幸せ四妖精   作:松雨

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浮わつく妖精たち

 人里遊びが、今日から1週間前後を目処に解禁される。レミリアよりもたらされモリオンによって拡散されたこの情報は、光の速度とも言うべき早さで広がっていった。

 

 大なり小なり皆が待ちわびていたことも相まって、今の紅魔館はパーティーが開催されているみたいな盛り上がりを見せている。この様子だと、嬉し過ぎて仕事にならないメイド妖精さんが多そうだ。

 

 というか、現にそういう光景ばかりを目にしている。普段はふざけず真面目にお仕事をこなしている妖精さんでさえ、どこか浮わついたような感じだから。

 

「つまり、行こうと思えば私やサニーやルナとすぐ一緒に行けるってこと。解禁してからの、レミリアとの大切な話をしてからだけど、今からとっても楽しみで仕方ないわ!」

「えへっ。そっか」

「とはいえ、万が一それで何かあったら……やっぱり、もう少し考え抜くべきかも? ちょうど長いお休みもらえたことだし」

「そう? 多分、スターたちと一緒ならすぐにでも……ううん、ごめん。僕のために、気を遣ってくれてるからこそなんだもんね」

 

 なお、一緒に働くスターもその辺は例外ではない。長時間話し込んだ後、咲夜にレミリアの部屋がある棟の掃除をお願いされ向かう道すがら、目をキラキラ輝かせつつ「メノ! モリオンのお話聞いた!?」と駆け寄って話しかけてきたのを見れば、考えずとも分かるだろう。

 

 それに、僕を気遣うところは見せつつも、既に1週間前後に控える人里解禁とほぼ同時に僕を連れ、遊びに行くのが決まったかのようにも話してもいるのだ。例え、寝ぼけ眼の状態でもすぐに理解できると断言できる。

 

(スター、本当に僕と人里で遊びたかったんだね……にしても、レミリアとの大切なお話ってなんだろう?)

 

 まあ、それにはフランから誕生日プレゼントをもらった極大な幸せのお陰で、僕の背中の羽から発せられる桜色の光が、至近距離だと眩しいと思うくらいに強くなっていたのが、恐らく関わっているのだろう。

 

 ただ、光の色に呼応する感情のお裾分け(発散)効果は、本来であればそこまで強力なものではない。今くらい光が強くとも、普段のスターならば容易に振り払える程度と言えば理解してもらえるはず。

 

 スターが今こうなっているのも、様々な理由でお裾分けとの相乗効果が多重に発生し、振り払う意思を幾ばくか超えた、ないし持たなくなったからだろう。

 

 大好きな家族が幸せそうにするところは、見ていてこっちも暖かい気持ちになるけれど、その要因の半分くらいは謎に備わっている僕の特性のせい。悪い効果ではないからいいものの、何というかちょっぴり複雑な気分だ。

 

「ねえ、メノ。さっきから不思議に思ってたんだけど、どうして羽の光がそんなに強くなってるの? まあ、幸せならなんだっていいけど、正直気になるから教えて」

「うん。えっと……」

 

 なんて思っていたら、不意にスターが首をかしげながらこう尋ねてきた。そりゃあ、何の理由もなしにここまで光が強くなる訳がないのだから、疑問に思うのも当然だ。

 

 別に隠すようなことではないし、返ってくる反応だって悪いものではないとは思うけれど、やっぱり少しドキドキしてる。

 

 サニーたちよりも先に、フランから誕生日プレゼントをもらったという事実に、スターはきっと何か思うところができるだろうし、サニーやルナも多分それは同じだろうから。

 

「そっか。私、先を越されちゃったんだねー」

 

 フランの部屋(地下室)に食事を運び、熊さんのぬいぐるみをもらうまでの流れをそのまま説明したら、スターは先程までと変わらぬ表情でそう口にする。

 ただし、纏う雰囲気や声色は僅かながら沈んでいる。僕やサニー、ルナでも見逃してしまいそうな程の変化だ。

 

 とはいえ、誰かに怒ったり嫉妬するなどというよりは、フランがもう用意できていたことへの驚きや、自分自身に対する悔しさや焦りというような感じではありそう。

 贈る相手が家族だからこそ、誰よりも早くプレゼントを用意してあげたかったのかな。

 

(……えへっ)

 

 気持ちは痛いほど分かるけど、僕としてはもらえる順番なんて気にしたことはないし、極論もらえなくたって大丈夫。

 

