「あははっ! なーんだ、そんなことかぁ。もう、びっくりしたよ!」
「えっ、元々男の子だったの!? 全然そんな風には見えなかった!」
レミリアに自室で真剣な面持ちで謝られた後、一緒に館のメイド妖精さんたちへ今まで言っていなかった僕の前世云々の話を、色々と謝りつつ少しドキドキしながらして回ってみた結果は、大方予想通りの展開であった。
笑いながらいつもみたいにちょっかい出してきたり、一瞬びっくりしつつも普通に近寄ってくれたり、昔のことなんかどうでもいいからお話ししようと言ってくれたり、とにかく皆の振る舞いが凄く染み渡ったのである。
今までお着替えが一緒になったことのある妖精さんも、お風呂で一緒になったことのある妖精さんも、僕が元々人間の男の子だったという話には驚いていた。
でも、すぐにそれの何が問題だったのと言わんばかりの表情で、「これからも一緒でいいよー!」と言ってくれたから、本当に嬉しかったのである。
お陰でさっきからうるうるしっぱなし、懐のハンカチで嬉し涙を一体何回拭ったか思い出せない。昨日の余韻も相まって、いつもより涙もろくなっているのかも。
「だいじょうぶ……? お話つらいなら、わたしたちがかわりに言ってまわるよ……?」
「いや、よく見て! しろちゃんの羽が桜色の時は、辛いんじゃなくて嬉しいんだよ!」
「ほんとだ。みんなが、やさしくこえをかけてるからかな」
「うん。そんなことよりも、しろちゃんをいじめた奴の方が許せないよ、私」
「……たしかに」
ただ、僕が過去に何をされたのかという話をしたのは、一部をぼかしたり表現をやさしめにしたからとはいえ、今更だけど悪かったかもしれない……いや、悪かった。
だって、嬉し泣きを勘違いして気遣ってくれるだけならまだしも、まだ見ぬ
勿論、どちらも僕のためにというところがあるから嫌じゃないし、それ自体はむしろ嬉しいこと。
だけど、大分記憶に残りそうなくらいに感情が強そうなところを見たら、前世は人間の男の子でしたってところだけで良かったのではと、そう思い始めてきたのである。
(うーん……)
しかし、例え今言わなかったとしたって、人里へ遊びに行くことが解禁されたら、レミリアが昨日のお客さん経由で言った僕の過去云々を、どのみち全て知ることになるかもしれない。
いや、人里には妖精さんくらいに小さな子供たちも居れば、そういうお話が苦手な人だって間違いなく居る。
お客さんの中には、
ともなれば、やはり前世は人間の男の子だったと言って回り、黙っててごめんねと謝るだけでよかったと、強く反省すべきであろう。
「お気遣いありがとね、妖精さん。こう見えて、僕なら意外と大丈夫だからその……あんまり、思い詰めないでね」
「だいじょうぶ! ちょっとムカってしただけ!」
「そっか。あのさ、しっかり自分から話しといて何様って思うかもだけど……本当にごめんね。僕、妖精さんたちにはいつもみたいに、元気な感じで居て欲しいの」
「わかった! じゃあ、この子とげんきにあそんでくるー!」
「あっ、ちょ……メイド服の裾引っ張るなぁぁー!!」
「あらあら……ふふっ。あの様子だと、大丈夫そうね。メノウ」
「うん、そうだね。レミリア」
でも、今話していた妖精さんの反応を見た限りだと、話を聞いて感情が高ぶり気味な妖精さんたちでも、今日の夕ごはんの時間くらいまでで済みそうなのは、ちょっぴり安心。どれだけ長くとも、日付が変わる前後くらいまでで恐らく終わるだろう。
ただし、僕が判断を間違えて余計なことを口走ったり、妖精さんたちとの受け答えでやらかさない限りはという条件がつく。
まかり間違い、わざとぼかしたり言わなかったところを口に出そうものならば、皆が僕のことを思いやってくれているが故に収拾がつかなくなると、安易に想像がついてしまうのだから。
