幸せ四妖精   作:松雨

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みすちーの移動屋台

「わぁ……美味しそう……!」

「ふふ。そんなに期待してくれるなんて、腕がなるわ!」

 

 チルノと大ちゃんが連れてきた、ルーミアたち仲良し3人組との挨拶を無事に終わらせた後、僕は屋台の椅子へと座ってある料理の完成を心待ちにしていた。

 

 言わずもがな、みすちーの屋台一押しの料理である、八ツ目鰻(ヤツメウナギ)の蒲焼きである。普通の鰻よりもクセが強いとか何とかで、好みが別れやすいとのことだけど、僕的には今のところ大丈夫そう。

 

 むしろ、目の前で時折タレをかけられながら、じゅうじゅうと焼かれてる時の音と香りは、それだけで食欲を刺激してくれる。勿論、実際に口に入れた時の食感とかでなんか違うと思う可能性も、当然ある訳だけど。

 

「相変わらず良い香りね! 食欲が刺激されてきたわ!」

「みすちーの屋台で出されるものは全部絶品だからねー。その中でも一押しの料理なら尚更だわ」

「博麗神社の宴会とかにあると、凄く雰囲気が出てて尚更いい。メノも期待してて損はないよ」

「うん!」

 

 でも、僕の生まれる前に何度も食べたことがあるであろうサニーやスター、ルナも目をキラキラさせながら、僕と一緒に蒲焼きの完成を心待ちにしている。これだけで、僕も八ツ目鰻を気に入るだろうなと、何となく思えた。

 

 食の好みとか、その辺は家族である僕たちでも違うところは、いっぱいある。例えば、ルナがブラックコーヒーとかみたいに、凄く苦いものが好きなのに対して、サニーはもう凄い顔をしかめるくらいに苦手って感じで。

 

 1度、スターにイタズラでルナ仕様のコーヒーを飲まされた時なんか、思いっきり「ぶべっ、ぺっ……うぇぇ、苦いよぉ……」と涙目で言いながら、僕が飲もうとしてたりんごジュースをお口直しに全部飲み干しちゃったのが記憶に新しい。

 

 それを見て、サニーが噴いたコーヒーをもろに被りながらも爆笑するスター、でしょうねといった感じで2人を見てたルナ、何とか落ち着いた後に、僕のりんごジュースを飲んだことに気づいて慌てるサニー。

 

 これが、大好きな家族同士での幸せなやり取りなんだなと、何にも替えがたい宝物なんだなと、しみじみ思う一幕だった。

 サニー自身も、スターやルナに色々イタズラを仕掛けて楽しんではいるとはいえ、しょっちゅうだと堪ったものじゃないだろうけど。

 

「それはそうと、チルノ。大ちゃんたちも、ここに座ってなくて大丈夫……?」

「気にしない気にしない! どうしても疲れたらあっちで座ってるからな!」

「そうだぞー。あっ、もし遊んでて凄く汚れたりしたら、お風呂借りてもいい? サニー」

「勿論いいわ! でも、そうしたら帰りに着てく服は……どうしよっか。洗ってもすぐには乾かないし……」

「あー……うん。まあ、その時考えるかー」

 

 ちなみに、屋台の大きさは移動のさせやすさを考えているためか、ここに居る全員が座れるだけのスペースはない。折り畳み式の小さな机や椅子もあるにはあるらしいけど、それでも6人か7人が限度だそう。

 

 八ツ目鰻の蒲焼きを作ってるみすちーはともかくとして、チルノと大ちゃん、ルーミアにリグルは座ることができないのだ。

 

 ただし、移動式の屋台をわざわざ持って来たのは、まだ1度もみすちーの料理を食べたことのない僕のために、チルノが提案したから。

 サニーとスター、ルナにもご馳走してくれるのは、大ちゃんが「こうすれば、メノちゃん喜ぶよ」と、みすちーに言ってくれたから。

 

 僕と3人組が仲良くなるきっかけになるならその程度は構わないし、そもそも食事の気分じゃなかったのもあってか、皆からは了承済みだという。

 

(……えへへ)

 

 ルーミアにリグル、みすちー。僕も3人とは、チルノや大ちゃんみたいに仲良くなりたいって、心の底から思ってるよ。

 後でしっかりと、記憶に残るようにはっきりと口に出して伝えておかなきゃ。

 

「はい、お待たせ。ミスティアの移動屋台一押しの八ツ目鰻の蒲焼き、美味しく食べてね」

「「「おぉ……」」」

 

 そんなことを考えながら、気分が高ぶって更に楽しくなってきたのか、ちょっかいを出してくるサニーたちと色々楽しく遊んでいると、完成したらしい。

 僕たちの目の前に、とても美味しそうな香りを漂わせる八ツ目鰻の蒲焼きが、ホカホカ白米や熱々の緑茶と共に出された。

 

