幸せ四妖精   作:松雨

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夜に集う妖精軍団

「んぅぅ……あっ、僕の部屋……」

 

 1時間の休憩が経っても、結局僕が目を覚ますことはなかったらしい。気づいた時には、見慣れた自室のベッドの上でメイド服のまま、横になっていたから。

 

 カーテンの隙間から入ってくる光は、目にした人の気分を落ち着かせる青色で、開けて上を見てみれば綺麗なお月様が雲の隙間からちょこんと、顔を覗かせている。

 

 いつも寝てる時間と同じかそれ以上長く、僕はぐっすりと眠っていたようだ。何時間寝ていたのかは分からないけど、多分半日くらいかな。

 

 ぐっすりと熟睡できたお陰か、寝起き時特有のだるさこそあれど、身体に溜まっていた疲れは殆んど消え去っている感覚がある。

 

 そう言えば、僕ほどじゃなくてもかなり疲れていたスターは、今どうしてるんだろう。多分、お昼寝くらいはしたと思うけど。

 

(すんすん……匂う、かも?)

 

 それでまあ、仕事でついた埃とかあの出来事でかいた汗とかそのままで寝ちゃってたから、着ているメイド服がちょっぴり汗臭い気がするし、身体もベトベトで気持ちが悪い。

 ベッドシーツや枕の方は、昨日ちゃんと綺麗にしておいた甲斐もあってか、いい匂いでも臭い訳でもない。

 

 ただまあ、汚れてない証明にはならないから全部まとめて能力で綺麗にしちゃおう。感覚的に、これくらいなら約束を破ることにはならないし、サニーたちもきっと分かってくれるから。

 

(よし、まだまだ余裕たっぷり……さて、どうしたものか)

 

 それで、能力使って全部綺麗にした後に服はこのままでいいかなとも考えたけど、これは紅魔館での仕事着。つまりは借り物。

 

 僕の家にあるのは仕方のない理由があるからなので、側に畳まれてた僕の私服に着替えておこう。返すのは、明日の朝でも大丈夫かな。

 

「あっ、ルナ! メノが起きたぞ!」

「いやまあ、見れば分かるって……うん、疲れはほぼ抜けてそう」

「きゃはは! 寝癖直すの忘れてるぞ、メノ! あたいが直してあげようか?」

「チルノちゃんもそうだけど……ちょっと、クラピちゃん! メノちゃん寝起きなんだし、少しは静かにしてあげて」

「それは確かにそうなんだけど、まずは私たちが勢揃いな理由を説明してあげるのが先なんじゃない?」

「「あー……」」

 

 なんて考えながら着替えを終え、さてリビングにでも行くかと自室の扉を開けた瞬間、鮮明に聞こえてきた声で思考が乱れ、着いた瞬間に見えた光景が僕を完全にフリーズさせることとなる。

 

 誰が、寝て起きたら妖精軍団の皆が僕の家に勢揃いで、なおかつ全員旅行にでも行くのかと言わんばかりの荷物を持ってきてると、予想ができるだろうか。いや、レミリアみたいな能力でもない限りはできない。

 

 僕が部屋でぐっすり眠っている間、一体何があったのだろう。何か嬉しくて、楽しい出来事があったのは分かるけど。

 

「ビックリさせちゃってごめん、メノ。1から説明するから聞いて欲しい」

「えっと……うん」

 

 すると、何故かサニーやチルノの期待の眼差しを受けながら近寄ってきたルナが、こう言って僕に事情を説明し始めてくれたので、ひとまず聞く姿勢を取る。

 

(そっか……皆、サニーのお誘いに乗ってくれたんだ)

 

 イタズラのつもりなのか、時折ちょっかいを出してくるリリーやラルバの相手をしながらルナの話を聞いていた僕は、確かに皆なら盛り上がるだろうなと思った。

 盛り上がるがあまり、前日の夜から僕の家でお泊まり会を開催しようとノリでなるのも、何らおかしな話ではないとも考えた。

 

 妖精大庭園を拠点とした、お泊まりで行う理想郷の大探検。自分たちにとって未知の宝庫を、しばらく味わえてなかったワクワクを、そこでなら間違いなく味わえるのだから。

 

(そんなの、返事は1つしかないよ……ルナ!)

