幸せ四妖精   作:松雨

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風と春に満ちた森

 大風の大森林。翡翠の妖精さんからの説明、目的地に至るまでの道のりや、リリーのこれまでにない程興奮する様子から、色々な意味で凄い場所だというのは理解できていた。いや、できていたはずだった。

 

 しかし、高ぶるリリーに羽の根元を掴まれ持ってかれたサニーを皆と追いかけ、少し急ぎ目にトンネルを抜けた僕が見た光景は、つい先程までの凄さを理解できていたというのが、自身の完全な思い上がりであると思い知らせてきたのである。

 

「ありゃ。サニー、リリーに置いてかれたの?」

「ええ、置いてかれちゃったわ……それにしても、何この群生する大樹……いや、もはやこれって木なの?」

「私たちが見慣れてる幻想郷の木が、まるで苗木。もしかしたら、それ以下かもしれない」

「動物とか妖精は割と普通サイズなんだけど……異世界って魔境なのかしらねー。それとも、理想郷が特別だから? 何にせよ、探検しがいがあり過ぎて1ヵ月くらいは行けそうだわ」

「うん、確かに。僕もスターと同じこと思ってる」

 

 パッと見そびえ立つ大樹の多くは余裕で100m超え、異世界産も幻想郷産の他の動植物も大半は通常サイズではあるものの数が多い。飛び交い走り回る大ちゃん似の妖精さんの数については、もはや説明は不要。

 

 風の力はもとより、空間内部に満ちている生命力がトンネルよりも濃密、空気が澄んでいて涼しいのでとても心地よい。

 ここで暮らせと言われれば、余程属性的に相性が悪いとか既に快適な家を見つけているとかでない限り、普通に了承しそうだと思える。

 

 勿論、僕の場合は大好きな家族と一緒に暮らしているあの妖精大樹があるので、サニーかスターかルナがここに引っ越しをしようと提案でもしてこない限りは、絶対に引っ越すことはないだろう。

 

「大ちゃん、その風ってここに来てからずっと?」

「うん。嫌な感じはしないんだけど、身体が軽すぎてバランスがちょっと取りづらいの。すぐに慣れると思うけどね」

「おぉ……遂に、大ちゃんも強化形態発現だな!」

「この様子だと、今のリリー以上に強くなってると見ていい。普通の状態でも、リリーより強いし」

 

 属性的な相性と言えば、ここに入ってから大ちゃんの発する力がいつもより相当強力になっていて、その影響か身体の周囲で空気が少し渦巻いている。

 

 しかも、大ちゃんから影響されて渦巻く空気には、湿気がとても多く含まれているらしい。手を入れてみたらじめじめしていて、遠くから見た時に白みがかっているように見えているのだ。

 

 風に絶対的な適性を持つのみならず、水にも相応の高い適性を持っていたと判明した大ちゃん。戸惑いつつも、チルノやラルバに褒められて嬉しそうにする様子は、とっても可愛らしくて微笑ましい。

 

「あわわっ……!」

「ふっ……大ちゃん、大丈夫? 生粋のドジっ娘な私とは違うから、すぐに慣れるよ」

「うん、ありがとう……ルナちゃん」

 

 ただ、これは突然の強化形態覚醒である故に仕方ないんだろうけど、強化の幅が大きいのと自分で上手く調節できないせいで、ルナみたくドジっ娘要素が顔を覗かせている。

 

 滑って転びそうになったりするのは勿論、歩いてる時に突然跳ねて勢いそのままにルナにダイブしたり、泥や土といった汚れを巻き上げて飛ばしてしまうなんていったこともあるのだ。

 

 でも、これに関してはチルノやピースみたく、強化状態に慣れさえすれば普通に解決するだろうし、心配は要らない。

 

 ちなみに、今のリリーのように高ぶり過ぎて興奮するみたいな感じには、見たところなっていないようだ。多分、思うように身体が動いてくれないもどかしさとかの方に、今は気分が持ってかれているからかもしれない。

 

「あれ? なかま? ちょっとちがう?」

「ほんとだ! そっくりだから、なかまだとおもった!」

「ねえねえ、どこからきたの? おそと?」

「うん、そうだよ。幻想郷って言うの」

「へぇ、そうなんだ! わたしも行ける?」

「うーん、今は大探検中だし……メノちゃん、どう?」

「大ちゃんの言う通り、今は駄目。でも、終わった後なら大丈夫だよ」

「やったー!!」

 

 なお、そんな感じで強化形態が少しずつ目立ち始めると、チルノや高ぶるリリーの方に集まっていた妖精さんたちも、勢いに比例して大ちゃんの方に集まってくる。

 

