幸せ四妖精   作:松雨

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今話は上白沢慧音視点です。


印象付け

 紅魔館の主、レミリア・スカーレット。凄まじく強力な大妖怪で、なおかつ過去には幻想郷とひと悶着ありながら、今では不思議と妖精や人里の子供たちから好かれる、比較的穏やかな性格でもある。

 

 当の本人の好みなのか、館の使用人は大半が妖精である上に数自体もかなり多く、一度門を潜ればそこかしこで彼女たちがはしゃいだり、仕事をする姿を見かけることができるだろう。

 故に、幻想郷でも上位の実力者のレミリア(吸血鬼)が主でありながら、『妖精の館』とも呼ばれているのだ。

 

 流石に肉親……フランドールに対してともなれば別ではあろうが、基本的には誰にでも分け隔てなく接し、館を守るために身体を張ることも厭わないレミリアを、館の住人はもとより使用人として雇った妖精たちは、揃いも揃って慕っている。

 

「それで、この映像を見てメノウをどう思ったのか……是非聞かせてもらえるかしら? 慧音」

 

 しかし今、私の前で執務室の椅子に脚を組んで座り、こちらを見据えるレミリアの一挙手一投足からは、大妖怪らしい空気がひりつくような威圧を感じている。

 

 とはいえ、これは彼女が非常に真面目な話を誰かにする時に出てしまう、一種の癖のようなもの。なので、ここに私や私以外にも呼ばれた6人の誰も緊張こそすれ、身の危険は感じていない。

 

「あの映像を見る限り、かなり甘えん坊なところがあるだけの普通に良い(妖精)としか、私には思えない。少なくとも、彼女と接して不快になる要素はないだろう」

「そう……そうなのよ。実際、あの子のお陰で皆助かっているし、純粋に友人として一緒に遊んだりしてても、居心地が良くてね」

「むしろ、不快になるとするなら彼らの行いの方だろうな。長老」

「うむ。儂としても、慧音先生と同意見じゃ」

 

 なお、私たちがここに呼ばれた理由は、今現在人里にて良くも悪くも注目を集めている1人の妖精、テルースメノウを憂慮したからだという。あの外来人たちが大騒ぎするせいで、実際には何もしていないのにも関わらず、悪いイメージが生まれ始めているのだ。

 

 このままでは将来、人里に彼女が遊びに行った時に心が傷つきかねないのに加えて、即座に動かなかった場合の直視し難い運命を、レミリアが見てしまう。

 

 そこで、先手を打って影響力のある私を含む面々に本来の姿を見てもらい、それを流布してもらうことで例の外来人による影響を打ち消す。

 

 と同時に、人里内にて例の外来人に対する排斥の気運を徐々に高め、人里から上手いこと排除した後、最終的に幻想郷から消えてもらうためのこの計画を決行すべく、こうして招くに至ったとのことらしい。

 

 なお、本来ならもう少し後に落ち着いて実行する予定だったらしいが、能力による未来予知で今日にでもすべきだと出てしまったようで、半ば無理に連れてきて申し訳ないと謝られている。

 

 しかし、その辺はもう気にしてはいない。ルーミアたち3人組や長老一行も、私と同じ心持ちだ。

 これが全て、館の住人同然のメノウを守るためにやったことであり、なおかつ例の外来人の行動が非常に目に余るものなのだから、当然と言えば当然。

 

(……)

 

 外来人が来る以前の、良くも悪くも大勢のメイド妖精で活気溢れた商店街。それが今では、レミリアの鶴の一声によって一気に居なくなり、賑やかさが減ってしまっている。

 

 勿論、商店街を利用するのは妖精だけではないので、寂れているかというとそうではないし、完全に妖精を見かけなくなったかと言われれば、それも違う。

 

 しかし、メイド妖精御用達だった駄菓子屋のおばあちゃんを筆頭に、寂しがっている人々がそれなりに多く居たり、純粋に経済的な意味で困っている人々が増えたりなど、無視するには大きい影響はある。

 

 それ程までに、紅魔館が人里に及ぼす『力』は大きいのだ。

 

「というか、本当に前世で人間の男の子だったのかー? 一人称が『僕』なだけじゃ、全然当てにならないぞー」

「とはいえ、わりかし女の子にしては珍しい一人称だからなぁ。でも、ルーミアの意見ももっともだし……みすちーはどう?」

「悩ましいわ。本人がそう言っているならまた別だけど」

「ミスティア。まさにその本人が、前世はあいつらの家族かつ男の子なんだって、泣きながら言ってきたのよ。気持ち悪がられるのが怖いって気持ちを、無理やり抑え込んでまでね」

