たった数人が同じ場所に集まるだけで、相当騒がしく賑やかな場所と化す種族である妖精。個人差も当然あるし、状況にもよるけれど基本はそんなもの。
砂や泥遊びの途中、イタズラをしてきた幽霊への仕返しと称して派手に暴れ回り、終わった後に後片付けを済ませてから白玉楼の大浴場で疲れを癒している光の四妖精が、その最たる例だと言える。
比較的大人しいルナはもとより、それ以上に大人しく臆病なメノウでさえ、今回の仕返しではしゃぎ回っていたくらいには、場の雰囲気に熱気がこもっていたっけ。
でも、イタズラ大好き妖精筆頭なサニーや、それに続くスターが居るならば、いかに2人が大人しめな妖精だったとしても、当然の摂理か。
「それにしても凄いわね、メノウの併せ技とやらは。落とせる汚れに際限はないのかしら?」
「さあ、その辺は何とも。ただ、今まで数回この目で見てきた感じと負担の大きさ、どんな汚れや臭いでも落とせるとメノウちゃん本人が自信満々なのを鑑みるに、相当強力ではあるんでしょう」
「そうね。何はともあれ、着物が綺麗になってよかったわ~」
ちなみにだけど、私と妖夢は居間でお煎餅を食べお茶を飲みながら、四妖精がお風呂から上がってくるのをのんびりゆったり待っている。砂や泥遊びに付き合い、後片付けもやっておきながら実質少したりとも汚れておらず、疲れも大したことがなかったからだ。
これも、メノウの『大自然の力を借りる程度の能力』、文字通り、周囲の自然から借り受けた生命力を使って色々なことができるという、汎用性の高い能力の一端と魔法の併せ技のお陰である。
それ故に、直前にされた「お風呂、一緒に入らない?」とのお願いを断っているのだけど、今更ながら聞いてあげればよかったかと思い始めていた。
でもまあ、たった1度しかないチャンスという訳ではない。作ろうと思えばこれから何度も同じ機会は作れるのだし、また次でもいい。
「着物は私の着ているような洋服とかと違って、洗濯をするにも色々と面倒ですからね。いやまあ、普通の洋服も気遣うに越したことはないですけど」
「そうなのよ~。メノウがもしうちの子だったら、頼り過ぎてしまうかもしれないわ」
「分かります。程度の能力や家事能力を抜きにしても、一緒に居ると元気をもらえますし」
なお、メノウの能力は大自然の具現たる他の妖精も同様に、生命力を借りる対象とすることができる。
勿論、あくまでも影響が出ない程度に『
しかし、数多もの妖精を抱えている理想郷の主かつその穏やかで優しい性格故に、多くの幻想郷の妖精たちとも深い関係を築いている彼女であれば、その制限はないも同然。借りる相手と自身の限界が訪れるまでなら、いくらでも使えるだろう。
とはいうものの、メノウのことだ。自分自身を労るというよりは、力を借りる
「ところで、幽々子様――」
「ふぃぃ、綺麗さっぱり! やっぱり、暖かいお風呂でのんびりするのはいいわね!」
「そうだねー。で、相変わらずのメノだけれど……ルナ。メノが満足するまで、そのままでいい?」
「うーん、どうせ家に帰ってあーだこーだしたらまた入るし……まあ、暑さが限界になるまでこのままってところかな」
「えへへぇ……ルナ、だーいすき! サニーもスターも、だーいすき!」
なんて考えつつ、妖夢が何か私に言おうとした刹那、居間の障子が勢い良く開くと同時にお風呂上がりの四妖精たちが、何やらご機嫌な様子で入ってきて、座布団の上に座った。
サニーはいつも通りなので特に気にならないが、その後ろでルナの羽をくすぐったり頬を指でつんつんしたり、サニーやスターにもべったりくっついてかなり甘えるメノウの方は滅多に見ないというか、初めて見る姿だったから、特段視線を引いた。
羽の色がとても強い桜色になる程とは、お風呂に入ってる時に4人の間で何があったのか、実に気になるところである。妖夢も何だか気になっているようだし。
「あらあら。メノウ、遊んでた時よりも随分ご機嫌じゃない。何か持っていったようには見えなかったけど、何かプレゼントでももらったの?」