 パッと周囲を見渡した限りでは、今の大ちゃんはもとよりいつもの大ちゃんと比べても、同じかそれ以上に強い妖精さんは居ない。勿論、サニーたちやチルノ一行は例外だ。

 

 それでいて、適性が一緒で姿形がそっくりな外部の妖精ともなれば、大風の大森林とその周辺しか知らないであろう風の妖精さんたちにとって、興味を引く対象となってもおかしくはない。

 

「リリーちゃん、まだまだ元気そうだね。サニーちゃん」

「そうね! だけど、その分だけ反動が凄そうだわ!」

「うん。それに、今日の夜誰よりも先にぐっすり眠りそう。いくら今のリリーとはいえ、無限に動ける訳じゃないから」

 

 一方で、風の力のみならず春の気配にも満ちているこの大森林。声が聞こえる方向に視線を向けてみれば、相変わらずリリーの心には燃料が供給され続けているのだと、そう理解できる。

 

 空中を縦横無尽に駆け回り、花が咲いていない大樹やら他の植物を見つけては、何度も聞いたことのある言葉をかけて綺麗で元気な花を咲かせる。

 

 それのみならず、見るからに元気がなさそうなチューリップやツツジなどといった春の花たち、そこから生まれたであろう妖精さんに「大丈夫? 私が春の元気を分けてあげますよー!」と、元気を分け与えて復活させることまでやってのけた。

 

 やろうと思えば、僕の能力でも同じことはできる。だけど、僕の場合は周りの自然たちから少しずつ生命力をもらってやるのに対し、リリーは誰の力も借りず自分自身に宿る『元気』だけで、何度も同じことができる。

 

 発動条件が中々限定的というのを考えても、相当強力な能力であると言えよう。

 

「あっ。サニー、他の皆も……私1人だけ興奮しちゃっててごめんね」

 

 そんなこんなで、妖精軍団の皆と大森林の景色を楽しみ、珍しいものがあったらその近くに行ったり、集まってくる妖精さんの相手をしながら歩き回ること恐らく数十分。やっとと言う程ではないけれど、比較的落ち着きを取り戻したリリーが木の上から降りてきて、僕たちに対してこう謝ってくる。

 

 しかし、思い切り羽の根元を掴まれ、そこそこ雑に引きずられていったサニーはともかく、僕や他の皆は特段迷惑をかけられた感覚はない。

 一応、簡単に予定を立ててはいたけれど、完全に予定通り進むなんて僕も含めて誰も全く思っちゃいないのだ。

 

 何だったら、1~2時間もすれば立てた予定なんて翡翠の妖精さん以外の頭から綺麗さっぱり消え去り、その時その時の気分であっちへ行ったりこっちへ行ったりするようになるはず。いや、必ずなる。

 

「気にしなくていいわ、リリー! ただ、羽の根元を掴んで引きずるのはちょっと……いや、かなり勘弁して欲しいけど! 普通に痛いし」

「えっ。私、そんなことしてたの……?」

「うん、結構凄かった。ちなみに、あの時のサニー凄く面白い顔してたわ。文のカメラがあったら撮って、リリーに見せてあげたかったねー」

「ねえ、スター。私、そんなに面白い顔してた?」

「ええ。思わず、ちょっと笑いそうになったわー」

「うん、間違いなくしてた」

「僕も、スターとルナと同じなの。ごめんね」

「メノが笑いそうなくらいの顔かぁ……私も見たかったわ!」

 

 なんて思ってたけど、サニーたちのこの様子を見ていれば既に予定は頭から消え去っている、もしくは今から10分もしない内にほぼ消え去るような気がしてならない。

 ただまあ、それで皆が困ることになるなら別だけど、楽しくて幸せな思いができそうというかできてるから、僕は別に構わない。いや、むしろ嬉しいし幸せであると断言しよう。

 

(えへへ。良かったね、翡翠の妖精さん)

 

 なお、この大森林を提案してくれた翡翠の妖精さんも僕やサニーたち、チルノ一行の見せる様子にとても安心したのか、その表情もふわふわのウールみたいにやわらかくて、お日さまのようにとっても暖かいものであった。  

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 大森林に来てからずっと興奮しっぱなしだったリリーも落ち着き、集まってきてた風の妖精さんたちも飽きたのか各々散らばっていった頃。

 道中、サニーが何気なく見つけた超大樹の周りに僕たちは一旦集まると、各々が準備のためにチームを作って辺りに散らばっていた。

 