 

 それに、レミリアにお願いして取った最短1週間のお休みをどう使おうか考えていたところだったし、何より僕が参加することでルナを含めた皆が幸せになってくれるのなら、お安いご用である。

 

 まず絶対にあり得ない仮定だけど、このお誘いに気分が乗らなかったとしても、それを抑えてでも行くと言っていた。間違いなく、皆の笑顔と幸せにはそうするだけの理由があるというか、理由しかないと言うべきかな。

 

「ルナ! そんな話を聞いて、僕が行かないって言う訳ないよ!」

「わわっ、メノ? 思いの外テンション高い」

「おー、寝起きとは思えない元気だな! いい夢でも見れたのかな?」

「多分ね。それにしても、やっぱり返答は予想してた通りだったわー」

「そうだね、スターちゃん。本当に、私たちのお願いなら何でも聞いてくれる……ありがとう、メノちゃん」

「うん! えへへ……大丈夫。大ちゃん、僕は幸せだよ!」

 

 なんてことを考えながら返事を返すと、疲れなんてないと言わんばかりに元気なスターも、僕に説明をしてくれたルナも、他の皆も凄く喜んでくれた。

 そのお陰で、寝起きの気だるさも吹き飛んで、今すぐにでも行ったって構わないくらいに僕の気分は高ぶっている。

 

 しかし、サニーとリリーの会話を聞く限り、僕に気を使ってくれてるが故に今すぐ行くなんて雰囲気にはならなさそうなので、そこについては考えなかったことにしよう。

 

 それよりも、僕の家で始められてる大にぎわいのお泊まり会、こっちを楽しむ方に思考を向けていくのが断然いい。

 

「さてと、皆の気分が盛り上がっているところで……ここは、メノも含めた皆で、真夜中の幻想郷探検といかない? 勿論、嫌なら嫌で構わないよ」

 

 で、どこからか櫛を持ってきてたピースに寝癖が爆発してる髪の毛を梳かされる、何とも言えない心地よさに浸っていた刹那、ラルバが背伸びをしながら僕たちに向けてこんな提案をしてきた。

 

 人里は例外ではあるけど、真夜中の幻想郷は昼間とは違って人や妖精を襲うような妖怪さんが多くなる時間だから、どの程度にしろ危険な場所が増える。

 

(ラルバ、きっとその辺も考えてるんだよね)

 

 しかし、レミリアや文さんと普通に戦える強さを持ってて、誰彼構わず襲ってくる妖怪さんは居ないし、ここに居る妖精軍団の皆は弱めな妖怪さんなら普通に撃退できるだけの、強い妖精さんばかり。

 

 何より、僕の中にはいつも僕を守ってくれている、霊夢や魔理沙お墨付きのウル(守護霊さん)が居る。

 戦ってるところは見たことないけど、常々「いざという時なら、わたしは戦えるよ!」って自慢してくるくらいだし、きっと皆は安心できる。

 

 だから、皆と一緒に僕は行くつもりだ。まあ、行かないなんて選択肢は、最初からなかったけども。

 

「真夜中の幻想郷探検かぁ。皆が行くなら僕も行くよ……えっと、スターは何度もしたことあったんだっけ?」

「そうよー。でも、お昼頃から理想郷探検もする訳だし、あんまり遠くには行けないわ」

「まあ、あくまでもこれは前座。メノは寝たばかりで眠くない、私たちは盛り上がってるせいで眠くない、そうなると暇な時間が増えるでしょ?」

「うん、確かに――」

「じゃあ、わたしが皆の守護騎士さま役だねっ!」

「「うわっ!?」」

 

 なんて、僕が考えていたからだろうか。両手を腰に当てて、えっへんと自慢気な態度を取りながら、ウルが実体化して現れる。当然、僕たちは全員ビックリした。

 

 ルナに至っては、ビックリしたはずみで持ってたコップの水を自分の服にぶちまけてしまう。ただ、当の本人は「あー……まあ、水だしいいや」と、量が多くなかったこともあってかそんなに気にしていなさそう。

 

 まあ、ウルの実体化は僕が頼んだりしない限りはランダムだし、何度やられても慣れないのも仕方ないかな。

 

(幽霊じゃなかった頃から、こういう性格の女の子だったのかな。だとしたら、お母さんとかお父さんに怒られてそう)

 

 ある時を境に時折見られるようになった、実体化の時に机の上へと立つ行為。サニーたちに試しにやって、驚いてくれたことに味を占めたからと聞いてるけど、まるで妖精さんみたいだと常々思う。

 

 確かに、マナー的には褒められたものではないものの、僕たちの家かつ限定的な状況での行為だし、せめてもの気遣いなのかやった後にはきちんと拭いてくれるから、僕としても言うことはない。

 

「ウルが守ってくれるのね! それならとっても頼もしいわ!」

「えっへん! メノちゃんの家族はわたしの家族、任せてね!」

「頼りにしてるよ、ウル」

「ありがとう、ルナちゃん! それじゃ、幻想郷プチ探検しゅっぱーつ!!」

「「「おー!!」」」

 

 この場合、仮に言うとしたって今から皆で楽しく真夜中の幻想郷探検をしようという、最高に盛り上がる時を選ぶなんて、僕も皆も絶対にしないだろう。

 

 この場の誰かを傷つけたり、悲しませるようなことをしたのであればまだしも、ウルのこの行為で傷ついた家族や友達は、誰も居ないのだから。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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