幸せ四妖精   作:松雨

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サニーの手作りカレー

「かんせーい! ふぅ……慣れない料理だったけど、何とかこなせたわ!」

「「「おぉ……」」」

 

 サニーが主として、スターやルナと一緒に皆の夕ごはんのためにお鍋いっぱいのカレーを作り始めて、大体1時間半が経った頃。

 より一層強くなった食欲をそそる匂いとサニーの元気いっぱいなその声が、特製手作りカレーの完成を知らせてきた。

 

 待ち時間としてはそこそこ長かったけど、リリーと一緒にお話ししたり、チルノたち4人や集まってきてた風妖精さん集団とと気の向くままに遊んだりしてたから、体感的には長いどころかむしろ短い。

 

 夕ごはんを食べるにはちょうどいい時間にもなってるし、これくらいの長さの待ち時間でよかったかも。

 

「わぁ……凄いよ、サニー! カレーもそうだけど、白ごはんの方も殆んど1人でやったんだっけ」

「ええ、スターにコツとかは教わって、ルナにも見守られながらね。でもまあ、今日こんなに上手くできたのはたまたまよ! 次も同じようにやってって言われても、絶対に無理だわ!」

「ふふっ、大丈夫。誰もそんなこと言わないし、言うつもりも絶対にないよ。ねっ、ルナ」

「うん。妖精にも得意不得意があるから、当然の話」

 

 そして、ほぼ同時に炊き上がったほかほか白米の方も、見るからに美味しそうだ。慣れないながらも、僕や他の皆に美味しく食べて欲しいというサニーの思いが、ここまで引き上げたのだろう。

 

(サニー、大丈夫。心配しないで)

 

 本人がはっきりと言うように、今日こんなにも上手く行ったのは、普段僕やスターと比べて料理をあまりしないことを考えれば、偶然と言えるかもしれない。もう1度やったら、失敗してべちゃべちゃごはんになったり、カサカサごはんになる可能性はそこそこ高いだろう。

 

 同時に、偶然であろうとできたというのであれば、練習さえすればいつか必ず狙って成功させれるようになるという、純然たる事実が示された。

 

 だから、サニーはその辺をあまり過剰に考える必要はない。できるようになるまで沢山の失敗を重ねていくことなんて当たり前、というか料理は食べる側もそうだけど、作って振る舞う側も楽しんでこそなのだ。

 

 何より、料理作りが上手くいかなかったからといって、その相手を理不尽に強く責めるのは、道徳的にも精神的にも極めてよろしくない。

 仮に何か指摘するにしたって、口に出す言葉が否定的になり過ぎれば、それは心に深く刺さる鋭いナイフとなり得るのだから。

 

 例として、妖精として生まれ変わるまでの僕が置かれていた状況が、まさにそれである。

 

「さてと、召し上がれ! 出来ればでいいけど、感想を聞かせて欲しいわ!」

 

 すると、事前に用意していた紙のお皿に、僕たちとお話をしたりしながらごはんとカレーをよそったサニーが、1番最初にそれをニコニコで僕に差し出してきた。

 

 スターにちょくちょくサポートしてもらいながら作っている時、特に食べてもらいたい相手に僕たち家族を挙げていたサニーにとって、僕とスターとルナの3人は同等なのだ。

 

 1年にも満たない期間しか居ないにも関わらず、100年単位で家族だったスターやルナと同等というのなら、十分過ぎる程に嬉しいし幸せである。

 

 なのに、その上こうして何の迷いもなく1番最初に差し出してくれるなんて、3人ともすぐにでも食べたいだろうに。

 

「えっ? サニー、僕が最初でいいの……?」

「勿論よ! だって、スターとルナより私の手料理を食べた回数少ないでしょ? それに、2人に先に食べさせる約束とかもしてないからね」

「大丈夫、気にしないで。ほんの少し待つくらい、大したことないし」

「そうそう。こんな小さなことであーだこーだ言う私とルナじゃないし、ましてや思う私とルナじゃないわ」

「……ありがと。サニー、スター、ルナ」

 

 勿論、そういうことなら遠慮はしない。完全に厚意で順番を譲ってくれてるのに遠慮なんかすれば逆に失礼だし、何なら水掛け論にもなりかねない訳だし。

 

(わぁ……美味しい!)