 妖精大庭園の湖の中心にそびえ立つ大樹の家で、快適にぬくぬくと美味しい食べ物を食べ、心地よく広いお風呂に入り、遊んで寝るのも確かにいい。

 でも、沢山の食材とかだって持ってきてるんだし、初日くらいは大森林を満喫する寝泊まりの仕方をしないかと、大ちゃんが提案してきたからである。

 

 快適な家などではなく、ちょっぴり不便な自然の中で寝泊まりすることに、1番慣れていないのは前世は人間だった僕。というか、全く経験がない。

 

 そのことを知っているからなのか、提案してきた後の大ちゃんが僕の方をチラチラ見ててかなり心配そうにしてたけど、その程度ならと迷いなく受け入れる選択を取った。

 

(えへへっ。こんなので喜んでくれるなら僕、いくらでもやれるよ。皆)

 

 とっても嬉しそうに、僕の手を取ってありがとうと言う大ちゃんに、他の皆。お礼はするよと言ってくれてたけど、僕からすれば皆が幸せそうにしているのを見せてくれてるだけで、十分過ぎるお礼になっている。

 

 なので、お礼はしなくても大丈夫だって言おうとした。したがっているのに断って、心の中にもやもやをかけるのは失礼だとも思ったから、言わないでおいたけれど。

 

「えっと……何かその、荷物持ちなんてやらせちゃってごめんね。本当、今更だけど」

「はい、大丈夫ですよ。お気になさらず、存分に大探検をお楽しみくださいね」

「そっか……うん、分かった」

「ありがとう! お礼に、さっき見つけた四つ葉のクローバーあげます!」

「ふふ。ありがたく受け取りますね、リリー様」

 

 ちなみに、大探検を存分に楽しむために僕たちが持ってきていた荷物は、翡翠の妖精さんが全て運んでくれている。

 

 といっても、直接持ったり背負ったりしているのではなく、理想郷に元からある不思議な空間に魔法陣を経由して収納しているようで、見た目は完全に手ぶらだ。

 

 曰く、重たかったりかさばったりとかもないので、直接的な負担は皆無。現状あるとすれば精々、出し入れに使う魔法陣を展開するのに魔力が多少必要なことくらいらしい。

 

 勿論、それは翡翠の妖精さんにとっての多少であり、僕たち妖精からしてみれば消費魔力もさることながら、必要な技術も高過ぎる訳だけど。

 

「それにしても、まさかカレーが外の世界のキャンプで定番の料理だったなんて、全然知らなかったわ!」

「現状、元々外の世界で男の子だったメノか、そのメノと一緒に居たウルしか知らないことだったもんねー。無理ないわ」

「確かに! それはそうと……カレーやるならお野菜はともかく、お肉なんかちょっとしかないけど、いいのかしら?」

「持ってこうとしたんだけど、ちょうど切らしてたからねー。まあ、入ってさえいればどうにかなるから大丈夫よ。サニー」

「そっか。とにかく、3人でカレー作り頑張りましょ!」

「うん、そうだね。お肉があろうとなかろうと、やることは変わらないし」

 

 そして、準備といっても内容によってはすぐに終わり、他にやることがなければ退屈な待ち時間が発生する。

 

 簡易テーブルなどのキャンプ用品の配置を考えて置いたり、掃除をしたりするという相対的に大分楽な役割を任されていた僕とリリーは、まさにほぼその状態なのだ。

 

 その一方で、夕ごはん担当を買って出たサニーたちは作る料理がカレーだからなのか、準備なども含めて時間が相当かかっていた。あまり料理に慣れていないサニーが、主に担当して作っているから。

 

 ちなみにだけど、ついさっき僕とリリーがほぼ暇と称したのは、カレーの美味しそうな匂いに釣られてやってきた、風の妖精さんたちや森の可愛い動物さんたちの注意を逸らし、イタズラされないように気を配る必要が少し出てきたから。

 

 でも、皆聞き分けがいい妖精さんや動物さんばかりだからなのか、翡翠の妖精さんが僕たちの側についているお陰なのか、イタズラやつまみ食いはダメだよと軽く言うだけで聞いてもらえたから、問題はなかった。

 

 言葉が通じないはずの動物さんたちが、僕たちの言葉が通じていたような振る舞いをしてた点は実に不思議だけど、まあ深く考えないことにしよう。

 

「ふんふふ~ん。妖精軍団の皆もそうだけど、特に私のカレーでスターにルナ、メノの舌を唸らせてやるわ!」

「ふふっ。サニー、私とルナのサポートも入ってるのを忘れないで」

「分かってるって! ただ、メノはお料理作りがとっても上手だから、ちょっぴり不安ではあるかも!」

「まあねー。でも、ほら。あの表情と羽を見れば、絶対に大丈夫だって思えない?」

「私も同意見。だから、そんなに気張らず気楽にいこう。サニー」

「……そうね!」

 