(凄いお腹空いてる時にこの香り嗅いだら……うん、即飛びついてた。ご飯も、緑茶も凄く美味しそうだし……)

 

 大衆に親しみやすいよう、そもそもが屋台である故に、八ツ目鰻の蒲焼きや白米が乗せられよそわれている食器こそ、僕の家でも使われているようなもの。

 

 しかし、何度でも言うけど、肝心の料理はお高い旅館とか食堂で出されていても、全く違和感を覚えないくらいには美味しそうだ。

 

 まあ、今世はもとより前世でもお高い旅館に寄ったことなんてないし、そもそも八ツ目鰻の蒲焼きなんて食べた経験もないから、何を考えても説得力なんてないけれど。

 

「ん~、熱いっ! けど、バッチリな歯ごたえとちょうどいいやわらかさが、上手く両立してるこの感じ……やっぱり最高ね!」

「うんうん。文や幽々子、霊夢が絶品と評するだけあるわー」

「いつも通り、とても美味しい」

「よかったわ。流石に一押しかつ得意料理だから、美味しくなければ食べてくれた人妖に申し訳ないし」

 

 サニーが一口かじったのを皮切りに、僕もふーふーしてから一口食べてみた刹那、一瞬だけ世界が変わった。まるで、どこかお高めの旅館で女将のみすちーお手製の料理を食べたかのような、そんな感覚を覚える。

 

 確かに、食感とか鼻を抜ける香りとか、クセが強いとみすちーが言っていた意味は分かった。好き嫌いは分かれるだろう。

 

(やっぱり、凄く美味しい。長年、みすちーが積み重ねてきたものを感じるなぁ。ご飯もお茶も美味しいし……)

 

 しかし、僕としては好きの部類に入る。何かを考える前に、ご飯をお供にして蒲焼きを口に入れてしまうくらいには。

 

 みすちーに教えてもらって練習をすれば、きっとある程度近づくことはできるだろう。料理というのは、そういうものなのだし。

 ただ、同等のものを作れるようになるとは、正直思えなかった。

 

 みすちーのたゆまぬ努力と新鮮な素材、しっかりした調理道具の管理に料理に込められた強い心という要素が揃ってこその、この味なのだから。

 

「それで……メノ。一応聞いてみるけど、どうだった? 美味しかったかな?」

「え? そりゃあもう、とっても美味しかったよ! えへへ、ご馳走さま。みすちー」

「うん、お粗末さまでした。和食料理が大得意なメノに、気に入ってもらえて何よりだわ」

 

 無論、量はそこそこ多かったけど、凄い美味しかったので出された分は完食できたし、みすちーから求められた料理の感想についての返答は、考える余地もないだろう。口にする前から分かりきっていたことなのだから。

 

(ふふっ)

 

 すると、みすちーは嬉しそうに微笑んでくれた後に、「今度はおでんとか煮物とかを作って、ご馳走するね」なんて言ってくれたから、凄く嬉しかった。

 

 今日は元々奢りのつもりでいたにせよ、流石に今度も友達のよしみで無料にしてもらう訳にもいかないので、正規料金で食べるつもりである。

 

 ちなみにだけど、僕が作る料理はいくら食べても全員無料だ。とはいうものの、材料がなくなるかサニーたちの許す限りという制約はつくので、文字通り無限に作れる訳ではないけども。

 

「えっ。いや、それ本当に……?」

「本当だよ、みすちー。無料だから、遊びに来た時遠慮なく僕にならお願いしても大丈夫だよ。和食に洋食、和菓子に洋菓子、全分類の全種類作れる訳じゃないけど」

「そっかぁ……じゃあ、いつか楽しみにしてるね」

「えへへぇ……うん!」

 

 そのことを伝えたら、お前は正気かと言わんばかりに驚きつつも、振る舞ってくれる時が楽しみだよとは思ってくれたらしい。

 

 僕的には今日でも全然構わないと思ってるけど、みすちーも今日は食事の気分じゃない。それならまた今度、遊びに来てくれた時にでも振る舞おう。

 

「ルーミアもリグルも、いつでも気軽にお願いしてくれて大丈夫だよー! その時は、希望通りの料理でもお菓子でも振る舞うからー!」

「そっか、楽しみにしてるぞー!」

「ありがとうね、メノ……ぶべっ!?」

 

 そして、チルノや大ちゃんと遊んでるルーミアとリグルにも、全力の大声で同じようなことを伝えたら、わざわざ足を止めてまでこう返事を返してくれた。

 

 だからなのか、チルノが投げた泥団子を避けられず、思い切り顔に当たって酷く汚れてしまったのは、もう既に汚れていたとしても凄く申し訳なく思ったのだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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