「そうなの? だったら、本当ってことで良いんじゃない? ルーミア」

「うん、確かにそうだなー」

 

 ちなみに、メノウが実は元々彼らと関係のある人間の男の子であったとかいう、真偽不明だったその噂はレミリアにより、真実であることが判明した。

 

 とはいうものの、彼女の評価を変えるつもりはない。確かに、外の世界の出身かつ種族も性別も変化、その上で記憶を保ったままの転生というのは私の知る限りではなく、珍しいのは事実であろう。

 

 彼女を見た時に、男の子だったのかと頭によぎることも出てくるだろう。

 

 しかし、そのどちらも本人の意思が介在する隙間はない事象の上、あれ程性格の良い妖精であると映像にて判明した以上、明らかに本人と接するにあたって壁になり得る要素ではない。

 

 一緒に暮らす三妖精、チルノと大妖精を含めた妖精軍団、霊夢に魔理沙、彼女に接点のある誰もが全く気にしていないという点を鑑みれば、いくら鈍感でも分かるはずだ。例の外来人のように、余程恨みなどで盲目になっていない限りは、だが。

 

「ちなみにだけど……もし、メノウと仲良くしたいというのであれば、それ自体は止めはしないわよ。絶対的な注意事項さえ守ってもらえればね」

 

 すると、私たちの反応が望ましいものだったからだろう。先程までとは違って威圧感がなくなり、表情や立ち振る舞いが評判通りの穏やかさに戻ったレミリアが、メノウと関わる際の注意事項を語り始めてくる。

 

 1つ目は、初対面である場合、本人の側に居るであろう三妖精ないし友人を介して、話しかけること。向こうから近づいてきた時はその限りではなく、時と場合によっては初手から信頼できる人妖扱いされることもあるらしい。

 

 2つ目は、自分の存在に気づかれた際に、背中の羽の光が強めの青色であった場合は、その日は諦めること。不安や恐怖といった感情がかなり強い時特有の現象であるからという。

 

 3つ目は、無事に初対面を乗り切った場合も、本人にグイグイ行き過ぎたりしないこと。映像ではそれなりにはしゃいでいたが、あれは全員が家族ないしそれに近い相手ばかりだったからで、基本的にはルナチャイルド以上に大人しめな妖精だからだそう。

 

 これさえ遵守していれば、余程の馬鹿な行為をしない限りは仲良くなれるようだ。まあ、今までそんなことをしでかした人妖は居ないらしいけど。

 

「いやまあ、それは当然だろう。しようとすら思わない」

「そりゃそうだよ。仲良くなりたい相手にすることじゃないもん」

「それに、する奴は居ないと思うぞ。後ろ楯が強過ぎるし、多過ぎるからなー」

「霊夢さんたちに魔理沙さん、レミリアさんたちに幽々子さんと妖夢さん、アリスさん……うん。これを知っててやるのはただの馬鹿か、全員を敵に回しても生き残れる実力か何かがあるってことになる」

「怖いわね。ミスティアの言う通り、本当にそんな奴が居たらメノウに頼んで、紅魔館を理想郷にお引っ越しさせてもらうわ」

 

 そして、一定以上の信頼を得てかなり仲良くなれば、基本全てのお願いを聞いてくれるようになるものの、それを笠に調子に乗り過ぎたりしない。

 

 親しい面々、特に三妖精や魔理沙、霊夢に対する罵詈雑言は彼女の耳に入る範囲内ではご法度と、冗談でも絶対に駄目だと強く言われたが……無論、言われずとも守るつもりだ。

 何もされていないのに、どうして罵詈雑言を捲し立てる必要があるのだろうか。

 

 例えば、人里を襲撃して人間を物理的に殺すだとか、惨い精神攻撃を加えて精神的に殺すなど、そういうことを平気で行う輩相手でもなければ、罵詈雑言を捲し立てることはないのだから。

 

「ともかく。相応の報酬は弾むから、是非ともよろしく頼むわ。メノウには、もう前世に縛られて欲しくないの」

 

 持っていたであろうプライドを投げ捨てて、1人の妖精のために頭を下げているレミリアを見ながら、私はそう考えた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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