幸せ四妖精   作:松雨

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真夜中の四妖精

 メイド妖精としての仕事で疲れたスターの膝枕になってあげていたら、僕も疲れていたのかいつの間にか眠くなって、そのまま寝てしまう。

 

 それで、今居る場所がレミリアの部屋ではなく僕の部屋で、時計の針は午前0時ピッタリ。つまり、日を跨いだちょうどこのタイミングで僕は目覚めたのだ。

 

 スターの姿がないのは、僕と同じように家に帰って来てから自分の部屋で、すやすや寝ていると考えればつじつまは合う。僕よりは長く寝ているから、もう起きているかもしれないけど。

 

「んにゃ……?」

 

 あの後、お互いに普段通り家に帰って来た覚えはないから、レミリアが僕とスターを抱えて家まで運んでくれたに違いない。

 

 サニーやルナがしびれを切らし、僕たち2人を迎えに来たらぐっすり寝ていたので、運んでくれた可能性も勿論否定はできないけど。

 

(無意識に、無理しちゃってたのかな……サニーとルナ、怒ってたかな……?)

 

 最後にレミリアの部屋に居た記憶があるのは、午後5時半過ぎ。サニーやルナがしびれを切らして僕とスターを迎えに来たとするならば、その段階で最低でも午後7時くらいまでは紅魔館に居たはず。

 

 もしかしたら、もっと遅くまで紅魔館に居たかもしれない。

 

「ぐすっ……」

 

 今まで何度も無理はしないと約束して、なんやかんやで破ってきて、今度こそ絶対に破らないと宣言しておきながら、僕はまた破ったらしい。

 

 サニーとルナに信用してもらえなくなるかもという不安、僕が2人を泣かせたり2人から怒られてしまうのではという恐怖、家族で居られなくなるかもしれないことへの強い拒絶から、涙が勝手に出てくる。

 

 そう思うくらいだったら、最初からこうならないように気をつければいいのに、僕は何でできないんだろうか。

 

(スターも、僕と同じ……?)

 

 しかも、今回に至っては結果だけを見ればスターも、メイドの仕事で無理をしたと2人に見られる可能性が高い。

 

 でも、スターは僕とは違って、モリオンやシャーネットのお遊びの煽りを受け、どう足掻こうとこうなってしまう運命に導かれてしまっていた。

 

 サニーやルナとの一時を、とても幸せそうに過ごしているスター。一緒にイタズラを楽しんだり、馬鹿なことをして笑ったり、美味しいものを食べたりするのが、私の生き甲斐だと嬉しそうに語るスターの表情は、まるで夜空に輝く星々のよう。

 

 どのみち怒られることが確定しているのであれば、せめて致し方ない理由で無理をしたスターだけは、どうか怒られないで欲しい。

 

「ふんふふ~ん……メノ、流石にもうそろそろ起きてるでしょ。レミリアのとこで寝たって時間から、もう7時間は経ってるし!」

「多分起きてる。これで寝てたら、ちょっと心配かな」

「そうね!」

 

 そんな時、鼻歌交じりに元気良く歩くサニーと、静かに歩きつつも何だかご機嫌なルナの話し声が、ふと耳に入ってくる。距離的に、後もう少しで僕の部屋の前にたどり着きそうだった。

 

 もう寝ようとしても眠れなくて、じゃあ起きようかと思って着替えをしている途中だから、ベッドに潜っての狸寝入りもできない。

 

 下着だけの格好だけど全裸じゃないし、毎日皆と一緒にお風呂に入ってる身としては、場所が場所とはいえ短い間なら、見られてもほぼ平気ではある。

 

 だけど、こんな心境のままサニーやルナと相対したところで、まともな会話ができそうにないから、今はまだ1人で落ち着く時間が欲しい。

 

 なのに、もう少し部屋に来るのは待って欲しいとの一言すら出せず、それどころか思考が一気におかしくなったせいで、僕はその場でオロオロすることしかできなくなる。

 

 そう言えば、スターの話し声と足音が聞こえないけど、まだ寝ているのだろうか。

 

「一応静かに、ちょっと失礼するわね……えっ、何で羽の色が青に……? というか、どうして下着のまま棒立ち……えっ!? 今度は泣き始めたわ! 本当に何で!?」

「途中から悪夢でも見ちゃったのかも。とにかく、落ち着かせなきゃ話にならないし……メノ! ほら、大丈夫。大丈夫だから……!」

「あわわ……ルナ! ちょっと、星見中のスターも呼んでくるわ!」

「了解!」

 

 当然、僕が未だに寝ているものだと思っているサニーとルナはそのまま部屋に入ってきて、明らかに様子のおかしい僕を見て慌て始める訳である。

 

(そうだよね……あははっ。僕、家族なのにサニーとルナのことを全然分かってなかったんだ……馬鹿だよ、本当にさ)

 

 これを見て、僕はようやく少しずつ冷静になることができた。部屋に入ってくる前の話し声や入ってきてからの様子を鑑みれば、自分の考えていることがほぼ全て勝手な被害妄想であり、むしろ純粋に心配してくれているのだと。

 

「メノっ、どうしたの!? 何か怖いことでもあったの!? トラウマがフラッシュバックしたのかしら……?」

 

 ルナに抱きしめられ、頭をなでなでされながら落ち着こうとしていると、部屋を出ていったサニーに連れられたスターが、血相を変えて駆け込んできた。

 

 パッと見た感じ、ぐっすり眠ったお陰で疲れも完全に吹き飛んでくれたようである。僕の膝枕が、少しは役に立ってくれたようで何よりだ。

 

