あたいは今、とっても気分が悪い。メノのことを見るに堪えない言葉や態度で侮辱するに飽き足らず、他の大切な仲間たちも侮辱し始めたあいつらを、人里で目に入れてしまったから。
それ故に、耐えられなくなったあたいは能力を上手いこと使い、挑発しながら田んぼまで誘導して、最後は思い切り蹴り飛ばし落としてやったのだ。
おまけで弾幕もプレゼントしてやったから、怪我をしてるかもしれないけど、そんなのはどうでもいい。どちらかといえば、あたいの仕返しで田んぼの一部がぐちゃぐちゃになったことの方が問題だった。
勿論、その場から逃げて少し冷静になった後、田んぼの持ち主のおっちゃんを探して謝ったけれど、普通に笑って許してくれた。一部始終を見ていた人間たちはもとより、妖精嫌いの人間ですらあたいの行動に好意的だったと言えば、その凄さは分かるはず。
「へぇ……よくやってくれたわね、ピース。大切な友人であり、うちのメイドでもあるメノウの敵にはお似合いの展開だわ」
「だよな! ああでも、あたい結構大事にしちゃったけど大丈夫? 運命ってやつに影響しない?」
「ええ。それに、一線を越えないで耐えられたところも偉いわ。私だったら今頃、殺していたかもしれないから」
「……それ、あたいの時とは比にならない騒ぎになりそう」
「でしょうね。妖怪だったらかなり楽に始末できたのだけど、あれでも人間なのよねぇ。本当、残念でならないわ」
そして、この出来事は光の速さで人里全体に伝わり、紅魔館にも霊夢や魔理沙辺りから伝わったのだろう。あの後すぐサニーたちの家に行って、誰も居なかったので仕方なく帰るその道すがら、すれ違ったレミリアがあたいを見るなり凄い褒めてくれた。
しかも、気遣いと流れで館に招いてくれた上に美味しいお菓子とか紅茶を沢山用意してくれたりといい思い自体はできたけど、やっぱりいつもよりは気分が乗らない。これも全部、あたいを気遣ってくれてる故の行動だろうに。
というか、この手の話で抱いたであろう気分の悪さで言ったら、サニーたちを除けばあたいよりもレミリアの方が、多分数段上だろう。
あたいとの会話でも半ば無意識に物騒な言葉が出てきてるし、声色もあたい含む妖精を相手にするような優しい感じじゃなくて、異変の時みたいな怖い感じが時折表に出てるのを判断材料としている。
強さも理性も、あたいじゃ敵わないレミリアですらこうしてムカつかせ、全方位に喧嘩を売って敵を増やし続けるあいつら。よくよく考えたら、ここまで負の感情を隠さず居てくれて助かった。
もし、あいつらに自身の負の感情を隠し通せるだけの理性があったら、外の世界出身であっても人里の人間として正式に認められていたかもしれない。
そうなったら、排除するにしたってもっと面倒なことになって、最悪はメノが深く傷つき苦しんでいただろうから。
「はぁ……何かごめん。せっかく美味しいお菓子とか用意してもらったのに、あたい心から喜べなくてさ」
「いいのよ、ピース。あんな不愉快なものを見た後にお菓子を食べ紅茶を飲んた程度で、完全にスッキリできるはずなんてないもの。でも、少しは私に話せて楽にはなれたかしら?」
「……まあな! ありがとう、レミリア」
「どういたしまして。ふふっ、やはりピースは笑顔じゃないとね」
今日に限った話じゃないけど、人里に行きさえしなければここまで気分が悪くなることなんて、恐らくなかった。そして、行くのであればあいつらの存在を頭の片隅にでも入れておき、心の中で備えていれば、気分もマシだったはず。
サニーたちにこの話をしたとしたら、相変わらずのあいつらに怒りを露にした上で似たようなことを言うはずだと、少し冷静になった時にこう思った。
ただ、頻度を減らすとか、心構えを持って気を張るだけならともかくとして、一切合切立ち寄らないようにするのは不可能ではないものの、かなり難しい。
立ち寄る個人的な理由だけで言えば、駄菓子屋のおばちゃんに会いに行ったり、最近だとメノのお誕生日会の時に贈るプレゼント探しとか。
まあ、メノに贈るプレゼントの候補はいくつかに絞れてきたし、駄菓子屋のおばちゃんも「会いに来てくれるのは嬉しいけど、無理しなくていいのよ」って声をかけてくれたから、この辺で頑張って頻度を減らしてみようかな。
「あーっ! ピースちゃん、レミリアさま独り占め……あれ? ちょっと元気ない?」
「くふっ……うん、あたしにも元気ないように見える。いつもはチルノとかスフェ並に騒いでるのに」
