「フランおねえちゃん~! ねえ、きいてきいて! わたし、スッゴくびっくりすることきいちゃったの!」
特別なことなどはなく、魔導書を開いて読んだり魔法を使って遊んでみたりと、相変わらず地下室生活を謳歌していた今日、入り口の強化鉄扉をメイド妖精がやたらと叩いてくる音が聞こえてくる。
シャーネットを含めて、私のところに好んでよく来る子はそうなんだけど、話し声や叩く音とかを聞いている限りではかなりの人数居ることが分かる。魔法を使ってみたら、案の定10人くらいだった。
一体、私に何をそんなに聞いて欲しいのだろうか。全く以て想像はつかないが、どうせやることもなくて暇だし、お話くらいは聞いてあげよう。
「はいはい、そんなに騒がなくても今開ける――」
「あのねあのねっ! しろちゃんって、むかしはにんげんのおとこのこだったんだって!」
「しろちゃん? あぁ、メノウのことね……ん? 人間の男の子?」
「そう! ねっ、びっくりした?」
「……ええ。それはもう、とっても」
そう思いながら扉を開けたら、全員が一気に雪崩れ込んできた上にいきなり、シャーネットがメノウの秘密……今は、完全な秘密ではなくなったけれども、それを口に出したものだから驚いた。
シャーネットたちは相当びっくりしたらしいけど、それでもメノウのことを一緒に働く仲間であり、お友達でもあるというのは変わらないらしい。
まあ、悪意のかけらもなさそうなあの性格の持ち主なのだ。昔というか前世がどうであれ、今は妖精の女の子な訳なのだから尚更だろう。
(うーん……)
その秘密の出所が気になるところではあるけれど、恐らくそれはメノウ本人。人里云々の件は例外にしても、基本はお姉さまたちが勝手に言うはずなんてないのだ。
だとしたら、今になって皆に言おうと決意した理由がまるで分からないけど、まあさして重要なことではないか。単に忘れていたって可能性もあるのだし。
「でね、それだけじゃないの。にんげんのおとこのこだったころ、かぞくにいじめられてたって」
「家族にねぇ。今でこそ、サニーたちに愛されて暮らしているけれど、幸運だったと言えるわ」
「うん。サニーちゃんたちのおはなしすると、めがキラキラして、はねもさくらいろにひかるもんね!」
そして、メノウはどうやら前世の性別の話をしたのみならず、前世の家族の話も併せて話したようで、シャーネットの表情にメノウへの同情の意思が見えてくる。
うん。そりゃあ、仲良くなった上であの話を聞いたなら、ただひたすらに辛いとしか言い様がない。お姉さまなんか、口癖のように「早く殺してやりたい」って言うくらいだもの。
(……メノウ。サニーたちに出会えて、よかったわね)
かくいう私も、メノウとは何だかんだで仲良くお友達をやらせてもらっているけど、やはりどこにも苦手だったり嫌いに思う要素は見当たらない。
元々大人しい妖精なのと私の性格を考えてか、一緒に遊ぶ時には大体私の膝の上に座って本を読むくらいしかしないなど、不快にさせないように気遣ってくれる。時折会話を交わしながら頭を撫でてあげたりすれば、それだけで楽しくて幸せだって言ってくれるから尚更。
だからこそ、たまに理想郷ではしゃがなくてもいいから遊んで欲しいと、おどおどしながらお願いしてきた時に、少しなら行ってあげてもいいかなと思えるのだ。
「フラン……わっ。妖精さんたちがいっぱい」
「どうやら、メノウの話で盛り上がってたみたいね」
「そっかぁ……えへへ」
とまあ、メノウのことを考えながらシャーネットたちの相手をしていたところ、閉めていた強化鉄扉が開くと同時に、当の本人がお姉さまを連れて入ってきた。雰囲気的に、遊びに来たのとは少し違う気がする。
「あのさ……フラン。いきなりでごめんだけど、僕のお願いを聞いて欲しいの。とっても身勝手な」
案の定、メノウは遊びに来たのではなかった。とっても身勝手なんて言葉を付け加えてくるくらいに、重要なお願い事があるらしい。
「身勝手な……? まあ、取り敢えず言ってみてくれる?」
「うん、えっとね……」
お願い事を断るも了承するも、聞いてみなければ始まらないということで促してみたところ、身勝手かどうかは別として重要なお願い事ではあることが確かではあった。