「ありがと。それにごめんね、ルナ。何とか大丈夫、だよ」

「うん、羽の青い輝きも少しずつ和らいでる。確かに大丈夫そうだけど、何があったの?」

「その……ある意味自業自得なんだけど、スターの言うようにトラウマがちょっと……」

「やっぱりトラウマかぁ。どうしても、こればかりは何ともし難いねー」

「そうね! だから、メノの精神を守る意味でも、あまり深く聞かないでおきましょ! それよりも、早く服を着た方がいいわ!」

「あっ……うん、分かった」

 

 大好きな家族や大切な友達が毎日くれる、底なしの無償の幸せ。 これを以てしても僕に巣食うトラウマは、未だに健在らしい。

 

 早く克服して、こんな感じで変に心配をかけることがなくなるようにしたいけど、果たしてそれはいつの話になるのだろうか。

 

「サニー、ルナ……ごめんね。また、約束――」

「ふふっ、大丈夫よ! 美鈴と咲夜に、メノはちゃんと休むべき時に休んでたって聞いてるもの!」

「そう、今日のこれは不可抗力。スターが先にダウンする程の忙しさだったなら、仕方のないこと。明日というか、今日の休みももらったし、4人でのんびり家族の一時を過ごそう」

「……えっ、休み? レミリアに休みをもらったの?」

「私とメノを家まで運んでくれた美鈴と咲夜が、レミリアがそう言ってたって教えてくれたんだってさー。お給料は分からないけど、レミリアのことだから多分働いたのと同じくらいもらえると思うわー」

「そっか。美鈴と咲夜が、僕とスターを運んでくれたんだ」

「ええ! 迎えに行こうとしてたちょうどその時に来たのよ! 確か、午後8時頃だったわ!」

「何があったのかと思ったけど、そんなに緊急性が高くなくてよかった。ちなみに、疲れは取れてる?」

「うん、疲れは取れてるよ。ぐっすり寝れたからかな」

 

 ちなみに、僕とスターを家まで運んでくれたのは美鈴と咲夜らしい。ぐっすり眠ってしまい、僕たち2人がいつまで経っても起きないからレミリアが困り、たまたま手が空いていたか何かで2人に声でもかけたのだろう。

 

 僕だけでも起こして帰らせれば楽だったはずなのに、レミリアも美鈴も咲夜も決して起こそうとせず、わざわざ労力を割いてまで家に送り届けてくれるなんて、こんなに嬉しいことはない。

 

 今日のお昼頃になったら、3人にお礼のお手紙を書いて連絡用の蝙蝠さんを介して渡し、次の仕事日になったら改めて僕自身の言葉で感謝の気持ちを伝えよう。

 

 それこそ、実際には約束があるからやらないけど、休日を返上してでもメイド妖精の仕事を頑張りたいと思えるくらいには、感謝しているんだよと。

 

「あ、そうそう。せっかく皆で起きてるんだし、屋上で星見をしない? 今日の星空、とっても綺麗だからきっと見応えあるわー」

 

 すると、元々のんびり星見をしていたというスターが、ニコニコで僕たち3人を屋上での星見に誘ってきた。何でも、今日はいつもと比べて特別に綺麗な夜空らしい。

 

 そういうことなら、喜んで僕はスターのお誘いに乗ろう。まあ、そういうことでなくとも、スターからのお誘いやお願いなら何にでも乗り、聞くつもりでいるのだけど。

 

 それこそ、一緒に誰かに対するイタズラに参加したり、人里へ何かをしに遊びに行ったり、1人でお出かけしてきてとお願いされても。

 

「ええ! 勿論よ!」

「りょーかい。じゃあ、早速行こう」

「うん。勿論だよ、スター」

 

 サニーとルナもお誘いに乗ろうと思っていたようで、僕とスターの手を握ると、屋上へ向かう階段を一気に駆け上がっていく。

 

 スターはぐっすり寝てたからともかく、多分寝ていないサニーとルナがまるで昼間のように、眠気を一切感じさせない程に元気だ。

 

 聞いてみたら、なんだかんだ僕とスターが居ない間とか、家に帰って来て寝ている時にちょくちょく寝ていたとのこと。

 

 なるほど。そういうことなら普通に安心だ。眠たいのに気を遣われているという訳ではないのだから。

 

「ね? 凄く綺麗な星空でしょ?」

「「「おぉ……」」」

 

 そんなこんなで屋上へと到着。スターに促されるままに空を見上げてみると、凄まじく綺麗な満天の星空が広がっていた。確かにこれは、とっても綺麗だと言える。

 

 そよ風が吹いたことによる、この大樹の葉が揺れる音も併せると、ありとあらゆる悩みが星の光で浄化され、心が癒されていくような、不思議な感覚がおまけでついてきた。

 

(……ふふっ。変なことで悩んでた僕が、馬鹿みたい)

 

 でも、僕にとっては満天の星空よりも、そよ風で揺れる大樹の葉の音よりも、それを見て瞳を輝かせて喜んでいるサニーやスター、ルナが見せる笑みの方が、よっぽど綺麗で癒されるものだと思っている。

 

「あっ、流れ星!」

「願い事言わなきゃ……あーあ、全然言えなかったわー」

「そもそも、流れる間に3回言うとか無理難題」

「確かに、咲夜でもなければ無理ね! メノは何かお願いした?」

「うん。言う前に流れちゃったけど」

「あはは! そうよね!」

 

 どうか、こんな幸せな日々が生きている間、ずっと続きますように。

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