「えー? わたし、チルノちゃんたちよりは騒いでないと思うけどなー」
「くふふっ。いやいや、それは無理がある冗談かなー……ふひっ」
「むっ、冗談じゃないよ。ノゼちゃん」
なんて思いながらお菓子を食べていると、レミリアの部屋の扉がバタンと大きな音を立てたとほぼ同時、二大妖精長があたいの方を見てハッとした表情で近寄ってきたことに気づく。
相変わらずというか、友達であるあたいのことを心配しつつも定番のやり取りを交わす2人。そのはずだったんだけど、途中からノーゼが所々で笑いを堪えようとしてる頻度が目に見えて増える。
(いや、そりゃ笑いそうになるって……)
その理由は一目瞭然、スフェが時折ノーゼに向けてえげつない変顔を見せたまま、面白い声で喋り続けているからである。
なお、あたいやレミリアの方にも「これ見て笑えっ!」と言わんばかりに、変顔しながらチラ見してきたりするものだから、さっきからお腹の底より笑いが徐々にこみ上げてくるような感覚が消えない。
これでもし、事前にあいつらのせいで気分が悪くなっていなければ、既に大爆笑していたかも。
「全く。そんな変顔しながらよくまともに喋れるわね、スフェ」
「はい、練習しましたのでっ!」
「この波打つような面白声がまとも……? まあ、言葉になってるって意味じゃまともかぁ」
レミリアの方は表面上平静を装っているものの、口元がほんの少し震えてるし、翼の動きもその割には忙しく見えた。多分、あたいと同じかそれ以上に笑いがこみ上げてきていて、耐えているんだ。
あっ、いいこと思い付いた。今度、サニーたちがご飯の時間を狙ってスフェと一緒に遊びに行こう。
そうしたら、今やってるのと同じことをしてもらって笑わせられれば、イタズラ大成功となる。
(……楽しくなりそう。間違いない)
考えてみれば、サニーとスターとルナ相手なら何度もイタズラを仕掛けたことはあるけど、メノには1度もない。自分が慕う相手にはかなり優しく甘くなる妖精とはいえ、やっても大丈夫かそうでないかがちょっと判断がしづらかったし。
でも、ここ最近はサニーやスター、ルナ相手とはいえイタズラをするようにはなってきているし、仲間になった当初と比べるとかなり活発になってきているなど、イタズラを仕掛けても大丈夫そうと思えている。
勿論、意味もなく声を荒げて怒ったり、冗談で友達を辞めるとか言ってしまったり、メノと親しい友達を傷つけるふりをするなど、心に直接傷をつけるようなことをするつもりはない。いかなる場合でも、決してしてはならない。
特に後者2つに関しては、徐々に治りつつあるメノの心に止めを刺しかねない……いや、刺す行為。マッチの火にバケツの水をかけるようなものと言えば、多分大抵の人は理解してくれると思う。
地獄の炎くらいにメノの心の火が灯ってくれれば、そうそう心配は要らなくなるんだけど、まだ遠いよね。
「もう無理ぃ……ひゃははははげほっ、げほっ……何その変な顔、変な声……ひぃ」
「いえーい! ノゼちゃん、普通のやり方じゃ全然笑わないから大変だった――」
「くっ……ノーゼの言う通り、確かにこれは無理ね……!」
「ぶふっ、ぶっ……きゃははは!」
「わ! レミリアさまと、ピースちゃんまで笑ってる! 変顔大成功っ!」
とまあ、こんなことを頭の中で考えていると、ノーゼがスフェの変顔と面白声のコンボに耐えきれなくなったらしく、むせつつ爆笑し始めてしまう。
で、それを皮切りにレミリアだけじゃなくあたいも耐える限界を超え、部屋の中は大きな笑い声で満たされていく。
もし、この光景を他のメイド妖精が見たならば、ノーゼがあんなに爆笑するだなんていったい何があったのかと、興味に駆られること間違いなしだ。
「あは、あははっ! 皆おかしい顔して笑ってるの、面白いね……ぶふっ」
そして、笑わせてきた当人であるスフェは当然、自分の変顔を見れない。しかし、あたいたちの笑い転げる様子がよほどおかしかったのか、そう時間も経たない内に同じように笑い始めてしまう。
こうなると、しばらくは収拾がつかないだろうし、落ち着く頃には笑い過ぎで喉やらお腹が痛くなるに違いない。
(……ありがとう、2人とも)
ただ、お陰であたいの中に巣食っていた嫌な気持ちが、完全ではないけれど吹き飛んでくれた。そのことを考えれば、この程度はなんてことないのかもしれない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。