誕生日プレゼントと称してフランからもらった、熊さんぬいぐるみ。本人は早すぎたかしらと気にしていた節があったけど、僕としては大して気にしてはいなかった。
確かに、もらったのがお誕生日会当日であったならば、幸せの相乗効果で瞬間的な幸福感は今日を上回るだろう。もしかしたら、フランはその辺に思い至っているのかもしれない。
しかし、何度でも言える。大切な友達が、僕のためにプレゼントを用意してくれたという事実だけで、とても強く幸せを感じられると。
今日であろうと当日であろうと、この領域まで来れば感じる幸せの差はもはや誤差にも等しいと。
だから、僕はそんなこと気にしないでいて欲しいけど、フランは優しいからちょっと難しいかな。
ちなみに、もらった熊さんぬいぐるみは僕の胴体くらいの大きさなので、抱えたまま仕事をすることは不可能ではないけれど、汚してしまうからできない。
「なるほど。メノウが妹様のぬいぐるみを抱えて、何故控え室に行ったのが不思議だったけれど、そういうことだったのね」
「うんっ! お友達から、お誕生日をお祝いしてもらうだけじゃなくて、プレゼントまでもらうなんて初めての経験だから……えへへ」
「まあ、メノウが幸せなら私としても何よりよ。妹様からもらったぬいぐるみ、大切にしてあげて」
「当然だよ、咲夜! ずーっと、僕の宝物だもの!」
という訳で、フランとのお話が終わってからすぐにメイドの控え室に行って、僕の荷物の置き場所へ置いてから仕事を再開したのだけど、どうやら咲夜に見られていたらしい。
控え室から出るなり、部屋の側で待っていた咲夜に声をかけられたので、諸々の流れを説明した。勝手に持っていったと思われてたら嫌だったけど、微塵もそう思っていなかったようでひと安心だ。
ただし、フランに話しかけられることを考慮しても、食事を持っていくだけの仕事にしてはやけに長いなとは案の定思ってたらしいから、そこはちゃんとごめんなさいと謝っておいたけど。
「さて、次の仕事を頼んでもいいかしら?」
「勿論! 今の僕は元気と幸せいっぱい、どんな仕事だってできちゃうよ!」
「頼もしいわね。で、その内容なんだけど――」
「メノウ! 1週間、あなたの好きな日にお休みをあげるわ! 連続で休むも隔日で休むも自由、何なら期間をもっと伸ばしてもいいわよ!」
そんなこんなで一通りやり取りを交わした後、当然の如く咲夜は次の仕事を僕に与えようとした。
しかし、意識外のタイミングでレミリアがいきなり現れ、予想外の一言を口に出してくるものだから、この流れが断ち切られてしまう。
表情はこの上ない程に嬉しそうな笑顔、サニーたちやチルノ一行に引けを取らない。背中の翼の動きも、レミリアのことをある程度知っている人妖さんであれば、相当な幸せや嬉しさを感じていると分かる動き方だ。
同じように、明るい声色や無意識に放たれる暖かみのある魔力、他細やかな要素からもそれはよく理解できる。
簡潔に表すならば、フランからお誕生日プレゼントをもらい、絶大な幸せの真っ只中にある今の僕と同じ。確か、外せない用事があるとかで人里に出かけていったのは知ってるけれど、ここ最近のレミリアの様子を考えると実に不思議である。
人里に行く度に不機嫌になっていって、ここ最近はもう心配になるくらいだって、美鈴も言ってたくらいだから。
とはいえ、ニコニコなレミリアを見ていると嬉しくなってくるし、隣の咲夜も同じように幸せそうになってくれるので、その辺は特に聞いたりするつもりはない。
もし、これがいつぞやみたいに何か凄い怒ってたり、とても悲しんでいたりしたならば、考える前にどうしたのと聞いていたかも。
「最低1週間のお休みで、しかも伸ばしてもいいの? 凄く嬉しいけど、スターはその……お休みもらえる?」
「心配しなくとも、スターにも同じだけ休みをあげたわ。ちなみに、「休み? もらえるなら、メノと一緒の日にしようかなー」って言ってたから、どうなるかはメノウ次第ね」
「わぁ……えへへ、僕とスターに気を遣ってくれてたんだね……ありがと!」
「どういたしまして。メノウとスターの2人組は、基本セットで考えてるのだから当たり前よ」
ちなみに、今の僕みたいに元気いっぱいな感じで、お休みをくれると言ったレミリア。僕だけじゃなく、一緒に働いてるスターにも同じだけのお休みをあげてくれたみたい。