(あっ、美鈴とリリーだ。相変わらず楽しそうにお話ししてる……)
と、あらかた僕の前世云々についてを館内の皆に言い終えたところで、レミリアに「ついでに休憩しちゃいなさい」と言われたため、このままのんびりお話ししながら歩いていると、リリーを肩車している美鈴と目が合う。
あの2人は結構仲良しで、よく紅魔館の門前とかでお花の話をしていたり、庭のお手入れをしながら楽しそうにしている様子をたまに見かけるのだ。勿論、今日のように館内で遊んだりすることもあるけど、どちらかと言えば庭で遊んでいることの方が多い。
手を振ってみると、リリーは支えてもらいながら両手で振り返してくれて、美鈴は手を振れない代わりに優しく微笑んでくれた。たったこれだけで、僕の心は暖かくなる。
「いやぁ、びっくりしましたよ。庭のお手入れをしてたら、いきなりメノウちゃんが前は男の子だったの知ってたかと、複数のメイド妖精ちゃんに言われたので」
「私もねー。で、メノがメイド妖精の皆に言って回ってたの? それともレミリア?」
「僕だよ、リリー。レミリアは付き添ってくれてるだけ」
「そうなんだ。だって、美鈴」
「なるほど。であれば、特に問題はないですね」
そして、僕がして回った前世云々の話は、リリーと庭でお手入れをしていた美鈴を含めて、庭のメイド妖精さんたちにもあっという間に届いていたようだ。美鈴が困惑するくらいだから、相当盛り上がっていたのだとよく分かる。
ちなみに、庭のメイド妖精さんがわいわい騒ぐことで、僕と全く関係のない人妖さんの中にもこの話が耳に入るとは思うけど、そんなことは全て承知の上。
そんなに気にするんだったら、僕の友達以外の人には知られたくないから外では言わないで欲しいと、最初から皆に言っている。
第一、知られたところで僕には心強い味方が沢山居るのだ。知らない人妖さんにああだこうだ言われたって、平気ではなくとも乗り越えることはできるのだし。
ああでも、大好きな家族や友達に迷惑がかかるのだけは、勘弁して欲しいな。
「あっ。そういえば、メノに渡すものがあったんだった……はいっ! この間、貸してくれてありがとー!」
「うん、また使いたくなったら言ってね。いつでも貸してあげるから」
そんな時、美鈴に肩車されていたリリーが下に降りると、懐からあるものを取り出して僕に差し出してきた。よく見たら、それは丁寧に洗濯されて畳まれた、僕のハンカチの内の1枚である。
何日前だったか忘れたけど、2人ど遊んでいる時に自分で使う花柄の可愛らしいハンカチを落としてなくしたとかで、1日貸して欲しいとお願いされたっけ。
結構大切にしていたみたいだったから、僕もその日はウルの力も借りて探すのを手伝ったりしたけれど、結局見つからずに終わった。その時の悲しそうな表情は、今でもハッキリと思い出すことができる。
(……今度、リリーにちゃんとあげる用のハンカチ作ってあげよっと)
何枚もあるし、ハンカチくらいなら裁縫で作れるから返さなくても、普段のお礼も兼ねて1枚あげるよとは伝えたけど、洗って返す方を選んだみだいだ。作ったばかりで、まだその時点では未使用だったから、ちょっと遠慮したのかな。
まあ、リリー本人が欲しいと思ったならともかく、もらえないとか要らないって思ってるのに無理言ってあげるのは違う。それをやったら、ただの自己満足の極みになってしまうという訳で、ここはしっかりと受け取っておこう。
「ふふっ。相も変わらず、ほのぼのする光景だわ」
「はい。リリーちゃんもそうですけど、メノウちゃんも変わらず元気そうでなによりです」
なお、そんな僕とリリーのやり取りを、いつの間にか少し離れたところで見ていたレミリアと美鈴は、とっても幸せそうに微笑んでいた。
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