 他愛もない平穏で幸せな日常と、生まれて初めて心の底から一緒に遊んだりしてて楽しいと思える友達を得られたのが、他でもないサニーやスター、ルナのお陰だからだ。

 

 お金などでは決して測れず、仮に無理やり測ったとしたらとてつもない額になりそうな『幸せ』。これを、惜しげもなく分け与えてくれる3人に、プレゼントをもらう順番云々程度でどうして不満など抱けようか。

 

「大丈夫だよ。順番なんて僕には関係ない、もらえるってだけで幸せで嬉しいもの。何なら、もう毎日もらってるようなものだしさ」

「ふふっ、ありがとう……よーし! もっと気合いを入れて、サニーやルナととびきり豪華なプレゼント用意しないとね!」

 

 なお、心の中で抱いていた感情の大きさ自体は相当小さかったようで、数秒もしない内にスターの纏う雰囲気も声色も両方元に戻っている。僕の羽の光がいい方向に作用してくれたのもあるはずだけど、ほっとひと安心だ。

 

 この様子だと、僕が何も言わなくたってすぐに雰囲気は戻っていただろう。

 サニーやチルノやピース、元気ハツラツ3人組に1歩劣る程度には元気いっぱいなスター、僕たち家族や友達の身に何か嫌なことが起きたみたいなレベルでもない限り、そう易々と落ち込むことはないし。

 

 でもまあ、改めてこう意思表示をしておけば、スターもふと思い出した時に安心できるはずだから、やっぱり言っておいてよかったかな。

 

「さてと、スター。僕はこれから向こうのお掃除に行かなきゃなんだけど……」

「一緒に行くわ! やることやって暇だったし、まだまだお話しし足りないもの!」

「だよね。こんなにニコニコで幸せそうなスターを見て、僕も同じことを考えてたからちょうどよかった。えっと、疲れとかは大丈夫?」

「ええ! メノの羽の光も相まって、元気いっぱいよー!」

 

 そして、ある程度の時間話し込んだ後はスターも一緒に、レミリアの部屋があるエリアの掃除へと向かうことになった。他のメイド妖精さんたちも居るけど、スターが一緒に来て手伝ってくれるなら百人力。

 

 だけど、すれ違う妖精さんの大半がモリオンを経由した例のお知らせにより、結構浮わついている。

 そのお陰か、時折こっちにニコニコしながら近寄ってきては、「しろちゃんとスターちゃん、一緒にあそぼ!」といった感じで、グイグイ引っ張られたりもするのだ。

 

 このことを考えたら、そう時間も経たない内に僕もスターもその気に当てられて、お手伝いどころではなくなるかもしれない。

 

 で、何やかんやで様子を見に来た咲夜が大いに盛り上がり、遊び倒す僕やスターを含むメイド妖精軍団を見て、呆れてからお説教するみたいな流れになるのもあり得る話だろう。

 

(それはそれで、僕もメイド妖精さんたちの家族だと強く感じられるだろうけど……うん。やっぱり怒られるのはあれかな)

 

 僕がお説教されるだけならまだしも、それよりもスターや仲良しな妖精さんが怒られて、しょんぼりしたり泣く光景とかを見る方が遥かに嫌だ。勿論、その場合はこっちに原因がある訳であり、だったら真面目にお仕事やっとけと言う話である。

 

 メイド妖精さんたちならともかくとして、スターがお説教程度で泣くところなんて想像つかないけど、だからこそ誘惑に負けずに適度に頑張るのがいい。

 

 もしくは、誘惑に負けて皆と遊び倒した分だけ、その後必死にお仕事頑張ることで釣り合いを取るか。 でもまあ、それをやったら間違いなく無理をすることになるし、お仕事はこなせても別の意味でレミリアとかから怒られそうだ。

 

 となると、やっぱり誘惑に負けずに適度に頑張るのが1番だ。僕自身の自由意思ではどうにも抑えられず、近くに居れば否が応でも目に入る僕の羽の光に関しては、皆に頑張ってもらうしかないのが正直心配だけど。

 

「さて、お仕事始めよ……べぶっ!?」

「きゃははは! どうよ、あたいのパイ投げの腕は。伊達にイタズラやってきてないぜ!」

「あー……いつの間にか、ピースもこの騒ぎに混じってるし。こりゃ、仕事終わらせるの大変そうだわー」

 

 こんな風に思考を巡らせながら、言われた場所に来てさて仕事をといったところで、僕とスターの顔と身体に生クリームマシマシのパイが不意打ちでとてつもない数飛んできたために、一瞬で巡らせていた思考がリセットされることとなったのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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