口に出してからすぐ、こっちが申し訳なく思う程僕を含む妖精たちに気を遣う性格なのに、僕にだけくれてスターには休みをくれない訳がないことに思い至る。
紅魔館に特別な事情ができたり、僕がスターのどちらかに急な体調不良になったなど、即対応しにくい事態でない限りという注釈はつくけど。
ただまあ、今更僕の発言をなかったことにはできないし、レミリアの目を見ても気にしているようには見えなかったから、心配しなくたって大丈夫そうではある。
「ところで、お嬢様。今のメノウと同じかそれ以上にご機嫌なようですけど、何かありましたか?」
「ええ。今日から1~2週間で人里での憂いが確実に消え、メイド妖精たちにも人里解禁のお知らせができる。更に、それにあたって発生した最大級の懸念も、能力が見せる運命は私が馬鹿をやらかさなければ、殆んど問題にはならないと告げてきてくれた……ね? 最高でしょう?」
「あらまあ……ええ、最高ですね。間違いなく」
なお、今の僕みたいにレミリアがご機嫌な理由は、咲夜が普通に尋ねてそれに答える形で本人の口から語られたことにより、普通に判明した。
僕には推し量れない何かを含めて色々あったせいで、メイド妖精さんたちが人里に遊びに行くことを、不本意ながら固く禁じたレミリア。外せない用事以外では、自身も含む紅魔館の主力の皆も同様に人里へ足を運ぶこともなくなっている。
大好きな主の言うことだからと、命令を比較的素直に聞き入れているメイド妖精さんたち。
しかし、「遊びに行きたいなぁ」とか「おじちゃんの紙芝居、見に行きたいよぉ……」とか、そう溢す妖精さんたちはどうしても居る。
レミリアも、多少なりとも不満げな妖精さんが出ているのは知っていて、話を聞くたびに申し訳なさそうにするみたいだ。
無論、何の対策も打っていない訳ではない。娯楽の用意だったりは当然として、レミリア自身が妖精さんのお遊びに合間を縫って付き合ったりはしているけれど、やはり完全とは言い難かったのである。
そりゃあ、僕みたいにご機嫌にもなる訳だ。自分がようやく腰を落ち着ける目処が立っただけでなく、不本意ながらメイド妖精さんたちに不自由させなければならない期間が、もうすぐ終わるのだから。
「レミリアさま。もうすぐ、人里で遊べるようになるの? おばあちゃんの駄菓子屋さんとか、行ってもよくなるの……?」
そして、こんなにも大きな声で盛り上がりながら会話をしていれば、言わずもがなメイド妖精さん……偶々通りがかった、モリオンの耳にも入った。瞳はこの上なくキラキラしていて、無意識に羽もパタパタさせている。
不満を抱くメイド妖精さんの中でも1番みたいで、僕もこの間モリオンが、自分からレミリアに「おばあちゃんのところだけでも、遊びに行っちゃ駄目……?」なんて聞いたりしてたところを見たっけ。
ただ、不満げな妖精さんの中で1番といっても、変に暴れたり暴言を吐くなどして皆を困らせたりはしていない。単純に、遊びに行きたいと直接お願いする頻度が多いだけである。
それも、レミリアなり一緒に居ることが多い咲夜辺りが、まだ駄目なのと言いさえすれば、すんなり引き下がるくらいには素直なのだ。
もしかしたら、モリオンは1人で我慢していると、頭の中では分かっていても遊びに行きたい欲求が膨らんできちゃうから、時々断られること前提でお願いしに行ってるのかな。
「1~2週間はモリオンにとって、もうすぐ扱いでよかったのね……ええ、なるわよ。今まで我慢させてて悪かった――」
「やったぁ! レミリアさま、皆にも教えてくる!」
「ちょっ……もう、気が早いんだから」
「ふふっ。よかったですね、お嬢様」
「……まあね。1番我慢させていた子だし」
だからこそ、人里遊びがもうすぐ解禁されるともなれば、モリオンが狂喜乱舞するのも無理のないことなのだろう。
(ふふっ。よかったね、モリオン)
この様子だと、レミリアが皆を集めて声をかけるまでもない。確か、今日は誰も館外へ遊びに行っているメイド妖精さんは居ないと美鈴が言ってたから、今日中……いや、2時間以内に皆の知るところとなりそうだ。
本当に嬉しそうに、廊下を駆けていくモリオンの背中を見ながら、僕はそんなことを思うのであった。
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