「おーい、メノ! 良かったら、あたいたちと遊ぼう!」
魔理沙から直接、僕のお誕生日会についての話を聞いてから3日後。
未だにその時の余韻が残る中、いつものように変わらず紅魔館内でお掃除をしていた時、元気いっぱいのチルノに少し遠くから声をかけられた。どういう訳か、肩にレミリアの蝙蝠さんを乗っけて。
勿論、隣には親友の大ちゃんも居る。羽を小さくはためかせながら、穏やかな笑顔でチルノと一緒に手を振ってくるので、僕も振り返す。
何度でも言えるけど、百年単位で親友な2人が楽しく遊んでいる中、さも当然のように僕を誘うという選択肢が生まれる上、それを選んでくれるだなんて、本当に幸せ者だ。
しかも、その扱いは遜色なく、まるで同じ時間友達だったかのよう。これで幸せ者じゃないなんて、殊更あり得ない。
「えへへ、うん! あっ、でも今お掃除中……」
「大丈夫だよ、メノちゃん。レミリアさんと咲夜さんから、料理中とかじゃなければ、仕事は放り出してもらっても良いって、許可はもらってるから」
「メノのことは熟知してるからな! 事前準備はバッチリだぞ!」
「わぁぁ……!」
で、2人からのお誘いを受けるかどうかに関しては、言うまでもない。レミリアと咲夜に許可までわざわざ取ってもらっているのだから、即受けるに決まっている。
(わっ……えへへ、そんなに僕を誘いたかったんだ……!)
そう答えたら、チルノも大ちゃんも随分と大げさに喜んでくれた。僕が居るだけで嬉しいのであれば、幸せを感じてくれているのであれば、いくらでも側に……実際問題、物理的に厳しい面はあるものの、心ではそう思う。
「本当にありがと。えっと、ちょっとだけ待ってて……えいっ!」
「おぉ、凄い! ホコリだらけだったのに綺麗になった!」
「メノちゃん、能力の使い方が上手になってる。こんなこともできるなんて」
「えへっ、魔理沙との練習の成果かな。ちなみに、魔法との併せ技だよ。能力だけだと、ここまで綺麗にはならないかも」
そして、お誘いを受ける以上、お掃除で少し服とかが汚れたままでは申し訳ないので、能力と魔法の併せ技で綺麗にする。
周りの自然たちから能力で力を借り、それを魔理沙直伝の
自分のみならず他人にも使うことはできるものの、その人数や消し去った汚れの程度によっては、身体的な疲労感が相応に増してしまう。少なくとも、サニーから「あまり乱発しないで欲しいわ」と言われるくらいには。
それに、お風呂に入った時のように身体も全部綺麗にはしてくれるけど、あくまでも綺麗にしてくれるだけ。それのみならず、一切の身体的疲労を感じずに精神的な癒しをもたらしてくれる、サニーたちとのお風呂の時間には遠く及ばない。
今のように、すぐに汚れを取るべきだけどお風呂に入れないか、いちいち入ってられない時にのみ使う併せ技なのだ。
「ねえ、チルノ。さっきから気になってたんだけど、肩に留まってるレミリアの蝙蝠さん、どうかしたの……?」
「……おっと、危うく説明を完全に忘れるところだった! レミリアに頼まれたのに」
「えへ。お話してたら楽しくて、私も忘れちゃってたよ」
僕たちの側を、偶然通りがかったメイド妖精さんにお掃除の続きをお願いし、さて何をして遊ぼうかとなったタイミングで、チルノに気になっていた肩の蝙蝠さんについて聞いてみたら、隣の大ちゃんと揃ってハッとした顔をした。
レミリアから、何かお願い事をされていたらしい。確か、その蝙蝠さんはレミリアが辺りの様子を遠方から伺う時に使う、いわゆるビデオカメラのような役割だったっけ。
チルノも大ちゃんも遊びに来たってニコニコで言ってたし、主目的がレミリアからのお願い事の達成だったら、最初から伝えてくれてただろう。
間違いない。これは主目的ではなく、遊ぶついでにやって欲しいとお願いされただけ。だから、うっかり忘れちゃうのだ。
(……まあ、親しい皆以外の前には姿現さないもん。しょうがないね)
それで、表情を元に戻したチルノと大ちゃんからの説明が始まったのだけど、その内容は僕の想像と違っていた。
何故かは分からないけど、2人の様子を見ていたかったのかなと思っていたら、本当に見たかったのは僕の様子。
というより、僕のことを見せたい人妖さんがレミリアには居るから、蝙蝠さんを2人に託したのだという。
