくれるであろう相手へのプレゼント、逆に難しいですからね。無理もありません」
「だよね。きっと、何もあげなくたって私が参加するだけでも、ニコニコしてくれるもん」
「間違いないですよ、きっと。まあ、まだ2ヵ月も時間はありますし、ゆっくり考えましょう。モリオンちゃん」
「はいっ!」
なお、開催場所や時間、お誕生日会当日にどういったことをするのかも未定であり、あくまでも開催そのものが確定したに過ぎない。
ただし、場所に関してはサニーちゃんたちと一緒に暮らしている魔法の森の妖精大樹、もしくは
レミリアお嬢様他、現状参加を決めている館の住人やメイド妖精たちも、そう考えているようである。
最も安心することができる場所で、大好きな家族や友達からお祝いされれば、メノウちゃんの喜びと幸せもひとしおだろう。むしろ、その2ヵ所以外にはあり得ないと言っても過言ではないはず。
(賑やかなパーティーになりそうですね……)
ちなみに、紅魔館以外にも色々な人妖に対してこの話が持ちかけられるらしい。魔理沙さんの話では、文さんや幽々子さん、妖夢さんにも話を持ちかけると言っていた。
特に、白玉楼のお二人……妖夢さんもそうだけど、幽々子さんの方がメノウちゃんのことを高く評価していて、しょっちゅう遊びに行っては料理を食べて、べた褒めしつつ満面の笑みを浮かべて帰っていくとのこと。
道理で、白玉楼の話題が出ると、大切な友達の話題が出た時のようにメノウちゃんがよく反応する訳である。心から褒めてくれて、優しくしてくれる2人に懐いたのだから。
「ところで、モリオンちゃん……あら」
「美鈴さま……?」
モリオンちゃんとお話をしつつ、メノウちゃんのお誕生日会について考えていたその刹那、私の感覚がレミリアお嬢様の発する気を捉える。
パッと上空を見上げると、そのすぐ側に寺子屋の教師兼人里の守護者の『
4時間半くらい前、妹様とのお茶会を中断してまで人里に出かけて行ったレミリアお嬢様。
何をしに行ったのかと思えば、慧音さんたちを連れてきただけらしいけど、何で館に招こうと思ったのだろうか。
チルノちゃんと大ちゃんなら分かるし、ルーミアちゃんたちや慧音さんはまだ分からなくもないけど、人里の人間に関しては全く見当がつかない。単にせがまれた程度では、レミリアお嬢様が紅魔館に連れてくる訳がないはずなのだけど。
もしや、また何か未来でも見たのかもしれない。それも、妹様とのお茶会を遥かに凌駕する重要性を持つ、凄まじい未来を。
「よっと……ただいま。美鈴、モリオン。ここに連れてきた全員は、私の部屋に連れていくつもりなの」
「お帰りなさい。それにしても、レミリアお嬢様の自室にですか」
「お仕事するお部屋も兼ねてるから、もしかしてお仕事かも! チルノと大ちゃん以外、館じゃ見慣れない人妖だし」
「まあ、どちらかといえば仕事ね。メノウ関係よ」
すると、そんなことを思いながら見ていた私に気づいたらしい。人里の男の子を抱えていたレミリアお嬢様が、目の前に降り立って事情を説明してくれた。
ただし、メノウちゃんが周りに居ないことを蝙蝠や魔法などで確認し、問題ないと判断してからなのを鑑みると、聞かずとも顔をしかめる事情であることは明白。私やモリオンちゃんも、自然と身構える。
「なるほど……」
「むぅぅ……!! しろちゃんの敵……!」
「本っ当にムカついた! だからあたい、そいつと思いっきり口喧嘩してやったぞ!」
「私もですっ! ただ、チルノちゃんと私の見た目のせいか、全然効果なくて……慧音先生が間に入ってくれて、ようやく止まったんです」
「全く、彼らの振る舞いには困ったものだ。第一、あの悲惨な運命は自業自得だろうに」
で、案の定レミリアお嬢様から話されていくその『事情』は、まさに相応の不快なもの。例の人間があまりにもメノウちゃんで毎日毎日発狂し、人里に不和をもたらすものだから、遂に飛び火してしまう。
メノウちゃんのことを悪く言う人が、数は少ないものの出てきてしまったらしい。
勿論、最も煙たがられているのはメノウちゃんの敵である、あの人間たちだ。けれど、少ないからといって無視するのは愚かな選択、できる限り早めに対処する必要があるのは間違いない。
「相変わらずのようですね。慧音さんが呆れるのも、当然でしょう」
「本当にね。私としては、奴らのせいでメノウが悪く言われるのは看過できない。本来なら、実際に会ってもらってメノウの性格などを理解してもらおうと思ったけれど……」
「難しいでしょうね。そもそも、全く知らない他人との応対はさせない約束ですから」
しかし、対処するのは容易ではない。メノウちゃんの性格面でも、メイド妖精として働いてもらう時にした約束の制約から、仕事中に直接会わせるという手が打てないためである。
おまけに、メノウちゃんは不思議と目と耳がとても良く、普通なら聞こえない距離に居る誰かの話し声が聞こえ、見えない距離に居る誰かが見える。
無論、時と場合により色々と変わるはずだけど、レミリアお嬢様が連れてきた慧音さんたちが同じ部屋に居れば秒で気づかれ、話題によっては変なプレッシャーを与えてしまうだろう。
感情が高ぶり過ぎた時に放たれる羽の光と一緒で、前世の記憶が残っている影響から、危機を回避するために妖精として生まれる時に備わった、防衛本能のようなものなのかもしれない。
「そう。だから、次善策として私の蝙蝠を中継器にして投影魔法を使い、直接でなくともリアルタイムでメノウの姿を見てもらうつもりよ」
「なるほど……というか、チルノちゃんと大ちゃんを分ける意味ってあります? 言うまでもなく、既に仲良しですし」
「ないわね。だから、2人にはメノウのところに直接行かせるわ。ちょうど、一緒に遊びたがっていたから」
だけど、レミリアお嬢様はしっかりと次善策を考えていた。自分の目で直接見るよりは信用度が落ちるものの、ほぼ普段通りのメノウちゃんを見聞き可能なら、良い方ではある。
(本当にもう、やるせないですね。こんなことをわざわざしないと、完全なる安寧は得られないだなんて)
いつか、メノウちゃんと人里で楽しく遊ぶことが夢と語る、サニーちゃんとスターちゃん、そしてルナちゃん。
彼女たちのみならず、他の妖精友達も総じて同じような思いを抱いているし、魔理沙さんを始めとした妖精以外の友達だって、メノウちゃんには元気で居て欲しいと思っている。
チルノちゃんや大ちゃんがかなり怒っていたのも、レミリアお嬢様が「そろそろ本気で殺してやりたくなったわ」と、例の人間たちに対して随分と物騒な物言いになるのも、無理はないと納得できた。
どうにかしてあげたいとも考えているけど、現状人里云々に関しては私にできることが何もないのが、本当にもどかしい。
「どうにか、メノウのお誕生日会が始まるまでには解決したいわねぇ……まあ、ともかく。美鈴もモリオンも、変わらず仲良くしてあげて」
「言われずとも、そのつもりでいますよ」
「はーい! しろちゃんと、仲良くしない理由なんてないもんね!」
そんなこんなでやり取りを交わして、最後に私やモリオンちゃんに穏やかな表情で声をかけ、招いた皆を連れて館の敷地内へと入っていくレミリアお嬢様を見送りながら、気分を変えるために深呼吸した。
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