 

 ということで、渡されたスプーンでカレーをすくい、数秒匂いを堪能してから口に入れたその瞬間、僕の身体を暖かさが駆け巡った。カレー自身の持つ熱によるものとは違う、いつまでも味わっていたいと思えるようなものだ。

 

 で、じゃがいもに人参にお肉といった定番ものから、ブロッコリーにズッキーニなどの入れられた各種具材も、適度な柔らかさと食感で相当美味しい。

 

 ちなみに、僕たちの中に辛いものが得意な妖精さんが居ないのも相まり、辛さは甘口。そうでなければ、皆の中でも苦手な方な僕がこんなにもすいすいと、口に入れて味わうことなんてできないもの。

 

「サニー。このカレー、僕大好きになったよ」

「本当? えへへっ。これで、メノの舌は唸らせたわね!」

 

 純粋な料理の味は、確かにスターには劣るだろう。霊夢や妖夢、咲夜といった最高の料理人組と比較しても、それは同じ。

 

 だけど、このカレーに込められた思いの強さは、間違いなく今挙げた皆に勝るとも劣らない。つまり、挙げた4人の料理と同等なくらいに、また食べたくなる凄さなのだ。

 

「それでね――」

「メノ、もう大丈夫よ! あなたがとっても幸せで、嬉しい気分になれたってことは分かったから!」

「わっ……ごめんね。サニー、もし嫌じゃなかったら、家でもたまにでいいから作って欲しいな」

「ええ! ふふっ……やっぱり、スターの言った通りだったわ!」

「でしょ? それにしても、迫真の感想だったねー。ラルバなんか、さっきからずっとお腹がなってるし」

「スター、そんなにじっくり聞かないでよ。恥ずかしいんだけど……」

「まあまあ。すぐに食べられるから、ゆっくり待ちましょ」

 

 それで、時折話が脱線しつつも僕がサニーに止められるまで、カレーの感想を言い続けていたからか、他の皆も早く食べたいと言わんばかりの視線をカレーの鍋に向けている。

 

 案内役の風妖精さんたちの視線に加えて、ルナの「ちょっとお腹空いてきた……」や、チルノの「あたいには大盛りな!」を筆頭とした大好きな皆の言葉は、サニーのカレーに寄せられる期待が大きくなってきた現れ。

 

 僕の反応が嬉しくて羽をパタパタ、昼間の太陽の如くニコニコしていたサニーはちょっぴり緊張した様子を見せたけれど、それも一瞬。すぐにまた同等か、もしくはそれ以上に嬉しさで満たされた。

 

 不安と緊張が消し飛び、言外に私なら大丈夫よと宣言したかのようなその様子に、僕の脱線かつ暴走気味な演説的感想も役に立ったのだと感じられて、とっても幸せだ。

 

「さて……メノの舌も唸らせた私のカレーで、夕ごはんにするわよー!」

 

 見守られながらもあっという間に1杯平らげ、一旦お皿とスプーンを机に置いたところで、サニーの相変わらずの元気なかけ声が響くと同時、賑やかな妖精たちの夕食会が始まった。

 

(えへへっ。サニー、本当によかったね)

 

 案の定と言うべきか、サニーが僕やスターと話しながらよそったカレーのお皿を我先にと取り、わくわくしながら食べた皆の反応は、この上なく好評だった。

 普段あまり料理をせず、得意でもなかったサニーが作ったカレーという要素が、いい意味で作用したのだろう。

 

 後は、持ってきた材料が良かったのは勿論のこと、作るのに使った湧き水がこの上なく澄んでいて、翡翠の妖精さんが「そのまま飲んでも問題ありません」と太鼓判を押す程だったのが、大きかったに違いない。

 