「ううん、まだだよ! えっと、僕のお誕生日会でもルナが特別なものをくれるって……しかも、サニーとスターもなんだって」
「ああ、そういう――」
「でね、その時本当に僕……」
ただ、その理由はすぐにメノウ本人が、ルナによしよしされながら嬉々として私や妖夢に語ってくれた。魔理沙から伝えられたお誕生日会にて、三妖精から特別なプレゼントを更にもらえることが決まったと。
余程嬉しかったのか、話している内に段々と身振り手振りが大きくなってきている。
で、割とすぐお誕生日会云々の話から徐々に逸れていき、終いにはルナを含めた三妖精がいかに自分にとって素晴らしく、大好きな家族であるかを語って褒める演説と化していた。
凄い気迫なのもそうだけれど、お世辞とかではなく心から家族全員をひたすら褒めているだけなのもあってか、私や妖夢はもとより当の三妖精も照れくさそうにしつつも、止めずに静観する構えを見せる。
「よく語るわねぇ、メノウ」
「そうですね。幸せそうではありますけど、何というか……ルナちゃんたちに嫌われることを、過剰に恐れているようにも思えます」
「あー……もうっ。私がメノを嫌うなんてこと、天地がひっくり返ろうともあり得ないのに」
「うんうん、例え誰かに痛めつけられたり命令されたって無理よ! まあ、何年何十年も経てば喧嘩することくらいはあると思うけど!」
「そうねー。だとしたら多分、メノが自分自身にあまりにも気を遣わな過ぎるとか、そんな理由になりそうだわ」
「「うん、確かに」」
メノウの前世、そこで受けた数々の拷問が如き所業を考えれば、サニーたちは理想を超えた究極の家族。そんなものを得られれば、ボロボロに壊れかけた心に染み渡るのは勿論のこと、無意識レベルで依存してしまうのも当然と言えよう。
そして、メノウ自身の種族が妖精であったのはともかく、大好きな家族の種族が大自然の具現化たる妖精であったのは幸運だった。例外こそあれ実質的な不死の種族であり、余程のことがなければ遥かに永い時を共に暮らせるからだ。
これがもし、霊夢や魔理沙と同じ
そうなると、前世と同等かそれ以上の精神的苦痛を受けてしまい、最悪の場合は実質的な死を迎えることにもなりかねない。
結果、三妖精のみならずメノウとある程度親しい面々にも、しばらく影を落とすことになる。妖精軍団に異変解決組、紅魔館の面々には相当影響を及ぼすに違いない。
期間こそ短いものの、友人である私としてもメノウには妖精らしく、毎日元気に幻想郷で過ごして欲しいと願うばかりだ。
「メノ、もうそろそろ落ち着いてくれると嬉しいな。流石に暑さ限界だし」
「あっ。えっと、その……ごめん、ルナ」
「大丈夫。別に怒ってないというか、怒る程のことでもない。お風呂なんか、家に帰ればまた入るんだしさ」
「ふふっ。というかルナ、まだ帰るつもりなんてないわ! 泥遊びはもうしないけど、追いかけっことか……色々ね!」
「サニーはこう言ってるけど、幽々子と妖夢はどうかしら? まだ居ていい?」
「大丈夫よ~」
「構いません。そのつもりでいましたから」
ちなみに、相変わらずべったり甘えられているルナだけど、流石にお風呂上がりの体温で30分以上は厳しかったようで、メノウの頬に両手を添えて気づかせた後にそっと離していた。
両者共に、まるで思い切り弾幕ごっこでもしたみたいに汗をかいていて、ここだけ見ればお風呂に入った意味があまりないように思えるだろう。
(ふふっ、楽しそうで何より……あら、お煎餅もう終わっちゃったわ)
ただまあ、メノウもルナもそんなこと気にならないくらいに楽しそうで、サニーやスターもそんな2人を見てて幸せそうだから、そういう面では大いに意味はある。
目の前にあった最後の1つのお煎餅を手に取り、頬張りながら私はそんなことを思うのであった。
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