幸せ四妖精   作:松雨

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悪魔の妹の贈り物

「メノウ。あなた、ここ最近ずっと幸せそうにしてるけど、今日は特段幸せそうね」

 

 初めて冥界に行って、ゆゆさんと妖夢のお家である白玉楼にも招待してもらった昨日、サニーたちから言われたことも含めて、とっても幸せな思いができた1日であったと断言できる。

 

 魔理沙からお誕生日会の提案をされてから、ずっと感じ続けていた心地よい幸せが昨日の幸せな思いに合わさったお陰なのか、今日は心が踊るだけじゃなくて身体もとびきり軽い。

 

 メイドの仕事で地下室に食事を運びに行った時、気だるそうにしてたフランが僕を見るなり、そう声をかけてくる程度には態度にも出ているようだった。

 

「幸せだって分かる?」

「そりゃあもう。メノウを見たのが私でなくとも、すぐに分かることよ」

「そっか。昨日ね、ルナからお誕生日会の時に特別なプレゼントをあげるって言われて……そうしたら、サニーとスターもあげるって言ってくれてね」

「へぇ、よかったじゃない。きっと、わざわざ本人に宣言する程の自信が3人にはあったんだわ」

 

 恥ずかしいことでもないし、隠そうとしてはいないから当然と言えばそうなんだけど、仮に隠そうと思っていても、今日に関してはかなり難しい。大好きな家族からの特別なプレゼント、想像するだけでウズウズしてきちゃうんだもの。

 

 まあ、もらえれば嬉しいし幸せなのはそうだけど、特別なプレゼントはなくたっていい。お誕生日会に参加してくれること自体が、僕にとってのプレゼントだから。

 

 無論、参加しなくたって構わない。普段、僕と仲良くしてくれているだけでもとっても幸せで、とっても嬉しくて、かけがえのない一時だと思っているから。

 

 そもそもの話、こういう類いのイベント事への参加は、強制するようなものではない。直接お願いするだけならまだしも、仮に強制したところで祝う気分にはならないし、お祝いされる方もそれでは幸せにならないというのは、よく考えなくても分かること。

 

 ああでも、参加を強制することができる性格だったなら、こんなことを思わないか。

 

「お誕生日会……か。ちょっとどころかかなり早いけど、まあいいわ。メノウ、こっちにおいで」

「……? うん」

 

 すると、運んできた料理を食べていたフランが、急にお皿とフォークをお盆に置いて食べるのを止めたと思ったら、自分の膝をポンポン叩いて僕にそこへ座るように促してきた。何故かは知らないけど、同時に分身を1体生み出している。

 

 まるで訳が分からないけど、大切な友達のお願いとあらば聞かないなんて選択肢はない。むしろ、こういう理由であれば大手を振ってフランともお話ができるから、とても嬉しかった。

 

 ちなみに、フランもレミリアと一緒にお誕生日会へ行くと、微笑みながら言ってくれている。引きこもりがちで外が好きではないのに、それを押してまで行く価値があるって言われたみたいで、本当に幸せでしかない。

 

「よっと……わっ。えへへ……本当にどうしたの?」

「もう少し待っててね。すぐに分かることだから」

「そうなんだ。うん、分かった」

 

 なんて思いながらお願い通りに膝の上に座ると、フランは右腕を僕のお腹に回して抱えつつ、左手でいつもみたいに頭をポンポンとし始めてきた。

 

 これは、目を瞑ればサニーやスターやルナが後ろに居て、よしよししてくれているかのような感覚すら覚える程に心地よいもの。

 謎に分身を1体だけ生み出したというのも相まって、フランが今何をしたいのかがやっぱりよく分からないけれど、この時間自体は凄く幸せなので、その辺は別に気にしないと決める。

 

 というか、それよりも寝てしまわないように気をつけなければ。休憩時間とか仕事終わりならまだしも、今は仕事としてここに来ているのだから。

 

「はい。これ、メノウにあげる。ちょっとどころかかなり早いけど、うっかり忘れない内にプレゼントよ。お誕生日おめでとう」

「……えっ」

 

 優しく抱き抱えられ、頭をポンポンされる心地よさと幸せに身を任せながら待つことおよそ3分、戻ってきた分身のフランから僕の頭3つ分くらいの、熊さんのぬいぐるみ(テディベア)を渡された。パッと見る限り、新品同然である。

 

 見た目や大きさはフランが持っている他の熊さんぬいぐるみとは違うけど、とても可愛らしい。抱き枕程ではないものの、胸元で抱えてベッドで寝ればぐっすり眠れそうなくらいのモフモフだ。