「はふっ、はふっ……美味しい、けど熱いぃ……」

「もう、慌てて食べるからだよ。カレーは逃げないんだから、ゆっくり冷ましながら食べよう。チルノちゃん」

「きゃはは、サニーもやるじゃん! メノを唸らせただけあるな!」

「クラピちゃんは、普通に大丈夫そうだね」

「おうよ! 何と言っても、あたいは地獄の妖精なんだから!」

 

 スターのような優れた料理の腕があろうと、今のサニーみたいに沢山の思いが料理に込められていようと、使った水がダメな水なら味や匂いもダメになるし、そのせいで体調が悪くなる可能性もある。

 

 特に、今はここに居ない霊夢や魔理沙や咲夜のような、種族が純粋な人間さんたちが相手だった場合、単に体調が悪くなるでは収まらない大変な事態を引き起こしかねないだろう。

 だからといって、妖精や妖怪のような人外さんであっても、そうならないという保証は全くない。

 

 まあ、何であろうと関係なく、料理やお菓子作りの時に色々と気を使うことは変わらないけども。

 

「おいしい!! こんなたべものがあったなんて、しらなかった!」

「これを機会に、もっとこの世界の料理ってやつ、色々食べてみたいなぁ……食べたいなぁ……」

「それはそうだね……あっ! ちゃっかりわたしのぶんぜんぶたべないで!」

「仕方ない。こんなに美味しいものを我慢するなんて、無理難題」

「いや、仕方なくないでしょうよ……ねぇ、鳩帽子の妖精ちゃん」

「えっ? あー……うん。皆で仲良く食べた方が、楽しいよ……?」

「ほら、私の意見は間違ってないでしょ?」

「……」

 

 そして、僕たち妖精軍団の皆の分をよそり終えても、1度おかわりしてもなお余る(食べきれるか分からない)量のカレーをサニーは作った。

 

 できれば無理して食べたくはない、ただ残すのも勿体ないということで、集まってきてた風妖精さんたちにも振る舞ってみたら、これもまた大好評。

 

 最初からこれを想定してはいなかったがために、全員分のお皿とスプーンがないとの由々しき問題は発生したが、チルノが氷でそれらを用意したことで何とか解決した。

 かかった時間はおよそ20分、普段なら5倍以上の早さで作れるものにこれだけかけたということは、相当拘って用意したことがよく分かる。

 

「ねえねえ、こおりのようせいさん。このすごくきれいなしょっき、ちょうだい!」

「ん? おう! あたいにとっちゃすぐに作れる程度の物だし、構わないぞ! ただ、守護妖精の結界が解けたら多分すぐ壊れるけど、大丈夫?」

「いいよ! そうしたら、またあそびにきたときにつくってね!」

「分かった!」

 

 で、チルノの力がふんだんに込められた氷の食器は、そのままではよそった料理がとても早く冷めたり、食器が料理の熱や体温で溶けるかもしれないし、長時間触り続ければ凍傷になるって感じで、本人以外はまともに使えない。

 

 裏を返せば、対策さえすれば普通に使えるとの意味なので、今回は全部を結界で隙間なく囲む方法を翡翠の妖精さんに取ってもらっている。

 

 結果、ほんのり青く輝いていて不思議な文様のある、高級そうな魔法のガラス製食器となったのかな。

 

(よかったね、チルノ。思う存分褒めてもらって、幸せになってね)

 

 きっと、チルノは僕が生まれた時より遥か昔から、こういうことをする度に幸せな思いばかりしてきたのだろう。だとすれば、多少雑でも大丈夫な時でさえ、褒めてもらうために拘ろうと決めてもおかしくはないし、むしろ普通だと言ってもいい。

 

 ちなみに、拘る理由がこの通りか相当近いって考えた絶対的な根拠は、一切ない。ただ、そんなのは今はどうでもいいだろう。

 

「やっぱり凄いや、チルノは。流石は最強の氷妖精さんだね」

「ふふーん! もっと褒めてくれてもいいんだぞ、メノ!」

 

 僕の大好きな友達(チルノ)が今、こんなにも幸せそうにしてくれているのだから。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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