 こんな感じで、端からみたらサボってるようにも見える程度には、のんびりぐうたらしている僕とリリーだけども、勿論最初にお手伝いを申し出はした。各々抱く思いは違うけれど、任せっぱなしにして自分たちだけぐうたらする気まずさだけは、共通していたから。

 

 だけど、スターとルナは僕の頭をよしよししてくれた後に、「お手伝いは大丈夫。2人とも、心配は要らない」「のんびり遊びながら待っててもいいよー」と声をかけてきて、同時にリリーの方も見て微笑んでくれた。

 僕にだけ頭を撫でてくれたのは、こういう時に気にし過ぎるから、少しでも安心して欲しいと気遣ったからだろう。現に、これのお陰で心の中にあった罪悪感が全部消えている。

 

「スターとルナもそうだけど、サニーが凄く楽しそうで良かった! えへへっ」

「メノ、幸せそう! それにしても、カレー作り始める前の奇行はなんのつもりだったんだろう?」

「うーん、ルナみたいなドジ……かな?」

「まあ、そうなるよねー」

 

 そして、サニーは「美味しくしてあげるから、安心して任せなさい!」と、大陽の如く笑顔を見せつつ自分の胸を右手でドンと叩いた後、すぐにそう言ってくれた。

 

 スターのように、僕への気遣いのためにやってくれた行為ではあるんだろうけど、卵を持ってた方の手でそれをやったものだから、服がまあ凄いことになってたっけ。

 

 勿論、僕がすぐに能力で綺麗にしてあげたので、服とかの汚れはもうない。実質、お風呂に入って着替えた後と同じになっている。

 

 なお、事情はどうあれやったこと自体は普通ではなく、言ってしまえばルナがやりそうなドジ。見ていた妖精軍団の皆に笑われて、顔を赤くしちゃうくらいの恥ずかしい思いをしたサニーだけど、僕の能力に記憶をどうこうする力なんてないから、我慢してね。

 

(……サニー)

 

 それに、そんな力が備わってなくて正直よかったと僕は思っている。こうして今、大好きな家族や友達が僕にとっても暖かくて優しい理由が、能力のせいだって思わずに済んでいるから。

 

「おぉ、カレーを作ってたんだな! よく考えたら、まあまあ久しぶりじゃない?」

「わぁ……チルノちゃん、何だかお腹が空いてきたよ」

「カレーっていうんだ……! だいねえ(大ちゃん)、わたしもたべてみたい!」

「うん。じゃあ、あそこの皆にお願いしてみよっか」

「わかった!」

 

 長く考えたら羽の色が変わりそうな程に、僕の頭の中で嫌な想像が駆け巡っていたその刹那、相変わらず楽しそうな4人(チルノたち)と、翡翠の妖精さんが案内役をお願いした風の妖精さんらしき声が、耳に入ってくる。

 

 僕たちと同じの、割り振られた仕事が楽ですぐに終わった組であり、暇を潰すためのプチ探検をしに行ってたのだけど、もう戻ってきたらしい。辺りに漂い始めたカレーの食欲を誘う匂いに、我慢しづらくなってきたみたいだ。

 

(ふふっ、分かるよ。妖精さん)

 

 何度もわざわざ言うことでもないけど、幻想郷の妖精さんは普通の食事を取らずとも問題なく生きれる。理想郷生まれの妖精さんも、僕が主だからかその点に大方差異はない。

 

 しかし、個人差こそあれ1つの娯楽としてはかなり優秀で、疲労や魔力回復を早めるという面でも睡眠や適正な自然環境には劣るものの、有用ではある。

 

 でなければ、何か食べたいという欲求が芽生えるはずなどない訳だし。

 

「おねがい! かんせいしたら、わたしにもそのかれーをひとくちたべさせて!」

「カレーを? まあ、結構沢山作ってるしそのくらいなら……皆はどう? 少し分けてあげてもいい?」

「「「勿論!」」」

「だって。よかったわね!」

「やったぁ!」

 

 なお、元々おかわり前提で沢山作っているのもあってか、案内役の風妖精さんのカレーが食べたいというお願いは、サニーを含む全員が叶えてあげようと決めている。

 

 勿論、僕も反対しようなんて考えは全くないので、サニーたちと一緒に風妖精さんのお願いに対して、笑顔で頷いたのだった。




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