曰く、色々と情報が錯綜しているからなのか、僕のことを変な妖精として認識している人里の人間さんが居るらしい。
今のところ、許容できない程の嫌な認識は
いつか、僕が人里で遊べるようになるまで精神的に回復した時、嫌なことを言われて再び傷つけたくないと、レミリアは言っていたという。
だけど、認識を改めるのに最も簡単な方法である、僕を知らない人間さんと会わせる方法は使いたくないし、どうしたものかと考えに考えた結果、人里で強い影響力を持つ人間さんや半妖さんを館に招いて、蝙蝠さんを介して見てもらおうと思い付いたとのこと。
「すぅぅ……ありがと、2人とも」
「おうよ! というか、この程度手間とも思ってなかった!」
「どういたしまして、メノちゃん」
要するに、僕のためだけにわざわざ手間をかけてくれていたのだ。しかも、フランとの楽しいお茶会を中断してまで。
チルノと大ちゃんだって、本当ならただ遊ぶだけでいたかっただろうに、僕のことを考えてレミリアからのお願い事を、迷いなく聞き入れくれたのだ。
そう考えたら、皆の親切があまりにも嬉しくて瞳が潤んでくる。というか、普通に涙が頬を伝ってきたから、メイド服のポケットから取り出したハンカチでそっと拭う。
「さてと、何して遊ぼうか? 大ちゃん」
「紅魔館の中でできること……メノちゃんはどこで遊びたいとか希望とかある?」
「えへへ、特にないよ。僕はね、チルノと大ちゃんが喜ぶことだったら何でもいいの」
「だよね。うーん……お庭でも行く?」
「取り敢えず、最初はそれで良いんじゃない? メノは何でも良さそうだしさ!」
そんなこんなで話し合う中、チルノや大ちゃんの一声で最初は紅魔館の庭で遊ぶことが決まった。
そういえば最近、一部のメイド妖精さんが庭のあちこちでお花畑を作っていて、何回見ても飽きない景色が見られるから、ピクニックでも提案してみようかな。
特にないとか、チルノや大ちゃんが喜ぶことなら何でもいいとか言っておいて、庭で遊ぶと決まってからすぐにこんなこと言うのも、微妙な感じだけれど。
「ふーん、ピクニックかぁ……うん、いいじゃん。よし、メノの提案で決定! 大ちゃんもそれでいい?」
「うん。お花畑の中にシートを敷いて、おやつを食べながらチルノちゃんとメノちゃんとお話するの、絶対に楽しいもんね」
「でさ、その後はどうする? 久しぶりにあたいたち3人で弾幕ごっこでもしない?」
「どうかな。メノちゃん、弾幕ごっこそんなに好きじゃないし、正直私も気分じゃないかも」
「そっかぁ。身体を動かす気分でもない感じ?」
「ううん。そこまでじゃないかな、チルノちゃん」
「僕も大丈夫だよ、チルノ。何なら、大ちゃんさえ良ければ弾幕ごっこだってやってもいいよ……?」
「あははっ、やらないやらない! もしやってくれるなら、また今度でいいからな!」
でも、2人は全く気にすることはなかったし、それどころか僕の提案をそのまま受け入れてくれた。
しかも、そこから更に話が進んでいって、お花畑でのピクニックが終わった後の予定もトントン拍子に決まっていく。
全部を堪能するともなると、多分だけど夕方まで時間は必要になるだろう。もしかしたら、夜になるまでかもしれない。
レミリアからのお願いで、チルノや大ちゃんと遊んでいる間は蝙蝠さんを通して、別室で待機しているお客さんに僕の姿を見せることになってはいても、実質仕事時間が半分になっているようなもの。
許可はもらっているにしたって、スターも含めて皆が大変な思いをしながら仕事をしている中、休憩時間でもないのにこうして遊んでいて大丈夫なのかなとは、正直思う。
「じゃあ、色々と準備しなきゃ。2人とも、時間かかっちゃうけど……待っててね」
「メノちゃん。当たり前のように、1人で準備しようとしないで。私も手伝うから」
「あたいも手伝うぞ! 流石におやつ作りだけは無理だけど、道具の片付けとかならできるし!」
でも、僕が提案したお花畑でのピクニックを楽しみにしている、満面の笑みを浮かべるチルノと大ちゃんを見ていたら、そんな思いも自然と小さくなっていくのであった。
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