色々と訳も含めて説明はしてくれたけれど、端的に言うなれば紫と直接会い、対話をする際に私も同席してくれないかということだったのである。なるほど、遂に決意を固めたらしい。
そして、時期は今のところ不明ではあるものの、対話の場所はお姉さまが許可したので紅魔館と決まっているらしい。理由は、メノウの家である魔法の森の妖精大樹、および妖精たちの理想郷に、紫を招き入れるのは不安だからとのこと。
(まあ、そりゃね……)
メノウは事前に、サニーたちはもとより私を含む仲の良い面々に紫のことを聞いていて、その全員からの返答が何とも言い難いものだったという。かくいう私も、胡散臭いなんてことを言った覚えがある。
しかも、紫は正規の手順ではない方法で1度、理想郷の最深部の妖精大庭園へと入ろうとして、守護者に弾かれている。あの異世界妖精は、咲夜のような見た目と理想郷の守護者という役職に違わぬ実力を発揮したようだ。
で、その報告は当然理想郷の主であるメノウの耳に入った訳だ。紫も紫で、これが幻想郷のことを思うが故の行動なのは分かるけれど、それでは警戒されて当然とも言えよう。
「いいわよ、メノウ。前にも言ったけど、紫とは一応知り合いだもの。困った時は、代わりに会話を受け持ってあげる」
「えっ。レミリアもそうだったけど、そんなにあっさり決めちゃっていいの……?」
「勿論よ。だって、メノウと私は友達でしょう?」
「わぁ……ありがと、フラン!!」
なお、問いに対する返答は説明を聞いている途中で、了承すると既に決まっていたためそう伝えたところ、ニコニコで飛びついてきたので受け止めた。羽から放たれる桜色の光も、少しだけ強くなっている。
よっぽど嬉しかったのか、「いつか絶対にお返しするからねっ!」と言った後すぐ、「あっ、お部屋のお片付けしとくね! お返しは別だから安心して!」と言いながら私から離れ、後で片付けようと思ってた部屋の中の片付け始める。
(……わぉ)
触れて欲しくないものには一切触れず、片付けようと思っていたものはほぼ100%の確率で、いつも置いている場所に置いてくれている。私の方を時折チラチラ見てくるのは、機敏を察知するためであろう。
それだけでなく、急に思い付いたのか並行して懐のモフモフや掃除に便利な魔法をも使った、地下室のほこり取りまでやり始めた。
一応、自分の部屋ということでいつもは分身して掃除するんだけども、これが割と面倒くさい。それを、優れたメイドであるメノウがこうしてやってくれると、しばらくやらないで済むので大助かりである。
「とんでもない気合いの入れようね、メノウ。見た感じ、体力とかは大丈夫そうだし、止めないで良さそうかしら」
「確かにそうね、お姉さま」
「それにしても、メノウが紫とねぇ……サニーたちは決定として、他には霊夢と魔理沙とアリスにも同席をお願いするつもりみたいだけど、そうそうたる面子だわ。ただの対話じゃなくなりそうね」
「紫もびっくりするわ、きっと。サニーたちはともかく、お姉さまと私と霊夢と魔理沙とアリスが同席してるってなったらね」
「ふふっ、想像するだけで面白そう。メノに何かあれば、同席した面々が動くって意思表示にもなるし」
さてと、果たしてメノウと紫が対話をするのはいつになるのだろうか。こういう重要な事柄は私もそうだけど、メノウのためにもできるだけ早めに済んでくれるとありがたい。
しかし、昨日遊びに来たルナに尋ねてみたところ、「次に聞きに来るのは、今日からだと5日前後経った後」とのこと。
お姉さまにも聞いてみたけど、「諸々の期間込みで、対話が始まるまでの期間は、1ヵ月前後ってところかしらね」とのことだから、まだまだ先の話にはなりそうだ。致し方ない。
(ふぅ……あれ、分身魔法でも教えてみたらえげつない早さになるかも……?)
相変わらずの早さで片付けと掃除を進めていくメノウを、お姉さまやシャーネットたちと一緒に見ながら、私は来るべきその日に向けて思考を巡らせていった。
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