 

(あっ、これって……)

 

 ああ、そうだ。思い出したけど、いつぞやお出かけした時に可愛いと思って買った、熊さんぬいぐるみだったっけ。これも含めて、2つあるって話だったような。

 

 普段は滅多に外出しないフランが外出してその時に買ったもの、僕が1人でお出かけしたようなものと考えれば、並大抵の相手に与えるものではないはず。つまり、そういうことなのだろう。

 

 そして、フランの愛用している熊さんぬいぐるみと違い、この子は服を身に付けている。それも何故か、アリスに作ってもらった僕の私服をそのまま小さくしたかのような服を。

 

(お誕生日プレゼント……ぐすっ)

 

 帽子や靴、アクセサリーなどは僕の私的な格好と所々違う部分もあるけれど、それでも十分そっくり。サニーたちに見せても、絶対にそっくりだと思われる。

 そもそも、大きさとかも小さければ人型でもないし、同じ素材を用意するのは難しいのだから、致し方ないことなのだ。

 

「これって、フランが大好きなぬいぐるみ……1人でお出かけした時に買った、大事なものなんだよね……?」

「ええ。正真正銘、1人で外出した時に気まぐれに買ったテディベア……ああ、ちなみに心配は要らないわ。私はメノウと違って、1人での外出にトラウマがある訳じゃないもの。どうしてもって時は、また買いに行くわ」

「そっかぁ。僕って、フランにとってそこまでするに値するお友達なんだね……ぐすっ、えへへ」

 

 とまあ、ここまで考えておいて何だと思うけれど、フランが僕の誕生日プレゼントと称して大事にしてたものを贈ってくれた事実だけで、十分過ぎる程に幸せで嬉しかった。僕の普段の格好とそっくりか否かは、この際大して重要ではない。

 

 現に今、目から涙が出てきて止まらなくなっている。何とかギリギリで避けられはしたけど、危うくもらったばかりの熊さんぬいぐるみが、涙で濡れて汚れるところであった。

 

 とはいえ、その程度は併せ技を使えばどうとでもなる。昨日の白玉楼で泥まみれになったルナや、ゆゆさんの汚れた着物に比べれば、かなり少ない負担で綺麗にできるから。

 

 しかし、だからと言って汚れていいなんてことはない。それにかまけてしまうようになったら、僕のためを思って大事な熊さんぬいぐるみを1つ贈ったフランに、顔向けできなくなるだろう。

 

 もし、併せ技を使うのならできる限り汚さない努力をして、その上で汚れてしまった時のみだ。

 

「ふふっ。というか、メノウのことを大切な友達だと思っているなら、相応のものを贈ってあげれば喜ぶんじゃないのって、これをあげる提案してくれたのがお姉さまだしね。そういう意味では、お姉さまからの贈り物でもあるかしら」

 

 で、こんなに幸せな気持ちで居るのだから、背中の羽から放たれる桜色の光は当然の如く強くなる。そうなると、僕を膝の上に乗せている方のフランも恐らく、少しは眩しいと思っているはず。

 

 そうなると、皆が集まるお誕生日会で僕の羽から発せられるであろう桜色の光は、今よりも一層強くなるのは確実。

 眩しくて僕の近くに近寄れないとか、気分が高ぶり過ぎてトラブルが起きたみたいな展開はごめんなので、羽カバーとか何かしらの対策は考えておこう。

 

「うん……あっ、ごめん。僕の羽、フランの顔に近かったよね……」

「大丈夫よ。少し眩しいとは思ったけれど、このくらいなんてことないわ。むしろ、元気をもらえたくらいだもの」

「ぐすっ……そう? それなら、少しはよかったかな」

 

 すると、案の定後ろを振り向いた時にちょっとだけど眩しそうにしていたので、ここは名残惜しくも下に降りる。

 これ以上味わっていると、メイドとしての仕事を忘れそうなくらいの幸せだったから、まあちょうどよかったかな。

 

(ほっ……)

 

 ちなみに、ここまでのやり取りでそれなりの時間が過ぎてしまったお陰で、僕が運んできた咲夜の料理は大分冷めてしまった。

 できる限り温かい状態で食べてもらいたかっただろうし、後で咲夜に謝っておこう。

 

 なお、当の本人であるフランの反応は、「別にいいわよ。料理が冷めたの、私のせいだし」と、比較的軽いものだったのでひと安心である。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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